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週刊スモールトーク (第301話) 人工知能の歴史(2)~第3次AIブーム~

カテゴリ : 歴史社会科学

2015.09.19

人工知能の歴史(2)~第3次AIブーム~

■人工知能の逆襲

今回の人工知能はホンマモンか、パチモンか?

現在進行中の第3次人工知能ブームのことである。

というのも、1956年から始まった人工知能は、2度の失敗をやらかし、パチモンのレッテルを貼られ、今や「オオカミ少年」なのだ。

今度は、ホンマモンだぞぉ~

ウソこけ、3度もだまされるバカがいるか!

という具合なのだ。

しかし、神に誓って言える(仏教徒では?)・・・今回はホンマモン!

根拠は?

すでに成果が出ているから。しかも、研究者のための「学術的」成果ではなく、社会に役立つ「実用的」成果。

たしかに、34年前の「第五世代コンピュータプロジェクト」はヒドかった。完成したのは「並列推論マシンとプログラミング言語」のみ・・・

それで何ができるの?

プログラムが作れます(つまり道具)!

はぁ?研究者の研究者による研究者ためのガラクタじゃん。

言い過ぎ?

ところが、そうでもないのだ。というのも、この2つの成果は、34年間、まったく使われていないから。

10年かかろうが、570億円かかろうが、使わなければタダの「ガラクタ」でしょう。

グチグチ言っても始まらない。話を「第3次人工知能ブーム」にもどそう。

事の発端は、1997年5月、アメリカ合衆国ニューヨークのホテルの一室、というか大きなホール。そこで「人間Vs.コンピュータ」のチェス対戦が行われたのである。

人間・プレイヤーは、世界チャンピオンのガリル・カスパロフ。一方、コンピュータ・プレイヤーは、IBMが開発したコンピュータチェス「ディープブルー」、1秒間で2億手先を読むことができた(反則だぞ)。

結果は・・・ディープブルーの勝ち。人間が初めてコンピュータに負けたのである。マスメディアは、コンピュータが人間の知性を超えたと、上を下への大騒ぎだった。

一方、ディープブルーは人工知能ではないと主張する人たちもいた。

いわく・・・

ディープブルーは、「考えて」チェスをしているわけではない。盤面と指し手を数値化し、スコアの高い手を選んでいるだけ。そもそも、ディープブルーは、チェスをしているという認識も、勝ったこともわかっていない。つまり、ディープブルーは何も理解していない、高度なソロバンなのだと。

しかし・・・

ソロバンが、チェスの世界チャンピオンに勝てるだろうか?

しかも、相手は、チェス史上最長の15年間、世界チャンピオンをホールドした最強のプレイヤーなのだ。

そのカスパロフが、試合後にこう語っている。

「あのとき、私はディープ・ブルーに『知性』を感じた」

では、どっちが本当なのだろう?

ディープブルーは人間のように考えていないが、チェスをしているといえるのか?

この質問は次のように言いかえると、わかりやすい。

飛行機は鳥のように羽ばたいていないが、飛んでいるといえるのか?

もちろん飛んでいますよね!

そう、これが次世代・人工知能の核心なのだ。

つまり、人間は鳥を真似て飛行機を発明したわけではない。新しい「飛行原理」を発見したのだ。

人工知能も同じ・・・人間を真似て思考マシンを作る必要はない。新しい「思考原理」を見つければいいのだ。これに気づいたのがIBMで、思考原理「コグニティブ・コンピューティング」を実用化し、人工知能の荒野を快進撃している。

■質問応答人工知能・ワトソン

2011年2月、IBMは、ディープブルーにつづく快挙をなしとげた。人工知能「ワトソン」が、アメリカのクイズ番組「ジェバディ!」で人間のチャンピオンを破ったのだ。

クイズ?

チェスよりカンタンじゃん。

とんでもない!

チェスは論理的だが、そのぶん、コンピュータと相性がいい。しかも、ルールはシンプルで、あいまいなところがない。だから、数値計算に置き換えやすく、力づくで答えが出せるのだ。

ところが・・・

クイズは難解な自然言語が相手。しかも、広大な分野の、膨大な知識が必要になる。学校の教科書程度の知識では勝ち目はないのだ。なにせ、相手は全米一のクイズ「オタク」なのだから。というわけで、クイズに要求される「知能」はチェスの比ではない。

事実、ワトソンは、自然言語で出題された問題を、文脈から問題の意図を読み解き、膨大なデータの中から回答を選び出す。しかも、「ジェバディ!」は回答を間違えると減点になるので、自信のない問題は回答しない!

さらに、驚くべきことに、ワトソンは強力な学習機能も備えている。百科事典、新聞、小説、分類語彙集、ウィキペディア、聖書など800万冊を自然言語のまま読破し、知識を抽出したのだ(知識の抽出はこれまでは人間がやっていた)。

ただし、ワトソンは完全に自学自習してるわけではない。ルールベースのプログラム、学習教育など、人間の支援を受けている。それでも、「自然言語で書かれた平文から知識を抽出する」は凄い。人工知能のブレイクスルーといっていいだろう。

では今後、他社も参入して、ワトソン型人工知能の競争が激化する?

そうはならない。

ワトソンはIBMにしか造れないから。

というのも、ワトソンは、人工知能のあらゆる手法を駆使したハイブリッドAI。いわば、人工知能技術のデパートなのだ。だから、原理がわかっただけではダメ。実用化するにはとてつもない「力技」が必要なのだ。だから、圧倒的企業力をもつIBMじゃないとムリ。

力技?

そう、ワトソンは文意を理解して、クイズに回答しているわけではない。

手法は、ディープブルーと同じ計算方式。問題が与えられると、まず、複数の回答プログラムが起動し、答えを出す。つぎに、その回答を統計学的確率で評価して、スコアを付ける(確信度)。そして、最も確信度の高いものを回答する。

なんだ、結局、計算じゃん。人間のように考えてクイズに答えているわけではない!

だから、みんな、ワトソンのことをこう思っている。

ワトソンは凄いよね、でも・・・

ワトソンは、問題の意味を理解して、回答しているわけじゃない。統計学的確率で回答を「計算している」だけ。だから、問題の意味も、自分が出した回答の意味も理解していない。それどころか、クイズに参加していることも、自分が勝ったことも理解していないのだ。そんな木偶の坊(でくのぼう)が、人工知能といえる?

なるほど・・・

では、木偶(でく)が、どうやって、人間のチャンピオンに勝てたのだ?

しかも、競い合うのはオセロではない。3万年におよぶ人類の知識体系なのだ。

では、ワトソンは思考するマシンか、それとも・・・

じつは、これには明快が答えがある。

ワトソンの開発メンバーの一人、ディヴィッド・フェルッチ研究員は、

「ワトソンは思考できるのか?」

と聞かれ、こう答えている。

潜水艦は泳ぐことができるのか?(※)。

この風刺は、

飛行機は、鳥のように羽ばたかないから、飛んでいるといえないのか?

と等価である。

しかし、万事に控えめなIBMは、ワトソンを人工知能(AI)とはよんでいない。「コグニティブ・コンピューティング」とよんでいるのだ。翻訳すると「認知計算」・・・言い得て妙、うまいネーミングである。

もちろん、ネーミングは重要ではない。重要なのは「コグニティブ・コンピュータ」が世界を変えようとしていること。

世界を変える?

そんな上層世界、関係ないわ・・・そうではない。人工知能は人間の仕事を奪おうとしているのだ。しかも、今ある職種の半分以上を。それも遠い未来の話ではない。すでに、始まっているのだ。

たとえば・・・

2000年から10年間で110万人の秘書が失職した。さらに、カスタマーサポートの電話オペレータが64%、タイプ入力の63%、旅行エージェントの46%、簿記係の26%が失職している。さらに、会計士、税理士などの需要がこの数年で8万人も減っている(※)。

そのすべてが、最新のコグニティブ・コンピュータによって奪われたわけではない。旧タイプのITも加担しているのだ。

今後、ITは急速に人工知能化し、人間の強力なライバルになるだろう。現在、就職戦線で、日本の若者は手強い中国人や韓国人との競争にさらされているが、次の相手は次元が違う。24時間眠らずに働き、一度記憶したことを決して忘れない怪物なのだ。

つまり、今、変わろうとしているのは上層世界ではない、われわれ庶民世界なのである。

身体がタンパク質でできていようがシリコンででできていようが、人間のように考えようが考えまいが、関係ない。「知能」を発揮できれば、人間のライバルになりうるのだ。

■コグニティブ・コンピュータ

冷静に考えてみよう。ワトソンの本質は何か?

「クイズの王様」・・・ではない。

自然言語で書かれた文章を読んで、知識を抽出する。問題の意図を理解し、最適の回答を選び出す。これが、クイズで終わらないことは確かだ。

事実、ワトソン型コグニティブ・コンピュータは、すでに社会に進出している。その一部を紹介しよう。

新薬を商品化するには、10~15年の歳月と1000億円の開発費がかかる。現在、コグニティブ・コンピュータは、この新薬開発に参加している。何千もの記事や論文を読み、そこに隠されたパターンを見いだし、開発のヒントを科学者に提案しているのだ。人間には「見落とし」があるが、マシンにはない。これで、開発の効率は劇的に向上するだろう。

さらに、ワトソンは日本でも活躍している。

2015年3月20日、ワトソンが三井住友銀行から「内定」をうけ、話題になった。史上初のコンピュータ銀行マンである。ただし、当面の仕事はコールセンターの支援に限られる。オペレータが、電話で顧客の質問をうけ、ワトソンに問い合わせると、模範回答を表示してくれる。オペレータはそれを読み上げるだけ。

しかも、今後、ワトソンに音声認識機能と音声出力機能が付加されるので、いずれ、オペレータはいらなくなる。このままでは、全員、頭を並べて、履歴書を書くことに!?

この現実は、新しい世界を示唆している。

コグニティブ・コンピュータが人間の仕事を奪う世界だ。

企業経営も例外ではない。たとえば、企業買収(M&A)では、膨大なデータを分析し、推論し、最適の買収先を提案する。人間が気づかない相関関係も見逃さないので、精度の高さは人間の比でない。経営陣は、コグニティブ・コンピュータが推薦した会社を買収するか否か、決定するだけでいいのだ。

さらに・・・

どの大学に進学するべきか?

コグニティブなら、偏差値のみならず、自分の好み、性格、得手不得手、すべて考慮して、選択してくれる。

さらに・・・

どの金融商品、保険商品を選べば得か?

自分の身の丈にあった家や車は?

彼女と結婚した方がいいのか、それとも・・・

すべて、コグニティブにおまかせ。

というのも・・・

人間には認知バイアスという思い込みがあり、判断を誤りやすい。それが重要な事柄なら、人生が台無しになるかも。だから、コグニティブは人間の職を奪う反面、人間の良きアドバイザーにもなるのだ。ただし、最終的に決めるのはあなた。コンピュータは人生の責任までとれないので。

つまり、コグニティブ・コンピュータは、会社、個人をとわず、意志決定を支援するシステム、人間でいえば、最良の相談相手なのである。

さて、このような「知的存在」を機械、計算機とよんでいいのだろうか?

■猫認識人工知能

人工知能の先駆者がIBMなら、Googleは油断のならない挑戦者だ。Googleは、検索エンジンネット広告で満足するような、しおらしい会社ではない。人工知能型検索エンジンを創造し、ビッグデータを独り占めして、新しい価値を生み出そうとしている。

その昔、1970年代、IBMはコンピュータを独占して、情報処理業務を独占した。ところが、Googleは、情報そのものを支配しようとしているのだ。その証拠もある。

Googleの創業者ラリー・ペイジはこんな発言をしている・・・

「我々は何でも理解できる究極の検索エンジンを目指している。それは、世界中のありとあらゆる事柄を理解することになる。どんな質問でも理解し、瞬時に正確な答えだす」(※)

これには重要なカラクリがある。ユーザーが、検索エンジンを使えば使うほど、データがGoogleに蓄積されてビッグデータになり、機械学習の餌(エサ)になる。つまり、みんなが使えば使うほど、Googleの検索エンジンは賢くなるのだ。

これで得をするのは誰か?

Googleはもちろん、われわれユーザーも得をする。検索が楽になるから。自分が入力したデータがGoogleに利用されるのは気持ち悪いが、この流れは誰にも止められないだろう。

そのGoogleが、2012年6月、画像認識において画期的な成果を発表した。

「猫を認識する人工知能」である。とはいえ、これまでも、画像認識システムは存在した。では、何が画期的なのか?

認識能力をコンピュータが自ら獲得したこと。

具体的に説明しよう。

Googleが開発したのは、ニューラルネットワークという脳の構造を真似たシステムだが、「ディープラーニング(深層学習)」という最新テクノロジーを用いている。このシステムに、1週間、YouTubeを見せたところ、猫を認識するようになったという。

どういうこと?

一枚一枚画像を見せて、これは猫、これは猫じゃない、と人間が教えたわけではない。YouTubeの1000万枚の画像を見せただけで、誰に教わることなく、猫の概念を獲得したというのだ。

あとは、この概念に、「猫(単語)」をヒモ付けすれば、画像を見せるだけで、「それは猫です!」と答えられる。猫が認識できれば、家具、船、自動車など形のはっきりした物は造作もないだろう。

つまり、こういうこと。

Googleの画像認識人工知能は、画像を見せるだけで自学自習し、オブジェクトを認識する。それに単語をヒモ付けすれば、画像に写っているオブジェクトを言い当てることができる。

これまでの機械学習では、こんなことは不可能だった。人間が教育する必要があったのだ。

さらに、ディープラーニングのおかげで、コンピュータのパターン認識率が劇的に向上したという。すでに、人間の認識率を超えたというから驚きだ。じつは、これまで、コンピュータが人間のパターン認識率を超えることはないと言われていた。

とはいえ、これは朗報だ。

街中に監視カメラを設置し、人工知能に監視させれば、指名手配中の犯人は一網打尽。それも、遠い未来の話ではない。すでに確立された技術なのだ。

■人工汎用知能(AGI)

だから・・・第3次人工知能ブームはホンマモン。

人間のように考えようが考えまいが、計算しようが計算しまいが、関係ない。「知能」が確認できれば、それだけで、立派な人工知能なのだ。高度なソロバンなどではない。

ところが、一つ謎がある。

コンピュータのハードウェアはハイパー進歩を遂げたが、ソフトウェアの根本は何も変わっていない。古典的なプログラミング言語で、シコシコ作っているのだから。にもかかわらず、人工知能のようなブレイクスルーが起こったのは、なぜか?

理由は4つある。

1.コンピュータの処理能力が劇的に向上したこと(70年間で100兆倍)。

2.人間の思考にとらわれない思考原理「統計学的確率」が実用化されたこと。

3.ウェブ上のビッグデータのおかげで、機械学習の餌(エサ)に困らなくなったこと。

4.ディープラーニング(深層学習)で、機械学習の精度が劇的に向上したこと。

つまり、マシンパワーと機械学習の進化だけで、人間の知能を超えることができたのだ。

もちろん、超えたといっても一部の分野に限られている。パターン認識や相関関係を見つけるのは得意だが、全く新しい発見や発見はムリ。

たとえば・・・

現在の人工知能は、ディープラーニングを使うことはできるが、ディープラーニングを発見・発明することはできない。

では、発明・発見できる人工知能はムリ?

わからない・・・が一般的な答えだが、間違いなく実現するだろう。あるものが実現可能か否かと聞かれて、「Yes」答えれば、まず間違いないから。

なぜ、そう言い切れるのか?

人類の歴史年表にそう書いてあるから。

その発明・発見が可能な人工知能だが、名前だけはすでに決まっている・・・「人工汎用知能(AGI=ArtificialGeneralIntelligence)」。

もし、この人工汎用知能が完成すれば、ディープラーニングのみならず、自然法則や数学理論の発見、画期的なテクノロジーの発明、芸術的、文学的創作も可能になる。いわば、万能型人工知能だ。

素晴らしい!

では、さっさと作ろう・・・ちょっと待った!

人間なみの創造力をもつなら、自学自習はもちろん、自己進化も可能だろう。

もし、人工汎用知能(AGI)が自己進化を始めたら?

自分以下のものを、何十万、何百万、再生産しても自分の能力を超えることはない。しかし、ほんのわずか、たとえ、0.0001%でも自分の能力を超えるものが生まれたら、世界は一変する。

というのも、コンピュータの処理速度は劇的に向上している。2015年の最速のスーパーコンピュータは50ペタFLOPS、つまり、1秒間に50×1000兆回の浮動小数点演算がこなせるのだ。

この凄まじい演算速度で、1日24時間、「0.0001%増加」を繰り返したら、どうなるか?

複利計算で、能力は幾何級数的に増大していく。地球の50億年かけた「アメーバから人間」までの進化が、数分で終わるかもしれない。

もちろん、その後も、超高速進化は続く。人間の1万倍、1億倍、1兆倍の能力に達するのは時間の問題だ。

人間の1兆倍の知能って何?

予測不能、理解不能。

ひょっとすると(しなくても)、統一場理論を完成させ、重力をあやつり、時間をもコントロールするかもしれない(タイムマシン!)。それだけではない。自然界の法則さえ変えるかもしれないのだ。そうなれば、宇宙も様子も法則も一変するだろう。もちろん、そんな世界に人間が生きていけるとは思えない。

荒唐無稽のSF?

そうではない。

こんな恐ろしい未来を憂慮する学者や識者がいるのだ。たとえば、車椅子の物理学者ホーキング博士、世界一のお金持ちのビルゲーツ、電気自動車の王者テスラモーターズのイーロン・マスク・・・

さらに、人工知能の世界的権威レイ・カーツワイルは、大胆不敵な予言をしている。2045年、コンピュータが人間の能力を超える、その境界を「技術特異点(シンギュラリティ)」とよんだのだ。その境界の後は、後戻りできない世界・・・そりゃあ、大問題だ、ということで「2045年問題」とよんでいる。

おいおい、あと、30年じゃないか!

そのときは、「AGI」の「G」は「General」ではなく「God」かも、なんてシャレてる場合ではない。もっとも、そんな軽口をたたいている余裕はない。人類は滅亡しているだろうから。

《つづく》

(※)「人工知能・人類最悪にして最後の発明」ジェイムズ・バラット(著),水谷淳(翻訳)出版社:ダイヤモンド社

by R.B

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