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週刊スモールトーク (第201話) アイアン・スカイⅠ~ネタバレ~

カテゴリ : 娯楽

2013.04.07

アイアン・スカイⅠ~ネタバレ~

■インディーズで大ヒット

映画「アイアン・スカイ」がコンテンツ業界で大暴れだ。

一部のマニアの間で、と断りを入れたいところだが、すでにマニア枠を超えている。独立系の自主制作「インディーズ」の世界では、ゲームの「マインクラフト」と並ぶ大ヒットだろう。

で、肝心のストーリーだが ・・・

米国の宇宙飛行士が、月の裏側に降り立ったところ、偶然、ナチスの基地を発見。ところが、あっちもこっちを発見。宇宙飛行士の一人は殺され、もう一人は捕まってしまった ・・・ こんなトートツかつ意味不明なシーンから物語は始まる。

ところで、なんで、月面にナチスの基地があるのだ?

と思ったら最後、スクリーンにクギ付け! ・・・ なら話は盛り上がるのだが、そうでもない。話は複雑なので、まずは、月面にナチスの基地がある理由から説明しよう ・・・

第二次世界大戦末期、ナチスの生き残りが、自作UFOで南極大陸を飛び立ち、月の裏側に移住した。そこで、巨大な月面基地と、宇宙最強?の大艦隊を作りあげ、地球を侵略するというコワイ話。

さらに ・・・

月面の地下には、究極の大量破壊兵器まで隠し持っている。史上最大にして最強の「神々の黄昏号」だ。全長10kmの超巨大戦艦!というかほとんど空飛ぶ要塞。ところが、この怪物を起動するには、地球製のスマートフォンかタブレットPCが欠かせない ・・・ とまぁ、ツッコミどころ満載。

たとえば ・・・

石コロしかない月面で、食料をどうやって調達したのだ?しかも、70年間も。ひょっとして、無機物から有機物を作りだす技術を開発した?それが本当なら、地球の食糧難は問題解決だ。

さらに、1945年に月へ行くほどのテクノロジーがありながら、なぜ戦争に負けたのだ?

というわけで、原作的にも脚本的にも「B級SF&コメディ」なのだが、映像を観ると心底笑えない。一見、オチャラケだけど、実はシリアスという意味ではなく、脚本の完成度が低いから。ところが、CGだけはハリウッド映画なみのクオリティ。特に宇宙艦隊戦は息を呑むほどの迫力だ。演出に限れば、スターウォーズより凄いかも?

では、このアンバランスをどう解釈したらいいのだ?

予算不足!では身も蓋もないが、一つ気になる点がある。何度も観たくなること。原作、脚本、演技、何をとっても中途半端だし、「スカイキャプテン / ワールド・オブ・トゥモロー」のような独特の世界観もない。しかも、アマチュアっぽさから抜け切れていない。それでも、また観たくなる?不思議な映画だ。

■「ブルーレイ 豪華版 4000本限定生産」の謎

2012年の暮れ、マヤの予言「2012年人類滅亡」が一段落した頃、amazonで、
「アイアン・スカイ Blu-ray 豪華版(初回数量限定生産)」
の予約注文が始まった。

DVD版もあるが、コンテンツ制作を生業にしているなら、「Blu-ray 豪華版」の方がいいだろう。画質はいいし、メイキングなどの特典映像も付いているので。ただ、予約するのが面倒だったので、リリース後、テキトーなタイミングで買うつもりだった。

ところが ・・・

年が明けて、amazonをチェックすると、
「入荷の見込みが立っていないため、現在ご予約注文を承っておりません」

予約段階で売り切れ?

マジか?

ドイツ第4帝国(月面ナチス)にちなんで、「初回数量限定=4000本」らしいが、たかがインディーズ(失礼)、予約で4000本完売はありえん、とちょっと焦ってしまった。

そこで、毎日amazonをチェックしていると、ある日、「9本入荷したので予約可能」とある。胸騒ぎがしたので、速攻で注文した。案の定、その夜には、「在庫は1本」に減り、翌日には、
「現在ご予約注文を承っておりません」

その後、興味半分でamazonをチェックしていると、瞬間的に「予約可」になるものの、1日も待たずショート。結局、リリースを待たずして、
「出品者からお求めいただけます(中古販売)」
のみになってしまった。つまり、予約で完売!?

結果論だが、「4」にこだわるのなら、「4万本」限定でも良かったのでは?DVD売るより、4倍も儲かるしね。

リリース後、再びamazonをチェックすると、「アイアン・スカイ Blu-ray 豪華版」の販売が復活している。ところが、すぐに「出品者からお求め ・・・(中古販売)」に。そんなドタバタを繰り返していた。「4000本限定」はあやしいなぁ。もう買ったから、どうでもいいけど。

■YES SHE CAN!

さて、次は「アイアン・スカイ」のネタバレ。

2018年、米国初の女性大統領は再選を目指していた。名前は明かされないが、見てくれもオツムも、2008年の共和党副大統領候補「サラ・ペイリン」そっくり

実際、映画の中の大統領は ・・・

ハンティングが大好きで、体育会系で、オツムが弱い。執務室では、ウォーキングしかしていないし、巨大な「シロクマの剥製」が誇らしげに飾ってある。きっと、自分で仕留めたのだろう。

一方、現実の副大統領候補「サラ・ペイリン」は ・・・

アウトドア派で、趣味は釣りと「ハンティング」。父から「クマ狩り」の手ほどきを受けたほどだ。もちろん、ライフル銃の扱いもお手のもので、全米ライフル協会の会員でもある。

さらに ・・・

2008年の米国大統領選では、「オツムが弱い」ぶりを遺憾なく発揮した。政治の基礎知識が欠落し、思考力も貧弱で、インタビュアーの質問にも満足に答えられない。しかも、その一部始終が、TVで全国放映されてしまった。

さらに、大統領選で敗れた後も、自分のウェブサイトで、ライバルの民主党議員の選挙区を「ライフルマーク」で示すなど、思慮の欠いた言動をくりかえしていた。

そんなわけで、サラ・ペイリンといえば、バカ、下品、イケイケ、がすっかり定着してしまった。つまり、アイアン・スカイの女性大統領まんま。

とはいえ、中傷が過ぎるような気もする。

映画の中の大統領ではなく、サラ・ペイリンのほうだ。目鼻立ちクッキリの美人だし、ニッコリ笑って、品のないジョークを飛ばせば、どうして、なかなか魅力的だ。それを、バカ、下品、イケイケとは ・・・ あまりにも心ない。人間は中身同様、外見も大事なのだ。副大統領にふさわしいかどうかはさておき。

アイアン・スカイのストーリーに戻ろう。

美人でおつむが弱い米国大統領は、再選をめざし、選挙キャンペーンに余念がなかった。「人種偏見」のない太っ腹のところを見せようと、大枚はたいて(国費)、黒人宇宙飛行士を月に送り込む、派手なポスターまで作って。そのキャッチコピーというのが ・・・

「BLACK TO THE MOON? (黒人を月へ)
YES SHE CAN! (彼女ならできる)」

どこかで聞いたセリフだが、オバマ大統領とペイリンと、米国大統領選そのものをコケにしているのが、おわかりだろうか?(オバマ大統領のキャンペーン中のキャッチコピーは「YES WE CAN!」)

さらに、念押し ・・・

月着陸船が月面に着陸すると、国旗の代わりに大幕が垂れ下がるのだが、そこには、
「YES SHE CAN」
どこまで、コケにしているのだ?さぞかし、オバマ大統領は気分を害したことだろう。

■世界首都ゲルマニア

ところで、月の裏側に送り込まれた黒人宇宙飛行士ジェームズ・ワシントンは、月面で驚愕の真実を知る。1945年に滅亡したはずのナチスが、月面で「ドイツ第四帝国」を築いていたのだ。

ちなみに、
・ 第一帝国:神聖ローマ帝国(962年~1806年)
・ 第二帝国:ドイツ帝国(1871年~1918年)
・ 第三帝国:ナチス・ドイツ(1934年~1945年)
・ 第四帝国:月面ナチス?(1945年~)

このドイツ第四帝国の月面基地だが、ゲームや映画でおなじみの、怪しげで、こぢんまりした「ナチスの秘密基地」ではない。核融合の燃料「ヘリウム3」の採掘施設、ハーケンクロイツ(逆カギ十字)をかたどった巨大要塞、さらに、月面地下深くに宇宙艦隊基地まで備えている。逃げも隠れもしない、正々堂々の本格的な基地だ。月の裏側というのが、少し気になるが。

ここで、「巨大要塞」に注目。挑発的な「ハーケンクロイツの形状」のことではない。要塞の中心にある巨大なドームのことだ。「世界首都ゲルマニア」のフォルクスハレ(国民会議場)を彷彿させるではないか。

「ゲルマニア」は、ドイツ第三帝国がユーラシア大陸の西方(ヨーロッパ)と東方(ロシア)を征服したあかつきに、世界首都となるメガロポリスだった。ベルリンを改造・拡張した巨大都市で、ヒトラーが構想し、建築家アルベルト・シュペーアが設計を担当した。ちなみに、シュペーアは軍需相で、ヒトラーの側近中の側近である。

ゲルマニアは、市の中心にアドルフ・ヒトラー広場があり、そこに、ローマのサンピエトロ大聖堂の10倍のドームがそびえたつ。それが、「フォルクスハレ」だ。ちなみに、サン・ピエトロ大聖堂は、バチカンにあるカトリック教会の総本山で、ドームの内径42m、高さ138mを誇る世界最大のバロック建築。だから、フォルクスハレは超弩級の「巨大建造物」といっていいだろう。

世界の七不思議を引き合いに出すまでもなく、巨大建築物は見る者を圧倒する。ところが、ゲルマニアもフォルクスハレも現実には存在しない。完成する前に、ナチスドイツが崩壊したから。

ただ、映画でなら「ゲルマニア」を確認することはできる。たとえば、米国映画「ファーザーランド~生きていたヒトラー~」。サブタイトルそのままの「歴史改変SF」で、ヒトラーが生き残った世界を描いている。とはいえ、想像するようなドラマティックな話ではない。ミステリー仕立てで、マッタリしていて地味。一方、世界首都ゲルマニアは、フォルクスハレも含めしっかり再現されている。

あと、ミニチュア模型なら、独伊映画「ヒトラー~最期の12日間~」にも登場する。ただし、彩色されていないので、全体像がつかめる程度。それでも、フォルクスハレの巨大さは確認できる。もっとも、グランドデザインの点では、ゲルマニアは古代都市モヘンジョ ダロほど画期的ではない。なので、過度の期待は禁物だ。

ちなみに、「ヒトラー~最期の12日間~」は、ヒトラーが自決するまでの12日間を描いている。1945年4月、首都ベルリンは、ソ連軍に完全に包囲され、勝利の望みは絶たれた。凄惨な市街戦が繰り広げられ、ヒトラーと側近たちは、総統地下壕に引きこもり、息を潜めていた。そんな閉鎖空間の中で、自暴自棄になる者、脱出する者、ヒトラーと最後を共にする者、十人十色の生き様が描かれている。

ストーリーは史実に忠実で、ヒトラーの個人秘書トラウドゥル・ユンゲの証言などを元に制作されている。極限状況に追い込まれ、逃げ場がない世界、恐ろしいほどのリアリティ ・・・ 自分が1945年4月のベルリンに迷い込んだようなカンカクを覚える。脚本、演技、映像、どれをとっても、非の打ち所のない作品だ。

話が重くなった。ナチスの月面基地に話をもどそう。

巨大要塞、ヘリウム3採掘場などの拠点をつなぐのが月面アウトバーンだ。もちろん、ドイツのアウトバーン同様、制限速度はない(道路標識がないので)。実際、軍用車やサイドカーがバリバリ走っている。

ところで、エンジンは?

酸素が無いのだから、まさか、内燃機関ではないだろう。月面で採れるヘリウム3は核融合の燃料になるので、まず、核融合炉で発電する。その電気をバッテリーに充電してモーターで走る。つまり、電気自動車?そんな話はどこにも出てこないが、たぶん、そうだろう。

■死の天使メンゲレ

月面で拉致されたジェームズは、基地に連行され、ナチスお決まりの拷問をうける。ここで、登場するのがB級SF映画でおなじみのマッドサイエンティスト(気が触れた科学者)と、冷酷なマッチョコマンダーだ。

マッドサイエンティストは、機械工学、電気工学、医学に通じたリヒター博士。冷酷マッチョコマンダーは、身長2mもある月面親衛隊准将クラウス・アドラー。この2人は、宇宙飛行士が黒人という事実が呑み込めない様子で、いきなり、物騒な会話を始める。

クラウス隊長:「奴の英語はヘンだ」

リヒター博士:「方言なんだろう」

クラウス隊長:「原因は皮膚の色か?」

リヒター博士:「そうかもしれん。頭蓋の形状がアーリア人とは異なるからな。奴の頭を開けて、大脳の大きさを測ってみよう」

ポンポン飛び出す、あからさまな差別発言。ナチスのユダヤ人迫害を示唆しているのだろう。というか、間違いない。それどころか、黒人の蔑称「ニガー(nigger)」まで飛び出す始末。

こうして、哀れなジェームズは、暴言を浴びせられたあげく、黒人から白人に変えられてしまう。リヒター博士の調合した得体の知れない薬で。ナチスの定番「人体実験」だ。「死の天使」と恐れられたナチスドイツのメンゲレ博士を彷彿させるではないか。実際、映画の中で、ジェームズはリヒター博士を「メンゲレ」と呼んでいる。

ヨーゼフ・メンゲレは、ナチス親衛隊(SS)の医師で、第二次世界大戦中、アウシュヴィッツ収容所で、様々な人体実験を行った。具体的に何をやったかは、エログロ映画の金字塔「イルザ ナチ女収容所/悪魔の生体実験」で、忠実に再現されている。参考資料と割り切って、早送りで観たが、途中で気分が悪くなった。

メンゲレは、こういう実験を嬉々としてやっていたわけだから、人間として異常であることは確かだ。また、こういう異常な人間を雇用していたナチスは「悪魔」と言われてもしかたがない。ちなみに、メンゲレは戦後、ブラジルに逃亡し、最後まで捕まらなかった。

ということで、リヒター博士の差別発言と人体実験は、本来は物議をかもすところだが、今のところ、事なきを得ている。たぶん、「ナチスを笑い飛ばす」のおかげだろう。ちなみに、リヒター博士はアインシュタイン似。もっとも、これがメンゲレ似なら、絶対笑えない。

ところで、このリヒター博士の娘が、なんと、アイアンスカイの主人公「レナーテ・リヒター」。父親は頭のおかしなマッドサイエンティストなのに、レナーテは可愛いくて、本当に良い人。月面基地で「地球学」を教えているが、地球に行って、ヒトラー総統の「愛」の教えを説こうと、マジで思っている。

■ナチス製「空飛ぶ円盤」

ジェームズは、どこの誰にかけるのかわからないが、月にスマートフォンを持ち込んでいた。それを見て、リヒター博士は閃いた。スマホを、大量破壊兵器「神々の黄昏号」の制御用コンピュータに使おうと。

というのも、月面ナチスのコンピュータはパワー不足で、神々の黄昏号を起動できないのだ。見てくれは、時代遅れの骨董品だし、中身は不明だが、リレー(機械式接点スイッチ)の配線が見えるので、たぶん、電気式コンピュータだろう。ということで、月面チチスのコンピュータは、1945年から全く進歩していない。

ところで、21世紀のスマホと、1945年の電気式コンピュータをどうやってつなぐのだ?

USB!?

ただし、映画の中では、USBはリヒター博士の発明ということになっている。そんなこんなで、いつの間にか接続に成功、「神々の黄昏号」は唸り声を上げて起動した。ところが、すぐに停止。バッテリーが切れたのだ。そこで、バッテリーを充電するのかと思いきや、さらに画期的な方法を思いつく。新品の「スマホ」と交換 ・・・

というわけで、クラウス隊長は、新しいスマホを調達するため、円盤型偵察機に乗り込み、地球に向かった。白人化されたジェームズを連れて。というのも、ジェームズはクラウス隊長に殺されそうになったとき、苦しまぎれに、
「おれは、偉い連中を知ってるんだぞ。たとえば、米国大統領とかな。だから、オレを殺すとまずいことになるぞ!」
と脅したから。

ところで、「円盤型偵察機」だが、まんま「空飛ぶ円盤」。しかも、ドイツ第三帝国が開発したという空飛ぶ円盤「ハウニブ(HAUNEBU)」ソックリ。ところが、この「ハウニブ」というのが「アダムスキー型UFO」ソックリ。つまり、大元は、「空飛ぶ円盤」ネタで小銭を稼いだアダムスキー様。生きていれば、著作権料をふんだくって、もう少し稼げたのにね。

ただ、この「円盤型偵察機」の見てくれはイマイチ。洗練されすぎて、ゼンゼン「スチームパンク」じゃないのだ。月面ナチスのビジュアルは「スチームパンク」で統一されているのに。ティーザー広告で、ナチスの生き残りが、南極大陸を飛び立ち、月まで飛行するシーンがあるが、ここで登場する「円盤型輸送機」のほうが、まだマシ。ところが、「アイアン・スカイ」のティモ・ブオレンソラ監督は、ティーザーの「円盤型輸送機」が気に入らなかったらしい。「スチームパンク」が何なのか、イマイチわかっていないですねー。

さらに ・・・

月面ナチスの空飛ぶ円盤は、UFOのように、ジグザグ飛ぶのかと思いきや、普通に真っ直ぐ飛ぶ。しかも、離着陸時には、ロケット噴射している!?

これは問題だ。

通常航行ではロケット噴射を使っていないので、飛行原理は「反重力推進」に違いない。ではなぜ、着陸時だけ、ロケット噴射を使うのだ?

映像の微妙な挙動から推測するに、おそらく、姿勢制御。

いやはや、21世紀でもありえない「反重力推進」を使っているのに、姿勢制御だけロケット噴射?いくらお笑いSFでも、これだけは容認できません。

■地球上陸

というわけで、「反重力推進&ロケット噴射」のハイブリッドUFOは、あっという間に地球に着いた。クラウス隊長は意気揚々地球に降り立ったが、なんと、フィアンセのレナーテが密航していた。地球人類にヒトラー総統の「愛」の教えを説くために。

こうして、冷酷無比なマッチョコマンダーのクラウス隊長、世間知らずでお人好しのレナーテ、白人化された元宇宙飛行士ジェームズの3人組は地球で大暴れすることに ・・・

《つづく》

参考:
アイアン・スカイ Blu-ray 豪華版(初回数量限定生産) 松竹

by R.B

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