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週刊スモールトーク (第365話) 世界初の潜水艦(1)~ブッシュネルの潜水艇~

カテゴリ : 人物歴史科学

2017.07.02

世界初の潜水艦(1)~ブッシュネルの潜水艇~

■やってられない人生

天賦の才にめぐまれ、粉骨砕身、努力して、偉大な発明を成し遂げる。そして、人知れずこの世を去る。

そんな、やってられない人生の代表が、ニコラ・テスラだろう。

テスラは「電気文明」の父である。

電気文明のキモは、電球や蓄音機のような「シッポ」ではない。電気力の源、電気エネルギーを送る(送電)にある。

人間にたとえれば・・・頭脳明晰にして、筋骨隆々でも、血流がなければただの「タンパク質の塊」。つまり、「送電」は電気文明の「血流」なのである。

送電方式には「直流方式」と「交流方式」がある。

直流方式は、中学の理科「オームの法則」でカンタンに説明できる。ところが、交流方式はそうはいかない。難解な「交流理論」でしか説明できない。それを一人で体系化したのが、ニコラ・テスラなのである。つまり、テスラなくして電気文明は成立しない。

そんな偉業を成し遂げたのに、ニコラ・テスラは富も名声も得られなかった。彼の名をとった自動車メーカー「テスラ・モーターズ」の方が有名なほど。本家本元より、マネた分家の方が有名なわけだ。

ではなぜ、テスラはそれほど「無名」なのか?

「家電製品(シッポ)」の元祖にして、性悪な発明家、トーマス・エジソンにイジめられたから。

じつは、先の「直流方式」を提唱したのがエジソンなのだ。エジソンはライバルの「交流方式=テスラ」が憎くてしかたがなかった。そこで、エジソンはテスラを破滅させようと、陰湿な嫌がらせを繰り返した。結果、テスラは万年貧乏で人生を終えたのである。

ところが、アメリカは広い。

「やってられない人生」の発明家は他にもいる。

「潜水艦」の発明者デヴィッド・ブッシュネルだ。

■矛盾する超兵器

潜水艦・・・海に潜ってコソコソ、空母の方がカッコイイぞ。

たしかに、第二次世界大戦のドイツのUボートや日本のイ号潜水艦は、後半、航空機と駆逐艦にいいようにやられていた。

ところが、原子力潜水艦が登場すると、状況は一変する。21世紀最強の軍事ユニットにのしあがったのである。

まずは攻撃力。

都市を一撃で破壊できる核ミサイルを搭載する。しかも、1つや2つではない。

たとえば、アメリカ海軍の原子力潜水艦「トライデント型」は24基。しかも、1基あたりの核弾頭は10個なので、核弾頭の総数は「24基×10=240個」。すさまじい破壊力だ。

さらに防御力は、他の軍事ユニットを圧倒する。

海底深く潜航するので、軍事衛星、航空機から直接探知できない。電磁波(光も含む)は、水面で反射してしまうのだ。そもそも、電磁波は水中では減衰が激しく使い物にならない。水中の物体を探知するには音波、つまりソナーしかない。

ところが、そのソナーをもってしても、探知できない潜水艦がある。

旧ソ連の「アルファ級原子力潜水艦」だ。

この超ハイテク原子力潜水艦は、水深600m以上を潜航できる。ちなみに、普通の原子力潜水艦の最大深度は400mである。

それで?

じつは、水深600mに重要な意味がある。ソナーは水深600m以上の深海は探知できないのだ。つまり、アルファ級原子力潜水艦は、深海のステルス艦なのである。

そもそも、深度600mでは、魚雷を発射しても、水圧でつぶれてしまう。さらに、水中速度が40ノットと高速で、最速の海上艦船でも追いつくことができない。

つまり、こういうこと。

アルファ級原子力潜水艦は、探知する術がない。たとえ探知でできたとしても、攻撃することも、追跡することもできない。つまり、無敵の防御力!

ではなぜ、アルファ級原子力潜水艦は、普通の原潜の「1.5倍」も潜れるのか?

艦体が「チタン」できているから。

潜水艦の艦体は、高い強度が要求される。深く潜れば潜るほど、水圧が上昇し、やがては押し潰されるから。そのため、深く潜るためには、艦体の強度を上げるしかない。

どうやって?

装甲を厚くする。

ところが、その分重量が増えるので、厚くするにも限界がある。

そこで、「チタン」を使うわけだ。

チタンは鋼鉄より強度があり、重さは鋼鉄の半分しかない。しかも、海水(塩分)に対して、高い耐食性がある。つまり、潜水艦の艦体にはうってつけ。

ところが、チタン製の潜水艦を実用化できたのは旧ソ連だけだった。

なぜか?

溶接が難しいから。

じつは、西側諸国も、かつてチタン製の潜水艦の開発を試みた。ところが、溶接に20工程もかかり、実用化できなかった。一方、ソ連は6工程。だから、ソ連だけが実用化できたのである(※1)。

ところが、アルファ級原子力潜水艦はハイテクを追求しすぎた。「チタン製」の他にも、超技術がテンコ盛りなのだ。

たとえば、溶融金属で冷却する原子炉。軽水炉より軽量で高出力が得られるので高速潜航が可能(海上の高速艦船並み)。さらに、魚雷の自動装填システムをはじめ、自動化がすすんでいた。

ところが、その超技術がアダとなり、トラブルが多発した。結局、実戦で活躍することなく退役している。

映画「レッド・オクトーバーを追え!」を彷彿させるではないか。

この映画の主役は、ソ連のハイテク原子力水艦「レッド・オクトーバー」。スクリューのかわりに「キャタピラー・ドライブ」で推進するハイテク潜水艦だ。

スクリューなしで!?

荒唐無稽にみえるが、原理的には成立する。

海水に電流を流し、その垂直方向に磁界を発生させると、推力が得られる。高校の物理で習う「フレミングの左手の法則」だ。現実に、この原理を利用した「電磁推進船」のアイデアがある。レッド・オクトーバーはその応用だろう。

映画の中では、レッド・オクトーバーは実験艦という扱いだが、アルファ級原子力潜水艦もお仲間。スペックは凄いけど、現実の戦果はイマイチかナシ・・・

とはいえ、原子力潜水艦の潜在能力は高い。

最強の攻撃力(矛)と最強の防御力(盾)を備えるから。「矛盾」するほどの超兵器なのだ。

これに、超音速魚雷を搭載すれば鬼に金棒。アメリカ海軍が誇る最強のタスクフォース(空母打撃群)も為す術もなく、壊滅させられるだろう。

そして・・・全面核戦争後、生き残るのは原子力潜水艦のみ。人類の終末を描いた映画「渚にて」がそれを示唆している。

■世界初の潜水艦

というわけで、「潜水艦」の父デヴィッド・ブッシュネルの功績は大きい。

ただし、ブッシュネルが作ったのは「一人乗り」の「人力」潜水艦なので、「潜水艇」といった方がいいだろう。

とはいえ、ブッシュネルが開発した技術は、現在の原子力潜水艦にも継承されている。

まずは、バラストに水を使う方法。

バラストとは、艦船を安定させるための「重し」だ。

潜水艦が潜水するとき、タンクに水を入れて重くする。逆に、浮上するとき、タンクの水をポンプで排出して軽くする。つまり、潜水と浮上にバラストを利用するわけだ。

バラストは、砂利を使う方もあるが、一旦、放出すると使えない。一方、水は海にいくらでもあるので、使い放題。これを使わない手はない。

つぎに、スクリュー推進。

スクリュー・・・船ならあたりまえでは!?

じつは、この時代、スクリュー船どころか、動力船も存在しなかった(帆船の時代)。

ブッシュネルの潜水艇から100年たった1853年、アメリカ合衆国艦隊が日本に来訪した。ペリーの「黒船来航」である。このとき、4隻の艦船のうち、2隻が蒸気船だったが、スクリュー船ではなかった。船体の両側の外輪(パドル)を、水車のように回転させ、推力をえる「外輪船」。スクリュー船が外輪船を駆逐したのは、それから20年後のことである。

というわけで、ブッシュネルの潜水艇は、作りはつつましいが、アイデアは未来志向。

もっとも、外輪(パドル)が完全に水中に没すると、回転させても、推力はえられない。だから、潜水船ならスクリューしかない。それに、ブッシュネルのスクリューは手回し式、つまり、人力駆動。しかも、スクリューのアイデアもブッシュネルのオリジナルではない。その100年前に考案されている。

だから、「ブッシュネルの潜水艇→原子力潜水艦」と言い張るつもりはない。

一方、ブッシュネルの発明力にケチをつけるつもりもない。ブッシュネルの世界初(史上初)は他にもあるのだ。

まずは、「水中での火薬爆発」。

当時、火薬が水中で爆発するはずがないと思われていた。それをブッシュネルが初めて成功させたのである。

さらに、「時限爆弾」。

タイマーを使って、一定時間後に爆弾を爆発させる。じつは、ブッシュネルの潜水艇には時限爆弾が必要不可欠だった。理由は後述するが、人力と歯車の時代に、潜水艦、水中爆弾、時限爆弾を一人で発明したのだから、大したものだ。

ところが、ブッシュネルはそれに見合った名声も富も得られなかった。晩年の「無名」ぶりがそれを物語る。

ブッシュネルが死んだとき、葬儀で、彼の本名が初めて明らかにされた。それまでは「ブッシュ」で通っていたのだ。

名前がこれなら、実績は推して知るべし。

■32歳の大学生

デヴィッド・ブッシュネルは、アメリカ・コネティカット州のセイブルックに生まれた。

両親は農業を営んでいたが、生活は苦しかった。そんな両親を助けるため、ブッシュネルは野良仕事にあけくれた。

ところが、1767年に転機が訪れる。父親が死んで、少しばかりの財産を相続したのである。ブッシュネルは、そのお金でイェール大学に入学した。そのとき、ブッシュネル25歳、入学ではなく、卒業する年齢である。

ブッシュネルは優秀な学生だった。成績はトップクラスで、好奇心は旺盛。しかも、集中力が並外れていた。「成し遂げる」典型的なタイプである。

ブッシュネルが、熱中したのは潜水艇だった。ただし、水中を潜るだけではない。敵艦に気付かれずに接近し、船底に時限爆弾をしかけて離脱、爆弾を爆発させる。つまり、新手の水中兵器だったのである。

この奇妙キテレツな水中兵器には2つの課題があった。

第一に、水中で爆弾を爆発させること(水中爆弾)。

第二に、敵艦に気づかれずに船底に到達し、爆弾をしかけて離脱すること。海上は視界が抜群なので、水中に潜るしかない(潜水艇)。

ブッシュネルは、まず、第一の課題にとりくんだ。

1772年、アメリカ・コネティカット州、ニューへイヴンの池の回りに、学生が集まっていた。主役はブッシュネル。水中爆発の実験をやろうというのである。

池の底に、900グラムの火薬を詰めた容器を沈め、その上に石を詰めた大樽が置かれていた。大樽から火薬まで導火線が通っている。

ブッシュネルが、導火線に火をつけると、火は火薬に達し、大爆発を起こした。何フィートもの水柱がふきあげ、大樽が炸裂し石が飛び散った。火薬が水中で爆発することが証明されたのである。

次に第二の課題。

気付かれずに、敵艦の船底まで行き、爆弾をセットし、離脱する。海上は丸見えなので、水中を行くしかない。

ブッシュネルは、2年かけて、潜水船の設計と実験を繰り返した。

しかし、時代は18世紀後半・・・

動力といえば風力と水力しかない。モーター、内燃機関はおろか、ワットの蒸気機関が発明されたばかり(1769年)。制御技術はさらに深刻だ。コンピュータどころか、電子式制御も、電気式制御も、機械式制御すらない。人力と歯車が支配する時代なのだ。

そんな時代に、潜水艦を作ろうというのだから、アタマおかしい!と思われてもしかたがない。

しかも、こんな回りくどいことをやらなくても、船に大砲を載せて、砲撃すればいいではないか。ということで、需要もナシ。

そのまま何もなければ、偏屈なマニアのみぞ知るマッド・サイエンティストで終わっていただろう。

ところが、水中爆発の実験から2年後、アメリカで大事件が起こる。

「アメリカ独立戦争」である。

この歴史的大事件が、ブッシュネルの人生一変させた。彼の怪しい水中兵器が、時の権力者の目に止まったのである。

偉大な発明家にして、アメリカ独立の大功労者ベンジャミン・フランクリンと、アメリカ合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンである。

《つづく》

参考文献:
(※1)「兵器メカニズム図鑑」著者 出射忠明 グランプリ出版
(※2)「戦争と科学者・世界を変えた25人の発明と生涯」著者 トマス・J・クローウェル 訳者 藤原多伽夫 原書房

by R.B

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