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週刊スモールトーク (第307話) 正しい言葉づかいって何ですか?~Lineの時代~

カテゴリ : 娯楽社会

2015.11.07

正しい言葉づかいって何ですか?~Lineの時代~

■夢と現実

夢から覚めると、いつもの日常だった。

しばらくすると・・・また夢から覚める。現実だと思った世界が夢だったのだ。すると、また夢から覚める・・・こんな階層ループを4度繰り返したことがある。

こうなると、不吉な不安がよぎる。

じつは、今生きている現実も夢幻(ゆめまぼろし)で、いつかは目が覚める。それが「死」で、死後の世界がリアル(現実)なのかもしれない。

アタマ大丈夫?

心当たりはある。

若い頃にくらべ、思考も記憶もボンヤリして、何を見ても、何を聞いても、リアリティを感じないのだ。

「北斗の拳」のケンシローの名セリフ「おまえはもう死んでいる」じゃないけど、この延長にアルツハイマーとかがあって、人間は気づかないうちに死んでいるのかもしれない。

老化ってマジでコワイ。

歳をとって初めて得られる感動や喜びがあるというけど、そんなもの信じない。脳も筋肉も細胞レベルで劣化しているというのに、どうして新しいものが生まれるのだ?

■正しい言葉づかい

先日、TVで面白い番組をやっていた。

テーマは、「正しい」言葉づかい。

最近の若いモンは、言葉づかいがなっとらん、と元NHKの女子アナ(70歳ぐらい)を引っ張り出して、ほめ言葉の練習をしているのだ。

たとえば、服装をほめるとき、

服だけでなく、本人もほめる・・・素敵なご洋服ですね、それに、とてもお似合いですよ、ともってまわった言い方で、二重三重にほめるのだ。

でもね。

グタグタ、ダラダラ、歯の浮くような言葉を並べられるより、

「カッコイイですね!」

の一言の方が嬉しい。服をほめているのか、本人をほめているのかわからないけど、そこがいいのだ。

そもそも、服であれ、本人であれ、ハタ目で見てカッコよければ、それでイイじゃん。おっと、「じゃん」もダメなんでしょうね。

というわけで・・・

司会者も、若いタレントも、元NHKの老女子アナの文言に感心したようにみせかけて、心の中で「メンドくさぁ~」なのだが、それを感じさせないように、ぬるーく、その場をつくろっていた。

そのぬるさが、功を奏したのか、元女子アナが傷ついた様子はなかった。「へぇ~、なるほどですね!」と感心してもらって、とても嬉しそうだったから。若い人ほど、大人なんですね。なんか、哀しい。

だが、問題はそこではない。

この番組のテーマ「正しい言葉づかい」・・・本当は「正しい」言葉づかいなどないのだ。

■言葉の価値

物理や数学は、真実を追求する。だから、「真か偽か」がすべて。もし、真なら、時代が変わっても、変わることはない。

ところが、「言葉」は時代とともに変わる。

なぜなら、言葉はコミュニケーションの道具だから。

コミュニケーションは、その時代の仕事・遊びをコラボする最強の道具。そして、仕事も遊びも時代とともに変わる。だから、言葉に必要なのは「真か偽か」ではなく「時代を表現する力」なのだ。

ゆえに・・・

言葉に、「正しい」も「間違い」もない。あるのは「流行廃れ(はやりすたれ)」だけ。だから、言葉は時代とともに変わってあたりまえなのだ。

事実、40年前のTVニュースをみると、言葉づかいがゼンゼン違う。仰々しくて、こっけいで、おちょくっているとしか思えない(もちろん真剣)。同じ国、同じ文化、同じ国民でこれなのだ。

たとえば、先のTV番組によると、「ズバ抜けて凄い」は、

元女子アナ・・・「出色の出来映え」

今の若い子・・・「神だ、神!」

どっちがいい?

そりゃ、「神」でしょう。

「出色」はそもそも読み方もわからないから(「しゅっしょく」と読むらしい)。

教養がないのが悪いんだよ!

それは違いますね。

言葉は、コミュニケーションの「手段」であって、「目的」ではない。

だから、言葉の価値は、道具としての利便性できまる。つまり、みんな知っているか、使いやすいか、わかりやすいか、時代に合っているか。

「出色」は元女子アナ世代しか知らないが、「神」は元女子アナ世代から子供まで知っている。さらに、使いやすい、わかりやすい、時代に合っているも「神」が上。つまり、「出色」ではなく「神」が神なのだ。

だから、ヘンな理屈をこねて、古い言葉をもちあげて、新しい言葉をさげすむのはやめよう。本末転倒だし、偏屈だし、みみっちぃ。

そして、さらに重要なことがある・・・言葉はエンターテインメントであること。

オランダの歴史学者ホイジンガは、著書の中で「人間は遊ぶ存在」といっている。それに与(くみ)したのが、フランスの哲学者カイヨワで、この二人のおかげで、「遊び」は今では哲学のお仲間なのだ。

もちろん、「遊び」といってもいろいろある。チェス、将棋のような頭を使うゲームから、飛んだり跳ねたり体を使うスポーツ、さらに、ストーリー主体のエンターテインメントまである。

中でも一番人気はエンターテインメントだろう。古くは演劇、近世ヨーロッパでは、仮面劇「コメディア・デラルテ」が大流行した。その後、エンターテインメントは映画、TV、TVゲームと進化をとげている。

■SNSの時代

ところが、最近、遊びのトレンドが変わりつつある。ストーリーとゲーム性を重視するコンテンツから、シナリオのない情報発信型コミュニケーションへと。

その象徴がソーシャルネットワーク(SNS)だろう。たとえば、Facebook、Twitter、Line(ライン)。

とくに、Lineの普及率は凄まじい。日本人の40%がユーザーというから仰天ものだ。ここまでくると、アプリというよりインフラだろう。

ただし、Lineは2極化がすすでんいる。中高年世代、とくに、リタイア組はほとんど使わない。一方、若者世代の普及率はほぼ100%。つまり、現役世代に限れば、Lineはコミュニケーションのデファクトスタンダードなのだ。

ではなぜ、Lineはここまで普及したのか?

コミュニケーションを超えて、エンターテインメントになったから。

Lineは、テキストチャットだが、「神のひとさじ」がある。吹き出しを使ったわかりやすい会話形式、さらに、句読点のかわりにスタンプ(画像)を使う。そのため、ボイスの会話とは違った楽しさがある。

さきに「言葉はエンターテインメント」といったのはこのことだ。

しかも、通話も含め無料なので、有料のショートメールはもちろん、電子メールまで駆逐しつつある。

ただし、Lineはスマホが前提。ガラケーでもできないことはないが、メンドーなのだ。

これまでずっと、ガラケー1本だったし、外出先のネット&メールもMacBookAirで事足りた。だから、スマホもLineも眼中になかった。ところが、3ヶ月前、思いもよらぬ災難が・・・

出張中、突然、ケータイの画面が真っ暗になったのだ。ポケットに入れておいたので、何かの拍子に、設定が変わったのかもしれない。

それなら、設定を元にもどせばいい。

画面が真っ暗なのに、どうやって?

そのとき、たまたま、東京に出張中だったので、通りかかったドコモショップに駆けむと、店員さんは、

「故障だと思います」

と、けんもほろほろ。

その後、金沢に帰って、行きつけのドコモショップに泣きついたら、若いお姉さんが熱心に対応してくれた。なんと、あの暗い画面にむかって、サクサク操作しているではないか!

サイボーグ?

復旧がおわると、彼女はニッコリ微笑んで言った。

「5年以上お使いなので、故障しても、修理できません。もうすぐ、iPhone6が出るので、これを機会に、機種を変えてはどうでしょう?」

そういえば、あのガラケー、動作がときどき怪しかった。充電して1時間もたたないのに、バッテリーが切れたり・・・

そこで、お店のお姉さんに言うままに、iPhone6sを予約した。

待たされるんだろうなぁ、と心配していたが、発売日にあさっり入手できた(売れてない?)。

さっそく、iPhone6sにLineをインストール。

目的は一つ・・・

若い世代とコミュニケーションして、「出色」ではなく「神」言葉をマスターするため。

だってそうではないか。

老化で、新しい言葉についていけなくなったからと、若者を蔑んで、自分の劣化を正当化する?そんなカッコ悪いことできません!

その後、iPhoneをポケットに突っ込んで、友人とキャバクラに行った。

一体何を考えているのだ?

キャバ嬢とLine交換するため・・・それ以外何があるというのだ?

(会社で若い女性社員にLine交換迫ったら100%セクハラです)

勉強のため、そう、勉強のため!

■Lineを始める

普通、キャバクラは20分おきに女の子がチェンジする(場内指名をしなければ)。1人目は可愛いけど真面目すぎ。2人目は美人だけど言葉が昭和風。これでは言葉の勉強にならない。

そして、3人目・・・

顔が小さく、目鼻立ちクッキリで、CGから飛び出してきたような美形。しかも、手足が長く、腰の位置が異常に高い。まるでバービー人形だ。最近、出現しつつあるネオ・サピエンスに違いない(こっちはホモ・サピエンス)。

そして、肝心の言葉遣いだが・・

嬢:「お客さん、なまえは?」

僕:「○○」

嬢:「じゃぁ、『○○っちぃ』ってよぶね」

○○っちぃ・・・呼び捨て!?

嬢:「どっから来たの?」

僕:「□□」

嬢:「なにそれ!聞いたことないよ~」

日本なんだけど・・・

その後、失敗談で話が弾むと、

嬢:「うっそぉー、マジ?○○っちぃ、ダメじゃん!しっかりしなきゃ~」

(また呼び捨て)

でも、この清々しさはなんだろう?

周りにこんなタメ口をきいてくれる人はいない(歳なので)。

考えてみれば、少し前まで高校生やってたんだ・・・

だから、何の遠慮も気兼ねもない!

これで決まり!・・・さっそくLine交換することにした。

周囲を見ると、いい歳こいたおっさんが(人のことは言えないが)、女の子たちとスマホを「ふるふる」している。Lineの「ともだち追加」をしているのだ。

ところが、「ふるふる」は自分の位置を検出して、周囲にいる人すべてが「ともだち」候補になる。iPhoneの画面には、周囲のおっさんの名前がワラワラ・・・おぞましい。

誰が見ず知らずのおっさんと「ともだち」になるかい!

そこで、QRコードで交換することにした。これらなピンポイントでともだち追加ができる。

その後、Lineを始めたが、予想どおり、「神」言葉を体験できた。

ある日、取引先との会食がキャンセルになったので・・・

僕:「接待がキャンセルになったので、お店に行けなくなった」

嬢:「しょぼんすぎる~===」

よく東京に出るので・・・

僕:「前回は銀座で打ち合わせ。あの街は大きくて立派で威厳があるね」

「六本木は昼より夜のほうがいいかな(飲みにしか行かない)」

「代官山は仕事でしか行かないけど、オシャレすぎて僕はイタイ」

「やっぱり秋葉原が性に合ってるかなぁ」

とクドクド書いたら、

嬢:「秋葉原いちばーーーん」

・・・・

その後、店に行かなくなると、

嬢:「げんき~??」

僕:「仕事で接待がつづいてアルコール漬け、体調崩したよ」

嬢:「えええ~たいへんだ~」

僕:「△△(嬢の源氏名)も仕事にかこつけて飲みすぎちゃダメだよ」

嬢:「その言葉ブーメランだよ!|( ̄3 ̄)|」

負けた・・・20才の小娘(失礼)に日本語力で太刀打ちできない。

言葉は、核心をついて、シンプルで、ヴィヴィッドでなければならない。

それがどうだ?

彼女にくらべ、自分の日本語の陳腐なこと・・・

by R.B

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