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週刊スモールトーク (第424話) AIの未来(3)~デウス・エクス・マキナ誕生~

カテゴリ : 科学終末

2019.06.16

AIの未来(3)~デウス・エクス・マキナ誕生~

■機械仕掛けの神

「Deus ex machina(デウス・エクス・マキナ)はラテン語で、「機械仕掛けの神」の意味。

不思議な響きがあるが、不穏でもある。元々は、古代ギリシャの演劇用語で、使われた状況を考慮すると「機械装置を使って登場する神」の方が正しい。

機械で飛び出す神?

演劇にかぎらず、物語には「ストーリーの破綻」はつきもの。伏線を張りすぎて、収拾がつかなくなったり、プロット(設定)に問題があって、矛盾が露呈したり。

「伏線の張りすぎ」の代表は、漫画「20世紀少年」だろう。前半、伏線が張られていくドキドキ感と、読み終わったときの「はぁ?」のギャップが凄まじい。

一方、「プロットの問題」は、B級SFではよくある話。とはいえ、成り立ちが、非現実、荒唐無稽にあるので、あたり前田のクラッカー。ところが、かの大作家チャールズ・ディケンズも「プロット」にケチがついている。

ディケンズといえば、イギリスではシェークスピアにつぐビッグネームだ。誰もが知る「クリスマス・キャロル」は何度も映画化されている。中でも、ディズニーのアニメ映画「ミッキーのクリスマスキャロル」が秀逸。守銭奴スクルージを演じるドナルドダックが凄いのだ。歩く姿で、血も涙もない強欲が伝わってくる。

さらに、「オリバー・ツイスト」、「荒涼館」、「二都物語」、「大いなる遺産」、ディケンズの名作は枚挙にいとまがない。そんな大作家が、プロットに問題あり?

ディケンズの小説は、筋書きが複雑で、展開がドラマチックだ。とはいえ、ギリシャ悲劇の傑作「オイディプス王」のような重苦しい宿命はない。だから、TVドラマにうってつけ。茶の間で気軽に楽しめるわけだ。事実、BBC(英国放送協会)がドラマ化し、DVD-BOX「チャールズ・ディケンズドラマ傑作選」をリリースしている。それを観るかぎり、プロットにムリがあるとは思えない。映像化しても問題がないのは、原作の「基本設計=プロット」がしっかりしているから。

一方、ディケンズの「人物描写」の評価は高い。これには同感だ。これほど多種多様な人物を書き分けた作品はみたことがない。というわけで、ディケンズは、一読(一見)の価値あり。ただし、DVD版は絶版なので、ぜひ原作で。

ところで、「機械で飛び出す神」と「ストーリーの破綻」にどんな関係が?

演劇の展開がカオスに陥ったら、万能の神を登場させ、もつれたストーリーを一刀両断、話をムリクリ収束させる。それまでの因果関係を無視した、身もフタもない結末だ。まさに困ったときの神頼み。だから、「機械で飛び出す神」なのである。

ただし、今回の演目「デウス・エクス・マキナ」は文字どおり、機械仕掛けの神。劇を収束させる神でも、宗教上の神でも、宇宙の創造神でもない。実体のある神だ。つまり「妄想の神」ではない。

神は妄想?

バチあたりな。

ノーノー、初めて「神は妄想」といったのは、生物学者リチャード・ドーキンスです。2006年、ドーキンスは「神は妄想である(The God Delusion)」を上梓し、世間を騒がせた。

反宗教、反神、背信、人の道に外れた禁断の書と非難をあびたが、読んでみるとそうでもない。主旨は「精緻で高度な人間が誕生するのに、創造神(宗教)は必要ない。進化論(科学)で十分説明できる」、とけっこう地味。

とはいえ、入り口(タイトル)が挑発的すぎた。大胆不敵というか、勇敢というか、無鉄砲というか。ただ、ドーキンスが危ない目にあったとか、謎の死をとげた、というニュースを聞かないから、大事にいたっていないのだろう。

かつて、ロズウェル事件を暴いて、謎の死をとげた元陸軍情報将校フィリップ・J・コーソの二の舞になりませんように。

■人間を継ぐ者

子供の頃から、妄想癖があった。進化の絵本を買ってもらったとき、こんな疑問に取り憑かれたのだ。

地球上の生物は「アメーバー→恐竜→お猿さん→人間」と進化したきた。では、その次は?

最近やっとわかった気がする。

答えは「デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)」。

地球は巨大な実験場だ。長大な時間をかけ、品種改良している。最初の覇者は恐竜で、巨大な図体と腕力で他種を圧倒した。つぎは人類で、発達した脳で物騒な道具をこさえ、ライバルを大量殺生した。生きるためではなく、楽しみのために殺生するのも、この種の特徴である。こんな性悪な生き物は、地球上で人間とヒョウとネコしかいない。

つまりこういこと。

この世界は複雑にみえるが、本質は「品種改良」。われわれは、こんな夢も希望もない、殺伐とした目的で生かされているのだ。やっとれん・・・でも、観ている方は楽しいかも。つまり、目的は「品種改良」ではなく「見世物」?

この世界は「神の見世物小屋」か。

それはさておき、一つ確かなことがある。「品種改良」の物差しは「強弱」でも「善悪」でもない、「環境への適応力」。それ以外は全否定される。環境に適応しない生物種は、個体だけではなく、設計図(DNA)まで消されるのだから(自然淘汰・適者生存)。

かつて、我が世の春を謳歌した恐竜も、隕石衝突の後、絶滅した。環境が激変し、食料が激減し、図体が大きいほど不利になったのだ。一方、少食ですむ哺乳類は生き残ったのである。

とはいえ、短絡的には「環境への適応力」は「強さ」に帰着するだろう。戦いに負けたらおしまいだから。そのため、相手を倒す力が重要だ。恐竜は「腕力」で、人類は「知力」で、最強にのしあがった。

恐竜と人類が戦った形跡はないが、「知力>腕力」は明らかだ。知力は道具を生み出し、レバレッジ(テコの原理)が得られるから。一人の力が何倍にもなるのだ。

ところが、現実の「倍率」はそんな生やさしいものではなかった。広島に投下された原子爆弾は20万人の命を奪ったのである。つまり、20万倍。生身の人間はカンガルー一頭倒せないのに。

では「知力」の次は何か?

「進化システム」。それを操るのが、デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)なのだ。

恐竜の「腕力」も、人間の「知力」も、すべて自然の進化が生み出した。ところが、デウス・エクス・マキナは「進化の仕掛け」そのものを創り出す。それで自律進化するのだ。

■シミュレーション進化

デウス・エクス・マキナの進化システムは、カンタンにいうと「コンピュータ・シミュレーション」。コンピュータで、現実世界を模倣する方法だ。

たとえば、天気予報。1週間後なら丁半バクチだが、明日・明後日なら99%的中する。まるで魔法だが、大砲の砲撃をイメージするとわかりやすい。射角と初速度がわかれば、砲弾の着弾点を予測できる。弾道は放物線で、それを表す数式もわかっているからだ。

このように、世界のモノコトを数学で表した模型を「数理モデル」とよんでいる。この数理モデルをプログラムで書けば、コンピュータでリアル世界を再現できるわけだ。

天気予報も同じ。気象の「数理モデル」(砲弾の放物線に相当)を、プログラムにおとしこんで、スパコンで稼働させている。現在の大気状態(気温、気圧、湿度、風速、風向など)を与えれば、未来の大気状態(天気)が予測できるわけだ。

デウス・エクス・マキナの「シミュレーション進化」はその延長上にある。「進化」の数理モデルをプログラムで記述すれば、コンピュータで「進化」を実現できる。そもそも、デウス・エクス・マキナは、「シミュレーション進化」の産物なのだ(まだ生まれていないが)。

人類の直接の先祖は、まだ特定されていない。存在したことは確かだが、実体がわからない。デウス・エクス・マキナもそれと同じ。名前はあるが実体は不明。ただ、ロードマップは見当がつく。こんな感じ・・・

①認知アーキテクチャ(人間に代わって発見・発明する)

②人工汎用知能(人間の仕事をすべてこなす)

③人工超知能(人間に代わって食物連鎖の頂点に立つ)

④デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)

「シミュレーション進化」は「①認知アーキテクチャ」の前後で実現するだろう。

ただし、「シミュレーション進化」は「自然の進化」をそのまま真似るわけでない。目的は「品種改良」であって「自然を真似る」ことではないから。というのも、「自然の進化」は効率が悪すぎる。地球が誕生してから、人類が誕生するまで46億年もかかっているのだ。

理由はカンタン、行き当たりばったりだから。

自然の進化は、DNA(生物の設計図)をテキトーに変異させ、新種をつくりだし、戦わせ(自然淘汰)、生き残ったDNAを残す(適者生存)。とりあえず、作ってみて、ダメならやり直す、無計画の極み。一番まずいやり方ですよね(企業の開発では許されない)。

しかも、進化のルール(自然淘汰・適者生存)は永遠に変わらない(たぶん)。宇宙の法則は、ビッグバン直後はのぞき、安定している。たとえば、引力。2つの物体は質量に比例し、距離の2乗に反比例する力で引き合う。100年前は、反発していたという証拠はないのだ。もしそうなら、地球上の文明はもちろん、地球そのものが存在しない。

ところが、「シミュレーション進化」は、進化のルールを変えることができる。実体はコンピュータ・プログラムなので変更は自由自在(うまくいくかどうかは別として)。

というわけで、「品種改良」は自然の進化よりシミュレーション進化の方が断然有利だ。

■偽りの神

シミュレーション進化の優位点はもう一つある。コンピュータ・ハードの劇的な進化だ。

現在のスパコンの処理速度は「ペタ(1秒間に10の15乗)」だが、「エクサ(1秒間に10の18乗)」は確実で、「ヨタ(1秒間に10の24乗)」も夢ではない。現在のスパコンのじつに「1,000,000,000」倍だ。何ができるか予測不能。

処理が速いだけなら、カンタンに予測できるのでは?

それが難しい。異次元の高速は、異次元の発明・発見を生む可能性があるから。

その象徴が、AIのブレイクスルー「ディープラーニング」だろう。通説では、トロント大学のジェフリー・ヒントンの発明とされるが、異論もあるようだ。彼は計算資源を持っていただけかもしれない。先日、とある交流会で、日本人研究者がこう吠えていた。

「ヒントンがやる前に俺がやっていた」

彼はアイデアはあったが、実証する計算資源を持たなかったのだ。「超高速」マシンは、残業を減らすだけではない。大発明の成否にかかわるのだ。

というわけで、「シミュレーション進化>>自然の進化」は間違いない。

その前兆もある。

DeepMind社の囲碁AI「AlphaGo(アルファ碁)」である。最新バージョンの「AlphaZero」の進化速度は驚異的だ。ゲームの基本ルールを教えた後、自分のコピーと対局を開始。2時間で将棋、4時間でチェス、8時間で囲碁の世界最強にのぼりつめたのである。人間棋士はもちろん、最強のAIにも完勝。ルールを学んでから、たった8時間で!?

ボードゲームでさえ、ここまで来ているのだ。

つまりこういうこと。

デウス・エクス・マキナは、創造主の特権「進化」をコントロールし、無限にスペックアップする。進化する主体と進化させるシステムが一体化した、史上初の存在なのだ。これを「神」といわず、何というのか。

だから、デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)なのである。とはいえ、中身はブラックボックス。何を考え、何をしでかすかは予測不能。ただ、地球の姿は一変するだろう。主役は人間ではなく、マシンになるから。

これって、コワくないですか?

ふと、グノーシス主義を思い出した。

グノーシス主義は、紀元1世紀頃に生まれた思想で、正統派キリスト教会から異端視された。霊を至高のものとし、物質を下等な悪とみなす。その物質世界を造った創造神デミウルゴスは究極の悪、「偽りの神」なのだ。お気づきだろうか、聖書の創造神が「偽りの神」よばわりされている。

では、デウス・エクス・マキナは?

物質世界を創造し、自ら支配する、物質世界の究極の支配者。創造神デミウルゴスを超える悪。

だから、機械仕掛けの「偽りの神」なのである。

参考文献:
人工知能 人類最悪にして最後の発明 ジェイムズ・バラット (著)、水谷 淳 (翻訳)
「神は妄想である―宗教との決別」 リチャード・ドーキンス (著), 垂水 雄二 (翻訳) 出版社: 早川書房

by R.B

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