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週刊スモールトーク (第164話) 放射能汚染列島(3)~安全基準のウソ~

カテゴリ : 社会

2011.12.24

放射能汚染列島(3)~安全基準のウソ~

■安全基準の罠

日本は放射能汚染列島・・・は少し大げさかもしれない。文部科学省の「放射能汚染マップ」を信用すればの話だが。

ロシアの放射能安全基準によれば、

放射能の量(ベクレル/平方メートル)
対応処置
148万~ 強制避難ゾーン
55万~148万 強制移住ゾーン
18万5000~55万 希望すれば移住が認められるゾーン
3万7000~18万5000 放射能管理が必要なゾーン

この基準値と文部科学省の放射能汚染マップを照合すれば、

・避難地域・・・福島第1原発から半径50km圏内の一部

・管理地域・・・東日本の一部

だから、日本列島すべてが危険というわけではない。

ところが、ここに大きな落とし穴がある。3万7000ベクレル未満なら、全く問題がないか?たとえば、
3万6999ベクレルは大丈夫?
あ~、こういう屁理屈言う奴、必ずいるんだよね。そんなこと、どーでもいいじゃん!・・・ところが、ここに安全基準の”罠”がある。

たとえば、今、社会問題になっている心の病気。深刻な精神障害から、海外旅行ならOKだけど仕事ならうつ病、というものまである。後者はジョークに聞こえるが、「自己愛性人格障害」という病名までついている。自分は「特別の存在」なので、それに見合った扱いを受けないとストレスがたまるのだという。昔は「なまけ病」で一刀両断だったのに、今では「病気」扱い。当然、本人はその気になるし、企業もきちんとした対応を迫られる。

「仕事でうつ」の原因は、人間関係のトラブル、仕事のトラブル、長時間労働などがある。この中で、定量的に把握できるのが、残業時間だろう。基準はいくつかあるが、ザックリ「40時間/月」が目安。

さて、ここで問題。
残業時間が「40時間/月」未満なら、心の病気との因果関係は全くないか?

そんなことはない。残業時間が「39時間/月」どころか、残業時間がゼロでも、心の病気になる人はいる。もちろん、仕事が原因で。つまり、

仕事がそのものがなくならない限り、心の病気との因果関係は成立する

このルールを、放射能汚染に当てはめると・・・自然界に存在する放射能はしかたがないとして、それよりわずかに多くても、生体に影響を与える。もちろん、放射能が少ないほど影響は少ないだろうが。

何が言いたいのか?

3万7000ベクレル未満でも、放射能量に比例して生体に影響を与える。

じつは、このような説を唱える学者がいる。「ムラサキツユクサの研究」で知られる市川定夫博士だ。

■しきい値説と直線仮説

市川博士は、京都大学卒の農学博士で、原水爆禁止日本国民会議の議長で、埼玉大学名誉教授でもある。市川博士は、現在主流の「スソ切り」に警笛を鳴らしている。

「スソ切り」とは、あるレベル以下なら大丈夫と切り捨てること。具体的には、

「しきい値(安全基準値)を決めて、それ以下なら大丈夫」

ところが、市川博士はこの「スソ切り」を否定している。

1970年代初め、市川博士やアメリカのブルックヘブン国立研究所のスパローグループが、ムラサキツユクサの雄しべの毛を用いた実験で、

放射線量がどんなに微量でも、それに比例して突然変異が起こる

を証明したという。

具体的には、
当時の放射線の許容線量(しきい値)の25分の1、50分の1にしても、自然界の放射線量に比べ、突然変異の発生確率が明らかに増加した。

これは先の「スソ切り」と矛盾する。ところが、政府や電力会社は「スソ切り」を法制化しようとしている。なぜか?

「スソ切り」の根拠となるのが「しきい値説」だ。

「しきい値説」とは、
しきい値を境界に、それ以上なら影響アリ、それ以下なら影響ナシ
という考え方。

当事者の政府や電力会社にしてみれば、「しきい値説」は都合がいい。管理は楽だし(しきい値だけ見てればいい)、しきい値以下なら一切の責任が発生しないから。

この「しきい値説」と反対の立場をとるのが「直線仮説」だ。この説によれば、

「放射線量に比例して、突然変異の発生確率は増加する」

つまり、

しきい値(安全基準値)は存在しない

ここでいう「突然変異」は「遺伝子の損傷」を意味し、生体に重大な障害を引き起こす可能性がある。たとえば、福島第1原発事故で懸念されている甲状腺ガンのように。しかも、その障害は子孫にまで継承される。実際、市川博士によれば、

「発ガンについても当てはまるということが判明した」

という。

ここで、福島第1原発事故の放射能汚染による発ガン率を予測してみよう。「しきい値説」をとれば、
「3万7000ベクレル未満なら、ガンの増加率はゼロ」

一方、「直線仮説」なら、
3万7000ベクレル未満でも、放射線量に比例して、発ガン率は増加する

当然、予想されるガンの発生率は、
「しきい値説<<直線仮説」
政府や電力会社が「しきい値説」を指示する理由はここにある。

では、どっちが正しいのか?

2005年、米国科学アカデミーは「しきい値はない」と結論づけた。さらに、民間の国際学術組織「ICRP」も、微量の放射線でも人体に影響があると認めている。もっとも、こんな例を持ち出すまでもなく、「しきい値」で簡単に割り切れるほど、世界が単純でないことは誰でも想像がつく。いずれにせよ、10年以内にははっきりする。チェルノブイリ原発事故の甲状腺ガンのピークは10年後だったから。とすれば、10年でバレるウソをなぜつくのだろう?大して気にしていないから・・・つまり、平気でウソをつく人たち

■粉ミルクにセシウム混入

しきい値説と直線仮説、どっちが正しかろうが、
「福島第1原発から離れているほど安全」
は確かだろう。具体的には、空間の放射線量(シーベルト)、土や食品に沈着した放射能量(ベクレル)が少ないほどいい。今の日本でも、自然放射線(自然界にもともと存在する放射線)なみの地域はたくさんある。では、そこに住んでいれば大丈夫?そうとも言い切れない。

2011年12月6日、食品会社の明治は、同社の粉ミルク「明治ステップ」から、最大30.8ベクレル/kgの放射性セシウムが検出

されたと発表した。セシウムが検出されたのは、埼玉工場(埼玉県春日部市)で、3月14~20日に製造した粉ミルクを使ったものだという。乾燥の過程で取り込んだ外気にセシウムが含まれていたことが原因らしい。

ところが・・・

日本の乳製品の暫定規制値は200ベクレル/kg未満(後に50ベクレル)なので、

ただちに健康に害はない

と、いつものセリフ。御用学者までが、水に薄めれば放射能が薄まるとか、なんとかかんとか理由をつけては安全を主張する。

はいはい、でもね、

・ドイツの推奨値は4ベクレル/kg未満

・WHOとベラルーシの規制値は10ベクレル/kg未満

をどう説明する?

つまり・・・

この粉ミルクは、世界では危険なのだが、日本だけは安全というわけだ。それとも、日本人だけが20倍の放射能耐性を持つ?今どき、こんな大本営発表を信じる人はいないだろう。重箱の隅をつついているのではない。乳児や子供の健康にからむなら、
「悪い方に考えたほうがいい」
と言っているだけだ。

ところが、12月20日、厚生労働省は、安全基準の上限を引き下げた。

・一般食品(野菜類、肉類、穀類)は100ベクレル/kg

・飲料水は10ベクレル/kg

・牛乳・乳製品・乳児用食品は50ベクレル/kg

情けないのは「乳児用食品の50ベクレル/kg」。どうせ、厳しくするなら、なぜ、WHOなみの「10ベクレル/kg」にしないのか?そうすると、既に安全宣言した先の明治の粉ミルクがNGになるから。もちろん、それだけではない。「10ベクレル/kg」で設定しようものなら、福島第1原発から大量放出した3月11日~3月19日に製造された食品はほぼ全滅だろう(関東以北で)

日本は大切なことを忘れている。政府にしろ、御用学者にしろ、何か理由を見つけては、安全基準を”甘く”しようとする。この発想は根本が間違っている。本当は、何か理由を見つけては、安全基準を”厳しく”するべきなのだ。今の日本があるのは、食品、工業品に限らず、「安全」を売りにしてきから。先人が血と汗で築いた「日本ブランド」をこんな簡単に捨てていいのだろうか。こんな時こそ、日本は「世界一厳しい安全基準」を法制化するべきではないだろうか。目先の利便や金儲けを忘れて。

リーダーとは立ち向かう者である。たとえ、どんな困難なことでもあっても。それができないなら給料泥棒、首相・閣僚なら公金横領に等しい。世が世なら、市中引き回しの上縛り首だ。そんな気構えのある政治家は本当に少なくなった。伸るか反るかで世界に立ち向かった明治の政治家・軍人とは比べようもない。司馬遼太郎の「坂の上の雲」でも読んだらどうでしょう?活字が苦手なら、NHKドラマという手もある(DVDも出ています)。

明治の粉ミルク事件に話をもどそう。この事件はなぜ起こったのか?起こるべくして起こったのである。3月14~20日は、福島第1原発から大量に放射性物質が放出された時期だから。問題は、工場のある埼玉県春日部市。福島第1原発から200kmも離れている。では、他にも危険な地域があるのでは?

そこで、文部科学省が調べた「2011年3~6月のセシウム134と137の降下物積算値」を棒グラフにしてみよう(宮城県、福島県のデータは公表されていない)。

CesiumDataInJapan

やはり、埼玉県は多い。このデータが測定されたのは「さいたま市」だが、春日部市から17kmしか離れていない。なので、春日部市に降下した放射性セシウムも「1万2515ベクレル」ぐらいと考えていいだろう。とすれば、1万2515ベクレル以上の地域で加工された食品も放射能汚染の可能性はある。

具体的な地域は、

東京都

栃木

茨城

埼玉

山形

実際、首都圏の食品加工工場はけっこう多い。大変な事態なのに、政府もマスコミも騒がない。太平洋戦争の時のように、言論統制されているのだろう。当時の言論統制をあれだけ非難しながら、今は沈黙?マスコミや識者はもちろん、騒いで当然の社民党や共産党も手を打たない。国民の生命と財産を守る義務はどこへ行った?国民の税金で暮らしているのに、良心は痛まないのだろうか?あればの話だが。

今後は、食品会社も政府も真剣に対処したほうがいい。

放射能測定器は1家に1台

の時代はそこまで来ている。だから、偽装してもすぐにばれる。事が露見すれば、政府ならゼンゼンOKだが、民間企業なら潰される。「焼肉酒家えびす」の食中毒事件をみれば明らかだ。原因は法律の不備にあるのに、「焼肉酒家えびす」だけが潰された。

2011年12月1日、東京電力・福島第1原発で陣頭指揮に立っていた吉田昌郎所長が、病気療養のために所長職を退任した。病名は食道癌。東電によると被曝線量は累計約70ミリシーベルトで、被曝と病気との因果関係は極めて低いという。先の「スソ切り」だ。

「原発事故と癌を結びつけたくない」

が見え見えで、露骨。では、労災にならない?現場で作業している人はやってられない。

東京電力がやらかした前代未聞の放射能汚染に日本人は何十年、何百年もおびえて生きていく。放射能汚染マップで、3万7000ベクレル未満の地域に住んでいても、安心はできない。先の粉ミルク事件のように、放射能に汚染されたコメや食品が出回るだろうから。しかも、誰がどんな数値を示して、安全宣言しようがもう信用できない。福島県知事の「福島米の安全宣言事件」をみれば、明らかだ。そういう意味で、

日本は、放射能汚染列島。

さらに深刻な問題が福島だ。このままでは、5~10年後、深刻な健康被害が出る可能性が高い。空間の放射線量、土壌の放射能量、さらに、生命保険会社の動きをみれば明らかだ。ところが、政府もマスコミも東電も見て見ぬふり。当事者意識と問題解決力がスッポリ抜け落ちている。

結果として、福島は「放射能人体実験場」になっている

日本は冷たい国になった。同じ日本人として、見ているのは本当に辛い。何かできることはないだろうか?それを真剣に考え、実行にうつす時に来ている。

《つづく》

by R.B

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