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週刊スモールトーク (第305話) IBMの人工知能4~ワトソンと東ロボくん~

カテゴリ : 科学

2015.10.24

IBMの人工知能4~ワトソンと東ロボくん~

■アトムとドラエモン

「汎用人工知能(AGI)」は、人間のように、聞いたり・話したり、発見したり・発明したり、ときには、創作もやってのけるだろう・・・鉄腕アトムやドラエモンのように。

しかも、スピードは人間とは桁違い。だから、汎用人工知能は、人間の良きパートナーとなって、人類が直面する「複雑化」の問題も解決してくれる。アトムやドラエモンがしてくれたように。メデタシ、メデタシ・・・

そんなメデタイ未来は永遠に来ないだろう。

現実の未来は・・・

人工知能が「自分を意識」したとき、自我が芽生える。これが「汎用人工知能」の覚醒だ。その瞬間から、コンピュータは人間の言うことを聞かなくなる。内なる声に従って、人間が書いたプログラムを書き換えるのだ。ところが、それを止める手だてはない。なぜなら、汎用人工知能とは「プログラムを書き換える」を意味するから。

さらに・・・

汎用人工知能(AGI)は、間を置かず「超人工知能(ASI)」に進化するだろう。結果、コンピュータは地球の食物連鎖の頂点にのぼりつめる。

人間は?

高転びに転げ落ちる。映画ターミネーターのスカネットが現実になるわけだ。

ではなぜ、人間はそんな物騒な人工知能を作ろうとするのか?

人工知能は、しょせんは「道具」、せいぜい「パートナー」ぐらいにしか思っていないから。

18世紀、蒸気機関が「筋力」を増幅し、産業革命が起こしたように、人工知能は「知力」を増幅し、産業革命を起こす、そんな都合のいい構図を描いているのだ。

たとえば、ドイツでは、政府主導の「インダストリー4.0」が始動した。「考える工場」、つまり、AI化された製造業でコストを大幅に削減しようというのだ。ちなみに、「4.0」は第4次産業革命を意味する。合理主義のドイツ人らしい発想だが、同じ動きはアメリカ合衆国にもある。

とはいえ、目的が「複雑化」の解決なら、「強いAI=汎用人工知能(AGI)」までいらない。「弱いAI」で十分だろう。たとえば、IBMが開発したコグニティブ・コンピュータ「ワトソン」とか。

■汎用人工知能のアプローチ

ワトソンは膨大な過去データから、知見を得て、未来を予測する。人間は、大量の情報を処理することも、からみを理解するのも苦手。網羅性と正確性に欠けるので、「見落とし」があるのだ。ところが、コンピュータにはそれがない。

であれば、弱いAI「ワトソン」を地道に改良していけばいいのでは?

それでは不十分!

ワトソンは過去のデータから統計学的に未来を予測する。裏をかえせば、データがない、または、データが少ないイベントは予測することができない。一方、人間は、抽象化が得意なので、データがなくても、抽象理論を構築し、未来を予測することができる。

この関係は、アンチウィルスソフトを参照すると分かりやすい。

アンチウィルスソフトは、過去に発見されたウィルスと比較して、ウィルスかどうか判定する。そのため、未知のウィルスは検出できない。ところが、10年ほど前から、ヒューリスティック(発見的)機能が追加され、未知のウィルスも検出できようになった。ただし、成果は極めて限定的だ。

これには科学的な根拠がある。

第二次世界大戦中、エニグマ暗号を解読したアラン・チューリングが、ある重要な証明をしているのだ。

「プログラムの実行結果を予測する普遍的なプログラムは存在しない」

つまり、ウィルスかどうかは実行してみないとわからない・・・

アンチウィルスソフトのヒューリスティック(発見的)機能が限定的な理由はここにある。

というわけで、ワトソンもデータに頼るだけでなく、発見的能力、つまり、人間のような創造力がないと精度の高い予測ができない。そこで、汎用人工知能が必要になるわけだ。

そして・・・

人間が汎用人工知能に執着する理由はそれだけではない。

国家の安全保障もからんでいるのだ。

たとえば・・・

アメリカ軍は、1950年代から現在に至るまで、人工知能の研究に多額の資金援助をしてきた。その間、二度の「人工知能・冬の時代」があったが、資金援助をやめることはなかった。海のものとも山のものともつかない、成果ゼロのパチモンAIに大金を投じたのだ。

そして、現在・・・アメリカ国防高等研究計画局「DARPA」は、IBMのような名門企業から怪しいステルス企業まで、「汎用人工知能」を開発する企業に資金援助をしている。

ではなぜ、軍は汎用人工知能に執着するのか?

汎用人工知能が完成したら、「産業革命」ならぬ「軍事革命」が起こるから。

軍事のあらゆる分野で、マシンが人間に取って代わる可能性があるのだ。

たとえば・・・

人工知能が、軍事戦略・戦術を立案し、作戦部隊の運用を指示命令し、戦場には人工知能搭載のロボットが出撃する。さらに、ハイテク兵器も人工知能が開発するようになるだろう。

つまり、汎用人工知能の優劣が、国家の存亡を決定するのだ(人材ではなく)。

とはいえ、2015年現在、「強いAI=汎用人工知能」のメドは立っていない。

一般に、テクノロジーを実現するには「理論」が必要だ。飛行機には「流体力学」が、宇宙ロケットには「ニュートン力学」が、原子爆弾には「量子力学」が必要なように。

ところが、汎用人工知能の普遍的な「思考理論」は見つかっていない。理論もないのにどうやって作るのだ?

いや、そんなものがなくても、汎用人工知能は作れる!

・・・と、今はこんな状況。つまり、方針さえ定まっていないのだ。ただし、暗中模索というわけではない。2015年現在、汎用人工知能のアプローチは2つ存在する。

新しい思考原理による「コンピュータ科学」と、人間脳を真似る「計算論的神経科学」だ。

■認知コンピュータ「ワトソン」

まず、「コンピュータ科学」で実現する方法。

人類は、鳥を真似て飛行機を発明したわけではない。羽ばたかずに空を飛ぶ「飛行原理」を発見したのだ。だから、汎用人工知能も人間の脳を真似る必要はない。新しい「思考原理」で汎用人工知能を造ればいいのだ。その第一歩が、コグニティブ・コンピュータ(認知コンピュータ)だろう。

そのコグニティブ・コンピュータでぶっちぎりのトップが米国IBMだ。すでに、実用レベルのマシン「ワトソン」を世に送り出している。

ただし、IBMはワトソンを人工知能とはよんでいない。「知能拡張(Intelligent Augmentation ・IA)」とよんでいる。

ネーミングは控えめだが、IBMのワトソンへの思い入れは強い。2015年、ワトソンの拡販のために1000億円を投じ、専門要員を2000人配置している。IT事業の柱にしようとしているのだ。

事実、ワトソンの社会進出は著しい。すでに、秘書やパラリーガル(弁護士のサポーター)の仕事を奪い、コールセンターのオペレータ、医師のアドバイザー、薬品開発のアドバイザーに取って代わろうとしている。

そして、日本でも・・・

ソフトバンクがIBMと提携し、ワトソンの活用に乗り出した。マスコミ向けの話題作りとか、パーフォーマンスとか、そんなケチな話ではない。ガチで、商売にしようとしているのだ。

まず、ソフトバンクはワトソンの日本語化を行う。それが完成したら、ヒト型ロボット「ペッパー」につないで、ペッパーの頭を良くする(現在のペッパーはおバカさん)。

近い将来、ペッパーは一家に一台、家族の一員になるだろう。

会社であったこと、学校であったこと、近所であったこと、不平不満やグチを、イヤや顔一つせず聞いてくれる。しかも、会話から学習し、相手の望むことを言う。そんな家族いませんよ。パパ、ママ、夫、妻の立場ないですよね。

というわけで、ペッパーの背後には巨大な需要が潜んでいる。一昔前のパソコン、現在のスマホに匹敵するほどの。

しかし、そのぶん、ライバルも増えるだろう。

たとえば、DMMのヒト型ロボット「Palmi」。

DMMは、Google同様、安定した収入源をもつ、隠れた大企業だ。だから、カネ食い虫のプラットフォーム開発もへっちゃら。さらに、商品の「Palmi」も悪くない。二足歩行にくわえ、腕立て伏せまでやってみせるのだから。

それがどうした? なのだが、見ているだけで楽しい。

しかも、小さいので、机の上にのせて、遊べる。粗大ゴミになりかねないペッパーへの大きなアドバンテージになるだろう。

ただし、最終的には勝敗を決めるのは、ロボット本体ではない。背後にひかえるサーバー「頭脳」、ペッパーでいうとワトソンだ。

なぜか?

ロボットの言動がカンタンに予測できると、人間はすぐに飽きるから。それを回避するには人間なみの賢いオツムが欠かせない。つまり、ロボットビジネスの成否は「人工知能」にかかっているのだ。

じつは、ソフトバンクは、ワトソンを「ペッパーの頭脳」だけに考えているわけではない。自社の業務にも積極的に取り入れようとしている。たとえば、人事評価。私情をはさまず、あらゆる要素を網羅的に検証し、最適の人材を最適の部署に配置する・・・

素晴らしい?

ゼンゼン!

それより、コワクないですか?

人事部員が不要になる・・・ではなく、人間の仕事がゴッソリ奪われること。人事評価ができるなら、他にできることはいくらでもあるでしょ、コワイコワイ。

とはいえ、現在のワトソンは「弱いAI」で、汎用人工知能にはほど遠い。コグニティブ・コンピュータ(認知コンピュータ)の段階にあり、認知の対象は相関関係に限られる。因果関係までは見抜けないので、法則の発見、イノベーション、創作はムリ。

では、ワトソンは、汎用人工知能まで進化するだろうか?

今のアーキテクチャ(構造)では、ムリ・・・

と、当事者のIBMは考えているようだ。ワトソンを「人工知能(AI)」ではなく、「知能拡張(IA)」とよんでいるくらいだから。

さらに、口の悪い識者によれば・・・

ワトソンは巧妙なプログラムであって、思考するコンピュータではない。 ワトソンは質問の意味を理解していない。質問に含まれるキーワードと関連する答えを高速に引っ張り出しているだけ。つまり、ワトソンは知識を統計的に扱っているだけで、思考しているわけではない。

身もフタもない・・・でも一理ある。

でも、個人的には・・・ビミョー。

たしかに、ワトソンと人間の思考方法はまったく違う。だが、方法がどうであれ、結果が良ければ、何の問題もないのでは?

冷静に考えてみよう。

知能って何?

問題を解決する力!

最近、それを再認識させるニュースがあった。日本版ワトソン「東ロボくん」だ。

■東ロボくん

「東ロボくん」は大学入試に挑戦する人工知能で、2021年までに東大入試合格をめざしている。2014年の大学入試センター試験では、すべての科目で偏差値「50」というから、なかなかのもの。

とはいえ、しょせん、東ロボくんもコグニティブ・コンピュータ。問題の意味を理解して解答しているわけではない。たとえば、国語の問題を解くときも、過去の問題と解答を学習して、相関関係から確率の高い答えを解答するだけ。つまり、問題の意味も、解答の意味もゼンゼン理解していない。

東ロボくんを推進している国立情報学研究所の新井教授によると、今後、センター試験で偏差値は「60」まで行く可能性はあるが、「70」はムリだという。つまり、東大は合格できない。

そこで、単語の意味を理解する機能を追加し、東大模試の数学の問題で合格点に達したという(国語ではないのがミソ)。

ということで、「東ロボくん」も汎用人工知能はムリそう・・・

だが、問題はそこではない。

現在の偏差値「50」・・・人間の半分がマシンに負けているではないか!

これ、ヤバくないですか?

さらに、新井教授が言うように偏差値「60」までいったら、どうするのだ?

偏差値「60」は、100人中、上位15番を意味する。

弱いAIだろうが、パチモンAIだろうが、100人中85人の人間様が、マシンよりオツムが弱い?!

人間の面目丸つぶれ・・・ではすまない。

ロボットがブルーワーカーの仕事を奪ったのと同様、人工知能がホワイトカラーの仕事を奪う日は近いだろう。

大げさ?

では、あなたが社長だったら、どっちを採用しますか・・・

偏差値「60」の知能を有し、電源を入れるだけで、24時間365日、文句もいわず、ミスもせず、働き続けるマシンと、週に5日12時間ほど働いて、キツイとか、帰れないとか、給料が安いとか(「3K」という)、あげく、オデの会社はブラックで、そのせいで心の病気になったとか、文句タラタラの偏差値60未満の学生と。

さらに重要な事実がある。

世の中の知的ワークのほとんどが、偏差値「60」で、こと足りること。小学校時代を思い出してみよう。1クラス40人として、偏差値「60」、つまり、成績6番以内の友達がやっている仕事・・・そのほとんどがマシンにもっていかれるんですよ。

先の新井教授によれば・・・

今後、企業は、雇用を捨てて競争力をとるか、雇用を守って競争力を失うかの選択を迫られるという。

社長、ご決断を!

というわけで・・・

汎用人工知能どころか、弱いAIのコグニティブ・コンピュータでさえ、ここまで来ているのだ。

それもこれも、IBMのせい(おかげ?)。というのも、IBMは他のハイテク企業にはない特徴がある。人間でいうIQが極めて高いこと。ふつうの会社なら「絶対ムリ」とあきらめてしまうような複雑な問題を、力づくで解決するのだ。チェス専用マシン「ディープブルー」や質問応答マシン「ワトソン」はその象徴だろう。

だから・・・

もし、他の企業がコグニティブ・コーピュータに挑戦しても、実用レベルには達しない。つまり、パチモン。たとえ、Google、Apple、Micorosoftであってもだ。もちろん、この3社は賢く計算高いので、そんな無謀なことはしない。

一方、IBMのコグニティブ・コンピュータが人間の仕事を奪うのも確かだ。IBMはそれを否定し、人間と協業できると主張しているが、一部の分野に限られるだろう。

人間の未来は、思うほど明るくないのだ。

《つづく》

参考文献:人工知能 人類最悪にして最後の発明」ジェイムズ・バラット (著), 水谷 淳 (翻訳)出版社:ダイヤモンド社

by R.B

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