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週刊スモールトーク (第414話) 米中新冷戦(2)~ペンス副大統領の冷戦布告~

カテゴリ : 戦争歴史経済

2019.02.16

米中新冷戦(2)~ペンス副大統領の冷戦布告~

■米中新冷戦の時代

米中関係は「曲がり角」・・・次の角を曲がったら、どんな未来が待っているのだろう。毎日が舞踏会、そんな平和な世界ではないことは確かだ。

2019年、米国と中国は「新冷戦」に突入した。事の発端は米国のペンス副大統領の発言。

2018年10月4日、ペンス副大統領は米国シンクタンクのハドソン研究所に招かれ、後世に語り継がれるだろう演説を行った。キリスト教右派の重鎮らしく、紳士的だが遠慮会釈のない言葉で中国を糾弾した。あげく、「中国と戦う」とまで言い切ったのである。朝鮮戦争をのぞけば、米中関係がこれほどこじれたことはない。

ペンス副大統領の演説は、チャーチルの「鉄のカーテン」を彷彿させる。

1946年3月、イギリス元首相チャーチルが米国に招かれ、ウェストミンスター大学で演説を行った。その一節が歴史に刻まれている。

「バルト海からアドリア海にかけて『鉄のカーテン』が降ろされた」

ヨーロッパ大陸が、西側陣営(民主主義)と東側陣営(社会主義)に分断されたと言うのだ。これが、「米ソ冷戦」の起源となった。つまり、「鉄のカーテン」は「米ソ冷戦」の同義語なのである。

今回のペンス副大統領の演説は、チャーチルの「鉄のカーテン」演説の写し絵だ。敵国がソ連から中国に変わっただけ。そのため「米中新冷戦」とよばれている。

以下、ペンス副大統領の演説を要約する。

私(ペンス副大統領)は米国国民が知っておくべきことを伝えるためにここに来た。中国が我が国に干渉していることについて。

1972年、我が国は中国との外交を再開した(ニクソン訪中のこと)。21世紀に入ると、我が国は「分別のある楽観主義」で、中国に経済を開放し、世界貿易機関(WTO)に加盟させた。中国が、個人の自由、宗教の自由を守り、人権を尊重することを期待したのだ。しかし、期待は裏切られた。

■中国版「1984年」

中国政府は類を見ない監視国家を築こうとしている。「グレートファイアウォール(インターネット検閲)」は、情報の自由なアクセスを制限している。さらに、2020年までに、国民を仕分けするために、「社会的信用スコア」 を構築しようとしている。もし、実現すれば、反政府的人物は外を一歩も歩けなくなる。「ジョージ・オーウェル」式ともいうべきシステムだ。

【補足】
「ジョージ・オーウェル」はイギリスの作家。代表作「1984年」は、核戦争後のディストピアが描かれている。国民が双方向テレビ「テレスクリーン」によって監視され、「思考警察」が思考弾圧する社会。不気味なスローガン「戦争は平和なり。自由は隷従なり。無知は力なり」が繰り返され、「ビッグブラザー(指導者)」が正当化されていく。暗く、重く、救いのない作品だ。

中国政府は宗教も弾圧している。反政府的なキリスト教組織は、十字架を破壊され、聖書を燃やされ、信者は投獄されている。さらに、中国政府がカトリック司教を任命することに、バチカンが合意した。こんなことは絶対に許されない。

【補足】
本来、カトリック教会の聖職者の任命権はバチカンにある。それを中国政府に奪われたということ。ただし、中国が初めてというわけではない。中世のヨーロッパでは、高位の聖職者の任命権をめぐり、皇帝(俗世の王)と教皇(聖世の王)が争った。これを「叙任権闘争」とよんでいる。「カノッサの屈辱」はその象徴的事件。
今回、ペンス副大統領が鋭く反応したのは、彼がキリスト教右派だから。キリスト教右派は、聖書の教えを忠実に守り、政治活動も積極的に行う。ペンス副大統領はそのリーダー的存在と思われる。

中国政府は仏教とイスラム教も弾圧している。この10年間で、150人以上のチベットの僧侶が、中国政府の弾圧に抗議し、焼身自殺している。さらに、新疆ウイグル自治区では、100万人ものイスラム教徒が収容所(労働改造所)に投獄されている。

【補足】
「労働改造所」の件は、今回始めて公にされた。ペンス副大統領が仏教とイスラム教も擁護するのは、宗派を問わず「信仰の自由」を尊重しているから。

■中国の技術と知財の窃盗

この17年で、中国のGDPは9倍になり、世界第2位にのしあがった。我が国が中国に投資してきたからだ。ところが、中国政府は貿易黒字をさらに拡大しようとしている。関税、為替操作、強制的な技術移転、知的財産の窃盗、あらゆる不正な手段を使って。

【補足】
 関税:輸入品に関税をかければ、価格が上昇し、売れなくなる。結果、輸入額が減り、貿易黒字は拡大する。

為替操作:元安に誘導すれば、輸出品の価格が下がり、たくさん売れる。結果、輸出額が増え、貿易黒字は拡大する。

強制技術移転:中国で事業を行う外国企業は企業秘密を提出する。結果、技術タダ乗りで開発スピードがアップ。

知的財産の窃盗:特許・著作権を盗用する。知財コストがゼロに。

この不正によって、我が国の対中貿易赤字は3750億ドル(2017年)で、貿易赤字の半分を占めている。トランプ大統領の言葉を借りれば、過去25年間にわたって「我々は中国を再建した」わけだ。

中国政府は、「中国製造2025」をかかげて、ロボット工学、バイオテクノロジー、人工知能など世界の最先端産業の90%を支配しようとしている。

【補足】
中国式「国家資本主義」では、ハイテクは世界の人々に恩恵をもたらさない。中国政府がハイテクを独占し、他国の支配、国民の監視・管理に利用するから。

■中国の覇権主義

中国政府は領土拡大をもくろんでいる。中国の船舶が、日本の施政下にある尖閣諸島周辺を定期的に巡回している。さらに、2015年に、習近平国家主席は「南シナ海を軍事化する意図はない」と言いながら、人工島を建設し、対艦ミサイル・対空ミサイルを配備している。

中国政府は「借金漬け外交」で発展途上国や弱体化した国を支配しようとしている。アジア、アフリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカに、インフラ建設の名目で、何十億ドルも貸し付けている。しかし、これらの融資条件は良くても不透明で、常に利益は中国に流れ込むようになっている。返せるあてのない金を貸して、返せなくなったら、インフラを没収する方法だ。現実にスリランカは港を請求されている(中国の海軍基地になる?)。

【補足】
中国の「一帯一路」のこと。ただし、これも中国が初めてではない。19世紀~20世紀、ヨーロッパ列強が同じ方法でアフリカを支配した。経済支配が目的だったが、凄惨な殺戮も行われた。
たとえば、アフリカのマフディー国。1898年9月2日、大砲と機関銃を装備したイギリス軍は、マフディー国の精鋭部隊「黒旗隊」1万2000人を5分間で壊滅させた。これは「戦争」というより「虐殺」だろう。

■中国の情報操作

中国政府は、我が国の民主主義に干渉している。トランプ大統領が述べたように、今度の中間選挙で、中国が介入しようとしたことが判明した。

さらに、中国政府は、米国の企業、映画会社、大学、シンクタンク、政府当局者、学者、ジャーナリストに報酬を与え、中国に便宜を図るよう働きかけている。

しかし、中国の支配者に対する我々のメッセージはこうである。我が国の大統領は引き下がることは決してない。アメリカ国民は決して惑わされない。我々は、中国政府に対し断固たる行動をとり続ける。

ありがとう。神のご加護がありますように。アメリカ合衆国に神のご加護がありますように。

【補足】
歯に衣を着せぬ、どころの話ではない。本当は、弾圧も赤字も窃盗もドーデモイイ?
コトは国家安全保障のど真ん中「未来の覇権」なのだ。しかも、発言者がペンス副大統領・・・コワイです。トランプ大統領のような軽さ、チャラさが微塵もないから。生真面目で、鋼鉄の信念と意志を秘めたステートマン(政治屋ではなく政治家)にみえる。「たとえ、大恐慌になっても、中国共産党を倒す」と言ったというが、本当かもしれない。

■おおらかな米国

最近、「米中新冷戦」関連ニュースを目にしない日はない。ただし、日本のマスメディアは除く。日本は「国の行く末」より「芸能界のウワサ話」の方がうけるらしい。国民もバカにされたものだ。

ただ、今回は、米国と中国の方がもっとおバカにみえる(失礼)。

だって、そうではないか。

中国は20年前から、米国のイスにノコギリをかけてきた。それも、あからさまに。何をやってきたかは、ペンス副大統領の演説を復唱するまでもない。魂胆ミエミエ。もっと、地味にやっていれば、バレなかったのに、なんで?

あと15年、コソコソやっていれば、米国にかわって覇者になれたのに、なんで?

鄧小平ならもっとうまくやっていただろう。

一方、米国も「中国のノコギリ」に気づくのが遅すぎる。クリントンは、頭はいいが、俗物で、経済以外興味ナシ。オバマは詩人のように世界を語ったが、何もしなかった(ノーベル平和賞はもらった)。トランプ政権でやっと重い腰を上げたわけだ。なんで?

じつは、米国のこのような「おおらかさ」は今に始まったことではない。

太平洋戦争の後も、そうだった。

米国は日本とガチで戦った。血で血を洗う殺し合いをし、原子爆弾まで落としたのに、戦後の復興を助けてくれたのだ。

戦争末期、日本の主要都市は「さら地」だった。米軍のカーチス・ルメイ将軍が命じた絨毯爆撃で焦土と化したのだ。絨毯爆撃とは、爆弾を「狙って落とす」のではなく、大量の爆弾を「置いてくる」方式。つまり、点の破壊ではなく、面の破壊だ。だから、日本は焼け野原になったのである

戦後は、まず衣食住の確保から始まった。この時代、町より村の方が豊かだった。実家は能登の田舎だが、金沢(町)から「芋のつる」を買い出しにきたという。「芋」ではなく「つる」というのがミソだ。それほど、町は困窮していたのである。

それがすむと、つぎは経済復興、企業の再建が始まった。米国はここでも日本を助けてくれた。米国企業は日本企業を招き、先端技術や生産設備をおしげもなく見せてくれた。日本は米国の技術と製品を真似るだけでよかったのだ。しかも、金食い虫で、命にかかわる軍事は米国におんぶだっこ。金儲けだけ考えていればよかった・・・なんてうまい話だろう。

■米国の反撃

しかし、うまい話は長くは続かない。やがて、日本を震撼させる事件がおきる。「IBM産業スパイ事件」だ。

1982年6月、日立製作所と三菱電機の社員が米国で逮捕された。容疑は産業スパイ。米国IBMの最新鋭大型コンピュータ「3081K」の技術文書を違法に入手したというのだ。

この事件は、今でもよく覚えている。当時、在籍していた会社の社長が、訴えられた会社でコンピュータ事業を立上げた主任研究員だったから(その後起業)。しかも、事件がおきたときのコンピュータ事業の責任者が、社長の元部下だった・・・ここからが本題だがこれでおしまい。この手の話はペラペラしゃべるとロクなことがないから。

当時のIBMは、今のGAFA(グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル)を凌駕していた。コンピュータの世界シェアは6割~8割で、巨額の資金を保有し、テクノロジーは他社の数年先をいく(ノーベル受賞者を多数輩出)。ライバル企業に勝ち目はなかった。

事実、IBM全盛期の1960年代、コンピュータ業界は「IBMと7人の小人たち」と揶揄された。「7人」は勝ち目のないライバル企業のことである。その「小人」の中には、GE(ゼネラル・エレクトリック)も含まれていた。かの大発明家エジソンを始祖とする世界最大の電気メーカーである(当時も今も)。IBM恐るべし。

日本企業はそんな巨人に訴えられたのだ。さらに、FBIの「おとり捜査」だったことが、日本に衝撃を与えた。米国は、官民挙げて、日本の「技術の盗用」を断罪したのである。

こうして、「日本叩き」が始まった。「知的財産」のつぎは「貿易赤字」である。

1980年代前半、米国は莫大な経常赤字を抱えていた。「輸入>>輸出」で、貿易赤字が膨らむ一方だったから。一方、日本は貿易黒字で大いに潤った。GDP世界第2位まで上りつめたのだから。

焼け野原だった敗戦国が、いつのまに?

おおらかな米国もさすがに気づいた。日本にいいように利用されている、マジ、ムカつく!

そこで、米国は、「為替操作」で貿易赤字を減らそうとした。ドル安に誘導し、日本からの輸入品の価格を引き上げ、売れなくする。そうすれば、輸入が減り貿易赤字も減る、というわけだ。とはいえ、「為替操作」は米国単独ではムリ、日欧との連携が必要だ。そこで、米国は大技をくりだす。

1985年9月22日、米国で「プラザ合意」が発表された。表向きは「為替レート安定化」だが、目的は「円高ドル安」。事実、発表の翌日、1日で円が10%も急騰した(今ならありえない)。さらに、1年後には1ドル150円に。1年で「36%」も円高になったのだ。結果、日本の輸出企業は大打撃をうけた。3割も高くなれば売れなくるのは、あたりまえ。

米国は日本の「知的財産権の侵害」と「貿易赤字」を許さなかったのである。そして、今、同じことがおきている。ただし、今回の敵は日本ではなく中国。

《つづく》

参考文献:
・週刊朝日百科 世界の歴史 112 朝日新聞社出版

by R.B

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