BeneDict 地球歴史館

BeneDict 地球歴史館
menu

週刊スモールトーク (第388話) 歴史の方程式(2)~未来予測~

カテゴリ : 歴史科学

2018.02.10

歴史の方程式(2)~未来予測~

■ニュートンの未来方程式

「未来方程式」は存在するだろうか。

「現在」を入力したら、「未来」が出力される、そんな魔法の方程式だ。

夢のような話だが、17世紀後半、ニュートンが導出に成功している。ただし、「マクロ世界の力学運動」限定で。

とはいえ、その成果は圧倒的だ。たとえば、ナチスドイツの「V2ロケット」。

1944年、プロペラ戦闘機が空を支配していた頃、大気圏を突き抜け、高度93kmの熱圏に達し、300kmも飛行したのだ。

こんな大飛行を実現するには、姿勢制御と速度制御が欠かせない。これが欠落していると、行き先は神のみぞ知る、どころか、失速して墜落か空中分解か。

とはいえ、時は20世紀前半。電子制御もコンピュータもない時代。姿勢・速度は、コントロールするどころか、測ることも難しい。姿勢はジャイロでなんとかなるが、速度は(当時の技術では)ムリ。

ところが、フォン・ブラウンはうまい方法を思いついた。

振り子ジャイロを利用するのだ。振り子ジャイロの角速度は、加速度を積分したもの。ここで、高校の物理「v=∫a(t)dt」を思い出そう。これが意味するところは「加速度の積分=速度」。つまり、振り子ジャイロを使えば、速度がわかるわけだ。

というわけで、理屈の上では、機械式でもいけそう。ところが、実装するのが難しい。

アナログ計算機は精度が低いし、機械は摩耗・劣化するし、個体差も大きい。つまり、机上で飛んでも、現実に飛ぶとは限らない。そのため、精度が低い、機械は劣化する、個体差がある、を前提に設計する必要がある。「とりあえず動く」では意味がないのだ。じつは、ココが「腕のいい」技術者とそうでない技術者の分かれ目になる。

ちなみに、V2ロケットプロジェクトの責任者フォン・ブラウンは「腕のいい」を超えた「超人」だった。V2ロケットは複雑機械の極みで、1回の実験で、65000箇所も修正することもあった。そんな気の遠くなる作業を10年間も続けたのだ。そして、ついに完成させた。

長年、(コンピュータ関連)開発現場にいて、気づいたことがある。

天才は、凡人が一生かかってもわからないことを一瞬で理解する。

超人は、凡人が一瞬でイヤになることを一生続けることができる。

この傾向はソフトウェアよりハードウェアの方が顕著に思える(私見)。

ちなみに、天才は見たことがあるが、超人は一度もない。

「未来方程式」に話を戻そう。

飛行の未来は「姿勢と速度」にかかっている。具体的には「加速度の方向と大きさ=力のベクトル=ロケット噴射」で決まる。ニュートンの運動方程式は、それを定量的に示すのだから、未来方程式と言ってもいいだろう。

ただし、前述のとおり、ニュートンの方程式は万能ではない。原因が「質量と力」の場合に限られる。そのぶん、因果関係もスッキリ・・・物体の質量(重さ)が、周囲の空間を歪ませ、力が生まれ、物体に作用し運動を引き起こす。

このように、原因が少なく、因果関係もシンプルなら、微分方程式は非常に強力である。

ちなみに、微分方程式(微分積分)はニュートンの発明。美しく、説得力があり、「連続的」事象を扱うなら最強である。一方、「離散的」な量子力学でも使われるから、普遍的な道具と言っていいだろう。

というわけで、ニュートン万歳! なのだが、彼は陰気な質(たち)で、文句のつけようのない変人だった(生涯独身)。やっぱり、ニュートンは奇人・変人・天才かな?

ところが、そんな微分方程式も、歴史の未来予測には使えない。

歴史は「離散的」だし、無数の原因がからみあい、因果関係が複雑怪奇だから。もっとも、微分方程式以前に、解析的に解くことはできないのだが。

こういう場合、「コンピュータによる逐次計算」が有効なのだが、これも難しい。見栄えのする方程式の代わりに、地味で単純なアルゴリズムを繰り返し実行させるのだが、その「地味な」アルゴリズムを見つけるのが難しい(一見できそうなのだが)。

というわけで、できそうでできないのが「歴史の方程式」。

他に手はない?

可能性があるとすれば、今流行の「機械学習」?

■人工知能

オオカミ少年「人工知能(AI)」は、名誉挽回をねらっている。

過去に2度、大コケしているから。盛るだけ盛って、期待させるだけさせて、何の価値も生まなかったのだ(研究者の自己満足を除いて)。

ただし、今回(第3次人工知能ブーム)はホンモノだろう。理由は3つある。

第一に、コンピュータパワーが過去2回とは何桁も違う。

第二に、「深層学習(ディープラーニング)」が使えることがわかってきた。深層学習を使えば、データを学習させるだけで、思考アルゴリズムを自動生成できる。ただし、膨大なデータが必要で、しかも、データ以外のものは学べない。ところが、それを補完する手法「GAN(敵対的生成ネットワーク)」も考案されている。まだ実績はないが、スジが良さそうなのでイケるかもしれない。

つまり、ハードウェアとソフトウェアの両面でブレイクスルーが起きているのだ。

第三に、需要が巨大なこと。会計、法務、医療、製造、管理、経営、教育と、あらゆるタスクが、人工知能に取って代わられつつある。生き残るのはクラブ・キャバクぐらい?(冗談ではなく)

そして、数年後には「自動運転(欧米では「自立運転」)」が控えている。自動車は、石油、医療、食品につぐ300兆円産業だ。それが、すべてAI化されるのだから、なんとも輝かしい未来だ!

ただし、人間にとってはサイアク。

というのも・・・

今回の人工知能は、人間の生命線を狙っている。浮ついた「創造・創作」ではなく、生活の糧となる「お仕事」。その先に待っているのは・・・「AI&ロボット」が働き、人間は必要最低限の生活費を支給されて、生かさず殺さず・・・これを「ベーシック・インカム」とよんでいる。

冷静に考えてみよう。

人間にとって一大事なのである。労働の価値がゼロになるのだから。「AI&ロボット」の方がずっとうまくやるから、邪魔しないでほしい、というわけだ。「働き方改革」なんてカッコつけている場合ではない。

怠け者にとっては天国だが、働き者にとって地獄・・・マルクスが予言した共産主義社会どころではない。もっと凄まじいコペルニクス的転回が待っているのだ。

「能力に応じて働いて、必要に応じて取る」(マルクス)ではなく、「能力は関係なく働かない、必要は関係なく最低限取る」(ベーシック・インカム)

どう考えても。超弩級のパラダイムシフトだ。これに、世間が初めて気づいたのは「2016年2月」である。

根拠は?

その時から、米国エヌビディア社の株価が急騰したから。

エヌビディア社は、グラッフィクチップのトップメーカーである。一般になじみが薄いのは、汎用CPUやOSなど、人目につくものを作っていないから。コンピュータ産業の黒子と言っていいだろう。そのため、株価は16年間、鳴かず飛ばずで、2016年2月でやっと「27ドル」。ところ、そこから上昇に転じ、2018年2月時点で「210ドル」。

2年間で7倍!?!

買っときゃよかった・・・

じつは、このUFO的垂直離陸は、前述の「機械学習」と関係がある。

今回の人工知能のメインストリームは、人間脳のような汎用型AI(強いAI)ではない。一つのことしかできない特化型AI(弱いAI)だ。専門バカのようで、聞こえが悪いが、画像認識、音声認識、自動翻訳で、すでに実用レベルにある。iPhoneのSiri、Googleの自動翻訳、AmazonのEcho・・・実績は枚挙にいとまがない。さらに、囲碁・将棋では、人間のトッププロも勝てなくなっている。

その特化型AIだが、じつは人間脳の真似たモノ。

人間脳は、膨大な数のニューロンが、シナプスを介してつながっている。その巨大ネットワークを、コンピュータでエミュレート(模倣)しているのだ。いわば、シリコン製の人工脳で、「ニューラルネットワーク」とよんでいる。

この人工脳に、データを喰わせると「配線」ができる。「配線」とは、データに関係のあるニューロンの結合が強くなること。人間が勉強したり経験することと同じなので、「機械学習」とよんでいる。前述の「深層学習(ディープラーニング)」はその発展形である。

「配線」が完了したニューラルネットワークにデータを入力すると、それが何か(分類)、または、これから何が起こるか(予測)、を教えてくれる。つまり、「学習(配線)」が知能になっているわけだ。

「機械学習(深層学習)」は、人間が「知能」をプログラムしなくてもいいので、楽ちん。ところが、一つ問題がある。「配線」には膨大な浮動小数点演算(小数点計算)が必要なのだ。じつは、浮動小数点演算は整数演算より、処理がずっと重い。そのため、インテルやAMDの汎用CPUでは、ゼンゼン力不足。

一方、救いもある。「配線」には並列計算が有効なのだ。ところが、汎用CPUは「並列計算」も苦手。というわけで、汎用CPUは機械学習に向いていない。

そこにビジネスチャンスを見出したのが、エヌビディア社長ジェン・スン・ファンだ。

じつは、グラフィックチップは、画面上の3次元物体を描画する専用プロセッサ。物体を三角形のポリゴンに分割し、頂点座標を再計算し、面を着色する。この処理は「浮動小数点」の4☓4行列の「並列計算」に帰着する。つまり、「浮動小数点演算&並列計算」が大得意なのだ。

ちなみに・・・3次元物体を三角形に分割するのは、計算しやすいから。ところが、現実世界の物体も、微細な三角形から構成されている、という説がある。「因果的ダイナミック単体分割(CDT)」理論だが、これを使えば、標準的な宇宙論から導かれる宇宙の膨張・収縮も再現できるという。だから荒唐無稽というわけではない(※1)。

話を、グラフィックチップにもどそう。

グラフィックチップから映像出力機能を取っ払ったら・・・「機械学習」専用チップに早変わり!

これを「GPGPU」とよんでいる。

GPGPUはすでに市民権を得て、第3次AIブームとともにバカ売れしている。そして、この分野の絶対王者が米国エヌビディア社なのだ。

■イノベータ理論

AIの輝かしい未来、その恩恵を一身に浴びるエヌビディア、よって株価が急騰・・・とここまではいいのだが。

なぜ、「エヌビディアの株価急騰」が「世間がAIに気づいたサイン」なのか?

「世間」で一番鼻が効くのは投資家だから。

彼らは、自分の銭金がかかっているから、情報収集に余念がない、というか血眼(ちまなこ)。金儲けの情報は1bitも逃さない!

だから、「世間」では一番の情報通なのである。

たとえば・・・

第3次AIはホンモノ→AI銘柄は上がる→手っ取り早く儲かるのは?→エヌビディア→買いや買いや!→株価上昇

風が吹けば桶屋が儲かる的な、でも、本当にそうなる、そんな因果律が一瞬で見抜けるのは、欲の皮が突っ張った投資家だけ。だから、投資家が世事に一番敏感なのである。

ここで、彼らの「地獄耳」ぶりをみてみよう。

Googleの囲碁AI「AlphaGo」が、世界最強棋士イ・セドルに圧勝したのが2016年3月。投資家は、その1ヶ月前に気づいたわけだ。彼らがAIの本質を見抜いたとは思えないが、「強欲=先見の明」かもしれない。

というわけで、イノベーション(技術革新)は、当事者を除けば、まず投資家、次に技術者、最後に一般人という順番で伝わっていく。

じつは、このような段階的伝搬は、ハイテクの世界だけではない。

一般商品にもあてはまる。

新進気鋭の「イノベーター理論(※2)」によれば、新商品は5つの消費者層をへて拡大していくという。早い者順に・・・

1.イノベーター(2.5%)・・・発売日、列に並ぶ。

2.アーリーアダプター(13.5%)・・・「新しい」は何でも買う。

3.アーリー・マジョリティ(34%)・・・「新しい」は気になる。

4.レイト・マジョリティ(後期追随者:34%)・・・成り行き任せ。

5.ラガード(16%)・・・興味ナシ。

()内の数値は人口比率。

2.5%を占めるイノベータは、さしずめ、技術革新の「投資家」だろう。もちろん、投資の世界で「ラガード」に勝ち目はない。

話はそこではなく・・・

第3次AIブーム「機械学習」で、歴史の方程式がつくれるか?

私見だがムリ。

歴史は要因が多く、因果関係が複雑なだけではない。「バタフライ効果」が顕著なのだ。

「バタフライ効果」とは、ブラジルで蝶が羽ばたけば、テキサスでトルネードを引き起こす・・・本当にそうなるかはさておき、ささいなことが、想定外の大事を引き起こすことをいう。カオス理論で「予測困難性」を表わすのに使われる。

AIの専門家でないので、大声では言えないが、現在の機械学習(深層学習)はバタフライ効果は苦手?データから「傾向」はつかめても、例外的なモノ・コトは予測できない?

もしそうなら・・・「ピンポイント」ではなく「傾向」なら予測可能になる。

じつは、歴史の「傾向」は人生の教訓になる。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ、というではないか。

《つづく》

 参考文献:
(※1)日経サイエンス2007年4月号 日本経済新聞出版社
(※2)「Business Model2025」 長沼 博之 (著) 出版社: ソシム

by R.B

関連情報