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週刊スモールトーク (第29話) 宇宙は神の一撃で始まった ~宇宙誕生の謎~

カテゴリ : 科学

2006.01.01

宇宙は神の一撃で始まった ~宇宙誕生の謎~

■地球最古の町

歴史の始まりは、宇宙の誕生に似ている。始点の前は、何もない無辺世界がつづくだけ。一方、歴史を文明ととらえれば、「歴史の始まり」は地球最古の町となる。地球最古の都市はシュメールだが、最古の”町”なら時代はさらにさかのぼる。1950年後半、トルコのコンヤ高原で発見された「チャタル・ヒュユク」だ。成立は紀元前7200年頃。つまり、歴史の始まりは今から1万年前。驚くべきことに、チャタル・ヒュユクは文明の基本要素をほとんど備えていた。

まずは灌漑農耕。灌漑農耕とは、遠く離れた水源地から農地まで水路を引き、農業用水を確保する方法。これなら、雨が降らない地域でも農耕が可能になる。結果、耕地面積が拡大し、収穫も増える。一方、「天水農耕」は雨水に頼るため、農耕地は限られ、収穫も減る。同じ農耕でも、灌漑農耕と天水農耕では文明のレベルが違う。チャタル・ヒュユクは、1万年も前に灌漑農耕を獲得し、小麦や大麦が栽培されていた。

歴史の方程式によれば、文明が発生する最低条件は「農業の生産性」にある。たとえば、10人分の食料を生産するのに10人必要なら、食料以外の何も生まれない。ところが、8人で10人分の食料を生産できれば、余った2人で「文化」を生み出すことができる。文明の第一歩はここから始まるのだ。

チャタル・ヒュユクはすでにこの文明段階に達していた。チャタル・ヒュユクの人口は6000人を超えていたと考えられている。1万年前というタイムスケールを考えれば、地球最大の町だった可能性もある。現代のヨーロッパでさえ、人口2000~3000人の都市はザラなのだから。

一方、チャタル・ヒュユクの「町の構造」はユニークである。家屋は木造で、現代の家と変わらない。問題は家ではなく、道路。というか、道路が無いのだ。町を鳥瞰(ちょうかん)すると、家と家がすき間なく隣接していて、道路らしきものがない。では、住民はどうやって町中を移動したのだろう。じつは、家の屋上の戸から出て、家の屋根づたいに移動したのである。つまり、家の屋根が道路!このような町は歴史上皆無ではないが、非常に珍しい。

ところで、チャタル・ヒュユクはどのような経緯で出現したのだろう。残念ながら、彼らは文字を持たなかった。だから何もわかっていないのである。ただ、彼らが外敵にさらされていたことは確かだ。根拠は「道路のない町」にある。チャタル・ヒュユクのような町の構造なら、城壁は不要だ。「家が連結=町が一枚岩=町全体が城壁」だから。しかも、この城壁は最強である。普通の城壁なら、一ヶ所でも破られたら、おしまい。そこから軍勢がなだれ込み、城壁の意味が無くなるから。

一方、チャタル・ヒュユク式の城壁なら、どこかが突破され、敵兵が突入しても、そこは城壁の内側ではない。どこかの家の一室。だから、町を占領するには、一軒一軒、すべての家に突入しなければならない。気の遠くなるような話だ。そのためか、チャタル・ヒュユクは征服されたり、略奪をうけた痕跡は一切ないという。

このように、地球最古の町チャタル・ヒュユクはユニークな文明をもっていた。では、その前は?おそらく、原始的な集落が点在していたのだろう。では、さらにその前は?このように「その前は?」をくり返していけば、人類誕生、地球の誕生、そして最終的には「宇宙の誕生」までさかのぼることになる。ところが・・・まだ先があるのだ。「宇宙が誕生する前」、つまり、ビッグバンの1秒前

宇宙はどのようにして誕生したのか?キリスト教の教えは単純明快である。旧約聖書「創世記」第1章・・・神は初めに天と地を創造された・・・それから神は言われた、光あれ・・・つまり、宇宙誕生は神の手による。それなら、天地を創造する前、神は何をしていたのだ?

この質問の答えも、キリスト教ではちゃんと用意されている。聖アウグスティヌス曰く、

神は天地を創造する前には何もしなかった

それは答えになっていない!とわめくバチ当たりには、さらに別の答えも用意されている。

神はそのような質問をする人を落とすために地獄を造ったのだ

やっぱり、科学に頼るしかない・・・ところが、その科学までが人を食ったような答えを用意しているとしたら・・・

■時間はどのようにして始まったか

「時間はどのようにして始まったか」という論文(※1)がそれを示唆している。著者は、日本を代表する大学の教授であり、宇宙論研究の世界的な権威だという。その論理は明快で、結論も鮮烈。結論をそのまま引用すると・・・

「特異点から宇宙が始まるということは、まさに神の一撃から世界が始まったという神による世界創造を科学的に示したとも解釈できるのである」(※1)

つまり、宇宙誕生は神の手による!?高校の物理で習うニュートンの方程式は、ホンモノの「予言」である。たとえば、ボールを投げると、その未来の道筋を完全に予測できる。予言に必要なデータは、ボールを投げた瞬間の角度と速度で、計算式もたった2つ。宇宙の摂理の美しさと、それを見抜いたニュートンの知力に驚かされる。

では、もっと精緻な方程式があれば、宇宙の過去も未来も完全に予測できるのでは?そんな都合の良い方程式があるわけがない・・・ところが、それがあるのだ。アインシュタインの一般相対性理論。

この理論では、まず、宇宙は3次元の空間と、その中にある物質と、時間とで構成されると仮定する。そして、ある瞬間の宇宙の状態が分かれば、宇宙誕生までさかのぼることも、その後に続く宇宙もすべて求めることができるというのだ。

実際、この方程式を解くことにより、宇宙が137億年前に「無」から誕生したことが分かっている。ところが、完全無欠に見えるこの理論にも弱点がある。それは、ミクロの世界では予言の的中率が100%ではないということだ。ほとんどの理工系学生が打ちのめされる量子力学の「不確定性原理」がこれを数学的に証明している。「当たるも八卦(はっけ)、当たらぬも八卦」は科学の世界でも生きているのだ。

一方、一般相対性理論の創始者アインシュタインはこの量子力学に敵意をいだいていた。その理由は「神はサイコロはふらない」ところが、さらにやっかいな問題もある。一般に、宇宙誕生の瞬間は、137億年前に起こった宇宙大爆発(ビッグバン)とされている。では、宇宙誕生の1秒前は?誰でも思いつきそうだが、専門家も即答できない恐ろしい質問なのだ。

ここで不用意に、「1秒前は無だった}などと答えると、さらにやっかいな問題が発生する。現在宇宙に存在する膨大なエネルギーと物質が、宇宙誕生の瞬間に、突然湧き出たことになるからだ。こんなとてつもない物量が、一体どこから湧き出たというのだ?このような不連続は、数学の世界では特異点と呼ばれ、科学者たちを悩ます。というのも、特異点が存在するということは、その世界が自己完結していない「不完全な世界」を意味するからだ。

つまり、この世界とは別の世界が存在し、それがこの世界に影響を与えている。例をあげて説明しよう。

■自己完結した世界

自己完結した世界・・・あなたは、1つの閉じた部屋で暮らしている。あなたは、この部屋のことは知っているが、部屋の外のことは何も知らない。というか、部屋の外に世界があるかどうかも知らないし、知る必要もない。というのも、あなたの生活がすべて部屋の中だけでまかなえるからだ。

食料と水はどれだけ消費してもなくならない。自分の排泄物をリサイクル装置に入れるだけで、食料と水が再生産されるから。また、酸素を吸って、二酸化炭素を吐き出しているが、酸素の量はつねに一定に保たれている。リサイクル装置が二酸化炭素を酸素に変換してくれるから。

つまり、あなたの世界、あなたの生活は、部屋の外からの「差し入れ」が一切必要ない。これが自己完結した世界だ。ところがある日、あなたは気づく。このリサイクル装置は、なぜ存在するのだろう。あなたがこのような装置を作った覚えはないし、部屋の中に、このような物をつくりだせる仕掛けもない。第一、あなた自身、なぜこの部屋にいるのか?この謎に対し、誰もが納得できる答えはこうである。

「この部屋の外にいる誰かが、この部屋を作ったのであり、リサイクル装置もあなたも部屋の外から持ち込まれたのだ

宇宙誕生の瞬間である。

■宇宙は神の一撃から始まった

この話を、先の宇宙論に当てはめると、「宇宙は創造主がつくったのであり、膨大な物質やエネルギーは、宇宙誕生の瞬間に、外から持ち込まれた」これでは科学者たちのプライドが許さない。問題を「神」に押しつけることになるからだ。宇宙の誕生をなんとか科学的に説明したい。そのためには、無から有が生じた不連続点をつぶさなければならない。その苦肉のアイデアが「虚数時間」である。

高校の数学で習った「虚数」を思い出した人もいるだろう。「2乗すると-1になる」あの怪しい数のことだ。このアイデアは、高校の数学で止まった人には、フェイク(だまし)に見える。まず、宇宙誕生の後が実時間として、その前に虚数時間が無限に流れていると仮定する。そうすれば、「虚数時間→宇宙誕生→実時間」と時間的に連続し、不連続点、つまり特異点は解消される。極論すると、「宇宙の誕生」などなかったことになる。

「虚数」は電気工学の交流理論、3Dプログラミングの回転処理、量子力学など、現実の世界でも欠かせない。だから、虚数はフェイクではなく、リアルである。一方、虚数時間は常識を超えている。先の論文の著者も、この虚数時間に疑問を投げかけている。無理に自己完結した宇宙として説明するより、「宇宙の誕生があった」とする方が素直ではないか、というわけだ。

一方、この仮説を認めれば、137億年前、宇宙誕生の瞬間に、宇宙の外世界からエネルギーと物質が持ち込まれたことになる。問題は、このような大それたことができるのはどこの誰か?先の高名な学者はこうしめくくっている・・・「宇宙は”神”の一撃で始まったのだ」この論争は、人類誕生のプロセスを論じる「進化論と創造論」に似ている。つまり、創造したのは「偶然」か「神」か?宗教は後者から、科学は両方からアプローチしている。じつのところ、科学は宗教やSFよりも神秘的なのである。

参考文献:(※1)日経サイエンス2002年12月号「時間はどのようにして始まったのか」ロバートイングペンフィリップウィルキンソン「世界最大の謎」教育社

by R.B

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