BeneDict 地球歴史館

BeneDict 地球歴史館
menu

週刊スモールトーク (第358話) 雑談AI(2)~金沢人気質Vs東京~

カテゴリ : 社会科学経済

2017.04.30

雑談AI(2)~金沢人気質Vs東京~

■偶然は妄想か

稀有の天才で、ノーベル文学賞候補にもなった三島由紀夫は、こんな言葉を遺している。

「偶然は愚か者の妄想」

彼の小説「美しい星」にこんな一節があるのだ。

「偶然という言葉は、人間が自分の無知を糊塗(こと・とりつくろうこと)しようとして、もっともらしく見せかけるために作った言葉だよ。偶然とは、人間どもの理解をこえた高い必然が、ふだんは厚いマントに身を隠しているのに、ちらとその素肌の一部をのぞかせてしまった現象なのだ ・・・ 宗教家が神秘と呼び、科学者が偶然と呼ぶもの、そこにこそ真の必然が隠されているのだが、天はこれを人間どもに、いかにも取るに足らぬもののように見せかけるために、悪戯っぽい、不まじめな方法でちらつかせるにすぎない」(※)

至言かもしれない。

では最近、自分の身に降りかかった、偶然としか思えない出来事は、どう説明したらいいのか?

昨年入会したIT系社団法人の新年互礼会のこと・・・

新会員の挨拶で、会社説明そっちのけで、「(ソフトバンクの)ペッパーに雑談させてます」とぶち上げた。「正確に伝える」より「覚えてもらう」を優先したのだ(ウソではない)。

100人もいるのだから、5人くらいは覚えて欲しい・・・そう願いつつ、第2部の「宴会」にのぞんだ。

宴会場は加賀温泉の大広間。最上席のひな壇には役員が居並び、その前面を一般会員が埋めつくす。

ちなみに、ひな壇は指定席だが、一般会員席はクジ引き。

宴会場の入り口で、クジを引いて、席をさがすと、なんと最前列だった。つまり、ひな壇の目と鼻の先。居並ぶ役員に見張られているようで、ゆっくり食事もできない。

借りてきたネコのように、料理を飲み込んでいると・・・

目の前に、初老の紳士が座った。

団体役員のHさんだ。

心臓がドックン・・・IT業界のVIPだから。

Hさんは、アップルのスティーブ・ジョブズのように、自宅のガレージで創業し、東証1部上場企業まで育て上げた立志伝中の人物だ。

開口一番、

「ペッパーで雑談、いいね」

いっぺんに酔が覚めた。

これまで出会った成功者は、判で押したように究極のリアリストだった。言葉にムダがなく、いきなり核心をつく。もちろん、小細工は通用しない。

そこで、正直に、

「需要はあるのですが、実装にてこずっています。「ワトソン」も射程に入れ、IBMで何度かディスカッションしたのですが、ダメでした。ズバリのソリューションはないというのです」

と白状した。

すると、

「それはいい!IBMができないから、やるんだよ」

励ましている?お愛想?

それはない。

VIPが、わざわざ名もない中小企業を励ましに来るわけないから。

事実、Hさんは、互礼会の後、「雑談AI」に役立ちそうな企業や大学を紹介し、ていねいにつないでくれた。それを機に、イベントの連鎖がおこり、当初は半信半疑だった「雑談AI」が大きく前進したのだ。

三島由紀夫によれば「偶然は愚か者の妄想」。でも、今回のイベント連鎖は偶然としか思えないのだが・・・

ひょっとして、前世で善行をつんだ?

んなわけない。

ということで、やっぱり「愚か者」ですね。

■金沢人気質

互礼会は、総会と宴会の2部で構成されている。

出席者のほとんどが会社の代表か役員だ。だからみんな忙しい。総会だけ出て宴会はパス・・・と思いきや、全員が宴会に出席。東京でも、パーティ付きの総会は珍しくないが、アフターの出席率100%は記憶にない。

じつは、これが金沢人気質なのである。

政治、経済、軍事、どんな分野でも、頂点を極めるのはリアリスト。その原動力になるのは徹底した合理主義だ。

ところが、金沢では・・・

実力・実績がソコソコあれば、温厚で人当たりが良く、付き合いがよい人が尊敬される。文化に造詣が深く、如才ないなら完璧だ。

たとえば、前金沢市長の山出保氏。彼は、温厚な人物、粋な文化人として知られた。事実、山出氏は1990年から2010年まで、20年間も金沢市長をつとめている。

経済界もしかり。

今回の互礼会の団体役員は、会社の規模や知名度順というわけではない。人格・識見が重んじられ、少なくともタカビーな人はいない。

10年ほど前、大手商社の金沢支店長から、面白い話を聞いた。

「金沢の会社は、多少条件が悪くても、付き合いの長い取引先から買う。だから、やりにくい」

金儲けが目的の商売でさえ、義理人情を捨てきれないのだ。

つまりこういうこと。

統計的にみた金沢人気質は・・・

実力と実績があっても、極端な合理的主義者はダメ。ドライでガツガツ、我が道を行くは尊敬されないのだ。ライブドア事件で失脚したホリエモン(堀江貴文)のような肉食系強者は、金沢では出世できないだろう。

逆の見方をすれば、金沢人気質では、大きな発展は望めない。それは民力にも表れている。

金沢市の人口の推移をみてみよう。

【1876年の都市別人口ランキング】
1位 東京 1,121,883
2位 大阪  361,694
3位 京都  245,675
4位 名古屋 131,492
5位 金沢   97,654
6位 横浜   89,554

明治時代、金沢は日本で5番目の大都市だったのだ!(横浜の上)。

ところが・・・

【2016年の都市別人口ランキング】
1位 東京 9,375,104
2位 横浜 3,732,616
・・・
9位 京都 1,275,331
・・・
34位 金沢  466,189

40年で、金沢は第34位に転落。

一体、何が起こったのか?

何も起こらなかったのである。

■うまいこと言いのごっつぉ喰い

じつは、金沢は「衰退」したわけではない。発展が少し遅れただけ。

人口を「増加率」で見てみよう。

【1876年~2016年の人口増加率】
東京 8.3倍
大阪 7.5倍
京都 5.2倍
金沢 4.8倍
横浜 41.7倍

 横浜の発展が異常なだけ。金沢もそれなり発展している。衰退しているわけではないのだ。

では、なぜ、金沢は「半歩」遅れたのか?

「金沢人気質」が影響しているのだろう。

ヒントは「京都」にある。京都も増加率が低めだから。

金沢と京都に共通するのは、太平洋戦争で爆撃をうけていないこと。そのぶん、古いものが温存されている。たとえば、金沢は・・・加賀百万石の伝統と文化、付き合い、義理人情、粋・・・合理性に欠くことばかり。だから、単純な勝ち負けには向かないのである。

ただし、金沢人気質がダメで、ガツガツがいいと言っているわけではない。

先の金沢支店長のグチ・・・じつは、その後があるのだ。

「ウチの社員は、金沢転勤を命じられると、『都落ちだ』と落ち込む。ところが、何年か暮らすと、金沢を離れたがらなくなる。家まで建てる奴がいるんですよ。何考えてんだか・・・金沢は面白い街ですね」

そうかもしれない。

金沢に移り住んで30年になるが、不思議な心地良さがある。

ただし、性に合っているわけではない。仕事なら東京時代の方がよかった。鉄板の合理主義が貫けるから。

たとえば、セミナーにつきものの質疑応答、金沢ではたいてい、

「大変貴重なお話を頂戴し、ありがとうございました。非常にためになりました。今後の業務に活かしたいと思います。わたしどもは、現在、かくがくしかしか・・・」

前置きはいいから、早く質問しろよ!

とブチ切れそうになるのだ。

でも、切れたら終わり、この街では生きていけない。

要点だけ簡潔に言えばいいってもんじゃない、礼儀をわきまえない奴だ、インチキ臭い、ペテン師かも、こいつアヤシイ・・・

事実、金沢にはこんな言葉がある。

「うまいこと言いのごっつぉ喰い」

うまいことばかり言って、ごちそうだけ喰う奴。どんなにうまいこと言っても、金沢では信用されないのだ。コワイ、コワイ、早く金沢になじまなくては・・・

■金沢Vs東京

こんな金沢の対極にあるのが東京だろう。

なにはともあれ、成功すれば、一目おかれる。やり方がエゲつなくても、勝てば官軍、へぇーやりますね~、と美化される。これが東京流。だから、東京は発展し、金沢は遅れたのだ。

でも・・・

遅れて何が悪い、もっと大事なことがあるでしょ。

それを教えてくれたのが、20歳の女の子だった。

彼女は学費を稼ぐためクラブでアルバイトしていた。ビックリするほどの美人なのだが、お店ではナンバー2。

トークがイマイチだから(20歳だから仕方ない)。

彼女は、関西が好きでよく旅行するが、東京にはほとんど行かないという。

そこで、

「東京の方が絶対いいよ。若い子が遊べる所たくさんあるし、観光名所も多いから。たとえば浅草とか・・・」

ところが、彼女の返答は驚くべきものだった。

「東京って、地方が集まっただけじゃん」

脳天直撃・・・あちこち移り住んで、世の中わかっているつもりだったのに、20歳の小娘に一刀両断にされた。

でも、そうかもしれない。

能登→京都→大阪→東京→金沢、と移り住んだが、京都、大阪、金沢には独特の文化がある。姿形だけなく、何かが匂うのだ。ところが、東京は何も匂わない(銀座はのぞく)。だから、「東京は地方が集まっただけ」は言い得て妙かもしれない。

金沢は「古都」が似合う街だ。実際、そう呼ばれることが多い。ところが、金沢は日本の都になったことは一度もない。

金沢は、加賀百万石時代の街並みと文化が色濃くのこっている。

人気の観光スポットは、日本三名園の一つ「兼六園」、古い武家屋敷の「長町武家屋敷跡」、タイムスリップしたような「ひがし茶屋街」。どれも独特の風情がある。

さらに、街全体がこじんまりしているので、ほとんどの観光スポットを徒歩で回れる。

そして・・・食べ物が美味しい。魚はもちろん、肉、おでん、スペン料理も最高だ。

北陸新幹線が開通して2年経つが、観光客は減っていない。最近は白人の観光客も増えた。先日、北陸新幹線でカナダ人男性と隣席になった。金沢の街並み、文化に憧れていると言う。遠いカナダから、リュック一つの一人旅。観光客というより旅人なのだろう。

金沢は不思議な街だ。

古い建造物、古い文化、古い伝統・・・これにハイテクが融合しているのだから。

 《つづく》

参考文献:
(※)三島由紀夫 「美しい星」 新潮文庫

by R.B

関連情報