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週刊スモールトーク (第176話) タブレットPC Ⅰ~iPadとAndroid~

カテゴリ : 科学

2012.09.17

タブレットPC Ⅰ~iPadとAndroid~

■iPadブーム

2012年9月、ソニー・コンピュータエンタテインメントは、「PlayStation Mobile」の構想をぶちあげた。プレイステーションのゲーム世界を、ゲーム機だけでなく、スマートフォンやタブレットPCにも展開するという。

それで?

ソニーとHTC(台湾企業)のAndroid端末と、Vitaで動作するゲームをPlayStation Storeで配信するという。

だから?

そもそも、モバイルゲームなんて今に始まったものじゃないし、アップルのiPad、Android端末のゲーム市場もすでに確立している。それに、任天堂DSも、一度はコケたものの、なんとか踏んばっている。そんな状況で、モバイルゲーム?さては、同じ日に発表されたソニーの新型タブレットPC「Xperia Tablet S」の援護射撃か?見苦しいぞ、ソニー!

ということで、大勢に影響はなさそうだ。

ただし、気になることが ・・・

このニュースは、ソニーがモバイルゲームうんぬん以前に、
タブレットPCが電子端末のスタンダードになる
を示唆しているのかもしれない。

というのも ・・・

最近、取引銀行の担当者が来社し、iPadを嬉しそうにみせていた(使いこなしてはいない)。どうやら、外回りの銀行マンにiPadを持たせているらしい。そして、その翌日、リクルート会社の営業マンが来社し、カバンから取り出したのは、なんと「iPad」だった。

さらに、その1週間後 ・・・

新しい開発プロジェクトのキックオフ・ミーティングがあり、パブリッシャーのプロデューサーが来社し、開口一番、

「今回は絵コンテ(映像の設計図)をしっかり作り込んでから、本開発に入ります」

すると、ウチのディレクターも大きくうなずいて、

「リテイク(やり直し)が減るので、いいですね。ところで、その”しっかりした”絵コンテのサンプルはありますか?」

そこで、プロデューサーがおもむろに取り出したのが「iPad」だった。手慣れた手つきでささっと操作し、絵コンテとアニメのサンプル・ムービーを見せてくれた。少し前なら、PCだったのに。

つまり ・・・

すでに、iPadはビジネスの必須アイテムになっている!?

これらの企業は、社内のデータをデジタル化し、サーバーに格納し、インターネットを介し、iPadで参照、あるいはプレゼンするインフラを確立している。重い紙の資料を持ち歩く必要はないわけだ。また、iPadには、様々のクラウドサービスが提供されていて、自社でサーバーをもつ必要もない。しかも、iPadが盗まれても、サーバーへのアクセスを禁止できるので、データまで盗まれることもない。

というわけで、iPadは軽くて、安全、営業トークのネタにもなる、というわけだ。もっとも、iPadだけがタブレットPCというわけではない。

では、タブレットPCとは?

スマホのでかいやつ ・・・ では身もふたないので、ザックリ言うと、
全面が液晶パネルの板状モバイルコンピュータ
(やっぱり、スマホのでかいやつ)

なので、(ハード)キーボードもマウスもない。代わりに、パネルに直接タッチして操作する。機能は、スマホから通話機能を省いた感じ。ただ、スマホより画面が大きいので、インターネットは快適だ。

ちなみに、今回のソニーのタブレットPC「Xperia Tablet S」のスペックは、
【OS】Android 4.0(いわゆるAndroid端末)
【液晶】9.4型(1280×800)
【カメラ】背面に8メガピクセル、前面に1メガピクセル
【メモリ】16G~64Gバイト
【重さ】570g
【価格】数万円

で、今どきのタブレットPCは、だいたいこんなもの。なので、タブレットPCのあるべき姿はかたまりつつある。

ということで、今後の話題は ・・・ タブレットPCを制するのは誰か?

■タブレットPCを制する者

これまでも、新しい道具が発明されるたびに、デファクトスタンダード(事実上の標準)をめぐる熾烈な戦いが起こった。パソコンもしかり。パソコンがまだ「マイコン」と呼ばれていた頃、マニアのオモチャに過ぎなかったが、ビジネスにも使えるとわかると、コンピュータの巨人IBMが参入してきた。そして、
アップルのMac Vs IBM PC互換機
の熾烈なシェア争奪戦が始まったのである。

Macは、OS(基本ソフト)もハードもアップル、一方のIBM PC互換機は、OSはマイクロソフト、ハードは世界中のパソコンメーカーが製造・販売した。つまり、アップルは独り占め、IBM PC互換機は共存共栄の「仲良しグループ」だった。

結局、この戦いで勝利したのは、IBM PC互換機だった。その系譜が現在のWindows PCである。その頃の構図を表にすると ・・・

  OS ハード
Mac MacOS(アップル製) Mac(アップル製)
IBM PC互換機 Windows(マイクロソフト製 IBM PC互換機(ハードメーカー製)

不思議なことに、この構図は現在のタブレットPCと相似 ・・・

  OS ハード
iPad iOS(アップル製) iPad(アップル製)
Android Android(グーグル製 Android端末(ハードメーカー製)

なんのことはない。「マイクロソフト製」が「グーグル製」に変わっただけ。つまり、
「独り占め Vs 仲良しグループ」
の構図は同じなのだ。

ということで、タブレットPCも、Android、つまり「仲良しグループ」が勝利する?実際、IT調査会社IDGの予測によれば、AndroidがiPadを追い抜くのは時間の問題だという。

とはいえ、いつでもどこでも、へそ曲がりはいるものだ。その「へそ曲がり」によれば、

Andoridが追いつくまで、アップルが指をくわえて待っているはずがない

お、鋭い!実際、実機を操作してみると、iPadはAndoridより明らかに快適だ。あのようなアナログ的なノウハウは一朝一夕で追いつくものではない。だから、一理ある。

しかし ・・・

「へそ曲がり」には気の毒だが、IDCの予測が当たるだろう。なぜか?

新しいものを生み出すより、真似る方がずっと簡単だから

「発明」には試行錯誤がつきものだが、「サル真似」は一瞬。小学生でも分かることだ。模倣者が創造者に追いつくのは、「文明の法則」なのである。

最近、この法則を絵に描いたような事件が起こった。液晶の覇者シャープの経営危機だ。

■シャープの経営危機

今から10年前、シャープの液晶の「美麗さ」は他を圧倒した。現在、液晶のトップを走るサムスンでさえ、
「シャープの液晶は、遠くから見ても、一目でそれと分かった」
と認めている。

新しいミレニアム(千年紀)がスタートした西暦2000年、シャープは重大な経営決断をする。液晶に社運をかけたのである。
20世紀に置いてゆくもの、21世紀に持ってゆくもの
こんなカリスマ広告をぶちあげ、
「ブラウン管テレビをすべて液晶テレビに置き換える」
と宣言したのである。

以後、シャープは圧倒的な品質を武器に、生産体制を拡充していく。2004年には、亀山第1工場を稼働させ、「世界の亀山」は「日本のモノづくり」の鏡とされた。

液晶ビジネスは半導体ビジネスと同類である。つまり、
「最先端設備を導入 → 生産量が拡大 → 劇的なコストダウン」
だから、生き残るためには、大胆かつ迅速な設備投資を続けるしかない。シャープはそれを十分理解し、設備投資を惜しまず、攻めの経営に徹したのである。

ところが、その後 ・・・

テレビ用の液晶パネルの価格は7年間で1/5にまで下落した。攻めても攻めても、生産コストが市場価格の下落に追いつかない。さらに、異常な円高が、シャープの国際競争力を削いでいった。

現在の円高は、日本(企業)の競争力を反映したものではない。資本主義の暗黒面「マネーゲーム」が生んだ結果に過ぎない。だから、真面目に物作りをしている企業はたまらない。中国の人民元のコントロールはほめられたものではないが、日本の「円高に対する無為無策」は国を滅ぼす大罪だ。おそらく、シャープの経営危機の一番の原因は、円高を放置した日本政府にある。

本来、為替レートも、ビジネスも、市場原理(自由競争)に任せるべきだが、いまどき、それを真に受ける国はない。中国しかり、あの自由競争を標榜するアメリカでさえ「バイアメリカン」でビッグスリーの経営危機を救ったではないか。

かつて、IBMが大型コンピュータ市場を席巻した時、富士通・日立・NECが生き残れたのは、日本の通産省(現経産省)の強力な支援があったからだ。官僚たちは国産コンピュータを育てるため熱く戦ったのである。それがなければ、”国産”大型コンピュータなど夢幻だっただろう。

ビジネスは戦争である。他国の政府が企業を支援するなら、日本もそうするべきだ。さもないと、企業が次々と倒産し、大量の失業者が出る。それが日本にとって良いことかどうか、考えるまでもない。為政者の仕事は、実のならない理想論でも、異国の利益でもなく、国民の生命と財産を守ることでは?ところが、そう言うと、
「ナショナリズムだ!」
と騒ぎ立てる連中がいる。そんな不毛の非難をものともせず、立ち向かう政治家や官僚が現れることを切に願っている。

話をシャープにもどそう。今、シャープは「過剰な設備投資」に対する経営責任を問われている。では聞くが、設備投資に怖れをなして、サムソンにしてやれた日本の半導体産業はどうなのだ?

唯一、シャープが責められるとすれば、
「液晶テレビの国内生産」
にこだわったことだろう。いみじくも、サムスンの幹部はこう言った。

あの液晶パネルを使って、中国でテレビを量産されたら勝ち目はなかった

圧倒的な技術力があれば、それを秘匿し、国内で一貫生産するのは間違ってはいない。だが、結果として、こういうことも起こりうるのだ。もちろん、経営トップは「結果責任」はまぬがれない。だが一方で、シャープ経営陣の果敢な攻めの経営は称賛されてしかるべきだろう。もし、どうしても「犯人捜し」をしたければ、別の場所を捜してみては?円高を放置した政府とか。

今後、シャープの再建はイバラの道だ。液晶に社運をかけたため、他によりどころがないのだ。一時期、凋落した日立や東芝が復活したのは、複数の商品をもっていたから。では、一本釣りはヘタクソな経営?そんなことはない。アップル、マイクロソフト、グーグル、GEの隆盛をみれば明らかだが、得意分野にヒト・モノ・カネを集中投下するのは、むしろ良い経営なのだ。それでも、失敗することがある ・・・ これだけ世界が複雑になると、政治だけでなく、経済も一寸先は闇だ。

ただ、疑問も残る。

液晶は価格だけでなく、品質も重要なはずだ。品質で他を圧倒すれば、価格が高くても売れるのでは?では、なぜシャープは不毛の価格競争に巻きこまれたのか?

2010年、品質で、サムスンがシャープに追いついたから。

つまり ・・・

どんなハイテクも、二番手、三番手に必ず追いつかれる。なぜなら、「発明」より「コピー」の方がずっと簡単だから。

■タブレットPCの未来

話をタブレットPCにもどそう。

・ どんなハイテクも、必ずキャッチアップされる。
・ 複数のメーカーが競争する方が安くて良いモノができる。

とすれば、10年後にはAndoridはiPadを抜き去ると考えるのが自然だろう。では、iPadは消えてなくなる?

それは、たぶんない。たとえば、現在のパソコン市場をみると、負けたはずのMacが盛り返している。実際、日本国内でも、2011年、アップル(Mac)のシェアが10%の壁を突破したという。これは、1999年12月以来、実に12年ぶりらしい。

さらに、世界的にみても、パソコンのデスクトップ市場(2012年)は、
1.Windows:87.60% (↓下落傾向)
2.Mac:5.61% (↑上昇傾向)
3.Linux:0.91%(↓急落)

一度は負けたMacが、消えるどころか、盛り返している。デファクトスタンダードが「100」、それ以外は「0」という「ゼロサムゲーム(1位丸取りゲーム)」の世界なのに、一体何が起こっているのだ?

理由はたぶん、「顧客満足度ナンバーワン」。確かに、Macはスペックが高く、デザイン性に優れ、故障が少なく、そのわりに安い。さらに、今は亡きスティーブン ジョブズのこだわりが商品の隅々にまで刷り込まれている。だから、見て触れただけで、買いたくなる。いわば、パソコンの「カリスマ」なのだ。

ところが、そのジョブズもこの世にいない。彼の遺伝子を体現するクリエーターが現れない限り、アップルも第2のソニーになるかもしれない。つまり、昔の栄光が見え隠れするだけの遺物ブランド ・・・

ということで、タブレットPCの議論は出つくした?

いや、大物を忘れている。

かのITの王族、マイクロソフトはどうしたのだ?

《つづく》

by R.B

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