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週刊スモールトーク (第254話) 魔法のコンピュータ(1)~真珠湾攻撃がない世界~

カテゴリ : 歴史科学

2014.05.24

魔法のコンピュータ(1)~真珠湾攻撃がない世界~

■ブレゲとフェラーリ

アルマーニに身を包み、BMWを乗り回し、ファーストクラスしか乗らない小金持ちではなく・・・

TシャツにGパンで、自家用ジェットを乗り回し、ラスベガスやマカオで一晩に1億円スる大金持ち。

そんな富裕層向けのビジネスを考えてみた。

テーマはズバリ、「ムダに凄い」。

ところが・・・周囲を見渡しても、大金持ちどころか、小金持ちもいない。だから、具体物がまるで思いつかない。

そこで、自分が1000億円の大金持ちだったら、何が欲しいか考えてみた。999億9900万円を貯金して、残り100万円で贅沢三昧する。貧乏人根性ここに極めりだが、そこで欲しいと思ったのが「機械式腕時計」だった。

コンピュータもエレクトロニクスも使わず、テンプ、ゼンマイ、歯車などの機械部品だけで動く腕時計。いわば、究極の複雑機械。

とはいえ、クォーツ時計にくらべると、
1.精度が劣る(1日数秒の誤差。クォーツなら誤差はほぼゼロ)
2.3年~5年ごとに分解掃除が必要(クォーツなら10年は不要)

つまり、スペックもメンテナンスも、クォーツの方が断然上。ところが、価格だけは機械式がクォーツを圧倒する。

たとえば、クォーツなら、1万円も出せば立派なものが買えるが、機械式なら、最低15万円、普通に数十万円、さらに、「ヴァシュロン・コンスタンタン」や「パテック・フィリップ」のような高級ブランドなら、高いもので数億円!(1個ですよ)。

ところが、上には上がある。

たとえば、19世紀の天才時計職人アブラアム=ルイ・ブレゲが製作した懐中時計「ブレゲNo.160(マリー・アントワネット)」。

スペック的には、21世紀の最高級品に匹敵し、顧客はフランス革命で断頭台の露と消えたマリー・アントワネット。スペックも歴史も超弩級というわけだ。なので、普通には値がつかない(推定50億円!?)。

つまり・・・

機械式時計は「ムダに凄い」のである。

ところが、「ムダに凄い」は「ブレゲ」だけではない。

たとえば、自動車の「フェラーリ」。
・最高時速300km超(羽をつけたら宙に浮くぞ、陸空両用?)
・耳をつんざく、ご自慢の爆音(エンジン音がどうしたというのだ?)
・UFOのように曲がる運動性能(ジグザグの道はどこにある?)

というわけで、ムダに凄いわけだ。

実際、フェラーリのモンテゼモロ会長は、こんな高ビーな発言をしている。

We don’t sell a normal product.We sell a dream.

(われわれは並の製品を売っているのではない。夢を売っているのだ)

なるほど!

では、こっちは「コンピュータのフェラーリ」でいこう!(コンピュータしかわからないので)

でも、ちょっと待った!

大事なことを忘れていない?

ブレゲもフェラーリも、大金を払ってもらえるのは、「本来の価値」に変わる「新しい価値」を生み出したから。

実際、この2社の「価値の転換」はまさにコペルニクス的転回、

・ブレゲ:「時を計る道具」→「機械仕掛けのミニ宇宙」

・フェラーリ:「人を運ぶ道具」→「ガラス細工のレーシングカー」

つまり、ブレゲとフェラーリは、「実用品」を「工芸品」に変えたのである。

では、コンピュータの「工芸品」とは?

筐体が、純金の削り出しとか、漆塗りとか・・・誰も見向きもしないだろう。

ブレゲの「工芸品」は材質や外見によるのではない。超人的な匠(たくみ)が、機械部品だけで高度な計時機能を実現することにある。たとえば、100年間の閏年を処理する「パーペチュアルカレンダー(永久カレンダー)」、時計の姿勢による重力のばらつきを相殺する「トゥールビヨン」・・・こんな超複雑機構を「歯車」だけで実現しているのだ。

つまり、先端技術を駆使する科学ハイテクではなく、職人技を極めた人間ハイテク。エンターテインメントでたとえるなら、前者はハイエンドなCG映画、後者はシルクドソレイユだろう。

一方、フェラーリは、公道を走るロードカーではない。超高速で「走る・曲がる」を極めたレーシングカーなのだ。そのくせ、ガラス細工のように繊細(壊れやすい)。私道を爆走して恍惚感にひたるか、眺めて悦に入るか、少なくともスーパーに買い物に行く車ではない。

というわけで、ブレゲもフェラーリも、ムダにスペックを極めた「工芸品」、つまり、役に立たない「魔法」なのである。

■コンピュータの魔法

そこで、ブレゲ、フェラーリに対抗して、「魔法のコンピュータ」を考えてみた。

じつは、ここ1年暖めているアイデアがある(実現のメドは立っていない)。

現実になったかもしれない、もう一つの世界=歴史を再生するコンピュータ。

そもそも・・・

われわれの世界は、生まれるべくして生まれた必然の産物ではない。ほんのわずかの差で生まれた偶然の産物なのだ。

たとえば、1941年12月7日、真珠湾攻撃が中止されていたら?

1950年以降、4大列強が出現していた。その列強というのが、

①アメリカ合衆国

②大日本帝国

③ドイツ第三帝国(ナチス)

④ソ連

あー、よくある歴史改変SFね?

ノー!

そもそも、この仮説を提唱したのはSF作家ではない。アメリカの元NSA局員のフレデリック・D・パーカーである。彼は、太平洋戦争におけるアメリカ海軍暗号作戦の専門家でもある。

じつは、パーカーの説は、仮説というよりシミュレーションに近い。歴史の方程式が生み出すイベントの連鎖反応が年表のように列記されているだけ。地味で退屈なはずなのに、大スクリーンで観るような興奮を覚えるのはなぜだ?

論理より証拠、パーカーのシミュレーションを紹介しよう。

テーマは「真珠湾攻撃がなかった世界」。

■真珠湾攻撃がなかったら?

1941年9月、アメリカ側は日本の暗号「JN-25」を解読した。

※史実では、この時点で、日本の外交暗号「パープル」は解読されていたが、日本海軍の作戦暗号「JN-25」は解読されていなかった。

以後、アメリカ側は日本海軍の無電暗号を解読し、日本艦隊の行動が筒抜けになる。結果、歴史が微妙にズレ始め、最終的に歴史は大きく変わる。

1941年11月初頭、アメリカ側は、日本の第一航空艦隊・参謀総長から発せられた無電暗号を傍受した。解読の結果、同艦隊の行動が通常の航行範囲をはるかに超えていることがわかった。

同年11月5日、アメリカ側は、先の無電を裏付ける新たな無電を傍受した。第一航空艦隊の4隻の空母、「赤城」、「加賀」、「飛龍」、「蒼龍」が予備の燃料をドラム缶で積載するよう命令されていたのだ。同艦隊が、尋常ならざる遠距離航海をもくろんでいるのは間違いない。

つづく、12月1日、アメリカ側は、新たな無電暗号を傍受した。油槽船1隻が横須賀の海軍基地を2日後に出港し、8日までにウェーク島の北東に、そして、ミッドウェー島北西の地点に東進するという。油槽船は艦隊の燃料補給船である。空母に予備の燃料を積載し、さらに、油槽船まで同伴させるのだから、作戦範囲としては常軌を逸している。

不可解な点はまだあった。日本艦隊が北東に向かおうとしていること。

この頃、アメリカ側は、日本は天然資源(主に石油)を確保するため、南方に侵攻すると予測していた。ところが、日本艦隊は反対の北東に向かおうとしている。しかも、通常の航行範囲をはるかに超えて。日本艦隊は、一体、どこを攻撃するつもりなのか?

この間、3つの航空戦隊を擁する日本の大艦隊が、真珠湾めざして北太平洋の灰色の海をきりさいていた。

12月2日17時30分、東京の山本提督は全連合艦隊に対して、最優先暗号を発信した。

「ニイタカヤマノボレ1208」

真珠湾攻撃を日本時間12月8日に開始せよという命令である。

アメリカ側もこの無電暗号を傍受していた。日本が12月8日にアメリカと交戦状態に入ることは間違いない。ところが、攻撃目標まではわからない。

そこで、アメリカ海軍作戦部長スタークは、ハワイ真珠湾のアメリカ太平洋艦隊司令長官キンメルに戦闘警報を発した。

「12月8日に、日本が交戦状態に入ることを示す、差し迫った兆候がある。最低1個の空母機動部隊が、北太平洋水域で行動中である。貴官は、即刻、ハワイ諸島北方海域の800海里の範囲で航空哨戒を開始せよ」

こうして、アメリカ太平洋艦隊は日本艦隊の索敵を開始した。

12月6日、哨戒中のPBYカタリナ飛行艇が日本艦隊を発見、ただちに真珠湾基地にに暗号電を打った。

「国籍不明機および船舶、北緯29度50分、西経157度、方位180度」

日本艦隊は、真珠湾攻撃の前に、アメリカ側に発見されたのである。

一方、日本艦隊を掩護するゼロ戦もアメリカ哨戒機を発見したが、南雲提督は攻撃を禁じた。さらに、全艦隊に反転命令を出したのである。まだ宣戦布告がなされていないこと、奇襲が事前に発覚したことを理由に、真珠湾攻撃が中止されたのである。

その結果・・・

1941年12月7日(日本時間12月8日)、日本がアメリカの領土もその属領も攻撃しなかったため、ルーズベルトは議会で対日宣戦布告の承認をえることができなかった。

その間、日本軍は、マレー、オランダ領東インド、ビスマルク諸島を席巻し、ニューギニアまで達した。アメリカはそれを傍観するしかなかった

その後、ソ連に軍需物資を運ぶアメリカの護送船団が(武器貸与法による)、日本の軍艦によって撃沈された。そこで初めて、ルーズベルトは、議会で「対日宣戦布告」の承認を得ることができたのである。

しかし、アメリカ国民の反応は史実とは違った。「RememberPearlharbor!」を合い言葉に、対日戦争で盛り上がることはなかったのである。というのも、保守派は、共産党体制のソ連を援助することに反対だったし、一方のリベラル派は、ヨーロッパの植民地帝国を支援することを非難していた。つまり、アメリカの民意は「第二次世界大戦に介入しない」が主流だったのである。

こうして、アメリカの対日戦争は、緩慢なものになった。日本は戦うには手強い敵であり、その間にも、ヒトラーのナチスドイツはヨーロッパと北アフリカを食い荒らしていた。第二次世界大戦は袋小路に入り込み、枢軸国も連合国も疲れ果てていた。そこで、日本とアメリカ、ドイツとソ連は、それぞれ単独で講和したのである。

その結果、地球上に4大ブロックが形成された。

①アメリカ合衆国

ミッドウェーからフィリピンにいたる太平洋の東部と南西部、さらに、パプアニューギニアを支配。

②大日本帝国

太平洋北部と西部を支配し、千島列島からインドシナ半島を通ってオランダ領東インドにいたる弧状の地域を支配。

③ドイツ第三帝国(ナチス)

西ヨーロッパとキエフ以西を隷属させたが、イギリスと地中海までは手が及ばなかった。

④ソ連

キエフ以東を保持。

こうして、1950年までに、2つの超大国、アメリカとナチスドイツが出現し、1952年から両国は冷戦状態に入った(※1)。

つまり、こういうこと。

アメリカが、日本海軍の暗号「JN-25」の解読し、真珠湾攻撃を未然に防いだことで、戦後の世界の力学が一変したのである。しかも、日本とドイツが有利な形で。もちろん、この世界では、広島と長崎に原子爆弾は投下されない。

■仮想世界は存在する

歴史は、無数の分岐点において、無数の可能性の中から1つが選ばれ、累積された巨大な因果ネットワーク。つまり、理論上は、無限通りの世界が存在する。

第二次世界大戦ひとつとっても、

1.日本・ドイツ・イタリアが連合国に敗北する(史実)。

2.真珠湾攻撃が中止され、アメリカ・日本・ドイツ・ソ連の4大ブロックが形成される(フレデリック・D・パーカーのシミュレーション)。

3.日本本土上陸作戦が敢行され、現代に至るまでゲリラ戦が続く(村上龍の「五分後の世界」)。

・・・・

われわれが見ている世界は、その中の一つにすぎないのである。

ところで・・・

その「もう一つの世界」が現実に存在するとしたら!?

つまり、「理論上の存在」ではなく、「実在」。

というのも・・・

最近、SFネタにすぎなかった「パラレル世界」が、科学者たちの間でまじめに議論されているのだ。

それによると・・・異次元世界は存在する

参考文献:
(※1)「ヒトラーが勝利する世界~歴史家たちが検証する第二次大戦60の“IF”」ハロルド・C.ドィッチュ(編集)、,デニス・E.ショウォルター(編集),HaroldC.Deutsch(原著),DennisE.Showalter(原著),守屋純(翻訳)学習研究社

by R.B

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