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週刊スモールトーク (第207話) ナチスのサブカルチャーⅡ~驚異の科学力~

カテゴリ : 娯楽思想

2013.05.19

ナチスのサブカルチャーⅡ~驚異の科学力~

■映画「リディック」

超人ロード・マーシャル率いる謎のカルト種族ネクロモンガーは、銀河系の征服をもくろんでいた。無数の艦船からなる宇宙艦隊を率い、星々を破壊し、占領していく。星が降伏すると、住民は一ヶ所に集められ、こう宣告される ・・・

この宇宙は、命が極めて不自然な状態で存在する。多種多様な人類が無秩序に増え続けているが、これは大いなる間違いだ。我々の目的はその間違いを正すことにある。

死か改宗か?

新たな宇宙のために、ひざまずき、罪の浄化を求めるのだ!

映画「リディック」の1シーンである。2004年米国で公開されたSF映画で、制作費は100億円と超弩級だが、興行成績はつつましいものだった。ただ、脚本は悪くないし、役者もまあまあ、映像もなかなか綺麗。それに独特の世界観もある。じゃあ、なぜハズレたのだ?

ネタが暗い ・・・

ネクロモンガーは死を愛する者。征服された種族は頭にチップを埋め込まれて改宗するか、さもなくば死あるのみ。とまぁ、救いようのない世界。

とはいえ、ヒーローのリディックも超人で、ネクロモンガーの悪巧みを阻止しようと立ちあがる。ただし、ガンガンいこうぜ的な胸のすくような大冒険活劇ではない。

死を愛する者 ・・・ 種族絶滅 ・・・ 改宗か死か ・・・ 銀河系征服 ・・・ と暗い暗い物語が延々と続く。

どう考えても一般ウケはムリ、と思ったものだが、一つ気づいたことがある。

映画「リディック」の世界は、地球の1940年代、ナチスがヨーロッパを席巻した世界そのものではないか?

超人的能力を有し、世界征服に取り憑かれたロード・マーシャルはアドルフ・ヒトラー、洗脳と訓練で無敵化したネクロモンガーはナチス。

さらに ・・・

ネクロモンガーは多種多様な種族からなる世界を否定し、改宗者しか生き残れない「新しい宇宙」を目指し、ナチスはアーリア人を頂点とする人種差別社会「新しいヨーロッパ」をもくろんだ。

しかも ・・・

ネクロモンガーにはただならぬオカルトの妖気が漂っている。指導者ロード・マーシャルは、超人以外生きて帰れない約束の地「アンダー・ヴァース」からの唯一の生還者なのだ。一方、「ナチス=オカルト」も筋金入りだ。指導者ヒトラーと主力のドイツ国防軍はシロだが(たぶん)、副総統のヘスをはじめ、多くのナチス幹部が「トゥーレ協会」なる怪しい秘密結社の会員だったのだから。

というわけで、ネクロモンガーもナチスもサブカルチャー、そして、やることなすこと相似形、つまり、お仲間。

ひょっとして、映画「リディック」はナチスをイメージして作られたのかな?

■ナチスのサブカルチャー

ナチスといえば、オカルト、超能力、超兵器、空飛ぶ円盤、世界征服 ・・・ とサブカルチャーのバーゲンセールだ。

でも、さすがに萌えアニメはないでしょ?

あります!

アニメ「ガールズ&パンツァー」がそれ。戦車を使った「戦車道」が、華道や茶道と並ぶ大和なでしこのたしなみとされる世界のお話。かわいい女子高校生たちが、戦車を駆使して戦う萌え系ミリタリーだ。命を張った男の戦いをなめているのか、と憤慨してはいけない。肩ひじ張った、意気込みと見てくれだけのミリタリー物より、はるかにリアルなのだから。

ナチス・ドイツのIV号戦車など、戦車は細部にいたるまで忠実に再現されている。しかも、戦車の始動、走行、停止、砲撃などの挙動が非常にリアル。少女達が立案する作戦もホンモノだ。セオリーにのっとり、理にかなっている。これほどリアルな戦車戦は見たことがない(映画・ドラマも含め)。

ぬる~い萌えと、切った張ったの戦車戦のミスマッチが、奇妙で新鮮な世界を作りあげている。初めは寝転がって観ていたが、5分後には正座していた。半分ウソだが、釘づけになったことは事実だ(「萌え」に惹かれたわけではないです)。

というわけで、ナチスはサブカルチャーの王様

だから、ナチスはマニアを惹きつけてやまないのである。そして、このナチスのサブカルを根っこで増幅しているのが、ナチスの歴史がもつ「特異性」だ。

■ナチスの歴史

1919年1月、工具職人のアントン・ドレクスラーが、ミュンヘンでドイツ労働者党を創設した。酒場で集会をやるような小さな極右政党だったが、その年の9月、アドルフ・ヒトラーなる人物が入党し、党は一変する。

ヒトラーには、聴衆をクギ付けにする魔力があり、問題の本質を瞬時に見抜き、解決する力も備わっていた。トンビ(鳶)の集団にタカ(鷹)がまぎれこんだようなものだ。ドイツ労働者党は一気にグレードアップし、名称もドイツ労働者党から「国家社会主義ドイツ労働者党」に改称された。これがナチスである。以後、ナチスはドイツの政権を奪取するべく邁進する。この時点では、見果てぬ夢で終わるはずだったのだが。

1923年11月、ヒトラーは、手っ取り早くクーデターにうってでる。ところが、詰めが甘く失敗(ミュンヘン一揆)。その2日後、ヒトラーは逮捕され、裁判にかけられた。判決は5年の実刑で、そのまま監獄へ送られた。一時は、自殺を考えるほど落ち込んだが、結局、ヒトラーはこの失敗を肥やしにした。クーデターの罪を一身に引き受け、いさぎよい指導者ぶりをアピールし、全国区の有名人にのし上がったのである。さらに、監獄の中で「我が闘争」を口述し、理念と戦略を練り上げ、来るべき日に備えた。

ヒトラーは、出獄すると、すぐにナチスの再建に着手した。内部を固めると、つぎに選挙による合法的な政権獲得を目指した。先のクーデターで、非合法的な手段に懲りたのである。ナチスの選挙戦は、悪魔のように細心で、天使のように大胆だった。地方選挙区にまで目配りする緻密な選挙戦を展開し、議席がのびると、派手なPR、史上初の飛行機遊説も行った。

ヒトラーの演説は、分かりやすく、詩的で、気分が高揚するように仕組まれている。さらにビジュアルも含め、演説時空そのものが高度に統合されていた。ナチスのプロパガンダ映画「意志の勝利」がそれを証明している。この映画はドイツの女流映画監督レニ・リーフェンシュタールによって制作されたが、芸術性が高く、それまでの記録映画とは一線を画す。ちなみに、この映画はヒトラーの飛行機遊説から始まるが、リーフェンシュタールはこのカットに執着し、ヒトラーのリテイクすらこばんだという。

つまり、ナチスは、テキスト、音、映像、すべてのメディアを駆使して、自らを正当化、美化したのである。

その結果 ・・・

1932年7月の選挙でナチスは第一党に、翌年1月には党首ヒトラーが首相に就任した。さらに、1年後の1934年8月には、ヒトラーは首相と大統領を兼任する絶対権力者「総統(フューラー)」にのぼりつめた。ビアホールでくだをまいていた数人の酔っぱらい集団が、わずか15年で、ドイツの政権を手に入れたのである。時代と環境はあるだろうが、ヒトラーの存在なくしてナチスの歴史はありえない。

全権を握ったヒトラーは、1935年5月、ヴェルサイユ条約を無視し、再軍備を宣言した。さらに、翌年3月、ヴェルサイユ条約で「非武装」と定められたラインラントに軍を進駐させる。あからさまな挑発行為で、ラインラントに隣接するフランス、宿敵のイギリスが猛反発すると思われた。ところが、見て見ぬふり ・・・ フランス、イギリスは第一次世界大戦のトラウマがあり、面倒に巻きこまれたくなかったのである。

イギリス・フランスが意気地がないことを見て取ると、ヒトラーは、次にチェコスロバキアのズデーテン地方に手を掛けた。今度は軍は不要、舌先三寸で奪いとったのである。これ以上領土要求はしませんというヒトラーの言葉を、イギリスとフランスが真に受けたのだ(ミュンヘン会談)。ところが、その舌の根もかわぬうちに、ヒトラーはチェコスロバキア全土を併合してしまった。

そして、同年9月1日、ドイツ軍はポーランドに侵攻した。腰の重いイギリスとフランスも、さすがに、ドイツに宣戦布告せざるをえなかった。両国ともチェコスロヴァキアとポーランドに対し、安全保障を確約していたからである。こうして、第二次世界大戦が始まった。ドイツ軍は瞬く間に西ヨーロッパを征服、1941年6月22日にはソビエト連邦に侵攻した。その数ヶ月後、ナチス・ドイツは、フランスからモスクワ近郊に至るまでの広大なユーラシア中枢部を征服したのである。

地政学の父、ハルフォード・マッキンダーは著書でこう書いている。

「東ヨーロッパを支配するものがハートランドを支配し、ハートランドを支配するものがユーラシア大陸を支配し、ユーラシア大陸を支配するものが世界を支配する」

「ハートランド」とはユーラシア大陸の中枢部をさすが、ナチスはそこにクサビを打ち込んだのである。このままいけば、ナチスがユーラシア大陸、さらには世界をも支配する!?

ところが ・・・

米国が参戦し、状況は一変した。米国から膨大な軍需物資を供与されたソ連は息を吹き返し、西方では英米軍がフランスに上陸した。ドイツは西の英米軍、東のソ連軍と対峙し、最悪の「二正面作戦」を強いられたのである。早い話が、はさみうち。

1945年4月30日、ヒトラーは官邸地下壕において自殺。5月2日、首都 ベルリンがソ連軍に占領され、 5月8日、ドイツは無条件降伏した。

ナチスが結党して、政権を奪取し、ヨーロッパを征服し、ハートランドにリーチをかけて、滅亡するまで25年。まさに、疾風怒濤の時代だった。

■失われたナチスの歴史

しかし、ナチスの歴史の特異性は、短くも儚い(はかない)疾風怒濤にあるのではない。

神聖ローマ帝国に始まるドイツの歴史の中で、ナチス・ドイツの歴史だけが分断されていること。

その理由は?

戦後、東西ドイツがナチスを全面否定したから。つまり、ナチスの歴史は「ナチス・ドイツ」の歴史であって、「ドイツ」の歴史ではない!

具体的に説明しよう。

たとえば、ドイツといっしょに戦ったイタリア。

ヒトラーの盟友ムッソリーニの末路は哀れなものだった。愛人とともに、逆さ十字架刑に科せられ、晒し者にされたのである。イタリアでも、ファシズムは完全に否定されたわけだ。ところが、最近、イタリアでムッソリーニが人気が上昇している。もともと、清廉潔癖なところがあり、私利私欲に走ったわけではない。ムッソリーニもファシスト党も、イタリアのためを思ってやったこと ・・・ と見直されているわけだ。そういえば、今のイタリア政界は、腐敗と醜聞でメディアを賑わせている。

では、もう一つの枢軸国、日本はどうだろう?

いまだに、戦犯をまつる靖国神社に、首相や閣僚が参拝するしないでもめている。つまり、大日本帝国は70年前に崩壊したが、あの時代が完全に否定されたわけではない。大日本帝国と今の日本は根っこでつながっているのである。

ころが ・・・

ドイツの「ナチス」に対する処断は徹底している。現在のドイツでは、公の場でナチスを称賛することはもちろん、ハーケンクロイツを掲げることもできない。道徳以前に、法で処罰されるのだから。

つまり ・・・

「ナチスの歴史」は「ドイツの歴史」から異物として摘出され、悪しき伝説として形骸化した。それが、ナチスが生んだ悲劇とナチス自身の滅びゆく悲劇で神話化され、自らが放つサブカルパワーとあいまって、マニアの琴線に響くのである。ナチスの特異性の本質はここにある。

じつは、キリスト教も、宗教裁判、魔女狩り、異端抹殺 ・・・ 血なまぐさい歴史はいくらでもある。とはいえ、根が宗教なので、及ぶ範囲は精神世界に限られている。

ところが ・・・

ナチスは、精神世界にくわえ、現実としての国家体制、科学技術がある。つまり、目に見える物理世界にまで力が及んでいるのだ。

■ナチスの超兵器

たとえば、ナチス・ドイツの科学力は10年先をいっていた。20世紀前半、物理、化学、医学の分野では世界ダントツで、ハイテク、特に兵器技術においては、時代を凌駕していた。

空では ・・・

レシプロ戦闘機が、高度数千メートルを得意げに飛び回っていた頃、ナチスのV2ロケットは成層圏を突き抜け、高度90キロメートルに達していた。現在の大陸間弾道ミサイルの原型である。まさに、10年先を行く超兵器だった(50年かも)。

陸では ・・・

史上最大の「80センチ列車砲」。ドイツの名門クルップ社が開発した巨砲で、グスタフ砲とドーラ砲の2門が製造された。総重量は1350トン、全長は42.9m、重すぎてデカすぎて、列車でしか運べない。口径は80センチ(戦艦大和は46センチ)、砲身長は33m、最大射程48kmというモンスター砲だ。砲身にあわせ、砲弾もハンパではない。全長3.6m、重量7.1トンと、対戦車砲(日本では速射砲)の本体よりデカい。破壊力も超弩級で、7mの鉄筋コンクリートを撃ち抜くことができた。

1942年6月のセバストポリ要塞攻囲戦で、グスタフ砲が初めて実戦投入された。砲弾の着弾点には直径30mのクレータができたという。まるで、隕石衝突だ。もちろん、戦果は絶大で、セバストポリ要塞の地下30mを突き抜け、弾薬貯蔵庫で炸裂し、大爆発を起こしたという。

じつは、1453年、オスマン帝国によるコンスタンティノープル攻囲戦でも、巨砲が使われている。中世最大と言われるウルバン砲だ。ところが砲身長は6m。ナチスの列車砲からみれば、オモチャかミニチュア。

そんなこんなで、ナチスの超兵器はスペックうんぬん以前に、とにかく、デカい

「デカい」ついでに、もう一つ。ナチス・ドイツといえば、やはり戦車。日本の将校がドイツのタイガー戦車をみて、
「こりゃあ、2階建ての戦車ですね」
と言ったとか言わないとか。ところが、その4倍デカイ戦車もある。今だに、史上最大のタイトルをホールドしているのだが、名称がふるっている ・・・?マウス(ネズミ)。人を食ったようなネーミングだが、設計者は名車「ポルシェ」の父フェルディナント・ポルシェ博士。

ここで、その巨大ぶりをソ連が誇る重戦車「T-34」 とくらべてみよう。

【総重量】
マウス:188トン
T-34 : 32トン

【主砲の口径】
マウス:150mm
T-34 : 85mm

マウスは、T34の「6倍」重く、主砲の口径は「2倍」!

ちゃんと動くのかな、と疑いたくなるようなスペックだが、動くには動いたらしい。ただし、足回りが車重に耐えきれず、故障しまくりだったという。ちなみに、マウスは、発電機で電気をおこし、モーターで駆動した。つまり、ガソリンエンジンとモーターのハイブリッド!21世紀のプリウスなみにハイテクというわけだ。厳密には同じではないが ・・・ まぁ、些末な理屈はさておき、70年先をいっていた(ことにしよう)。

ナチスの超科学力はこれにとどまらない。

なんと、空飛ぶ円盤まで開発していたというのだ!?

ウソか本当か、まぁ、ウソだろうが、もし、本当ならナチスの科学力は500年先をいっていたわけだ!というわけで、ナチスの驚異の科学力は、ナチスのサブカルチャーに彩りを添えている。

《つづく》

参考文献:
・ヒトラーと第三帝国 (地図で読む世界の歴史) リチャード オウヴァリー (原著), 永井 清彦 (翻訳), 秀岡 尚子 (翻訳), 牧人舎 (翻訳) 河出書房新社

by R.B

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