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週刊スモールトーク (第389話) 歴史の方程式(3)~デカルトは殺された!?~

カテゴリ : 人物思想歴史科学

2018.02.25

歴史の方程式(3)~デカルトは殺された!?~

■合理主義の暗黒面

「合理主義」とは何か・・・

物ごとを、遠巻きに観察して、優先順位つけて、サクサク処理していく。自己中な損得勘定全開で。だから、他人がどうなろうが知っちゃいねぇ~・・・そんな血も涙もない連中を「合理主義者」とよんでいる。

そんなわけで、「合理主義」は聞こえが悪い(日本では)。

でも、本当の「合理主義」はちょっと違う。

「世界」は・・・原因と結果で成り立っている、つまり、原因なくして結果なし。これを「因果律」という。

ということは・・・

原因と結果のカラクリ(法則)を「知る者」がいれば、「未来」はすべてお見通し。つまり、合理主義とは、物ごとを原因と結果で決定論的に説明すること。

ちなみに、「知る者」を「ラプラスの悪魔」とよんでいる。そんな怪物いるわけから「悪魔」、というわけではない。発案した数学者「ピエール・ラプラス」の名にちなんでいる。

ところで、合理主義を具現化したのが「機械時計」。つまり、合理主義という「型紙」で作った「実体」が機械時計なのである。

この関係は「プラトン哲学」を彷彿させる。

プラトンはこう考えた。

この世界は、上位に「イデア界」があり、その下位に「物質界」がある。イデア界とは、究極の抽象概念「イデア」で構成され、物質界は「イデア」を実体化した「物質」で構成される。早い話、イデアは型紙・テンプレート、物質はモノなのである。

これを、機械時計にあてはめると・・・

イデア=合理主義

物質=機械時計

となる。

機械時計なんて、ただの歯車じゃん・・・合理主義とどんな関係が?

その「歯車」が重要なのである。

合理主義の柱は2つある。「因果律」と「還元主義」だ。字面は難しいそうだが、中味はそれほどでも・・・

まずは、因果律。

機械時計は、歯車の連携で動作する。歯車が回転すると、それが次の歯車に伝わり、その歯車が回転し、さらに次の歯車に・・・原因と結果が、歯車で具現化されている。だから、機械時計は因果律を説明するにはうってうけなのである。

つぎに、還元主義。

機械時計を分解すると、歯車、ゼンマイ、テンプ、アンクル、ガンギ車・・・単機能な部品に行き着く。それぞれの部品は、動作がシンプルで原因と結果がハッキリしている。そのため、個々の部品の動作を理解し、それを積み上げれば、全体の動作も理解できる。これを還元主義とよんでいる。

というわけで、機械時計は因果律と還元主義を体現している。だから、合理主義の象徴なのである。

■デカルトは殺された?

近代の合理主義はヨーロッパでうまれた。そのため、ヨーロッパ合理主義、大陸合理主義ともいわれる。

このイデオロギーは、蒸気機関から始まり、機械文明と電気文明を生み出した。結果、人間の生活は豊かになったが、20世紀後半、状況は一変する。原子爆弾、コンピュータウィルス、人工知能(AI)・・・人類を破滅に導くパンドラの箱が開いたのだ。

つまり、合理主義は「両刃の剣」なのである。神と悪魔、天国と地獄、祝福と呪い、が表裏一体の世界。

そんなヨーロッパ式合理主義の最大の功労者が、ルネ・デカルトである。

デカルトは知の巨人だった。哲学と数学の大家にして、合理主義の創始者、IQ180(業績・遺稿から推測)というから、凄まじい。

ところが、そんな逸材を早死にさせた「お姫様」がいる。スウェーデン女王クリスティーナだ。

クリスティーナの父は、スウェーデン王グスタフ・アドルフ。スウェーデンをヨーロッパ有数の強国に育てあげた名君だ。ところが、グスタフ王には息子がいなかった。そこで、クリスティーナが王位を継いだのだが、国政に興味ナシ。一方、学問が大好きで、とくに幾何学に執着していた。そんな経緯で、幾何学の大家デカルトに白羽の矢が立ったのである。

1649年、クリスティーナはデカルトをストックフォルムに招いた。数学の教えを請うために。デカルトが家庭教師というのも贅沢な話だが、話はそこではない。

レッスンが早朝だったのである。

それが?

デカルトは朝が大の苦手だった。そのため、昼までべッドの中で仕事をしていた。だから、早朝レッスンはデカルトにとって拷問。

こうして、デカルトの苦行がはじまった。

早朝5時に起床し、寒さに震えながら、女王のもとに行く。さらに、異国での慣れない生活、北欧の厳しい寒さ・・・デカルトの精神と肉体は蝕まれていった。

1年後、デカルトは肺炎に感染した。そして、そのままこの世を去ったのである。

女王の気まぐれ、わがままが、歴史にのこる大学者を早死にさせたのだ。ところが、彼女には他にも問題があった。

スウェーデンは、プロテスタントの国である。ところが、女王みずからカトリックに鞍替えする。さらに、外国かぶれで、高価な舶来品を買いあさり、贅沢三昧。そこで、家臣たちが廃位を画策すると、財産を持ってローマに移り住む。つぎに、財産を使い果たすと、次はフランスへ・・・

自己中の極み、やりたい放題だが、これでスウェーデンが傾いたわけではない。一方、哀れを極めるのはデカルトだ。

■機械時計のカリスマ

「機械時計」には不思議なカリスマがある。

機械時計は合理主義の象徴・・・だけではなく、こんな妄想を抱く人がいるのだ。

「機械時計は宇宙を模した舞台装置である」

舞台?観客は誰?

はさておき、根拠は・・・

神は「宇宙=機械時計」を製作し、一度だけネジを巻いた。すると、宇宙は「神の摂理=自然法則」にしたがって、寸分の狂いもなく、動作する。つまり、宇宙は神の一撃ではじまった「歯車仕掛け」の世界。

この発想は、前述した「ラプラスの悪魔」を彷彿させる。

ただし、「ラプラスの悪魔」は理論的に否定されている。「ハイゼンベルクの不確定性原理」を核とする強固な「量子力学」によって。

つまり、未来をピンポイント予測する「歴史の方程式」は存在しない。「永久機関」と同じ、見果てぬ夢なのである。

でも・・・

「ピンポイント」はムリでも、おおよその「傾向」ならわかるかもしれない。

何年何月何日、どこで、何が起きるかではなく・・・こんな状況で、こんなことをすると、こうなる確率が高いですよ、という具合。

それがドーシタ、なのだが、価値はあると思う。生きていく上で役に立つから。

賢者は歴史に学ぶ、というではないか。

過去の歴史から、傾向(法則)を見つける・・・いわゆる帰納方法である。

それなら、「人工知能(機械学習)」が使えるかもしれない。過去のデータを与えれるだけで、法則を見つけてくれるのだから。

《つづく》

参考文献:
・週刊朝日百科 世界の歴史80 朝日新聞社出版
・世界の歴史を変えた日1001 ピーター ファータド (編集), 荒井 理子 (翻訳), 中村 安子 (翻訳), 真田 由美子 (翻訳), 藤村 奈緒美 (翻訳) 出版社 ゆまに書房

by R.B

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