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週刊スモールトーク (第349話) トランプがゆく(6)~アメリカファーストの未来~

カテゴリ : 人物戦争歴史社会

2017.02.19

トランプがゆく(6)~アメリカファーストの未来~

■外交のキモ

第45代アメリカ合衆国大統領トランプがゆく。

アメリカファーストの御旗をかかげ、就任早々、大統領令を連発している。「舌先三寸ペテンの天才」のウワサを打ち消すかのように。

アメリカファーストではなく、トランプファーストでは・・・なんて、うがった見方もあるが、私利私欲があるわけではない。本気で米国第一主義を考えている。ただし、ここがトランプファーストで、強力な私的バイアスがかかっている。だから、最終的にアメリカにプラスかマイナスかは別の話。

では、トランプファーストの先に待っているのは?

平和か戦争か、それとも全面核戦争か?

神のみぞ知るだが、激しい外交が展開されるのは間違いない。

というのも、相手は曲芸外交の達人プーチン大帝、核戦争もいとわない習近平同志なのだ。

だから外交は細心の注意が必要なのである。

外交で失敗すると、解決方法は戦争しかない。しかも、相手が核保有国なら核戦争・・・つまり、外交は人類の存亡と直結している。だから、自国の損得をいっている場合ではないのだ。

ところが、外交は一筋縄ではいかない。譲歩すれば丸損、ゴリ押しすれば戦争だから。バランスとタイミングがじつに難しい。式が1つで変数が5つの方程式を解くようなもの。

では、外交の決め手となるのは?

国力?

ノー!

もしそうなら、北朝鮮のやりたい放題が通用するはずがない。

では、国の指導者のインテリジェンス?

ノー!

もしそうなら、オバマの弱腰外交(何もしない外交)が説明できない。

道理と誠意?

日本人の言い出しそうなことだが、論外。

もし、それですむなら、この世に戦争はない。日本の外交上のポジションもこんな低いはずがない。ただし、明治時代の日本の外交は別格。プーチン顔負けの曲芸外交だったのだ。おかげで、日本はチョンマゲを切ってわずか70年で世界の一等国にのしあがったのである。

で、結局、外交の決め手は?

言うたもん勝ち、やったもん勝ち。

ロシアのプーチン、中国の習近平、北朝鮮の金正恩の輝かしい?成果がそれを物語る。これに、トランプ閣下が参戦すれば、普遍的な黄金則・・・とはいかない。

全員がこのタイプなら、戦争しかないから。

これは歴史が証明している。たとえば、第2次世界大戦。この時代を彩る指導者たちは、良くも悪くも「巨人」だった。

アメリカのルーズベルト、イギリスのチャーチル、ドイツのヒトラー、ソ連のスターリン・・・いずれも決断力と行動力があり、退くことを知らない。

つまり、言いたい放題、やりたい放題、絶対に退かない・・・世界大戦がおこってあたりまえ。ただし、戦争の引き金を引いたのは、ヒトラーではない。イギリス首相ネヴィル・チェンバレンである(チャーチルの前任者)。1939年9月3日、チェンバレンがドイツに宣戦布告して、第2次世界大戦が始まったのだから。

その苦い体験から、戦後は国際協調がすすんだ。ところが、あれから、75年たって・・・時計が逆回転を始めている。あの時代に向かって。

というのも・・・

国の指導者の「巨人度」が上昇している。

アメリカのトランプ、ロシアのプーチン、中国の習近平、北朝鮮の金正恩・・・みんな退くこと知らないタフガイだ。第2次世界大戦の指導者を彷彿させる。

さらに、火薬の導火線に火がついた。トランプの「アメリカファースト(米国第一主義)」だ。

アメリカさえ良ければ他はドーデモイイ・・・

であれば、他も「自国第一主義」で対抗するしかない。黙っていると大損こくから。結果、紛争や戦争が多発する。

移民の排斥も加速するだろう。国粋主義や民族主義が台頭するから。そうなると、愛国的、カリスマ的人物が指導者に選ばれる。でないと、乗り切れないから。

つまり、来るべき世界は・・・

「1つの民族、1つの国家、1人の指導者」

どこかで聞いたような・・・・じつは、ヒトラーが好んで使ったフレーズなのだ。

1930年、ヒトラーはドイツの行く末を憂いでいた。このままではドイツ民族は滅ぶと。ドイツは穀物の生産量も鉱物資源も少ないからだ。

あげく、ヒトラーは「生存圏の拡大」にとりつかれてしまった。資源が豊富なソ連を征服し、ゲルマン民族を移住させようというのだ。スラブ民族は奴隷にするか、ウラル山脈以東に追いやるか・・・つまり、ゲルマニアファースト。

もちろん、ソ連が「はいどうぞ」と土地を明け渡すはずがない。

結果、史上最大の陸上戦が勃発した。ドイツ軍300万、ソ連軍300万が激突したのである。独ソ戦は、まれにみる消耗戦だった。第2次世界大戦で、もっとも凄惨な戦いといっていいだろう。

■グローバルスタンダードが生んだ格差

結局、第2次世界大戦は、都市を廃墟にし、1億人の死者をだした。

性悪な「人類」もこれで悔い改めた。戦後、民族差別をやめて移民を受け入れ、自由貿易が推進された。国際連合が創設され、「世界は一つ」にむかって歩みだしたのである。

ところが、その結果・・・

グローバルスタンダードが生まれた。日本語に訳すと「地球基準」。聞こえはいいが、国固有の文化を破壊し、価値基準を「合理主義&拝金主義」に一本化すること。

じつは、このような「画一性」は自然の摂理に反する。地球は「多様性」に満ちているから。生物や植物の多様性をみれば明らかだ。だから、歪(ひずみ)が生じてあたりまえ。

事実、グローバルスタンダードは深刻な問題をひきおこした。その象徴が「巨大格差」だろう。国と国の格差、企業と企業の格差、人と人の格差である。

ではなぜ、グローバルスタンダードは格差を生むのか?

価値基準が「カネ」しかないから。つまり、モノカルチャー。

たいていの人間は、他人より優位に立ちたいと思っている。だから「価値が高い所」に人が集中する。21世紀は言わずと知れた「カネ儲け」だ。

「価値が高い=人気がある」場所には、ハイスペックなプレイヤーが殺到する。結果、競争が激しくなり、勝ち組と負け組が峻別される。こうして格差が生まれるわけだ。

一方、価値観が多様なら、特定の場所に人が集中することはない。そのぶん、競争も少なく、格差も生まれにくい。

現実に、国家はGDPを、企業は売上高を、人間は給与を競い合っている。優しさや誠実さを競いあう、なんて話は聞いたことがない。非難しているのではない。これが人間のDNAなのだ。つまり、牛に馬になれと言っているわけではない。

現在の巨大格差を生んだ要因はもう一つある。カネがカネを生む金融システムだ。

2013年、フランスの経済学者トマ・ピケティは「21世紀の資本」を著した。小難しい経済の本にもかかわらず、ベストセラーになった。

その主旨は・・・

働いて得る収入より、マネーゲームで得る収入の方が多い。

つまり、労働者階級と資産階級の差は広がるばかり。巨大格差が生まれてあたりまえ。事実、貧困問題に取り組むNGOの報告によれば、世界の上位62人と下位36億人の資産は同じだという。

信じがたい格差だ。

じつは、もっと大きな問題がある。格差は今後も拡大しつづけること。資本主義が崩壊する日まで。

では、格差社会の行く着く先は?

と、その前に・・・

2016年11月、格差による大事件がおきた。アメリカ合衆国大統領選だ。

アメリカファーストをかかげるトランプと、グローバルスタンダードのヒラリーが戦った結果、トランプの勝ち・・・世界中が驚愕した、当事国のアメリカでさえ。

つまりこういうこと。

2017年以降、世界の潮流は「カリスマリーダー&自国第一主義」に変わる。第2次世界大戦前夜を彷彿するではないか。

恐ろしい未来が待っているのに、誰も気づいていない・・・という意味も含めて。

■トランプとナチスの類似

1940年、ナチス・ドイツはヨーロッパを征服した。西のフランスから東のポーランドまで、これに北欧諸国が含まれる。言葉ではピンとこないが、地図でみると衝撃的だ。西ヨーロッパの起源「フランク王国」の全盛期の領土を凌駕するから。

これに危機感をおぼえたのがアメリカ大統領ルーズベルトだった。そこで、ルーズベルトは、1941年3月11日、レンドリース法を成立させる。ドイツと日本と戦うソ連、イギリス、中国(蒋介石の国民党)に軍事支援を開始したのである。

もし、あのとき、アメリカがアメリカファーストに徹し、完全な中立を続けていたら、ナチス・ドイツはソ連も征服していただろう。つまり、ドイツの支配地は「西ヨーロッパ~東ヨーロッパ~ロシア」・・・とてつもない広大な領土だが、問題はそれだけではない。地政学的に重要な意味を持つのだ。

かつて、イギリスの地理学者ハルフォード・マッキンダーはこう説いた。

「東ヨーロッパを支配するものがハートランド(ユーラシア大陸の中核)を支配し、ハートランドを支配するものが世界島(ユーラシア大陸とアフリカ大陸)を支配し、世界島を支配するものが世界を支配する」

つまり、ナチス・ドイツは世界征服にリーチをかけたのである。

ところが、そんなナチスの隆盛を予見する者はいなかった。ナチスが政権をとる数年前でさえ。

というのもの・・・

その頃、ドイツはドン底だった。

第1次世界大戦で敗北し、連合国側に巨額の賠償金を課せられ、陸軍は10万人に制限され、戦車と航空機を持つことも禁じられていた。暮らしもプライドもズタズタだったのである。こんな状況で、どうやって世界を征服するのだ?

あげく、フランスにルール工業地帯を占領され、深刻なモノ不足におちいっていた。「カネ>>モノ」で凄まじいインフレが蔓延していた。喫茶店でコーヒーを注文して、飲み終わる頃には、価格は2倍!

この頃のドイツの生々しい記録が残っている・・・

失業、飢え、まともに援助を受けられない戦傷者。暗い世情でした。ゼンドリンガー門広場には、失業者が1ペニヒかせいぜい3ペニヒ程度の賭けトランプで時間をつぶしていました。彼らは不幸で、孤独で、自分に仕事を持ってきてくれない両親に腹を立てていました。そして国家には腹を立てていました。この人たちこそ、ナチスのために見いだされた生贄(いけにえ)だったのです(※)。

ナチスの生贄?

「ドイツのドン底」は連合国が悪い。それに手を打たないドイツ政府はもっと悪い。だから、ナチ党(ナチス)に一票を!そうすれば、偉大なドイツをとりもどせると。

勇ましい主張だが、これで、ナチスが一気にのし上がったわけではない。トランプ同様、過激な発言を繰り返し、ドイツ国民のひんしゅくを買ったのである。

事実、1928年5月20日、第4回国会総選挙では、ナチ党は12議席(第7党)。これで、どうやって、政権をとるのだ?

ところが・・・

翌年、1929年10月24日、アメリカで「暗黒の木曜日」がおこった。ニューヨーク株式市場が大暴落したのである。

このパニックは世界中に飛び火した(共産主義のソ連を除く)。歴史に名高い世界恐慌である。

とくにダメージの大きかったのがドイツだ。賠償金を「電柱」で払うほど大貧乏だったのに、100年に一度の大恐慌・・・死んでくれ、というようなものだ。

ところが、何が幸いするかわからない。大恐慌がナチスを大躍進させたのである。

■よみがえるナチスの時代

大恐慌は、ドイツ国民を奈落の底に突き落とした。

ハイパーインフレが猛威を振るい、パン1個が1兆マルクに。紙幣は便所紙同然になった。さらに、失業率は30%に達し、労働者の3人に1人が失業した。

国民にしてみれば・・・

一体どんな悪いことをしたというのだ?

一体政府は何をしているのだ?

そんな不満渦巻く中、ナチスが台頭したのである。党首のヒトラーは国民に熱く語りかけた。

(ドイツの戦争責任を定めた)ヴェルサイユ条約を破棄する。失業者をゼロにする。再軍備して偉大なドイツを復活させる!

本当に実現できるかどうかは、重要ではない。どのみち、今より悪くなるはずがないから。それなら、ナチスに賭けたほうがマシ。そんな風潮が日に日に強まっていた。

ユダヤ人のある女医はこう記している・・・

「皆があの男のことを信じている、信じたがっている、あの男に仕えたがっているように聞こえる。世界史の1ページがめくられたのが聞こえるようだ。その本の次のページからは荒涼として支離滅裂な、災厄に満ちたことが、読みにくい小さな字で書きなぐってあるのだ」(※)

「あの男」とはヒトラー。でも、それを「トランプ」におきかえたら?

何の抵抗もなく、自然にスルスル読めるのがコワイ。

つまりこういうこと。

絶望したドイツ国民が威勢のいいヒトラーに惹かれたように、格差に不満をもつアメリカ国民はトランプに惹かれたのである。

こうして、ナチスは票をのばしていった。ところが、その快進撃も1932年暮れにピークアウトする。

1933年元旦、「ジンプリチシムス」誌にこんな記事が載った・・・

「確かに言えることは一つだけ、俺たちはそれで万々歳さ、ヒトラーはおしまいだ、『総統』の時代は過ぎた」(※)

ところが、その1ヶ月後、状況が一変する。

1933年1月30日、ヒトラー内閣が誕生したのである。その後の歴史は誰もが知るとおり。

この状況・・・トランプ政権の誕生に似てない?

2016年、アメリカ大統領戦がはじまった頃、トランプは言いたい放題、本気で当選を狙っているとは思えなかった。だから、いつものお騒がせ候補、泡沫候補と思われたのである。

ところが、それから半年後、トランプは第45代アメリカ合衆国大統領に。

そして、大統領に就任するや、危険な大統領令を連発し、ひんしゅくを買っている。カリフォルニア州の独立が取り沙汰されるほどだ。アメリカを2分する大混乱、アメリカは一体どうなるのだ?

さしものトランプもいつかは折れるだろう。

そのときは・・・

「確かに言えることは一つだけ、俺たちはそれで万々歳さ、トランプはおしまいだ、『ジョーカー』の時代は過ぎた」

本当にそんな日は来るだろうか?

《完》

(※)ヒトラー権力掌握の20ヵ月 グイド クノップ (著), 高木 玲 (翻訳) 中央公論新社

by R.B

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