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週刊スモールトーク (第259話) バブル到来~派遣プログラマの引きはがし~

カテゴリ : 社会経済

2014.07.05

バブル到来~派遣プログラマの引きはがし~

■消えた町の写真館

見慣れた光景が、いつのまにか消えていた。そんな経験はないだろうか ・・・

昭和の時代、どんなへんぴな田舎にも「町の写真館」があった。正面のウィンドウには自慢の写真が張られ、あっ、○○さん家の□□ちゃんだ、みたいな発見もあって、写真館はいっぱしのスタジオだった。今みたいに個人情報がうるさくない時代だから、撮影された本人も気軽に「公開」に応じたのだろう。自分のポートレイトがショーウィンドウを飾れば悪い気はしないし ・・・

ところが、いつの間にか、町の写真館は消えていた。それがいつ頃かは思い出せない。たぶん、デジカメが普及した頃だろう。デジカメが銀塩カメラに取って代わり、「現像」が不要になり、写真館の役目も終わったのである。

そして ・・・

音楽も同じような道をたどった。昔はマスメディアが流す「最高の音」はFM放送だった(TVではなく)。そこで、お気に入りの音楽をみつけたら、「レコード屋」さんに行く。というのも、この時代、「音楽ソース=レコード」だったから。ところが、その後、CDが発明され、レコードは駆逐された。

レコードは夢のようなハイテクだった。音情報を凹凸情報に変換し、塩ビの円盤に溝状に刻む。その溝を「レコード針」でなぞれば、凹凸で針がぶるぶる振動し、それを電気信号に換えてスピーカに送れば音が鳴る。仰天ものの発想だが、実用化したのは発明王エジソンである。

このシステムで、音質を左右するのは、スピーカ-、アンプ、レコードプレイヤー ・・・ ところが、マニアがこだわったのは、音の入り口「レコード針」だった。そして、この「レコード針」のトップブランドが日本のナガオカだったのである。

ナガオカは、CDが発明された後も、レコードの未来を楽観視していた。

というのも ・・・

CDは、方式がデジタルなので、すべての音が数値化される。具体的には「0~65535(16ビット)」。ところが、この程度のデータ量では、自然界の音は再現できない。そこで、高周波域(高音)はカットされ、ダイナミックレンジ(音の大小)も制限された。一方、「ノイズがない」というメリットもあったが、皮肉なことに、それが災いして、チャチな電子音にしか聞こえなかったのである。

そこで、ナガオカは、高価だが「本物の音」はレコード、安価だが「まがい物」はCD、そんな棲み分けが成立すると考えたのである。だから、レコードもレコード針もなくならないと。もちろん、その後、どうなったかは周知である。もっとも、CDも駆逐されつつあるが。

ここで、「デジタル」技術を整理しよう。

ビジュアルにしろ、音にしろ、テキストにしろ、元はすべてアナログデータである。つまり、値に切れ目がない。ところが、それをムリクリ数値化するのがデジタルだ。数値化すれば、ノイズは論理的に排除できるし、編集もカンタン、何より、完璧な複製ができる(「数値」をコピーするので)。

というわけで、ビジュアルであれ、音であれ、テキストであれ、すべてのメディアはアナログからデジタルへ。ところが、そのデジタルでさえ淘汰の波が押し寄せている。

■消えたDirector

数年前まで、映像のデジタル編集ソフトといえば、アドビの「Director」だった。一時期ゲーム制作にも使われたこともある(シナジー幾何学の「ガジェット」)。

ところが、最近、「Director」をみかけなくなった。代わりに幅をきかせているがアドビの「After Effects」だ。元々、「After Effects」はエフェクト(効果)用のツールなので、「Director」と共存すると思っていた。ところが、いつの間にか、編集も「After Effects」に奪われたのである。

さらに、アニメ制作の撮影でも「After Effects」が使われるようになった。

アニメの撮影?

もちろん、カメラで撮影するわけではない。背景やキャラなどの素材を一枚の画に合成するのである(昔はカメラで撮影したので、今も「撮影」とよばれている)。具体的には、すべての素材を一度デジタル化し、「After Effects」を使って合成する。

というわけで、実写であれ、CGであれ、アニメであれ、「Director」の居場所はない。映像編集は「After Effects」一色だ。実際、ここ2年間で受注した案件をみると、4件が「After Effects」で、「Director」は1件のみ。

じゃあ、Directorなんか捨ててしまえば?

ところが、そう簡単にはいかない。過去の案件のメンテはどうするのだ?

というわけで、市場にあわせて、After Effectsのデザイナーを増強しつつ、Directorの使い手も一定数確保する ・・・ 効率悪いなぁ。

じつは、これと同じことが、プログラム開発でも起こっている。プログラム開発の道具が「C言語 → Java」へとシフトしているのだ。以前から気づいてはいたが、先日、現実として思い知らされた。

派遣会社にC言語プログラマーを3人お願いしたところ、紹介されたのは「57歳」のプログラマー1人 ・・・

聞くところによると、この派遣会社のプログラマー需要の100%がJava(99%ではない)。だから ・・・

若手プログラマーがJavaに走るのはあたりまえ。

「C言語プログラマー=年寄り」もあたりまえ。

ゆえに、「57歳のプログラマー」なのである。

しかも、言語習得の難しさでは、

C++(C言語の拡張版) >> Java

がすっかり定着してしまった。

先日、お気に入りのTVドラマ「チャック・Chuck(ファイナル・シーズン)」を見ていると、気になるセリフがあった。

おバカキャラのモーガンが、自分のダチが腕の立つハッカーだと説明するために吐いた言葉 ・・・

「あいつらは、Cプラ(C++)を使いこなせる凄腕なんだ ・・・」

さらに ・・・

別の米国TVドラマで、「天才プログラマー」役の若者が、これ見よがしに「C++」の教科書を抱えていた。ひょっとして、アメリカでは、C++は難儀なプログラム言語の代名詞?

そして、日本でも、天才と評判の若手プログラマーが、C++のメンドー臭さをネットで強調していた。もちろん、賞賛するのはJava。

これでは、誰もC++に寄りつかない。とっつきが悪いのは認めるが、決して難しい言語ではないのだ。そもそも、C++もしょせんは道具。使えないほど難しい道具が生き残るはずがないではないか。

それに、C++は、洗練されていない分、Smalltalkのような高ビーなところはない。なので、上から目線の崇高さに圧倒されることなく、プログラミングに集中できる。うまく言えないが、親しみのある言語なのだ。

くわえて、差分プログラミングの仕掛けが強力なので、プログラムを美しく体系化できるし、再利用もカンタン。

Javaもできるって?

・・・・・

でも、Javaは実行速度が遅いから、シミュレーターやTVゲームのようなワクワクするソフトには使えませんよ!

それに、Javaの「ガベージコレクション(自動メモリ解放機能)」は気持ち悪い。

プログラマーが確保したメモリを勝手に解放する?

自分が使うリソースが、どこの馬の骨ともわかないプログラムにいじくり回される?

しかも、その処理中は、自分が書いたプログラムが停止する?

気持ち悪いぃ~。

さて、道具を熱く語ってもしかたがない。本題はそこではないし。

C言語プログラマーを3人頼んだら、57歳の翁プログラマー(失礼)しか来なかったという話。

イライラしても仕方がないので、派遣会社をあきらめて、知り合いのソフト受託会社に頼むことにした。この会社は組み込み系専門なので、C言語プログラマーがたくさんいると聞いたから。そして、熱い交渉の結果、2人確保することができた。

ところが、そのとき、恐ろしい話を聞いたのである。

■貸しはがしと引きはがし

このソフト会社の担当者が言うには ・・・ 今後、「派遣プログラマーの引きはがし」が始まるというのだ。

引きはがし!?

不意に、バブル崩壊時に流行した「貸しはがし」を思い出した。

「貸しはがし」とは、銀行が、企業に貸したお金を、半ば強制的に引き上げること。

その手順は ・・・

銀行マンが、企業の経理担当者にむかって、こう言う。

「融資したお金を、一旦、返済して欲しい。その後、あらためて融資するから心配いらない。それに ・・・ これに応じないと二度と融資できませんよ」

そこで、借りていた金を全部返すと、その後、なしのつぶて ・・・ 騙されたと思っても、もう遅い。この頃、ゲーム業界にいたのだが、誰もが知る有名なゲーム会社がこれでコケた。

会社は、赤字だから倒産するのではない。資金がショートするから倒産するのである。つまり、赤字が何年続こうが、

「運転資金(現金残高) > 出金」

なら、決して、倒産しない。

ところが、貸しはがしにあうと、当座の運転資金が枯渇し、資金繰りが悪化する。だから、バブル崩壊を体験したビジネスマンなら、「○○はがし」と聞けば、パブロフの条件反射的にブルーな気分になるのだ。

ところで、なぜ、派遣社員の引きはがしなのか?

極論すると、単価が高い派遣先に鞍替えするため。とはいえ、派遣された会社にしてみれば、迷惑千万だし、だいいち、そんなことをすれば、派遣会社も信用を失う。

ところが、状況はそんな次元を超えていた。

問題は派遣会社ではなく、派遣社員。派遣社員にしてみれば、一円でも単価の高いところで働きたい。だから、派遣会社が、今の派遣先で我慢しろと言えば、他の派遣会社に移るだけ。派遣社員のいない派遣会社は弾のない銃のようなもの。だから、派遣会社も派遣社員に与(くみ)するしかないわけだ。

そして、この状況を後押しするのが「プログラマー不足」。

アベノミクスでいよいよバブルの到来?

ちょっと違う。

先の担当者がいうには、「マイナンバー法」のせいだという。

■マイナンバー(国民背番号制)

マイナンバーとは、「社会保障・税番号制度」のこと。以前は「国民総背番号制」とよばれていた。

内閣官房のHPから引用すると ・・・

番号制度は、複数の機関に存在する個人の情報を同一人の情報であるということの確認を行うための基盤であり、社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性の高い公平・公正な社会を実現するための社会基盤(インフラ)である。

わかりにくい。

早い話が ・・・

マイナンバーとは、政府、地方自治体、民間企業でそれぞれ管理されている個人情報を、ひも付けするための国民の背番号(12桁)。

つまり、この番号ひとつあれば、個人情報を一気通貫で参照できるわけだ。

ということで、政府や地方自治体が、マイナンバーに対応するソフトを構築するため、プログラマーが不足するのだという。

それにしても、ヘンな話ではないか?

マイナンバーは、政府が主導する制度だから、全国共通。であれば、パッケージソフトをひとつ作れば、十分ではないか?または、今流行の「クラウド(旧ASP)」とか。

自治体によって微妙に違うって?

じゃあ、そこでだけカスタマイズすればいい。そもそも、同じソフトを、一から作るなんてバカげてる。

ところが、くだんの担当者が言うには、政府は指針を出すだけで、あとは、自治体任せなのだという(いつものパターン)。つまり、自治体ごとに、ソフトを開発するわけだ。そりゃ、プログラマが不足するでしょうよ。

そこで、なぜ、そんなムダをやるのかと聞いたところ、仕事を増やして、景気を良くするためだという。早い話が、ソフトの公共投資。

なるほど。

ということで、先のソフト会社は組み込み系専門なのに、マイナンバーがらみの仕事ができないか、打診されているという。

さらに、彼の予測によれば、今後、求人の条件が変わっていくという ・・・
1.Javaの経験のある人募集!
2.プログラム開発の経験のある人募集!
3.IT業界にいたことのある人募集!
4.プログラミングに興味のある人募集!

世も末だ。

その昔、プログラマーが20万人不足すると言われた時代があった。そこで、NEC日本電気では、新入社員全員(技術系・事務系含む)にC言語の研修を実施したのである。もちろん、何の成果もでなかった(その後中止)。ホテルの全従業員に板前を経験させるようなものだ。

さらに ・・・

あの頃、ソフト会社を起こした友人がプログラマーを募集したところ、元バーテンダーが応募してきたという。そこで、彼はこう質問した。

「プログラムに興味がわいたのですか?」

「別に ・・・」

世も末だ。

あんなバブリーな時代が、再び来るのだろうか?

じつは、先のソフト会社も、組み込み系を減らして、事務処理系(Java)を増やす話もでているという。

仕事の需要が「Java >> C言語」なら、単価も「Java >> C言語」。背に腹は替えられないわけだ。この会社は組み込み系の老舗で、技術力もあるのにね。もったいない。

■IoT(モノのインターネット)

そして、個人的推測だが ・・・

この状況にさらに拍車をかけるのが、今流行の「IoT(Internet of Things)」、直訳すると「モノのインターネット」。

パソコンやスマホは言うまでもなく、道路などの社会インフラ、工場などの生産インフラ、さらには、自動車、ベビー服、歯ブラシの日用品にいたるまで、あらゆるモノにセンサーを付け、インターネットにつなぐ。さらに、この無数の端末から、インターネット経由でデータを吸い上げ、それを分析し、新しいサービスや価値を生み出そうというのだ。

たとえば、植木鉢に水分センサーをつけ、インターネットにつなぐと ・・・

植木鉢が水不足 → センサーが検知 → インターネットを介してご主人様に通知

これで、植物を枯らすこともないだろう。

くだらない?

問題はそこではない。

これだけのモノから情報が集まれば、データも膨大になる。インターネット・ルーターの覇者シスコシステムズによれば、ネットに接続されるデバイスは2015年に250億個、2020年には500億に達するという。つまり、何百億という端末から、リアルタイムにかつ無秩序にデータがなだれこむわけだ。

当然、集まったデータのほとんどがジャンク(ゴミ)。そんなものに誰が金を払うというのだ?

3Dテレビの二の舞になるぞ。

そこで、登場するのが天下のIBMだ。

今でこそ、コンピュータといえば、グーグル、アップル、マイクロソフトだが、1970年代まで、コンピュータといえばIBMだった。一部の国では、「IBM」は固有名詞ではなく、「コンピュータ」を意味する一般名詞だったほどだ。まあ、そんな昔話はさておき、21世紀のIBMはこう主張する(今でも巨大企業だぞ) ・・・

「ビッグデータは天然資源なのです。ですから、採掘、精錬、配送が欠かせません。そこから、どんな価値を引き出すか?それが、IBMの使命なのです」

さすが、IBM、うまいことをいう。

というわけで、「IoT」からビッグデータの「採掘」、「精錬」、「配送」の3つのカテゴリーのソフトが生まれるわけだ。これはとてつもない需要である。パソコンの出現によって、様々のアプリが生まれ、ソフト業界が生まれたが、それをはるかに超える規模になるだろう。

もちろん、先の「植木鉢」が流行するとは思えない。生み出される価値が、コストに見合わないから。

つまり ・・・

コスト > 生まれる価値

なら、すべて「ネタ」で終わる(真に受けて損をしないように)。

ただし、道路などの社会インフラ、工場などの生産インフラ、またはペットビジネスのような金に糸目をつけない世界なら、一気に加速するだろう。もちろん、それにからむビッグデータビジネスも大繁盛だ。

というわけで、ソフト業界に大異変が起ころうとしている。それも、50年に一度のビッグバンだ。

でも ・・・

こんな風に、世界がつながるって、恐くないですか?

地球上のすべてのヒト・モノ・カネがつながり、それを同時にかつ一瞬に支配できるのは、コンピュータだけ。もし、コンピュータウィルスが突然変異して、悪意をもった人工知能が生まれたら ・・・

クラウドの未来 → スカイネットの世界征服 → 人類滅亡」 ・・・ 映画「ターミネーター」の悪夢が脳裏をよぎる今日この頃だ。

by R.B

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