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週刊スモールトーク (第202話) アイアン・スカイⅡ~電撃隕石作戦~

カテゴリ : 娯楽

2013.04.14

アイアン・スカイⅡ~電撃隕石作戦~

■月面ナチス・コスプレ

自己中の月面ナチス親衛隊准将クラウス、可愛いけどだまされやすい地球学者レナーテ、人体実験で黒人から白人に変えられた宇宙飛行士ジェームズ ・・・ この3人組が地球に着いて、最初にやったのが、自動車泥棒だった。月面ナチスの「空飛ぶ円盤」でニューヨークをうろつくわけにはいかないので。

クラウスが、わざわざジェームズを白人に変えて、地球に連れてきたのは、ジェームズが米国大統領とコネがあると言ったから。そこで、クラウスは、ジェームズから大統領の選挙責任者ヴィヴィアンの存在を聞き出し、用済みになったジェームズを車から放り出した。

その後、クラウスは盗んだ車でヴィヴィアンを捜し出し、拉致する。ところが、ヴィヴィアンは脳線がキレたキャリアウーマンで、逆にクラウスを怒鳴りあげ、罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせかける。とはいえ、さすがはキャリアウーマン、お得意の職業眼で彼の「異常さ」に気がついた。2mもあるマッチョな体躯、無慈悲な面構え、奇抜な制服(ナチスの軍服)。ヴィヴィアンは閃いた。このおかしな連中、大統領戦のキャンペーンに使えるかも?

ヴィヴィアンは、クラウスとレナーテに一見ナチス風だが、微妙に違う軍服を着せて、大統領に会わせることにした。怪訝そうな顔の大統領の前で、クラウス&レナーテのプレゼンが始まる。ワグナーの楽曲を蓄音機で流しながら、ミニスカ&ナチスコスプレのレナーテが、力を込めて演説する ・・・

国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)は人民の党です。
我々は病んだ世界を治す医者です。
弱った世界にパワーをもたらす者、
・・・
母親と父親から受け継いだのはあふれる愛情と勇気、
信仰と科学の橋渡しにもなりましょう。

何のことだかサッパリだが、(サラ・ペイリン似の)大統領の目がキラリと輝いた。こりゃあ、いける!すぐに、レナーテは大統領演説のライターに採用された。さすがはアメリカ、実力主義の国だ。ナチスだろうが、月生まれだろうが、学歴不問、出自不問。

レナーテの原稿をもとに、米国大統領は国民にむかって語りかける ・・・

責任をもって子供たちを導きましょう。
かつて我々の父も、そのまた父もそうしてくれたように。
我々の心は一つ、
揺らぐことのない確固たる信念、
我々は無敵、何者をも恐れることはない。
なぜなら、真実が我々を結びつけるから。

響きはいいが内容はサッパリ。元々、欧米人の演説はこの傾向が強いのだが。

3ヶ月後、クラウスとレナーテは、大統領選挙キャンペーンのスタッフとして働いていた。そんなある日、レナーテは偶然、ジェームズを見つける。ジョームズは、ホームレスに身をやつし、

「MOON NAZIS ARE COMMING!(月面ナチスが攻めてくる)」

と書かれたプラカードをかかげ、必死に訴えていた。

ジェームズ:「月からナチスが攻めてくるんだ!
本当だってば。
いいか、オレは月に行ったんだ。
やつらの基地があるのをこの目で見たんだ。
あいつら、地球に攻めてくるつもりだ。
なあ、話を聞いてくれ!」

誰も聞いてくれないだろう。

■チャップリンの独裁者

再会を果たしたレナーテとジェームズは、偶然、映画「チャップリンの独裁者」の看板を見つける。レナーテはジェームズを無理矢理誘い、映画を観ることに。レナーテは、この映画が大好きなのだ。偉大なるヒトラー総統の愛と知性が世界を包み込む様を、わずか10分間で描いた名作、と教え込まれていたから。

2時間後、2人が映画館から出てくる ・・・

ジェームズ:「ふー、まったくくだらねぇ」 (チャップリンの映画をけなしている)

レナーテ :「こんなに長い映画だったのね」 (短編だと思いこんでいた)

ジェームズ:「あー、編集が甘いよな」 (またチャップリンをけなしている)

レナーテ :「総統閣下をバカにしてた」 (ヒトラーを偉大だと思いこんでいた)

ジェームズ:「あんた本当はナチのことをちっともわかっていないんだろう」

こうして、レナーテは真実を知ることに。月面基地の「チャップリンの独裁者」は、月面ナチスに都合のよい場面だけをコピペした「つぎはぎ」の映画だったのである。

このカットは意味深だ。

ハリウッド映画のタブーを破ってチャップリンをけなしていること、普遍的かつ重大な真実を含んでいること、この2点において。ちなみに、アイアン・スカイはフィンランド・ドイツ・オーストラリアの映画。

では、何が普遍的かつ重大なのか?

「チャップリンの独裁者」は、ヒトラーをコケにした映画だが、編集次第では真逆にもなりうる。実際、何の先入観もなく、月面ナチス版「チャップリンの独裁者」を観れば、「ヒトラーを讃える映画」にしかみえない。

つまり ・・・

歴史を改ざんするのはカンタン、ということ。たとえ、ホンモノの映像があったとしても、編集次第でどうにでもなるから。コワイ話だ。

だから ・・・

我々が知る歴史は、「戦争に勝った側」に都合のいい歴史と考えたほうがいいだろう。そもそも、歴史とは編集にほかならないのだから。もちろん、これは世界史に限った話ではない。

たとえば ・・・

邪馬台国狗奴国は、中国で正史とされる史書に登場するのに、なぜ、古事記や日本書紀に出てこないのか?

知らなかったから?

それはありえない。日本書紀は、中国の正史である「漢書」や「後漢書」を引用しているし、その中にちゃんと邪馬台国と卑弥呼も出てくる。

ではなぜ、邪馬台国と卑弥呼は削除されたのか?

最終勝者の大和朝廷にしてみれば、日本国の始祖が邪馬台国では都合が悪いだろう。そもそも、国を統治するには、「政権の権威付け」が欠かせない。これは、好むと好まざるにかかわらず、支配者に課せられた宿命なのだ。なぜなら、権威がないと、誰も従わないし、そうなれば国の治安と秩序が保てないから。

だから、
「歴史は真実であるべきだ」
と主張するのはまともな学者か、真摯な読者ぐらいだろう。つまり、「歴史を創る側」ではない。

話を「チャップリンの独裁者」にもどそう。

映画「アイアン・スカイ」は、インディーズ(自主制作)なので、とにかく貧乏。だから、ファンのボランティアに支えられている。映画に登場するポスターもしかり。じつは、先の「チャップリンの独裁者」の映画館のポスターも、地元のファンがデザインしてくれたという。だから、貧乏だから、予算がないから、とあきらめてはいけない。方法はいくらでもある。

■月面ナチス「電撃隕石作戦」始動!

月面親衛隊准将クラウスは恐るべき野望をもっていた。月面ナチスのウォルフガング・コーツフライシュ総統を抹殺し、総統の座を奪おうというのである。

ところが ・・・

クラウスとヴィヴィアンが部屋でいちゃついていると、なんと、そこにコーツフライシュ総統がいた。マシンガンを持った護衛兵に守られて。コーツフライシュ総統はクラウスの裏切りに気づき、密かに地球に来ていたのである。

危うしクラウス!

ところが ・・・

ヴィヴィアンは、気色の悪いお色気作戦で、マシンガンを取り上げ、月ナチスを皆殺しにする。この女、脳線がキレているのだが、ただ者ではない。ところが、一命を取りとめたクラウスは、ヴィヴィアンに感謝するどころか、ヴィヴィアンを捨てて、地球の総攻撃を決意する。

まず、流れ弾に当たって瀕死のコーツフライシュ総統にとどめを刺し、iPadをかかえ、月面基地に向かう。iPadを「神々の黄昏号」に接続し、起動するためである。

さらに、クラウスは地球の周回軌道上に待機していた月面ナチスの宇宙艦隊に対し総攻撃を命じる。
「地上にはびこる劣等人種を一掃せよ!」
こうして、電撃隕石作戦は始動した。

電撃・隕石・作戦?

軍事に造詣が深い人(軍事オタク)なら、ピンとくるだろう。映画「アイアン・スカイ」は、こんなナチス用語がてんこ盛りだ。

ナチドイツの陸軍は世界最強を誇ったが、その秘密は、航空機と戦車が連携する「電撃戦(ブリッツクリーク)」にあった。「電撃隕石作戦」はこの「電撃」からとったわけだ。

ではなぜ、「隕石」までくっついているのか?

宇宙空母が「隕石」を牽引しているから。

そんなムダに重いモノを引っ張ってどうする?

隕石を加速し、途中で切り離して、地球にぶつけるため。

じつは、隕石衝突の打撃力とエネルギーは核兵器を凌駕する。地球の核兵器に対抗する大量破壊兵器という設定だ。後に、米国の宇宙戦艦が核ミサイルを撃ちまくるが、放射能をまき散らさないぶん、月面ナチスの方が良心的?と言いたいのだろう。映画「アイアン・スカイ」は「ナチスを笑う」に見せかけて、「米国を笑う」映画なので。

この恐怖の隕石爆弾を牽引するのが、ジークフリード級宇宙空母「グラーフツェッペリン」だ。「グラーフツェッペリン」は、ナチドイツ時代に実在したツェッペリン飛行船と、ナチスドイツの幻の空母の名称である。ということで、月面ナチスの「グラーフツェッペリン」は、形状(飛行船)と機能(空母)の二股を掛けている。

もちろん、月面ナチスの「グラーフツェッペリン」は、ただの空母ではない。艦載する航空機は、宇宙も航行可能な空飛ぶ円盤「ワルキューレ」だ。戦闘態勢に入ると、「グラーフツェッペリン」の巨大な胴体の扉が開き、「ワルキューレ」がワラワラ発艦する。攻撃目標はもちろん、地球。

ブオレンソラ監督いわく、
ワルキューレは空飛ぶ戦車

たしかに、みてくれは、いかつい。直径50mもある甲冑型の空飛ぶ円盤で、大砲まで備えている。ただし、空中戦には向かない。大砲かついで空中戦はムリなので。ということで、ワルキューレは地上攻撃機、「地上にはびこる劣等人種を一掃する」役目をになっている。

ワルキューレは弾薬や燃料が尽きたら、母艦「グラーフツェッペリン」に帰艦し、補給する。そして、再び発艦。これを、延々と繰り返す。そんなこんなで、ニューヨークは空飛ぶ円盤に襲撃され、街は大混乱になり、市民は算を乱して逃げまどった。

ところで、このカットは、予算不足のため、ニューヨークではなく、ドイツのフランクフルトで撮影されたという。しかも、逃げまどう市民の出演料はタダ。ネットでファンに呼びかけて、フランクフルトまで来てもらったのだ。

というわけで、「アイアン・スカイ」は忠誠心の高い熱いファンに支えられている。しかも、制作段階から、おんぶにだっこ。これほどうまくファンを巻き込んだ映画はないだろう。相撲界じゃないが、新種のタニマチかな?

※タニマチ:ひいきにしてくれるスポンサーのこと。ひいきの客で成り立っている業界をさすこともある。

《つづく》

参考:
アイアン・スカイ Blu-ray 豪華版(初回数量限定生産) 松竹

by R.B

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