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週刊スモールトーク (第223話) 禁酒・断酒の効果Ⅰ~アルコールと不整脈~

カテゴリ : 社会

2013.09.08

禁酒・断酒の効果Ⅰ~アルコールと不整脈~

■人生のリプレイ

人生は長い。だから、凡ミスをやらかしたり、大きなヘマをやったり、大切な友人を失ったり、リスキーな仕事に挑戦してコケたり ・・・

でも、
人生をリプレイしたい」
と思ったことはない(たぶん)。なぜなら、失敗のない人生なんて気持ち悪いから。

と言いつつ、学生時代、京都の嵐山で財布を落としたのはこたえた。全財産の1200円を失って、次の仕送りまで、毎日パン1個と水道水でしのいだのだから。何日続いたかは覚えていないが、あれは本当にこたえた。

ところが ・・・

最近、人生をリプレイしたいとマジで思っている。酒を飲み始めた26歳にもどって、酒のない人生を送りたいと ・・・

というのも、最近、脳がノンアルコールの快感を知ったのだ。じつは、この7ヶ月間、アルコールを一滴も口にしてない。禁酒ならぬ、断酒。結果、身体からアルコールが完全に抜け、脳が活性化している。まるで、脳が入れ替わったようだ。素晴らしい!なんで、酒なんか飲むようになったのだろう、と悔いているわけだ。

酒を飲み始めたのは、26歳の時だった。ちょうど、東京からUターンして、社員が100名ほどのベンチャー企業に入社した頃である。この会社はコンピュータのハードの設計と製造、OS、アプリまで手がけていた。つまり、この会社にいれば、コンピュータのハードもソフトも丸わかりというわけだ。元々、コンピュータが大好きだったので、遊んで給料をもらっているようなものだった。

ところが ・・・

問題が一つあった。会社の独身寮が会社の敷地内にあったのである。そこで、仕事が終わると、みんなで近所の温泉で一風呂あびて、寮で大宴会。酒を飲みながら、コンピュータを熱く語り合うのである。毎日15時間楽しく働いて、その後、ドンチャン騒ぎ。寝ている時以外は全部遊んでいるようなもので、これをバラ色の人生と言わずして何と言おうか。

その結果 ・・・

晩酌のクセがついてしまった。1年365日(または366日)、毎晩、酒(ビール)を飲むようになったのだ。このままいけば、
「アルコール依存症 → アル中」
ところが、ある事件がきっかけで、減酒に成功した。

酒を教えてくれた先のベンチャー企業が破綻したのである。ただ当時は、16ビットCPUのシステムを設計できるのは日本で数百人という時代で、複数の企業からオファーがあった。

一番心が動いたのは米国半導体大手のM社だった。M社はすでに日本法人を設立していて、CPU(8ビット)の設計も行っていた。その日本法人から声がかかったのである。

M社から提示された条件は、
・ 業務は8ビットCPUの設計(ワンチップマイコンとよばれた)
・ 給与はそれまでの1.8倍
・ 勤務地は「日本支社 → 米国M社 → 日本支社のデザインセンター」

それまでは、CPUを使ったシステム設計だったが、今後はCPUそのものを設計できるわけだ。しかも、米国で働けるので、なかなかものにならない英会話も上達するかもしれない。どう考えてもいいことずくめではないか。でも、一つ問題があった。せっかく、Uターンしたのに、
「金沢 → 東京 → USA → 東京」
可愛い?息子が再び異郷の地に去るわけだ。 両親はどれほど嘆き悲しむことだろう。この親不孝者!そんな風に育てた覚えはない!とまでは言わないだろうが、そのぶん、ココロが痛む。

そこで、地元の機械メーカーに入社することにした。親には感謝されたが、じつは、それが本当の理由ではなかった。この会社の技術担当役員が、FAコンピュータの開発を一切任せると約束してくれたのだ。

「FA」コンピュータとは、「Factory Automation」の略で、粉塵や電気ノイズがうようよいる工場で使う特殊なコンピュータである。普通のパソコンを工場に持ち込んでも、ノイズで誤動作して使い物にならないのだ。そこで、耐ノイズを考慮し、CPUとメモリ、HDD、グラフィック、LANその他周辺回路を丸ごと一式設計する。さら、そのハードにOS(68系の「OS9」)を移植し、FA用アプリケーションを随時開発していく。

20代でこんなチャンスをもらえる技術者は滅多にいない。乗らなきゃ一生の損と喜んで入社したのである。もちろん、入社後は、脳から快感物質が出っぱなし ・・・ でも、そういう幸運が災いし、早々にハードに飽きてしまった。

そして、時代もハードからソフトへと移りつつあった。

そこで、会社に社内ベンチャー「歴史シミュレーションゲーム」事業を提案して承認された。プラットフォームは、今は亡きNECのパソコン「PC-98」である。

TVゲーム機じゃなくて?

イエス。

その頃、TVゲーム機はオモチャ同然で、まともなシミュレーションゲームには耐えられなかった。

また、「ベンチャー=貧乏所帯」なので、プロデューサー、ディレクター、システム設計、シナリオ&データ作成、営業を一人で兼任した。だから、朝から夜中まで大忙し、もちろん、休日はナシ。

そして、第一作目の「GE・TEN~戦国信長伝~」が大ヒットした。当時、PCゲーム雑誌トップの「ログイン」でも、総合ランキングで3位に入り、鼻高々。事業が軌道に乗るのも時間の問題だと思われた。

ところが ・・・

ある日、メインプログラマーが退職してしまった。頭の回転が速いプログラマーで、プログラムを書くのも非常に速かった。仕様書が追いつかないので、途中から口頭に切り替えたほどだ。そんなプログラマーが、機械メーカーで見つかるはずがない。とはいえ、自分が言い出した社内ベンチャーだし、独立採算性だし、納期が遅れるとは口が裂けても言えない。そんなわけで、くだんのプロデューサー兼ディレクター兼 ・・・ の業務に「メインプログラマー」を新たに追加した。もちろん、文句は出ない。自分自身だから。

こうして、死ぬほど忙しくなったが、ジャンボジェット機を地上50mで操縦するようなもので、毎日がハラハラドキドキのアドベンチャー。ベンチャーって本当に面白いですね。こういう体験は若いときにしかできない。今やれば、間違いなく心臓発作なので。

ところが、意気込みはいいのだが、現実がついてこなかった。元々、ハード屋なので、ソフトはドライバ(ハードを制御するプログラム)しか書いたことがないのだ。ゲームのようなアプリケーションソフトは初めて。というわけで、30の手習い ・・・ シャレになりませんね。

しかも、脳は毎日の晩酌でアルコール漬け ・・・ 早い話が、アルコール液に脳がプカプカ浮いているようなもの。大丈夫かいな、と若いスタッフたちは疑惑の眼差しで見ていた。もちろん、一番の疑惑の目は自分自身だった。

そこで、週に2日、「休肝日」をつくることにした。もちろん、「肝臓」のためではなく、頭をスッキリさせるため。ビール大瓶2本だと、翌日、頭がボンヤリ、3本なら頭がズッキン、ズッキン。これでは、込み入ったプログラムは書けない。

その後、涙ぐましい努力を続けた結果 ・・・

酒を飲む日は金・土・日のみ、一晩につきビール中瓶2本までこぎつけた。もし、あのとき、メインプログラマーが辞めていなければ、今頃、アル中か肝硬変か、最悪、肝臓ガンで死んでいたかも ・・・ コワイ、コワイ。

ところが、そんな自慢話が吹き飛ぶような事件が起こった。

会社の定期健康診断で、「不整脈」が見つかったのである。

■不整脈

診断書には、小さく「上室性期外収縮」と書かれていた。ネットで調べると、心臓の波形に異常がある症状で、病気と言えないものから命に関わるものまであるという。どの記事にも、ストレスと酒とコーヒーはNGとあったので、とりあえず、酒を辞めることにした。

ただし、今回は酒量を減らすのではなく、完全に酒を断つ、つまり、断酒!

そして、その2日後 ・・・

知人が42歳で死んだ。死因は「心不全」だった。

このとき、初めて気付いた。心臓は一度止まったら終わりなのだと。よく考えると、コワイ話だ。手足を骨折すれば、それを支える筋肉は働くのをやめる。もちろん、それで死ぬことはない。ところが、心筋は一瞬も休むことなく働き続け、止まったら最後、そこで死ぬ。

だから ・・・

心臓が一時も休まないことが不思議なのだ。他の筋肉は休むのに、なぜ、心筋だけがノンストップなのだ?しかも、自分の意志とは関係なく(不随意筋)。もっとも、心臓が意志で動く臓器なら(随意筋)、寝ている間に心臓は止まってしまう。それはそれで困るわけだ。

そんなバカなことを考えているうちに、だんだん、不安になってきた。健康診断書には「要受診」とあったし、息を止めて耳を澄ませば、心臓の音が聞こえるような気がする(そんなわけがない)。

それに、胸のあたりが、なんとなくモヤモヤ ・・・ こりゃあ、ヤバイぞ、と不安のドミノが始まった。ネットによれば、こういうストレスも心臓によからぬ刺激を与え、不整脈を悪化させるのだという。
「こりゃあ、心臓に悪い」
とゼンゼン笑えないジョークを口にしながら、不安はつのる一方だった。

そして ・・・

断酒1ヶ月後、覚悟を決めて病院に行った。

■再検査

簡単な問診の後、検査のラッシュが始まった。

まずは、心電図の測定。次に、軽い運動をした後、もう一度、心電図。軽い運動というのは、3段のミニ階段の上り下りを繰り返す。これがけっこうな運動量で、前に検査をした男性は「ぜぇぜぇ」言っていた。毎日欠かさずウォーキングしていてよかった。息が切れることもなかったので。

その後、超音波検査。心臓に超音波をあてて、反射波で映像を作りだし、異常がないか確認する。ところが、心臓だけでなく、首筋や心臓周辺も検査している。不安になったので、その理由を聞いてみた。愛想のいい女医が言うには、「動脈硬化」を調べているのだという。

動脈硬化とは、血管が目詰まりをおこし、血の巡りが悪くなる症状。もし、血管が完全に詰まると、その先に血液がいかなくなる。結果、細胞は壊死(えし)する。それが脳でおこれば脳梗塞、心臓でおこれば心臓発作 ・・・ どっちにしろ最悪だ。もちろん、同時に起きる場合もあるが、そのときは、あきらめるしかない。もっとも、意識がないので「あきらめる」が可能かどうかわからないが。

検査はさらに続く。

両手両足の血圧測定(片手の測定より精度が高い)、さらに血液も採取された。血糖値など循環器系のデータをとるためである。

一通り検査が終わると、最後に、一日分の心電図を取ると言う。

一日分の心電図?

丸一日、ベッドで寝てなきゃいけないの?

一瞬、気が滅入ったが、そうではないらしい。「心電図ホルダ」という小型電子装置を身体にセットして、心電図を自動記録するという。入浴したり、プールで泳いだりしない限り、普通に生活していてOK(電子機器を水につけてはいけません)。

というわけで、身体のあちこちにセンサーを接続され、無気味な電子機器を腰に巻き付けられ、不細工なサイボーグの出来上がり。スタートレックの機械生命体「ボーグ」を思いだし、サイバーパンクな気分で一人喜んでいた。ところが、風呂には入れないし、寝返りを打つのも一苦労。すぐに嫌になった。

こうして、風呂に入ることもなく、プールで泳ぐこともなく、無事一日がすぎた。

翌日の夕方、病院にホルダーを返しに行く。すると、30歳ぐらいの頭の良さそうな看護婦さんがホルダーをはずしながら、こう言った。

「循環器科の先生は週一回しか来られないんです。それに今回は連休も重なるので、3週間後に来てください」

3週間も放置?

ちょっと不安になったので、

「3週間の間に、心停止なんてことはないでしょうね?」

と問いかけると、看護婦さんは、

「大丈夫ですよ、たぶん」

と答えた。

たぶん!?

真意を読もうと顔をじっと見つめていると、3秒ぐらして、看護婦さんはニコッと笑った。こっちも笑い返そうとしたが、顔がこわばって笑えない。それを見て、看護婦さんは思いっきり笑った。

■検査結果

3週間後、病院に行くと、先生が心電図を見せてくれた。周期的な波形の合間に、ノイズのようなパルスが混じっている。先生が言うには、これが不整脈だという。

それを見て、昔、電子回路の設計をやっていた頃を思い出した。心電図が、電子回路の波形とそっくりなのだ。オシロスコープという測定器で電子回路の波形をみると、本来の信号にくわえ、ギザギザ波形のノイズがのっている。ただ、電子回路のノイズは、たいてい、電源やチップが出すもので、それ自体異常ではない。ただし中には、重大な欠陥が潜んでいることもある。その場合、原因を特定して、除去する必要がある。

というわけで、心電図の波形と電子回路の波形がいっしょくたになり、不安はムクムク膨れあがった。

心臓にノイズ

原因は何?

電源やチップのたぐいのノイズか、それとも、もっと深刻なものか?

心配になったので、先生に聞いてみた。

「先生、これ、まずいですか?」

「重大な原因は見つかりませんでした。だから ・・・ (3秒ほど考え込んで) ・・・ 命に別状ないでしょう、たぶん」

また、「たぶん」!

次に、先生は血液検査の結果をみて、驚いた顔をした。

「最初の健康診断に比べ、数値が良くなっていますね。何かしましたか?」

「1ヶ月間、アルコールを断っています」と胸を張って答えた。

「ん~、頑張られたんですねー」

そりゃあ、長年続けた晩酌を1ヶ月も断っているんだから、改善しないと困りますよ。ちなみに、断酒前と断酒後の数値↓(ピンクは異常値)

項目 断酒前 断酒後 正常値
LDLコレステール 162 124 70~139(mg/dl)
中性脂肪 149 103 30~149(mg/dl)
血糖値 125 108 69~109(mg/dl)
動脈の硬さの程度 7.8 ~9.0
動脈の詰まりの程度 1.14 0.9~1.3
BMI(肥満度) 23.4 22.6 18.5~24.9

コレステロール、中性脂肪、血糖値が劇的に改善している。先生が言うには、改善したからいいものの、不整脈より、「LDLコレステロール=162」の方がずっと深刻だという。酒を辞めて本当によかった ・・・

それはさておき、肝心の不整脈だが、診断書には ・・・

「上室性及び心室性期外収縮。上記を診断するが、当面、生活指導のみで、治療は必要としないと考えられる。また、生活制限も必要ないと判断する」

そこで、すっかり安心して、

「先生、ネットでは酒もコーヒーもダメだとあったんですが、全然大丈夫ですね」

「いや、飲まないほうがいいですよ。飲んだら、すぐにどうこうなるものでもないですが」

どっちやねん?

心臓を刺激するものはやめた方がいいです」

でも、診断書には「生活制限も必要ない」とあるけど ・・・

「先生、心臓を刺激するのがダメなら、運動もダメなんでしょうか?」

「いや、あなたの場合、運動時に不整脈が消えるので、むしろ、やった方がいいでしょう」

よう、わからん。

そして、最後に気になることを言われた。

「ホルダーの心電図結果だけみれば問題はないんですが、コンピュータが一部不整脈を見逃しているんですよ」

え?

先生は、心電図の波形の一部分を指さしながら ・・・

「こことか、こことかね ・・・ 小さい不整脈をコンピュータが見逃しているんですよ。それに、それを除いても不整脈は1日に2500発で、出現率は2%。決して少なくないですよ」

■禁酒の本当の理由

こりゃあ、安心しないほうがいいぞ、と直感した。そうでなくても、最近、知人が心不全で死んでいるんだから。それに、健康な人でも心室細動(心筋の痙攣)は普通に起こりうる。そのときは、生か死か、1分を争う。

そこで ・・・

疑わしきは罰する。一大決心し、酒を完全に断つことにした。つまり、禁酒ではなく断酒!

元々、ビールが大好きで、日本酒、ワイン、スコッチ、ブランデー、コニャックもOK、最近はバーボンに凝っていた。酒そのものが好きだし、酔っぱらってワイワイガヤガヤも大好き。そんな人生の楽しみを断ち切ったわけだ。何よりも辛いのは、得意先との会食。ノンアルコールビールで相手をするので、ゼンゼン楽しくない。

だいたい、酒をやめるなんて、人生の楽しみを半分捨てたようなものではないか。

それに ・・・

このまま酒を飲み続けても、心停止にはならないと思っている。普段は禁酒だし、週に一度や二度酒を飲んでも、どおってことはないだろうから。

ではなぜ、断酒を7ヶ月も続けているのか?

本当の理由は「心臓」ではない ・・・ 「」なのだ。

《つづく》

by R.B

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