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週刊スモールトーク (第237話) 利己的な遺伝子Ⅳ~自己中が勝利する世界~

カテゴリ : 科学

2013.12.29

利己的な遺伝子Ⅳ~自己中が勝利する世界~

■自己中の遺伝子

「対立」する遺伝子は闘っている。

身体をでかくする遺伝子と、小さくする遺伝子のように。もちろん、闘う以上、勝たなくてはならない。

では、勝つ遺伝子に共通するのは?

環境に適応していること。

とはいえ、その環境というのが ・・・ コロコロ変わる。

たとえば、6500年前の隕石衝突。じつは、この未曾有の大災害の前、地球の最終勝者はほぼ確定していた。「でかい」を極めた恐竜である。体長20センチの小動物が、全長12mのティラノサウルスに勝てるはずがないから。

ところが、直径10kmの隕石がユカタン半島を直撃すると、環境は一変した。核の冬ならぬ隕石衝突の冬が到来し、食物が激減したのである。結果、大飯喰らいの大型動物は絶滅し、「身体をでかくする」遺伝子も道連れにされた。

つまり ・・・

隕石が衝突する前は「でかい」が有利、衝突の後は「小さい」方が有利。だから、でかい小さいは、勝ち残る遺伝子の条件にはならない。では、勝つ遺伝子の絶対条件は「環境に適応する」しかない?

生物学者リチャード ドーキンスによれば ・・・ もう一つある。

「利己主義」。

自己中のこと?

イエス!

イエス キリストが説いた「絶対愛」とか(シャレにあらず)、みんな仲良く「集団の繁栄」は、進化論的にはなんの意味もないというのだ。

具体的には ・・・

ある集団が衰退し、絶滅に瀕しても、成功する個体は存在する。善良な利他主義者を犠牲にして生きのびる利己主義者だ。

たとえば ・・・

1945年1月、ナチスドイツはバルジの戦いで敗北し、虎の子の機甲軍団を使い果たした。その後、国運は緩やかな衰退から、一気に自由落下へ。そして、その3ヶ月後の4月30日、ヒトラーは地下壕で自殺。翌日には、首相に任命されたばかりのゲッベルスも自殺した。さらに、親衛隊・ゲシュタボ・強制収容所の責任者ヒムラーもイギリス軍に逮捕され自殺。その1年後、ニュルンベルク裁判中、ナチスナンバー2のゲーリングも自殺した。こうして、ナチスドイツの高官たちは、自殺か絞首刑、よくて、長期の懲役を課せられたのである。

ところが、ナチス要人の中には、生きのびた者もいた。

人類初の月着陸を成功させたロケットの父フォン ブラウンもその一人である。

彼は、ナチスドイツ政権下で、史上初の大陸間弾道ミサイル「V2ロケット」を完成させた。もちろん、科学者が戦争中に兵器を開発するのはよくある話。ところが、その後が問題だ。1945年5月、ドイツの敗戦が迫ると、フォン ブラウンらは盗んだ貨物車両にV2ロケットの資料を積み込み、それをお土産に、アメリカ軍に投降したのである。

その後、フォン ブラウンは、ライフワークのロケット開発を続けることができた。さらに、NASAのマーシャル宇宙飛行センターの所長、NASA本部の副長官へと出世し、地位と名声まで得たのである。ドイツ人でありながら、ドイツの復興より自分の「ロケットの夢」を優先させたわけだ。今なら、窃盗罪か国家反逆罪だろう(両方かも)。これは、利己主義が、滅び行く集団の中で「個」を成功させた典型的である。

さらに、ユダヤ人の迫害と虐殺を主導したアイヒマンも、戦後ドイツを脱出することに成功した。ナチスドイツが降伏した後、名前を偽り、国内に潜行し、その後、南米のアルゼンチンに逃げのびたのである。当時のアルゼンチンは親ナチス政権下にあり、戦犯やナチス党員の安全な逃亡先になっていた。

しかし、結局、アイヒマンは捕まった。1960年、イスラエルの特務機関「モサド」によって逮捕されたのである。その後、イスラエル本国で有罪判決をうけ、処刑された。

ところが、ナチスの戦犯で、最後まで生きのびた者もいた。

強制収容所で人体実験を行い、「死の天使」と恐れられたヨーゼフ メンゲレである。じつは、特務機関モサドはメンゲレの居場所を特定していたが、まずアイヒマンを捕まえるため、泳がせておいたのである(メンゲレを逮捕するとアイヒマンが逃げるため)。ところが、その間にメンゲレは姿をくらましてしまった。その後、1979年、海水浴中に心臓発作で死亡したという。ただし、メンゲレの逃避行と死亡時期には諸説あり、逃亡先でお気に入りの「双子の人体実験」を続けていたという説まである。

というわけで ・・・

罪を犯した罰とか、リーダーとしての責任の取り方とか、集団の繁栄なんか知ったこっちゃない、自分さえ良ければいい的な利己主義が、「個」を成功させたのである。

ということで ・・・

勝利する遺伝子の普遍的な条件は、「利己主義」。

■個人主義 Vs 全体主義

たしかに、今の社会は利己主義者に有利にできている。

たとえば、すでに社会問題になっている「新型うつ病」。普段はOKなのに、仕事するときだけ、うつになる。そして、海外旅行に行くと気分は爽快、帰国して仕事にもどると、再びうつ。これを「新型うつ」とよんでいる。

では、なぜこれが社会問題になるのか?

現在、心療内科の医師は、患者側に立っている。だから、かんたんに、「うつ病」とか「適応障害」とか「自律神経失調症」とか病名をつけてくれる。病名がついた瞬間、立派な病気だ。それを、怠け者扱いしようものなら、会社や団体はただではすまない。まあ、ここまではいい。

問題は ・・・

これを安易に認めると、怠けをうつ病で偽装できること。結果、ストレスに耐えて頑張っている社員はたまらない。うつで海外旅行中の人の仕事までやらないといけないから。

じつは、もっと深刻な問題もある。

本当にうつ病の人まで、白い目で見られること。うつな気分とうつ病は全く別ものだ。うつ病は、そばで見ているだけで辛くなる。それでも、できる限り働こうと頑張っている人はたくさんいる。そんな人たちを、うつを盾に怠ける利己主義者は犠牲にしているのだ。

つまり、利己主義者は集団を犠牲にして成功する。

そして、それを支えるのが社会スキーム「個の利益 >> 集団の利益」なのである。

その分かりやすい例が、犯罪者の権利だろう。実際、日本ほど犯罪者に優しい国はない。殺人を犯しても、死刑になることはほとんどない。情状酌量の余地がないほど利己的な殺人であっても、罪は必ず減額される(死刑にはならない)。

でも、これおかしくないか?

コンビニで500円の商品を万引きして、捕まったら、いくら、返してもらいますか?

犯罪だから、減額して300円?

ありえないでしょう。

ところが、このありえないが、現在の司法のデファクトスタンダードなのである。しかも、殺人のような重い罪ほど減額されるから不思議だ。

一方、その真逆が、第二次世界大戦の時代の「全体主義」。

読んで字のごとく、個より全体を優先する。まず思い浮かぶのが、ナチスドイツのファシズム。日本では、特攻や玉砕がやり玉にあがるのだろう。国家という「全体」のために、人命つまり「個」が軽んじられたからだ。

ところが、国民の命を軽んじる点では、ソ連も中国も負けてはいない。さらに、民主主義を標榜するイギリスでさえ。

1943年12月、連合軍によるイタリア上陸作戦は遅々として進まなかった。守備側のドイツ軍の数倍の兵力を擁しながら。そこで、業を煮やしたイギリス首相チャーチルは、現地のイギリス軍参謀総長に辛辣な電報を送っている ・・・

イタリア戦線全般における戦況の停滞は恥辱的なものになりつつある ・・・ アドリア海側に上陸作戦をまったく実施しなかった怠慢と、西側にも同様の攻撃を加えなかった失敗は致命的であった。3ヶ月間、地中海における上陸用船艇は1隻たりとも使用されなかった。今次大戦全般において、かかる貴重な部隊がかくも完全にないがしろにされた例はあまりほかにない(※2)。

言葉は紳士的だが、ムカつくチャーチルの心情がよく表れている。そもそも、この作戦では「安全圏を超えては前進しない」が徹底された。十分過ぎるほどの準備をして、できるだけ危険を避ける。つまり、安全に戦う!?

おいおい、戦争だろ。

結局、チャーチルはこう言いたかったのである ・・・

「犠牲なんかいいから、さっさとイタリアを占領しろ」

もちろん、ドイツも日本もソ連も中国もイギリスも責めることはできない。戦争では、全体主義が民主主義より圧倒的に有利だから。そもそも、国家より個人の都合を優先して、戦争に勝てるはずがないではないか。

じゃあ、なぜ、第二次世界大戦で、民主主義の連合国側が、全体主義の枢軸国側に勝ったのか?

連合国の民主主義も怪しいものだったし、なにより、アメリカの物量が一桁上だったから。もし、物量が2、3倍の差ですんだなら、間違いなく、枢軸国側が勝利していただろう。

その根拠は?

戦の天才ナポレオン・ボナパルト曰く ・・・

戦いにおける精神力と物量の力の比率は3対1である。

そして ・・・

戦争は勝ってなんぼの世界。負けたら悲惨である。第二次世界大戦直後の日本とドイツの惨状がそれを物語っている。そこには、筆舌に尽くしがたい悲しい歴史が隠蔽されている。第二次世界大戦が起こった本当の理由を知らない、お気軽な平和主義者によって。

それにしても、70年前の全体主義と、今の個人主義化した民主主義 ・・・ 人間はどうして、両極端なのだろう。どうして、中庸の価値がわからないだのろう。

これも利己的な遺伝子のなせる業(わざ)だろうか?

《つづく》

参考文献
(※1)「利己的な遺伝子 増補改題『生物=生存機械論』」リチャード・ドーキンス (著), 日高 敏隆 (翻訳), 岸 由二 (翻訳), 羽田 節子 (翻訳), 垂水 雄二 (翻訳)出版社: 紀伊國屋書店
(※2)第二次世界大戦(下) B.H.リデル ハート (著), 上村 達雄 (翻訳)中央公論新社

by R.B

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