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週刊スモールトーク (第214話) プレステ4 (1)~PS3からの進化度~

カテゴリ : 娯楽科学

2013.07.07

プレステ4 (1)~PS3からの進化度~

■プレステ3からプレステ4へ

2013年6月11日、米ロサンゼルス、コンピュータゲームの見本市E3で、プレイステーション4」がお目見えした。ソニー・コンピュータエンタイテイメント(SCE)の次世代の据え置き型ゲーム機である。あと、ついでにマイクロソフトのXboxOneも・・・

旧機種のプレステ3が発売されたのは、2006年11月11日。あれからもう7年も経つわけだ。あのときは、ソニーらしい、ドキドキするテクノロジーに惹かれ、プレステ3を熱く語ったものだ。

実際、プレステ3は画期的なコンピュータだった。グラフィック性能が高いからではない。そもそもゲーム機なんだし、時代とともにスペックがあがるのはあたりまえ。

じゃあ、なぜプレステ3は画期的だったのか?

ゲームを超える新しいコンピューティングを予感させたから。

その予感の震源は「CPU」にあった。

CPUとはコンピュータの心臓部で、自動車でいえばエンジン、他にも大事なものはたくさんあるけど、これがないと始まらない。ところが、そんな大事な部品にもかかわらず、ゲーム機のCPUといえば、有り物に手を加えたカスタマイズ品がほとんど(よく考えると全部)。

ではなぜ、そうなるのか?

一から開発すると、莫大な費用がかかるから。ゲーム機のCPUや、パソコンの汎用CPUなら軽く数千億円はいくだろう。だから、インテルやAMDのようなCPU専業メーカーじゃないとムリ。

ところが・・・

ソニー(SCE)は、あえて、CPUを一から設計した。それが、オリジナルCPU「Cell(セル)」である。とはいえ、ゲーム機市場だけでは元が取れない。そこで、東芝と提携して、デジタル家電にも搭載しようと目論んだのである。

じつは、この「デジタル家電」というのがクセモノで、少し前の3Dテレビみたいに、利益享受者だけで花火を打ち上げて、大騒ぎしたあげく、いつの間にかフェードアウトしてしまった。ところが、このインチキネタに食いついたのがソニーの出井伸之(元)社長だった。
「ソニーはデジタル家電の国際標準規格を提唱する」
とぶちあげたのである。

この人は、ソニーのような革新技術、革新製品を十八番にする企業には珍しく、口だけの人物だった。うまいことを言って、派手な演出で存在感をアピールし、自分が出来物であるかのように周囲に思い込ませ、長期政権を目論んだのである。社長がそんな風だから、いつの間にかソニーは凋落してしまった。さらに、2005年、業績不振で責任をとらされると、最悪の後継者人事でしめくくった。ソニーに何の愛着もない人物を社長に据え、プレイステーションの生みの親で、ソニーらしい思いっきりのよさを持った久夛良木健の芽を摘んだのである。

世の中には2種類の有名人がいる。

見た目は地味だが、素晴らしい実績を残す人。ロクな実績がなく、弊害ばかり目立つのに、なぜか出来物に見える人。後者がリーダーなら、会社も社員もたまらない。

話をもどそう。

というわけで、Cellのデジタル家電ビジネスはうまくいかなかった。そもそも、「デジタル家電」とは、家電製品にコンピュータを積んでネットワーク化しようみたいな、雲をつかむような話で、それ以前に「情報家電」という似たような話があって、すでに失敗している。

だから、そんなものにのっかって「国際標準規格」なんて吹くのは、ペテン師か詐欺師か(同じかな?)、よほどのバカだろう。それがベンチャーの社長なら、面白いやっちゃで済むのだが、ソニーの社長ともなると、迷惑度は超弩級だ。実際、出井社長の時代から、ソニーは毎年早期退職を募集している。社員にしてみれば、カッコつけるヒマがあったら、雇用を守れ、と言いたいところだろう。

さらに・・・

デジタル家電と目される製品はすでに安価な専用CPU(ワンチップマイコン)が普及していて、わざわざCellに置き換える必要がなかったのである。

しかし・・・

「ゲーム機専用のCPU」という久夛良木健の心意気は感動ものだ。この人は、商人と技術者を足して2倍したような革命家で、自分の夢に真っ直ぐである。あのインテルが支配する巨大なCPU市場に打って出ようというのだから、なんとも壮大な野望ではないか!

それに、純粋に技術視点でみても、Cellはなかなか魅力的だ。汎用コンピュータ、さらに、3Dグラフィックに長けたゲーム用コンピュータを両立させようというのだから。アイデアそのものは「まんま発想」なのだが、それを形にするところが凄い。

その結果、Cellは、1個のメインプロセッサー「PPE」と、8個のサブプロセッサ「SPE」からなるマルチコアCPUとなった。見たこともない、異形のアーキテクチャ(構造)である。思わず、プログラマーゴコロが騒ぎ、年甲斐もなく、プレステ3でプログラムを書いてみたいと思ったものだ(今でも)。

ここで、「マルチコア」とは、読んで字のごとく、「コア」が「マルチ(複数)」のCPUをいう。「コア」とはプロセッサのメイン回路のことなので、マルチコアは1チップに複数のプロセッサが載ったCPUである。とはいえ、それ自体、ハイテクでもなんでもない。インテルやAMDなど、パソコンでおなじみの汎用CPUは今ではみんなマルチコアだから。ただし、汎用CPUの場合、積んでいるのは同じ種類のプロセッサで、Cellのように異種のプロセッサを積んでいるわけではない。

ところで、それのどこが凄いのか?

浮動小数点演算用のプロセッサ「SPE」を8基も積んでいること。

だから?

「小数」の計算がメチャクチャ速い

計算が速いからどうした、などと言ってはいけない。とてつもない可能性を秘めているのだ。

■万能のシミュレーション

たとえば、天気予報。昔は、予報官のカンと経験に頼ったものだが、今ではちゃんと計算して予報している。つまり、「数値予報」。

ところで、その「数値予報」だが、計算量がハンパではない。

原理をみれば、一目瞭然・・・

1.日本全土の大気空間を小さな格子(といっても10km四方)に分割する。

2.ある時間におけるすべての格子の大気情報を観測データから求める。

3.このデータに「物理の法則」を適用し、未来の大気情報を計算する。

※大気情報=気圧・気温・湿度・風の方向と強さ。

この未来の大気情報がそのまま天気予報になるわけだ。

この計算を行うプログラムは「数値予報モデル」と呼ばれている。ここでいう「モデル」とは、目鼻立ちクッキリの9等身美人ではない。問題を解くにあたって、問題を抽象化し、次に、コンピュータで計算可能な手順にまで落とし込んだものだ。簡単にいえば、問題解決の具体的な方法論である。

そして、ここで使用されるハードウェアがスーパーコンピュータだ。

計算量が膨大なので、並のコンピュータでは何十年、何百年かかるわからない。明日の天気予報は100年後に・・・ご冗談でしょう。

さて、ここで、「数値予報とコンピューター」の話から、ある重要な法則が導かれる。

単純な数値計算でも、計算力が一定値以下なら、計算そのものが無意味になる。

逆に考えると・・・

処理内容が同じでも、処理速度が格段に速いなら、「新しい使い道」が生まれるということ。たとえ、それが地味な小数計算であったとしても。スーパーコンピュータという「ナンバークランチャー(数喰いマシン)」が登場して、初めて天気予報が可能になったように。

ところで、なぜ、小数にこだわるか?

「自然界=現実」を相手にした科学技術計算では、「割り切れる」ことがほとんどないから。つまり、ホンモノの「数」というのは、整数ではなく小数なのである。いや、正確には少数でも「すべての数」を表すことはできない。

たとえば、数(大きさ)を整数で表すと、
1、2、3・・・

でも、「1」と「2」の間には、

1.、1.2、1.3・・・1.9

さらに、「1.1」と「1.2」の間にも、

1.11、1.12、1.13・・・1.19

つまり、整数では「1」の次は「2」だが、本当は、「1」と「2」の間には無数の数が存在するわけだ。

でも、日常生活なら整数でいけるのでは?

たしかに。買い物の代金は基本は整数でまかなえる。ところが、消費税が入った瞬間、めんどうくさい少数の世界に引きずり込まれる。さて、退屈な「数」談義はここでおしまい。本題にもどろう。

ここで、新たな希望(妄想?)が湧いてくる。ゲーム機やパソコン程度のコンピュータでも、数値計算がメチャクチャ速ければ、スーパーコンピュータの真似事ができるのではないか?天気予報とは言わないまでも。

実際、この妄想?を実現しようとするマニアがいる。

今、ミドルクラス以上のデスクトップパソコンには3Dグラフィック処理専用のビデオカードが搭載されている。このカードがあるとなしでは、3Dグラフィック描画速度は桁違いだ。ところで、この「3Dグラフィック処理」だが、じつは「小数計算の塊」なのである。

Poli_Galleonゲームの世界では、すべての物体が「ポリゴン」とよばれる三角形の断片で構成されている(図を参照)。
さらに、それぞれのポリゴンは3つの頂点座標(x、y、z)によって、形状と位置が決定される。

そのため、物体の移動、回転、拡大縮小は、物体を構成する各ポリゴンの3頂点座標の計算に他ならない。つまり、3Dグラフィック処理とは、小数計算の塊なのである。

というわけで、ビデオカードは「小数計算」が得意中の得意。そこで、このビデオカードを何枚もパソコンに差し込んで、自作スパコンを作ろうというわけだ。なんとも夢のある話ではないか?何に使うかはさておき。

一方、グラフィックチップメーカーのNVIDIA社は「Tesla」の名で、このアイデアを商品化している。言ってしまえば、なんちゃってスパコンなのだが、正式名称は「デスクトップスパコン」ということになっている。それはさておき、マニアが突破口を切り開き、企業がそれを普及させる、絵に描いたような技術革新ではないか。ちなみに、このマニアックなテクノロジーは「GPGPU」とよばれている。

話をプレステ3にもどそう。

忘れてはいけない。プレステ3も、3Dグラフィックが大得意なのだ。つまり、小数計算に長けている。それもそのはず、小数計算専用の浮動小数点演算プロセッサ「SPE」を8個も搭載しているのだから(実際に使えるのは7個)。

しかも、プレステ3の方がパソコンよりずっと安い。プログラミングが難しいのは困ったものだが、それをさておけば、プレステ3スパコンがベストチョイスかもしれない。実際、アメリカ空軍がスーパーコンピュータを作るため、プレステ3を2200台購入したらしい。

では、自作スパコンや、プレステ3スパコンで、一体何ができるのか?

天気予報はムリにしても、もっと簡単な「シミュレーション」なら・・・

ここでいうシミュレーションとは「模擬実験」のことである。

実物模型をこさえて実験する方法もあるが、コンピュータでやる方が手間暇がかからない。さらに、入力条件をかえるだけで、あらゆる場合を「計算」だけで実験することできる。しかも、コンピュータお得意の3D描画機能を使えば、様々な方法で「見える化」できる。というわけで、今ではシミュレーションといえば、ほぼコンピュータシミュレーションをさしている。

具体例を挙げると・・・

①フライトシミュレーション

②都市開発シミュレーション

③航空機の風洞シミュレーション

④核爆発シミュレーション

ちなみに、プレステ3単体で可能なのは、①と②ぐらいで、③と④クラスになると、本物のスーパーコンピュータでないとムリ。

では、次世代ゲーム機「プレステ4」なら?

①と②まで。

プレステ3といっしょじゃん!

じつは、プレステ4は小数の計算能力、3Dグラフィック能力ともに、プレステ3の5~10倍の能力をもっている。

それでも、いっしょ?

イエス!

結局のところ、スペックが一桁上がった程度では、「新しい使い道」は生まれないのだ。せいぜい、グラフィックが綺麗になるとか、CGアニメーションが滑らかに動くとか?

次世代ゲーム機といいながら、えらく地味じゃないか?

たしかに・・・

でも、プレステ4は、基本的な部分も、ちゃんとパワーアップしている。

・メインメモリ容量:256MB→8GB(31倍)

・ハードディスク容量:80GB→500GB(6倍)

とくに、「メモリ31倍」は大きい。これで、ゲームのロード時間は短くなるし、シーンの切替えも速くなるし、シミュレーション能力もアップすることだろう(たぶん)。

やっぱり地味だわ・・・

《つづく》

by R.B

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