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週刊スモールトーク (第381話) 金融商品は「毒入り資産」(2)~預金・現金~

カテゴリ : 社会経済

2017.11.26

金融商品は「毒入り資産」(2)~預金・現金~

■預金

金融資産は、構造上「負債」を持つ。つまり「毒入り資産」。

安全とされる「国債」も「政府の負債」なのだから、油断もスキもない。

ただし、「毒入り」を見分ける方法がある。

「利息」がつくかどうか?

利息がつけば負債付き、つまり「毒入り資産」。「負債=負い目」を「利息」でカバーしているわけだ。負債(リスク)があるのに、増えないなら、誰も手を出さないだろう(現金の方がマシ)。

ところで、預金も利息がつくけど、負債付き?

もちろん。

銀行は、預金者から要求があれば、いつでも払い戻さなければならない。つまり、銀行にとって、預金は「借金」、バリバリの「負債」なのだ。

でも、払い戻して事が済むなら、リスクはないのでは?

リスクはある。

預金者の10~20%が、預金を引き出そうとしたら・・・全額は払えない。

というのも、預金者があずけたお金は、銀行にはないから。(雀の涙のような)利子を稼ぐため、貸付けか、投資に回っているのだ。

つまりこういうこと。

「預金」は、預金者が一斉にATMの前に並ぶことはない、という統計的かつ希望的観測によって成立している。ただし、金融不安に火が付けば、何が起きるかは明らかだ。銀行の前に「怒号付き」の長蛇の列・・

だから、「タンス預金」がなくならないのである。

■現金

では、現金は?

利息がつかないから、負債はない?

じつは、現金は「日銀の負債」なのである。事実、日銀が通貨を発行すれば、すべて「負債」になる。

カラクリをみてみよう。

まず、日本の通貨「円」を発行できるのは、中央銀行の「日銀」のみ。その日銀が100億円を発行すると、100億円の銀行券(紙幣)か当座預金になり、バランスシートの右側(負債)に記載される。バランスシートとは、財務状態をあらわす表で、BS、貸借対照表ともいわれる。そこに、負債として記載されていたら、「債権(権利)」ではなく「債務(義務)」。

ただし、日銀が発行した通貨(現金)は、「元本を返す」義務も、「利子を払う」義務もない。ここが、預金との大きな違いだ。

そのため、現金は預金より安全と思っている人が多い。とくに、戦前・戦中・戦後、預金で痛い目にあった世代は「タンス預金」に執着する。とはいえ、盗難や火災にあえば、元も子もなくなる。さらに、国債が暴落して、ハイパーインフレが起きれば、銀行、タンス、財布、どこにあろうが、お金は紙くずになる。預金・現金・国債は元を正せば、日本の通貨「円」だから。

しかも、実体は日銀の負債で、担保は「政府の信用」のみ。もし、日本が中国に乗っ取られたら(中華人民共和国・日本省)・・・

日本政府が消失→担保が消失→お金は紙クズ

わかりやすい話だ。

昔の通貨は、今よりマシだった。額面に比例した重さの金(Gold)と交換できたから。つまり、通貨の担保は政府の「信用」ではなく、金(Gold)という「実体」だったのだ(金本位制)。

つまりこういうこと。

「円」は日本政府の「信用」にかかっている。1万円札が1万円として通用するのは、みんなが「1万円」と信じているから。もし、誰かが疑いをもったら、紙とインクの価値しかなくなるのだ。

そんな「信用」の崩壊は、歴史上枚挙にいとまがない。

たとえば・・・

18世紀、フランスは深刻な財政難に苦しんでいた。そんなおり、ジョン・ローなる人物がフランス政府(ブルボン王朝)に巧みに取り入った。ローは、財政の強大な権力を握り、不換紙幣を発行した。不換紙幣とは「金」などリアルな財と交換できない紙幣である。担保は、フランス領ルイジアナのミシシッピ開発会社。この会社は国営会社だったので、国民はみんな「信用」した。

ところが・・・

あるとき、誰かがこの紙幣に疑いを持った。やがて取り付け騒ぎが起こり、ローの通貨システムは破綻した。ローは国外に逃亡して難を逃れたが、ブルボン王朝の信用は大きく失墜した。この事件がフランス革命につながったという人もいる。

これが、「ミシシッピ計画」とよばれる信用崩壊事件だ。オランダの「チューリップ・バブル」、イギリスの「南海泡沫事件」とともに、歴史上三大バブルと言われる。民間、政府をとわず、「信用」頼みは身を滅ぼす、ということだろう。

■お金とは?

こんなお金のドタバタをみていると、素朴な疑問がわく。

お金って何?

「お金」は「信用」以外の何ものでもないが、2つの顔がある。一つは、モノ・サービス・資産の価値の尺度。大根1本いくら、エステ1時間いくら、マンション1戸いくらの世界。

もう一つは、モノ・サービス・資産の取引の決済手段。ただし、紙に「金1万円也」と書いても通用しないので、現金やカードやウェブマネーなどが使われる。つまり、「尺度」ではなく「媒体」との顔。

ところが、最近、第三の顔が目立つ。自己増殖する「資産」の顔だ。元々、お金は資産の尺度なのに、資産そのものになったわけだ。たとえば、預金、国債、年金、生命保険、社債、株式など。あと、物騒だが、リターンが大きい(かも)のデリバティブ。ただし、金融資産はすべて「負債」付きなので、負債が焦げ付けばチャラになる。

では、負債のない資産はない?

ある、モノの資産だ。

たとえば、日本が「中華人民共和国・日本省」になれば、「円」は紙くずになるが、大根の価値は変わらない。姿形はもちろん、味も栄養も満腹感も。つまり、大根の価値は「信用」ではなく「実体」にささえられているわけだ。

とはいえ、大根は「資産」にはならないだろう。腐るから、価値を保存できないのだ。もちろん、無機物ならいいというわけではない。スマホなど工業品は型古になれば、価値を保存できないから。ということで、真の資産とは、負債がなく、国籍に依存せず、劣化せず、時代を越えて普遍的なもの。

■不動産

モノの資産といえば、まず思いつくのが不動産だろう。とはいえ、不動産は庶民には手が出せない。10万円で買える土地や家はないから(たぶん)。

ところが、最近、10万円でできる不動産投資が脚光をあびている。敷居が低い「REIT(リート)」だ。

そのカラクリは・・・

投資家から少額(たとえば10万円)を集めて、大金をつくり、オフィスビル、商業施設、マンションなどに投資する。そこから入る賃貸収入や売買益を、投資家に分配するわけだ。もちろん、投資額が大きいほど分配金も大きい。リーズナブルで、お手軽な不動産投資だ。

しかし、「REIT」は、厳密には「モノ」の資産ではない。不動産を担保にした投資信託、金融資産なのだ。つまり、負債付き。株式の投資信託(ファンド)の不動産バージョンと考えていいだろう。しかも、何に投資するかはプロまかせで、商品構造は複雑怪奇、典型的なハイブリッド商品だ。

というわけで、負債のない不動産投資なら、「リアルな不動産」の一本釣りしかない。

ところが・・・「リアルな不動産」にもリスクがある。

1990年代のバブル崩壊の前、「土地神話」なるものがあった。土地(不動産)は永遠に上がり続けるというのだ。ところが、バブル崩壊とともに崩壊してしまった。

あれから20年経って、不動産は上昇基調にある。しかし、長くは続かないだろう。

これまで、「一人住まいの世帯」の増加に支えられ、住宅需要は伸びてきた。ところが、2020年頃、世帯の増加はピークアウトする。その後は、人口の減少とともに、世帯数も減っていく。「世帯数<住宅数」になり、新築が売れない、どころか、空き家が急増するだろう。地方では3軒に1軒が空き家になるという予測もある。不動産価格の下落は避けられないのだ。

では、負債のない、価値が毀損しない資産はない?

一つある。

古代から資産として君臨している「金(Gold」だ。

■金(Gold)

30年前のある日、ふと閃いた。

金は上がるのでは?

当時、世界中の中央銀行がお札を刷りまくっていた。政府の「信用」を担保に、輪転機をフル稼働させていたのだ。紙とインクで「お金」が量産できる・・・中央銀行だからできる荒業だ。

でも、数量が「お金>>モノ」なら、価値は「お金<<モノ」になるのでは?

で、現実に金はどうなったか?

2000年以降の金価格の推移をみてみよう。

まずは、「ドル」ベース。1トロイオンスあたりの価格は・・・

279ドル(2000年)→1294ドル(2017年11月末)

17年間で「4.6倍」に上昇している。

つぎに、「円」ベース。1グラムあたりの価格は・・・

967円(2000年)→5,063円(2017年11月末)

17年間で「5.2倍」。つまり、年率「10%強」で増えたわけだ。成績の良い投資信託でも、年率数%なので、金融商品とくらべても遜色はない。ちなみに、銀行預金は年率0.01%なので論外。ちょっと、物価が上がるだけで、目減りするから。

ところで、ドルベースで「4.6倍」なのに、円ベースで「5.2倍」?

対ドルで、円の価値が下がっているということ。つまり、金は為替リスクのヘッジにもなるわけだ。

■究極の資産

ところが、これまで、「金はもうからない」が定説だった。利息はつかないし、売買手数料はとられるし、売却益に課税されるから。とはいえ、17年で5倍なら、そんなハンディも吹き飛ぶ。つまり、短期ではイマイチだが、中長期的にはコスパの良い投資なのである。

金に投資するなら、まとめ買いより、「純金積立」の方がいいだろう。毎月一定額(たとえば1万円)、金(Gold)を買うのである。買う金額が一定なので、金の価格が高ければ買う量が減り、安ければ買う量が増える。金価格の変動リスクをヘッジできるわけだ。しかも、買った金を預かってくれるので盗まれる心配もない。

そんな、金がらみで、気になる情報がある。

2008年以降、日銀とFRBをのぞく世界の中央銀行が金を買い越しているのだ(以前は売り越し)。基軸通貨のドルも、しょせんは「米国の信用」頼み。だから、金を「価値保存ができる通貨」としてみているのだろう。つまり、「ドルVs金」は「カネVsモノ」概念の具象化なのである。

ここで、「金(Gold)」の強みをまとめよう。

まず、誰の「負債」でもない。無国籍なのでソブリンリスク(国の信用リスク)もない。さらに、流行り廃れがなく、腐ったり錆びたりの経年変化もない。つまり、金は、国・場所・時間を超えた普遍的な資産なのである。

金が最も威力を発揮するのは、「国債暴落→ハイパーインフレ」が起きたときだろう。

預金も現金も全滅・・・それより致命的なのは、年金が紙くずになること。40年間働いた努力が水泡に帰す、どころではない。体が動かなくなった人生最悪のフェイズで、収入ゼロになるのだ。

ただし、金には一つリスクがある。

量子コンピュータならぬ「量子錬金術」だ。

この原子レベルの超ハイテクが完成すれば、ありふれた元素を、金に換えることができる。そのとき、「金」は「土」の価値しかなくなるだろう。最後はすべて土に還る、なんてシャレている場合ではない。

というわけで、最も安全な資産は「価値を生む力」だろう。これさえあれば、いつの時代、どんな場所でも生きていけるから。ところが、人工知能(AI)がこの究極の資産を脅かしている。2030年~2035年に、人間の仕事の半分が、ロボット&AIに奪われるだろう。

世知辛い世の中だ。やっぱり、金地金かな?

by R.B

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