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週刊スモールトーク (第187話) 日本企業、中国から撤退?~トヨタ~

カテゴリ : 経済

2012.12.02

日本企業、中国から撤退?~トヨタ~

■日本企業の進退

中国から撤退するか、それも、居座るか?

中国に進出した日本企業は決断を迫られている。

というのは表向きの話で、ほとんどの企業は撤退する勇気はない。

なぜか?

契約期間を満了せずに撤退すると、多額の違約金をとられるし、何に付いた話か判らないような仰天ペナルティをふんだくられるから。そんなくらいなら、中国共産党&中国人民が日本を大好きになるよう願をかけて、事態が好転するのを待つほうがマシ・・・というわけだ。

気持ちはわからないでもないが、あの洗脳教育を辞めない限り、「反日」は2代、3代、100年は続く。100年も願をかけ続けるのは根気がいるし、そもそも、100年後にはみんな死んでいる。

それに・・・

もし、日中間で戦闘が起きれば、中国の日本企業の資産凍結、工場没収は普通にありうる。もし、中国工場が「One of them」ならいいが、それしかないなら、「Gameover」。

■窮地に立つ日本車メーカー

ところが・・・

初めから、選択の余地のない企業もある。自動車メーカーだ。2012年9月、反日暴動が勃発した直後から、中国の日本車の販売台数は高転びに転げ落ちた。9月は前年同月比で40%減、さらに、翌10月は60%減、まるで、最大斜度を直滑降だが、驚くにはあたらない。

中国では、日本車に乗ること自体が「命懸け」なのだ。

中国人が日本車に乗っていただけで、半殺しにされたのだから。

だから、1台でも売れるのが不思議でならない。

尖閣諸島問題は領土問題なので、戦争でしか解決できない。だから、日中尖閣戦争に至るまで、反日暴動は今後もビシバシ起きるだろう。一方、戦争が始まれば、反日暴動どころではない。つまり、どっちに転んでも、中国人が日本車に乗るのは「命懸け」。

また、奇跡が起こって、地球外生命体が内政干渉して(冗談です)、反日教育が終わったとしても、反日の洗脳が解けるまで長い年月がかかる。だから、我々が生きている間に解決するとは思えない。

というわけで・・・

日本車に乗る中国人の気が知れない。一体何を考えているのだろう。次は、「半殺し」では済まないかもしれませんよ。

ところで・・・

中国の政府と軍の車両は日本車が多いのだが、これはどういうことだ?日本車は燃費が良くて、故障が少なく、しかも、安いから(欧州車にくらべ)。それはそうだろうが、エリートは日本車に乗っていいけど、「その他」は乗るなでは、中国人民の腹の虫はおさまらないだろう。まぁ、エリートたちが半殺しの目に会うことはないと思うが。

ここで、命懸けで日本車に乗ってくれる勇敢な中国人の話はさておき、日本車メーカーについて考えてみよう。販売台数が60%減では、シャレにならないので。

■トヨタの場合

まずは、トヨタの現状をチェックしよう。

トヨタの中国での自動車販売台数は、前年同月比で、9月は49%減、10月は44%と、ほぼ半減。在庫もさぞかし積み上がっていることだろう。これでは、作ってもしかたがない。

ということで・・・

トヨタの中国での生産台数は、9月は42%減、10月は50%減だという。今後、中国が一変して、日本が大好きにならない限り、回復するのは難しそうだ。しかし、中国人はヘンなところで、明るく元気なので、危険を顧みず、あるいは、あの事件を忘れて、再び、日本車に手を出すかもしれない。そのときは自己責任ですよ。

さて、ここまでは、トヨタの現状。では、今後のトヨタの方針は?撤退、それとも居座る?

2012年11月、中国の広州で、「広州モーターショー」が開催された。そこで、トヨタはこれまでで最大の展示ブースを構え、SUV車「ヴェンザ(中国名:威颯)」を展示した。さらに、中国で開発中のハイブリッド車のコンセプトモデルも出品している。

やる気満々!?

じつは、トヨタの最大のライバル「独フォルクスワーゲン(VW)」は、現在、中国市場でトップを走っている。そして、今回の反日暴動に便乗して、9月の新車販売で前年同月比20%増を達成している。

中国の人口は13億5000万、じつに、世界の人口の20%を占める。しかも、主要先進国にくらべ、自動車の普及率が低い。この2つの事実が示唆するのは、
「中国市場は、自動車メーカーのエルドラド(黄金郷)
だから、中国市場での敗北は世界市場での敗北、と考えているのだろう。

ところが一方で・・・

日本車メーカーは中国からいつでも撤退できるという説がある。

■日本車メーカーの真実

2012年11月16日、英紙フィナンシャル・タイムズ(中国語電子版)に、「日本車企業の進退」という論説が掲載された。論者は、スイス大手銀行UBSの研究主管の侯延[王昆](ホウ・イエンクン)氏である。

内容をかいつまむと・・・

尖閣諸島の国有化が引き金となった反日デモ以降、中国での日本車の販売数は激減している。今後も、好転する要因がないので、回復は難しいだろう。だから、
「日本車メーカーは意気消沈」
とみんな思っている。

しかし、実際は・・・

日本車メーカーは、中国からいつでも撤退できる

なぜか?

元々、日本車メーカーは、中国につかず離れずでやってきたから。

たとえば、日産(仏メーカー)、フォルクスワーゲン(VW)、ゼネラルモーターズ(GM)のように、中国市場に迎合した新型車の開発を行っていない。

たぶん、この話は本当だろう。現在、中国は大気汚染が深刻化している。北京市衛生局によると、2001~2010年に北京市の肺ガン罹患率は56%増加したという。今後も、自動車の数は増え続けるので、大気汚染はさらにすすむ。さらに、ガソリン需要も増えるので、原油価格も上がる。何もいいことはないわけだ。

そこで・・・

中国では今、「環境対応車」が”熱い”。ここで、「環境対応車」とは超高燃費の車をさす。問題はどうやって実現するかだ。

スペック至上主義でいくなら、テスラ・モーターズの電気自動車が最高だろう。ところが、価格も1000万円と最高。買える人はほとんどいない。自動車は大衆相手の商品なので、やはり、コストパーフォーマンスが重要だ。

もちろん、コストパーフォーマンスなら、ハイブリッド車。燃費はガソリン車の2倍、価格は10%アップ程度(トヨタ車の場合)。ところが、ハイブリッド車は中国では20万元(260万円)以上もする。つまり、富裕層しか買えないわけだ。

そこで、欧米の自動車メーカーは、中国市場に迎合した「環境対応車」を投入した。価格を抑えるため、ハイブリッドをあきらめ、ガソリンエンジンを改良したのである。

どうやって?

エンジンのダウンサイジング!

具体的には、

・フォルクスワーゲンは高級車の「パサート」の排気量を2000cc以下に

・ジェネラルモーターズは中型車「マリブ」で排気量1600ccを投入

・フォードは排気量1000ccのSUVを投入

エンジンが小さくなっただけじゃないのか?

まぁ、そういうこと。でも、そうしないと、安くならないから。

おいおい、昔からある低馬力車を焼き直して、「環境対応車」と名前を変えただけじゃないのか?

当たらずとも、遠からず。

納得できん。

そこへいくと、トヨタとホンダは立派だ。
「環境対応車=ハイブリッド」
と、中国市場に迎合することなく、王道をいっている。もっとも、そのせいで、中国の日本車のシェアは2008年をピークに下降を続けているのだが。

だから本当は、今回の反日暴動で、日本車のシェアが減ったのではない。元々、減っていたのが、今回の反日暴動で加速しただけなのである。

話を論説「日本車企業の進退」にもどそう。

中国政府は、日本の企業に対して、合弁相手の中国企業に一定の技術譲渡を義務づけている。ところが、トヨタ、ホンダ、スズキの3社はそれを実行しなかった。合弁相手の中国企業、中国市場の先行きに不信や不安を抱いていたからだ。

だから、日中関係が悪化し、中国からの撤退を余儀なくされても、トヨタやホンダはいつでも中国と「離婚」できる。トヨタ・ホンダは、中国での投資分をすでに回収しており、十分稼いで、自分たちの技術はしっかりと守り抜いた完全な勝利者なのである。

一方、20年に及んだ合弁政策で、中国の自動車メーカーはただ生産することだけを学んだ。技術やブランドのない自動車メーカーはただのスクラップ置き場でしかない。

ということらしい。

ところが、この論説と矛盾する情報がある。

今回の反日暴動が起きる前から、トヨタは中国市場への大攻勢を目論んでいたというのだ。2015年までに、新車販売台数を倍増(180万台)しようというのである。実際、ハイブリッド車「プリウス」の中国生産を2011年12月に開始し、2015年までにハイブリッドの基幹部品も生産する計画だった。つまり、最先端技術の流出に目をつむってまで、中国市場で勝ちに行ったのである。

技術の流出に目をつむって

先の論説と矛盾するではないか。

では、トヨタは、撤退、居残り、どっちなのだ?

じつは、問題はそれほど単純ではない。

■トヨタの本音

ここに、興味深いデータがある。

2012年11月5日、トヨタは、2013年3月期の業績予想を上方修正した。営業利益が、1兆円から1兆500億円に増えるというのだ(売上高にあらず)。

尖閣反日暴動で、中国での販売台数が半減しているのに?

イエス!

中国での販売の減少を織り込んでも、コスト削減効果などで、儲け(営業利益)が増えるというのだ。以前、日本車メーカーは、「北米依存からの脱却」が課題だったが、地道な努力のかいあって、タイなど東南アジアの自動車市場が急成長し、中国の販売減をカバーできるようになったのだという。

つまり、こういうことだ。

トヨタは、中国で売れようが売れまいが大勢に影響はない。でも、それをあからさまに出すと、また中国人が暴れ出し、トヨタ車を壊したり、ドライバーを半殺しするといけないから、
「中国で頑張ります!」
とアピールしているだろう。

というわけで、トヨタにはまだ余裕がある。

■技術漏洩のリスク

ただし、技術の譲渡・漏洩だけは止めたほうがいい。パナソニック、シャープ、ソニーなど家電メーカーが総崩れになったのは「円高」のせいだと言われているが、一番の原因は、技術の優位が失われたことにある。

ではなぜ、日本の「技術の優位」は失われたのか?

家電は「デジタル化」が進み、独自の技術やノウハウが不要になり、誰でもどこでも作れるようになったから。行き着くところ、人件費の安いもん勝ち、コピーしたもん勝ち。

デジタル化」とは、映像、写真、音楽、ゲーム、あらゆるものを、「0」と「1」に置き換えて処理する技術である。「0.3」や「0.5」のような中間値がないので、論理的に「真(1)」か「偽(0)」だけを考えればいい。これは設計者からみれば楽ちんだし、作るのも簡単だ。もちろん、その分、ノウハウも少ない。

一方、自動車はまだアナログ(中間値がある技術)がたくさん残っている。エンジンもその一つだろう。設計図だけあっても、実際に作れる国や企業はほんの一握り。つまり、論理以外のノウハウがものを言う世界だ。

ところが・・・

ハイブリッド車はコンピュータ、つまり、デジタル技術に依存している。だから、中国で「ハイブリッドの基幹部品」を生産すれば、技術が漏洩する可能性が高い。トヨタは、日本の家電メーカーの衰退の原因を思い出すべきだ。世界最高水準のハイブリッド技術を、みすみすくれてやる必要はない。

トヨタには他の試練もある。10~20年後、電気自動車がガソリン車やハイブリッド車にとってかわった時だ。電気自動車は、ノウハウの塊であるエンジンが不要で、モーターとバッテリーさえあれば、ガレージでも作れる。言ってしまえば「プラモデル」。これなら、中国でも自力で作れる。

つまり、自動車の「電動化」は家電の「デジタル化」と同義語なのである。

最後に、トヨタへ・・・

トヨタと同じグローバルビジネスを展開するユニクロは、上海店舗の「尖閣は中国の領土」張り紙事件、さらに、社長の発言が原因で「反日・親中」のレッテルを張られてしまった。だからこそ、トヨタは、日本企業としての誇りを忘れずに、日本人からも敬愛されるグルーバル企業になってほしい。家電が崩壊しつつある今、「貿易立国」日本を支えるのは重電と自動車だけなのだから。

by R.B

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