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週刊スモールトーク (第370話) NHKの自作AI(1)~社会問題解決型・人工知能~

カテゴリ : 社会科学

2017.08.20

NHKの自作AI(1)~社会問題解決型・人工知能~

■NHKの自作AI

NHKが、AI・人工知能にロックオンしている。

NHKスペシャル「囲碁AI」、「将棋AI」2連発のあとに・・・「AIに聞いてみたどうすんのよ!?ニッポン」

前2回とはうってかわったお気軽なタイトル。司会も有働由美子とマツコデラックスと「お気軽」に華をそえる。

ところが・・・

番組の内容はゼンゼン「お気軽」ではない。

「AI・人工知能」業界に挑戦状を叩きつけているのだ。というのも、開口一番・・・

課題山積の閉塞した状況を打破するため、NHKは世界にも例を見ない「社会問題解決型AI」を開発した。

じつは、このキャッチの行間にはNHKのメッセージが隠されている・・・

社会は複雑化の一途をたどり、問題山積なのに、世間のAI・人工知能の研究者や技術者は何をやってんの?何もやってないじゃん。そこで、NHKがAIをつくってみた・・・それが「社会問題解決型AI」!

地道にAIをやっている研究者や技術者はカチンときたことだろう。

もちろん、NHKは百も承知だ。

司会に有働由美子とマツコデラックスを選んでいるのがその証拠。もし、司会者がしたり顔の研究者だったら、ネチネチ重箱の隅をつつかれたあげく、ウンコAIよばわりされるのがオチ。ところが、有働由美子&マツコデラックスならシャレですむ。

ところで、「カチン」の理由は?

これまでのNHKスペシャルは、アルファ碁、ポナンザ・・・どこぞの誰かが作ったAI・人工知能を、あーだこーだ。ところが、今回は、NHKがAI・人工知能を「自作」したというのだ。

さすがは、天下のNHK、人工知能まで作れるのか!

という見方もあるが、

AI・人工知能って、テレビ局が作れるの?

けっこう、カンタンじゃん!

という見方もできる。

が、問題はそこではない。

AI・人工知能はいいけど、何ができるか?

ところが、NHKの「自作AI」はココが挑発的なのだ。「社会問題」を解決するというのだから。

社会問題?

囲碁の世界チャンピオンに勝つ方がよっぽど凄いのでは?

さにあらず。

■低い所に実っている果実

現在、成果をあげているAI・人工知能をみてみよう。

囲碁、将棋、画像認識、音声認識・・・

お気づきだろうか。データの型がワンパターン・・・囲碁と将棋なら「棋譜」、画像認識なら「画像」、音声認識なら「音声」。さらに、目的もルールも明確。これを定型タスクとよんでいる。つまり、AI・人工知能はありていに言えば「専門バカ」。とはいえ、AI・人工知能を「バカ」よばわりするのもなんなので、「特化型人工知能」とよんでいる。最近はあまり使われなくなったが、「弱いAI」ともいう。

一方、「社会問題」はそうはいかない。

「社会」は、人口、経済、政治、軍事、文化・・・様々な因子がからみあっている。しかも、各因子のデータの型はバラバラで、目的もルールも複雑怪奇。

たとえば、人口なら、「人数」で定義できるが、経済はそうはいかない。GDP、人口、教育レベル、資金量、技術革新がからみあっている。政治にいたっては、パラメータは無数といっていいだろう。つまり、データを一つの型(フォーマット)にまとめることができない。

だから、成功しているAI・人工知能は「データのフォーマットが同じ→単機能」なのである。

でも・・・素朴な疑問がわく。

単機能なのに、人工知能?

「人工知能」をうたうなら、ホンモノの「人工知能」に向き合うべきでは?

そんな現状を揶揄するたとえ話もある・・・

酔っぱらいが車の鍵をなくし、街灯の下ばかり捜している。一緒に捜し始めた警官が聞く。

「どこでなくしたんだ?」

すると酔っぱらいは通りの向こうの暗い隅を指さす。

「あそこさ、でもココの方が明るいだろう」

・・・「特化型人工知能」の研究者はさげすまれている?酔っぱらい扱いなのだから。

さらに、「特化型人工知能」を「低い所に実っている果実」という人もいる。というわけで、一つのことしかできない特化型人工知能の評判はイマイチ。

では、NHKが自作した「社会問題解決型AI」は特化型人工知能?

それとも新手の人工知能?

■AIの提言

NHKによれば・・・

「社会問題解決型AI」は、膨大なデータを学習したという。

経産省や総務省の統計資料から、「ラブホテル」の数や「ラーメン店舗数」などの身近なデータ。10年以上にわたって個人を追跡した700万件のデータ。それを「ディープラーニング」、「機械学習」、「パターン認識」を駆使することで、日本社会の知られざる姿を明らかにした。

そこで、見えてきたのは、思いもよらないデータどうしが連動し、日本を動かしていたという事実。それをもとに、NHK製AIは驚くべき提言をした・・・

(1)少子化を食い止めるには、結婚よりもクルマを買え

(2)ラブホテルが多いと、女性が活躍する

(3)男の人生のカギは、女子中学生の“ぽっちゃり度”

(4)40代ひとり暮らしが、日本を滅ぼす

はぁ?なんで・・・はタブー。

というのも、AI・人工知能は「因果関係」を考慮しないことになっている。過去のデータから「相関関係」を見つけだし、それを元に推論しているだけ。

では、因果関係と相関関係は何が違うのか?

イギリスの寓話を引用しよう。

七面鳥が、毎日、エサを与えられていた。

雨の日も晴れの日も雪の日も、毎朝9時キッカリに。それが、毎日続いたので、七面鳥は、その事実(データ)から、あるルールを発見した。

「毎朝9時に必ずエサがもらえる」

ところが、ある日、七面鳥の期待は裏切られた。首を切り落とされたのである。というのも、その日はクリスマス・イヴだった・・・

七面鳥がエサをもらえたのは、クリスマスの夜、食卓を飾るため。ところが、七面鳥は、その因果関係に気づかず、相関関係をうのみにした・・・毎朝エサをもらえるから明日ももらえると。

つまり、1000回のデータが示唆しても、1001回目もそうなるとは限らないのだ。「結果」を決めるのは、過去の慣例ではなく、今の原因だから。

■因果関係Vs相関関係

七面鳥の教訓によれば、推論の精度は、

因果関係>相関関係

にもかかわらず、現在主流のAI・人工知能は「相関関係」によっている。

なぜか?

今のAI・人工知能は、自力で因果関係を見つけることができない。そのため、因果関係を用いるには、「因果関係=ルール」を人間が記述しなければならない。これをルールベースとよんでいる。これまでのAI・人工知能はすべてこれだった。

ところが、容易に想像がつくが「ルールをすべて書き切る」のはムリ。人間なら、ルールを知らなくても応用で対応できるが、AIはそれができない。つまり、ルールベースのAI・人工知能は、例外に対応できず、実用性に欠く。

一方、相関関係・AIは、人間がルールを記述する必要はない。データを食わせるだけで、AIがルールを学習してくれる。どちらが楽かは言うまでもない。

では、NHKの自作AIはどっち?

相関関係!

設計者でもないのに、なぜ断言できる?

NHK自身が認めているから。

番組の中で、

「AIは理由や因果関係は分からない」

「AIの分析結果を読み解くのは人間の仕事」

と言い切ったのだ。

それはそうだろう。ヘタに「因果関係」を匂わせようものなら、AIを生業にするテッキーから「証拠を見せろ」と迫られるのは必定。彼らはスーツと違って、大人の対応をわきまえていないから注意が必要だ。

ちなみに、テッキーとスーツは、米国ハイテク業界の用語。前者はオタッキーな技術者、後者は大人のビジネスマンをさす。

というわけで、NHKの自作AIも「相関関係」型。「世界にも例を見ない」とぶち上げておきながら、その他大勢と同じ?

結局、天下のNHKも「低い所に実っている果実」なのだろうか。

《つづく》

by R.B

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