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週刊スモールトーク (第377話) オリーブが祝福される理由(2)~地中海の女王~

カテゴリ : 歴史社会

2017.10.22

オリーブが祝福される理由(2)~地中海の女王~

■オリーブの起源

オリーブは「亀」より長生きする。

数百歳はザラで、中には樹齢2000年という「神」もいる。オリーブの花言葉は「平和・安らぎ・知恵・勝利」だが、「長寿」もくわえよう。

驚くべきことに、日本にも樹齢1000年のオリーブが生育している。

1000年?・・・日本に初めて、オリーブの木が持ち込まれたのは明治時代だったのでは?

じつは、日本で1000年育ったわけではない。スペインのアンダルシア地方で生育した古木が、小豆島に移植されたのである。2011年3月に植樹され、半年後に新しい芽がでたというから、凄まじい生命力だ。

オリーブの野生種は、有史以前から地中海沿岸で生育していた。

栽培が始まったのは紀元前4000年頃といわれている。ただし、確実なのは、紀元前3000年紀のエーゲ海の「ヘラディック文化」。この文化は、アナトリア(現在のトルコ)の影響をうけた青銅器文明で、のちに、ギリシャ本土の「ミュケナイ文明」に継承された。

アナトリア(トルコ)が、ギリシャ文明に先行?

ギリシャ文明どころか、シュメール文明より古い。

文明の第一段階を「灌漑農耕」とすれば、アナトリアは文明の発祥地といっていいだろう。

遺跡も見つかっている。

トルコのコンヤ高原の「チャタル・ヒュユク」だ。灌漑農耕で小麦や大麦が栽培されていたことがわかっている。人口は約6000人と推定されるので、「集落」を超えて「町」のレベル。

しかも、成立は紀元前7000年前後なので、シュメール文明より4000年も古い。

では、シュメールとチャタル・ヒュユク、どっちが最古の文明?

文明の定義によるが、「最古の都市」ならシュメール、「最古の町」ならチャタル・ヒュユクだろう。ここでいう「都市」は小型の国家、「町」は大型の集落をイメージしている。

ちなみに、「鋼鉄の剣」で古代オリエントを席巻したヒッタイト帝国もアナトリア。だから、アナトリアは人類文明の先行地帯なのである。

一般論として・・・

トルコのボスポラス海峡を境に、西方がヨーロッパ、東方がアジアである。そして、人類文明の発祥の地は「東方(オリエント)」が定説。オリエントが「日出ずる国」といわれるゆえんである。

■地中海交易とフェニキア人

オリーブ栽培がエーゲ海で始まると、利にさといフェニキア人が目をつけた。

フェニキア人といえば「アルファベット」、紀元前12世紀頃、22の子音からなるアルファベットを発明した。

ただし、「アルファベット」はフェニキア人のオリジナルではない。先行したのは、北シリア海岸の都市国家ウガリットである。紀元前14世紀頃、30字からなる「アルファベット」が使われていた。

ところが、ウガリット版アルファベットは普及しなかった。紀元前1200年頃、「海の民」の侵略をうけ、文明もろとも消滅したのである。

「海の民」は謎の勢力だ。

出世地は不明で、民族も語族も特定できていない。

しかも、征服した後、占領地を支配した形跡もない。あげく、そのまま歴史から消滅してしまった。「海の帝国」ではなく「海の民」とよばれるゆえんである。

「海の民」は複数民族からなる集合体だったのだろう。というのも、こんな記録がのこっている。エジプト新王国・第20王朝のラメセス3世が、デルタ地帯に侵攻してきたフィリスティ人やシェルデン人を撃退したというのだ。時代と状況を考慮すれば、「海の民」と考えて間違いないだろう。

さては海賊?

じつは、紀元前1200年頃、滅んだのはウガリットだけではない。複数の文明が、突然滅んでいるのだ。その中には、ヒッタイト帝国のような強国も含まれていた。そのすべてが「海の民」の仕業と考えられているのだ。オリエント世界の大征服・・・ならず者の海賊にはムリ。

とはいえ海賊は侮れない。巨大化すると国を凌駕することもあるのだ。

たとえば、13世紀から16世紀、中国沿岸部を荒らし回った倭寇。動員兵力は数千を超え、国軍を打ち破るほどだった。明の朱元璋も散々手を焼き、日本に取り締まりを要請したほどだ。

さらに、極めつけは、17世紀、カリブ海の町ポートロイヤル。

500隻もの船舶が停泊できる港を備え、貨幣鋳造所まであった。しかも、1人当たりの貨幣流通額はロンドンを上回ったという。自前で通貨を発行するのだから、立派な主権国家である。ところが、ポートロイヤルは海賊が統治する町だったのだ。

町は、賭博場、売春宿、居酒屋がところ狭しと並び、海賊、人殺し、悪徳官吏がのし歩く。さらに、臭いをかぐだけで卒倒しそうなラム酒が人々の理性をむしばんでいた。まさに、カリブの海賊が集まる悪徳の楽園だったのだ。

とはいえ、ポートロイヤルの最期は凄惨だった。ソドムとゴモラのように完全に破壊されたのである。

話をアルファベットにもどそう。

ウガリットは、海の民のせいで「アルファベットの発明者」の栄誉を逃したわけだ。もっとも、ウガリットのアルファベットは楔形文字で、文字体系もややこしかった。だから、フェニキア人のアルファベットの方が受け入れやすい。

そして現実もそうなった。ファニキア版アルファベットはアラム人やへブライ人の隊商に採用され、商圏とともに広がったのである。その後、母音字も付加され、今のアルファベットへと進化した。

フェニキア人が地中海に進出したのは紀元前11世紀頃である。

とはいえ、この頃の船は、おそろしく脆弱だった。荒波には耐えられず、航行は波の静かな内海(地中海)か、外海なら沿岸沿いに限られた。しかも、航海技術も稚拙なので、自分が今どこにいるのか、どの方向に進めばいいのかもわからない。だから、大海を突っ切るのは自殺するようなものだった。

そこで、フェニキア人は交易インフラを整備した。キプロスを起点に1日で航行できる距離ごとに基地を建設したのである。何かあっても、半日頑張れば、補給・修理にありつける。こうして、フェニキア人は地中海交易を拡大していった。フェニキア商人が扱った商品は、アラビア、アフリカ産の香料、金銀、象牙。さらに、フェニキア特産のガラス製品と「紫染料」である。

とくに「紫染料」は超高級品として知られた。歴史に残る交易品、カリスマ・アイテムといっていいだろう。

フェニキアの「紫染料」は、巻貝(アッキガイ科)の分泌液からつくられる。1枚の布地をつくるのに数万個の貝を潰すので、原価がハンパない。しかも、製法が複雑で、時間もかかる。かのローマ帝国でさえ真似できなかったのだ。色味は、赤みがかった紫で、うっすらとして上品。そのため、東ローマ帝国では「皇帝の色」とされた。

■クレタ島の謎

フェニキア人は地中海交易で栄えたが、国家が存在したわけではない。古代ギリシャのように、主権をもつ複数の都市が連携する都市国家だった。しかも、フェニキアの場合、つながりは古代ギリシャよりもはるかにゆるい。たとえば、同族の都市が攻撃されても、見て見ぬふり・・・

フェニキアで特筆すべき都市は、ティルス(テュロス)とカルタゴだろう。最も繁栄し、最も悲惨な最期をとげたという意味で。

ティルスはアレクサドロス大王に、カルタゴはローマ帝国に破壊された、完膚なきまでに。そのため、二度と繁栄をとりもどすことはなかった。

フェニキア人の歴史的功績は「アルファベット」だけではない。オリーブ栽培を地中海世界に広めたのも彼らだ。ところが、オリーブで一番儲けたのはクレタ島のミノア文明だった。

クレタ島は、地中海東部に真ん中に位置し、華やかな歴史と伝説に彩られている。

「ラビリンス(迷宮)」、「ミノタウロス(牛頭人身の怪物)」、「イカロスの翼」、「アリアドネの糸(運命の赤い糸)」・・・すべて クレタ島のミステリアスな伝説だ。

一方、ミステリアスな真説?もある。

ドイツの地質学者ヴンダリーヒが著した書「迷宮に死者は住む」だ。

ヴンダリーヒの説は大胆不敵である。クレタ島のクノッソス宮殿は「宮殿」ではなく死者の魂をまつる「霊廟」だったというのだ。歴史で習った「宮殿」が、本当は「墓場」だった!?!

まさにコペルニクス的転回だが、物的証拠もある。クレタ島に今も遺るクノッソス宮殿である。

それはともかく、クレタ島のオリーブビジネスが繁盛したことは間違いない。クレタ産のオリーブオイルが、近隣のギリシャ、エジプト、イタリアに輸出され、巨万の富をもたらしたのだ。

オリーブは地中海とともに・・・

ところが、ある日、悲劇が地中海世界を襲う。

■地中海の女王

紀元前1620年頃、エーゲ海のテラ島(サントリーニ島)が大噴火を起こしたのだ。人類史上、2番目の巨大噴火で、1883年の「クラカトアの噴火」の4倍の火山灰を噴き上げたという。

ちなみに、クラカトアの噴火は、記録が残る最大の噴火で、米国TVドラマの傑作「タイムトンネル」のエピソードにもなっている(第6話「火山の島」)。史実にもとづいているので一見の価値あり。

テラ島の大噴火は、地中海東部の文明を破壊した。とくに、クレタ島の被害は甚大だった。大津波がおしよせ、北部が壊滅したのである。その後、クレタのミノア文明は廃れ、二度と盛り返すことはなかった。

ところが、オリーブ栽培はしぶとく生き延びる。ローマ帝国の隆盛とともに、地中海全域に拡大したのである。

オリーブが古代人に重宝されたのは、爽やかな見てくれだけではない。

オリーブオイルは、古くから、人間の大切な栄養源だった。さらに、明かりを灯す燃料でもあった。現代の科学によれば、果実を加熱せずに絞るオリーブオイルには、ビタミンEやオレイン酸が多く含まれる。ともに抗酸化作用があるので、生活習慣病の予防にもなる。さらに、保湿効果があるので、化粧品や石鹸の原料として利用されている。

オリーブから採れるのはオイルだけではない。果実を食べることもできるのだ。

たとえば「オリーブの塩漬け」。スペイン料理のお通しの定番である。未熟なグリーンと、完熟の黒の2種類あるが、塩漬けなので、味の違いがわからない。食べ放題の店が多いが、塩分が多いので食べすぎに注意。

オリーブ漬けは、オリーブの果肉を渋みを抜いて、塩水や塩に漬けたもの。ピクルスの一種だが、テーブルオリーブとも言われる。

つまり、オリーブは、姿形、燃料、植物油、食べ物・・・人間に恵みをもたらす樹木。だから、オリーブは「祝福される木」なのである。

かつて、フェニキア人が建国したカルタゴは「地中海の女王」といわれた。彼らはオリーブを地中海世界に普及させ、人間は大いなる恵みをうけた。だから、オリーブもまた「地中海の女王」なのかもしれない。

《つづく》

参考文献:
・NHK趣味の園芸「よくわかる栽培12ヶ月オリーブ」岡井路子著 NHK出版
・週刊朝日百科 世界の歴史 6 朝日新聞社出版 
・世界の歴史を変えた日1001 ピーター ファータド (編集), 荒井 理子 (翻訳), 中村 安子 (翻訳), 真田 由美子 (翻訳), 藤村 奈緒美 (翻訳) 出版社 ゆまに書房

by R.B

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