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週刊スモールトーク (第396話) 火刑の歴史(5)~ボルジア家・教皇一族の野望~

カテゴリ : 人物思想歴史社会

2018.06.03

火刑の歴史(5)~ボルジア家・教皇一族の野望~

■強欲と好色の教皇

「ボルジア家・愛と欲望の教皇一族」は、異色のTVドラマだ。

人間の強欲と好色は「悪徳」でも「必要悪」でもない。自然の摂理、といなおってもいない。強欲、好色を、悩みながら一生懸命やっている、半分は楽しんでいるけど・・・そんなドロドロ感が絶妙だ。

一般に、この手のドラマは面白くするために、トコトン話を作り込む。ところが、このドラマは史実にもとづいている(多少の創作はある)。それで、これだけ面白いのだから、「事実は小説より奇なり」は事実に違いない。

主人公は、実在したローマ教皇アレクサンデル6世、神に仕える身でありながら、人間の強欲と好色を体現した人物だ。

本名をロドリーゴ・ボルジアという。名前から想像はつくがスペイン人である。ローマ教皇の座をカネで買い(枢機卿団を買収)、一族の富と権力のために、権謀術数の限りをつくした・・・はナマぬるい。

現実は・・・裏切り、でっちあげ、恐喝、拷問、殺人、なんでもあり(手を下したのは息子のチェーザレ)。あげく、愛人をかこって、金持ちの子だくさん(こちらは教皇本人)。まさに、強欲と好色を兼ね備えた、カタログ的超俗物だ。そんな人が、どうやってローマ教皇に?

だから、歴史は面白いのだ!問題はそこ?

さらに・・・

息子のチェーザレ(愛人の子)と娘のルクレツィア(愛人の子)は近親相姦・・・ドラマの設定だが、事実の疑いもある。

主役も準主役も悪徳まみれ、まるで「俗物図鑑」ではないか。もっとも、「悪徳」をここまで極めると清々しいかぎりだ。

■神の代理人

ちなみに、教皇アレクサンデル6世は、「世俗化した教皇」以外にも、歴史に名を残している。1494年、スペインとポルトガルで締結された「トルデシリャス条約」だ。

条約というと聞こえはいいが、内容は仰天もの、強欲・好色どころではない・・・

アフリカ西方の海上に、架空の経線をひいて、西側はスペイン領、東側はポルトガル領とする。ただし、1494年以降に発見されるキリスト教徒以外の土地に限る。

どういうこと?

地球の左半分はスペイン、右半分はポルトガルのもの!

一体、誰が許可した?

ローマ教皇アレクサンデル6世。

そんな権利、誰が与えた?

神・・・教皇は神の代理人だから。

もちろん、現地に暮らす住人は知るよしもない。

あっと驚く不条理だが、因果関係は明白だ。

ときは大航海時代、地球規模の植民地化がはじまろうとしていた。ヨーロッパ勢力が、大砲を搭載した大型帆船を、アジアやアメリカに送り込み、スパイスと金を独占しようとしたのだ。

ことの発端は、クリストファー・コロンブス。20世紀まで、アメリカ大陸の発見者と言われた男だ。現在は、アメリカ大陸を発見したのはアメリゴ・ベスプッチ、いや、そのまえにバイキング・・・ちょっと待てよ、「新発見」っておかしくない?

ずーっと前から、アメリカ原住民(インディアン)が住んでいたでしょう。これが、「歴史は白人中心」といわれるゆえんである。

■世界分割線

話をトルデシリャス条約にもどそう。

コロンブスは、インドに行くつもりが、アメリカ海域に迷い込んだ。それが「新大陸発見」になり、ポルトガル王ジョアン2世を狼狽させた。というのも、コロンブスは、最初にジョアン2世に航海の援助を頼んだのだ。ところが、断られたので、スペインのフェルナンド王とイサベル王妃から援助を取りつけた。それが、「新大陸発見」につながったわけだ。ジョアン2世が悔しがったのもムリもない。

ジョアン2世は、すぐに船団を編成し探検に乗り出した。このままでは、ポルトガルとスペインの戦争は避けられない。アジアもアメリカもレッドオーシャン(血の海)だ。

そこで、スペインのフェルナンドとイサベルは、地球規模の談合をくわだてた。教皇アレクサンデル6世を抱き込んで、こう言わせたのである・・・

アフリカ西方にあるカーボ・ベルデ諸島の西100リーグ(480キロ)に、経線を引いて、その西側の占有権をスペインに与える。

ポルトガル王ジョアン2世は激怒したが、教皇のお墨付きなので、拒絶できない。スペインもポルトガルも敬虔なカトリック教国なのだ。そこで、ジョアン2世は妥協案をもちかけた。

経線を「270リーグ」だけ西にずらしてほしい。

こうして、地球の分割線は、カーボベルデ諸島から西370リーグで手打ちとなった(西経46度37分)。これが「トルデシリャス条約」である。

余談だが、分割線を「270リーグ」だけ西方にシフトする、はポルトガルにとって大金星だった。ブラジルがポルトガル領に含まれたから。現在も、南米でポルトガル語圏はブラジルだけ。残りすべてはスペイン語圏である。

すったもんだのトルデシリャス条約だったが、結局ホゴにされた。大航海時代の覇者が、ポルトガル・スペインからイギリスへ、さらにオランダへと移ったから。ちなみに、イギリスもオランダもプロテスタント教国、カトリックの総本山・ローマ教皇庁に対する忠誠心は希薄だ。

■混迷するイタリア

話を「ボルジア家・愛と欲望の教皇一族」にもどそう。

このドラマは本当に面白い。ところが、話半ばで、突然の打ち切り。シーズン4で完結の予定が、シーズン3で終了したのだ。伏線を張るだけ張って、ワクワク、ドキドキ・・・そこでおしまい。観ている方はたまらない。事実、視聴者から非難の嵐だったという。

米国ドラマは、こんな情け容赦ない「打ち切り」が多い。「ターミネーター」のTVドラマ「サラ・コナー クロニクルズ」もしかり。こっちは、伏線どころか、全く新しい展開が始まったところで、バッサリ。視聴率はさておき、評価はかなり高かった。作り手の責任はどこへ行ったのだ?

じつは、「ボルジア家・愛と欲望の教皇一族」の時代背景は、とてもエキサイティングだ。

15世紀後半、イタリアは混迷の時代だった。国内は、都市国家や公国が乱立し、外国勢力の干渉も日常茶飯事。これに教皇権と王権の対立が加わり、教皇アレクサンデル6世とボルジア家の強欲と好色が華を添える。百花繚乱(ひゃっかりょうらん)、ネタには事欠かないわけだ。

ちなみに、イタリアの混迷は、476年の西ローマ帝国滅亡から始まった。再統一されるのは、1861年のイタリア王国、つまり、1500年間も群雄が割拠していたのである。

このドラマの時代(14世紀後半)、イタリアは、北方のミラノ、ジェノヴァ、ヴェネチア、中部のローマ、フィレンツェ、南部のナポリが、互いに牽制しあっていた。

ローマは、教皇庁(アレクサンデル6世)の支配下にあった。支配といっても、武力は非力な教皇軍のみ。そこで、生き馬の目を抜く謀略を巡らせたのである。

一方、フィレンツェはルネサンスの中心地として栄えていた。レオナルド・ダ・ヴィンチ、ボッティチェリ、ミケランジェロが活躍したのも、この地、この時代である。

ところが、こんなフィレンツェの栄華を苦々しく思っている人物がいた。ドミニコ会の修道士サヴォナローラである。清貧だが、気難しく、融通のきかない説教師。華やかな芸術や文化を、贅沢として断罪し、市民に信仰のみを求めた。

本来なら、煙たがられるところだが、そうはならなかった。サヴォナローラは稀有の雄弁士だったのである。内容は教条的だが、言い回しが予言的。それが市民の心をつかんだのである。結果、フィレンツェの(政治)指導者にまでのしあがった。

世俗の権化、教皇アレクサンデル6世に不倶戴天の敵が現れたのである。

《つづく》

参考文献:
・週刊朝日百科 世界の歴史 52 朝日新聞社出版
・世界の歴史を変えた日1001 ピーター ファータド (編集), 荒井 理子 (翻訳), 中村 安子 (翻訳), 真田 由美子 (翻訳), 藤村 奈緒美 (翻訳) 出版社 ゆまに書房

by R.B

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