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週刊スモールトーク (第433話) ベンチャーブームと学生起業のリスク

カテゴリ : 経済

2019.10.20

ベンチャーブームと学生起業のリスク

■ベンチャーブーム到来

「50万円起業」と「学生起業」が増えているという。前者は資本金50万円、後者は学生社長を意味する。20世紀末におきたベンチャーブームの再来だろうか。

あの頃、「インターネット」の名を冠すれば、カンタンに上場できた(新規株式公開)。しかも、株価は急騰につぐ急騰。ところが、実力は期待と乖離していた。売上も利益も弱々しく、とても上場企業とはいえない。いわば「砂上の楼閣」で、たった2年で崩壊した。ネットバブル(ITバブル)は弾けたのである。

今回のベンチャーは「スタートアップ」とよばれる。厳密な定義はないが、新しいことをやって、短期間で急成長すること。または、それを目指すミニ企業をいう。

では、今回のブームは、前回と同じ道をたどるのだろうか?

前回ほど盛り上がらないだろう。「50万円起業」と「学生起業」が前面にでているから。少人数、少資本でできる身近な製品・サービスがキモ。みんなが上場を狙っているわけではない。

今回の起業ブームは、環境も後押ししている。日本中で、アントレプレナーコンテンストが大流行だ。「アントレプレナー」は「起業家」を意味する。つまり、起業家たちがビジネスプランを競い合う場。国や地方自治体や民間企業、さらに大学が主催することもある。優勝賞金は100万円~500万円なので、資金調達にはならない。露出をふやして、投資家から大金を引っ張るためだろう。

■起業をめざす大学生

先日、アントレプレナーがらみの懇親会に出席した。出席者は、すで起業した人、これから起業する人、起業を支援するベンチャーキャピタリスト、そして、なぜか地方議員もいた。

この議員は、会場を転々とし、起業家たちをつかまえては、上から目線で一席ぶっていた。話の内容は、資金調達、投資、起業のアドバイス、いずれでもない。物見遊山かネタ探し?出席者の貴重な時間が、無価値な演説で消えていく。可哀想・・・しゃべってるヒマがあったら、カネ出してやれば。ひょっとして、自分の選挙区だと思っている?

その中に、起業をめざす大学院生がいた。話をすると、頭の回転が早く、飲み込みも早い。キャラは明るく、どことなく風通しがいい。なんとなく気になったので、支援することにした。とはいえ、本業があるので、ボランティアの範囲。アドバイスをしたり、必要な会社や人とつないであげたり。それでも熱く感謝された。

同席したベンチャーキャピタリストによると、都心部で学生起業が増えているという。ベンチャーキャピタリスト(VC)とは、企業に投資・支援し、株式上場させ、キャピタルゲインを得る職業。若いのに、意識が高いというか、根性がある。「おゆとり世代」はどこへ行ったのだ?

■ゆとり教育から詰め込み教育へ

先日、学校の先生と話す機会があった。すでに、ゆとり教育は終わり、詰め込み教育にチェンジしているという。一貫性がないですね、と言うと、こんな答えが返ってきた。文科省は新しいことを、実験的にガンガンやる。だから、現場は大混乱なのだと。実験する方はいいが、される方はたまらないというわけだ。

とはいえ、目的があるなら、甘やかすより、しごく方がいい。勉強にしろ、スポーツにしろ、芸術にしろ、楽して習得できるものはないから。

そんな詰め込み教育が学生を刺激し、学生起業が増えたのだろうか?

工学部は卒業するだけで大変なのに、合間をぬって、起業?

自分の学生時代とは、大違いだ。毎日、麻雀にあけくれ、大学は4年で卒業すればいい、ぐらいに思っていた。もし、卒論でコンピュータに出会わなかったから、ドツボの人生になっていただろう。

ところが、気難しい老人たちは若者を非難する。いまどきの若いもんは、おゆとり様世代かなんだか知らんが(もう終わってます!)、ぬるい、根性がない、というわけだ。この風潮に、識者までが便乗する。海外留学生が激減しているというのだ。でも、肝心なことを忘れている。昔は、先端技術を学ぶには、海外に留学するしかなかった。日本がひどく劣っていたから。ところが、今の日本は違う。

■自己否定を愉しむ日本人

2019年10月10日、吉野彰さんがノーベル化学賞を受賞した。昨年の本庶佑さんの生理学・医学賞に続く、2年連続の快挙。じつは、21世紀以降、自然科学のノーベル賞の受賞者数は、日本が世界第2位。日本に留学した方がいいのでは?

さらに、書籍の翻訳率では、日本は世界一。マイナーな海外の書も日本語で読めるわけだ。たとえばバスク文学。バスク語は、ピレネー山脈に住むバスク人が話す言葉で、話者は世界で数十万人。そんなマイナーなバスク文学が日本で出版された。スペインの国民的作家ベルナルド・アチャーガの「オババコアック」だ。現実と幻想の中間時空、不思議な世界観が漂う。ところが、すでに絶版。買っておいてよかった。

話はそこではなく・・・

他のアジア諸国はそうはいかない。よほどのベストセラーでないかぎり、翻訳されないから。つまり、原書で読むしかない。だから、英語が達者なのはあたりまえ。日本人が英語が苦手なのは、根性がないからではない。日本が世界有数の文明国だからだ。

というわけで「初めに海外留学ありき」は本末転倒だろう。「自分の望み」をハッキリさせ、必要があれば留学すればいい。知人は、サウジアラビアに度々渡航するが、羨ましいとも、真似しようとも思わない。彼のライフワークは、日本の農業技術をアラブ諸国に伝えること。だから、サウジなのである。

必要がないのに、偉い人が言うから、意識高そうだから、イケてるから、ボクもワタシも・・・人生の無駄遣いだ。エライ人たちの価値観を美化した人生カタログを真に受けてはならない。人生はPDCA、「Plan=計画」「Do=実行」「Check=評価」「Action=改善」の繰り返しだから。

日本人は自分をディスるが好きだ。悲観的、自虐的、自己否定を愉しむところがある。太平洋戦争で負けたからかもしれない。進駐軍(米国)に、日本の制度と文化を破壊され、無理やり米国式を押し付けられた・・・たぶん、自立していないのだ。

■海外留学と起業

冷静に考えてみよう。

日本は、GDP世界3位、ノーベル賞受賞者世界2位(21世紀)、海外書の翻訳率世界一、識字率世界一、治安世界一、そして、世界で類を見ない清潔な国(トイレの紙がそのまま流せる)。それでも、日本人は日本ディスる。「このままでは日本は滅ぶ」と言い切る経営者までいるのだ。

そんな風潮が、起業ブームを後押ししている。その象徴が、アントレプレナーコンテストだろう。あんな浮ついたお祭りで、何を得るのだろう。プレゼン資料に凝るヒマがあったら、一刻も早くプロトタイプを完成させた方がいい。その方が、成功の期待値と生存確率が上がるから。というわけで、今回の第4次ベンチャーブームは、矛盾と本末転倒がひしめき合っている。

ブームに乗るのは楽しいかもしれない。でも、「起業」は「タピオカ・ブーム」とは訳が違う。失敗したら、100円や200円の損ですまないのだ。

若者よ、海外に行け、起業しろ、まるでクラーク博士の「少年よ、大志を抱け」ではないか。彼は、札幌農学校の開校に尽力し、この名セリフを残し、日本を去った。ところが、その後、起業に失敗し、夜逃げしている。「大志を抱く」は希望だが、闇もある。取り返しのつかない破滅が潜んでいるのだ。それを忘れてはならない。

向上心をもつことはいいことだ。だが、海外留学と起業は、あまりに短絡的。若い人たちが、人生の商品カタログで、道を誤るのを見ていられない。

日本が窮屈だと思う人は、海外に移住すればいい。事業に人生を賭ける覚悟ができたら、起業すればいい。ただし、そこに普遍性も、正当性もない。あくまで、個人の思い、価値観なのだ。ところが、それを絶対正論のように、喧伝し、世間を煽る輩がいる。それで、乗せられて失敗したら、どうするのだ?

自己責任・・・なるほど。

■会社の栄枯盛衰

会社の栄枯盛衰をたくさんみてきた。

実際に働いた会社も5社になる。最初は、船舶用レーダー・無線機・ソナー・魚群探知機の大手メーカー。つぎは、コンピュータのベンチャー。でたばかりの16ビットマイクロプロセッサ(TI9900)で、ハード、OS、アプリを自社開発していた。ちょうど、コンピュータの巨人IBMが、パソコンに進出した頃だ(現在のwindows PC)。このベンチャーは、往時に100人を超えたが、資金繰りに失敗して破綻した。

つぎに入社したのは、中堅の機械メーカー。ノイズに強いFAコンピュータを開発するために、誘われたのだった。その後、ソフト会社を起業し、現在まで続く。その間、コンテンツ制作会社の役員も兼任したので、働いた会社は5つ。そんな社会人人生で、自分の会社、取引先を含め、多くの企業の浮き沈みをみてきた。

その中で学んだ「成功」の秘訣は?

ない。

そんなものがあれば、破綻する会社も、自己破産する経営者もいない。「成功の書」さえ読めば、みんな大金持ちだ。もちろん、現実は違う。需要には限界があるから。人口という「リミッター」だ。つまり、ビジネスは行き着くところ、パイの奪い合い、弱肉強食なのだ。

とはいえ、成功の「傾向と対策」ならある。成功の保証はないが。

■成功の法則

個人的見解にすぎないが、成功した経営者には共通点がある。頭がいいこと、これに尽きる。ただし、読み書きソロバン(偏差値)ではない。真実を見抜く力と問題解決力だ。一方、意外かもしれないが、性格とキャラはあんまり関係ない。

つぎに、成功した会社。明確なビジョンがあり、社員が一丸となって突進する。さらに、矛盾するようだが、環境にうまく適応すること。それで、ヒト・モノ・カネが集まりだしたら、5年か10年はうまくいくだろう。それでも、予測不能な事故が待ち受けている。

以前、起業するとき、大手メーカーの役員からこんなアドバイスをいただいた。

「君がそこまで腹をくくっているのなら、創業するのもいいだろう。ただし、どんな会社も、いつか、存亡の機に直面する。そのとき、生き残れるかどうかは、『強力な支援者』にかかっている。それを忘れないこと」

本当にそう思う。「存亡の機」というのは、自力で万策尽きた状況。だから、強力な支援者が必要なのだ。損得抜きで、支援してくれる人(特に資金)。先のアドバイスをくれた役員の会社もしかり。海外の提携先が破綻し、絶体絶命に追い込まれたが、「強力な支援者」が現れ、立ち直ったという。その後、東証一部上場を果たし、今では株価4000円のエクセレントカンパニーだ。

会社の存続は、かくも難しい。才能と運があれば、1回や2回は成功するかもしれない。でも、長く続けるのはとても難しい。

日本に、世界最古の企業がある。建設会社の金剛組だ。創業は578年で、1400年も続く老舗だが、破綻寸前に追い込まれている。そのとき、生き残れたのは「強力な支援者」のおかげだという。

会社を作り、軌道に乗せ、成功し続けるのは、並大抵のことではない。優れた経営者、百戦錬磨の幹部、若くて優秀な社員・・・それでも失敗する。強力なライバルたちがひしめきあっているからだ。

つまり、起業とは、無数のライバルたちが血で血を洗うレッドオーシャン(赤い海)に飛び込むこと。

そんな世界に、経験値ゼロの学生を送り出しますか?

《つづく》

by R.B

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