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週刊スモールトーク (第163話) 放射能汚染列島(2)~汚染マップ~

カテゴリ : 社会

2011.12.03

放射能汚染列島(2)~汚染マップ~

■見えない危機

「見えない、聞こえない、臭わない」危険は、人間を危機的状況に陥れる。とはいえ、人間の五感はたいていの危険を察知することができる。一部の例外を除いて。その例外の一つが放射能だろう。

人間にガイガーカウンターがついていないのは、地球上に放射能の危険がないからである。ところが、人間はパンドラの箱をこじあけ、原子力を盗み出してしまった。そして、広島と長崎に原子爆弾を投下し、福島第1原発のメルトダウンを引き起こした。日本は2度の放射能汚染にさらされたのである。最初はアメリカによって、2度目は日本人自らの手によって。

核爆弾が炸裂すれば、キノコ雲、轟音、爆風、高熱で、人間は危険を察知することができる。だからもし、今回の事故が核爆発だったら、今頃、東日本に人は住んでいないだろう。ところが、現実は、
「がんばろう東北」
のスローガンのもと、放射能に立ち向かっている。広島原爆の169個分のセシウム137が放出されたというのに(東京大学・児玉龍彦教授)。

そもそも、放射能は立ち向かう相手ではない。生体だけでなく、生命の設計図「遺伝子」まで傷つけるからだ。結果、肉体と精神の毀損(きそん)は、何世代、何十世代にも受け継がれ、子孫を苦しめることになる。こんな恐ろしい災いの連鎖に、なぜ目をつぶるのか?これは、蛮勇というより無知である。

人間には五感にくわえ、「知恵」がある。だから、五感で探知できないなら、
データから真実を読み解く
を徹底すべきである。結果責任の無い為政者や御用学者の発言、希望的観測に頼れば命取りになる。チェルノブイリ原発事故では、子供の甲状腺癌がピークになったのは、10年後だったという。時間はあまり残されていないのだ。子供たちは考えることも、行動することもできない。大人に頼るしかないのだ。その大人がこれでは、子供たちの未来はあまりにも暗い。

お気軽に考えている政府の閣僚、福島県知事に問う。
「5~10年後、甲状腺癌が多発したとき、どう責任をとるのか?」
TVや新聞は抑えられても、2ちゃんねる、ツイッター(Twitter)、フェイスブック(Facebook)はおさえられない。最近の世界情勢をみれば明らかだ。ということで、身の危険を感じないのだろうか?脅し?とんでもない、5~10年後の東日本の被害者の腹一つだ。

ただ、個人的にはこう言いたい。
「国民、県民の命を危険にさらしておいて、政治家として、良心は傷まないですか?」
(良心があればの話だが)

今、必要なのは、誰も信じない「安全宣言」ではなく、データである。より具体的には、「日本列島の放射能汚染マップ」。福島第1原発からの放射性物質の放出は減っているので、今後は、空間放射線量より土壌に沈着した放射能量が問題になる。とくに、身体に入ると内部被ばくをおこす放射性セシウム(134と137)だ。

2011年11月15日、米国科学アカデミー(National Academy of Sciences NAS)が、日本列島に降り注いだセシウム137のマップを発表した。福島第1原発事故の後、日本各地で計測されたセシウム137のデータをもとに、気象条件を考慮し、シミュレーション(計算予測)したのである。

結果は・・・

セシウム137は、福島県、東日本どころか、中部、中国、四国、北海道まで拡散している。福島第1原発から北海道まで1000kmもあるのに。この時、日本は放射能汚染列島と化したわけだ。だが、これは驚くにあたらない。チェルノブイリ原発事故では、チェルノブイリから1000km以上離れたノルウェー南部の牧場で、トナカイから2万ベクレル/kgの放射能が検出された。ちなみに、ベラルーシの安全基準値は10ベクレル/kg。つまり、原発から1000km離れた地点で、安全基準の2000倍の放射能が検出されたのである。

ただ、米国科学アカデミーのシミュレーション結果は、大半が人体に影響を与える量ではない。ところが、この汚染マップのデータは、2011年3月20日~4月19日(1ヶ月間)に限られている。福島第1原発事故直後の3月11日~3月19日に放出された膨大なセシウム137の放出が含まれていないのである。おそらく、現実に日本列島に降り注いだ放射性セシウムの量は、このデータよりはるかに多い。

■放射能汚染列島マップ

文部科学省は、日本列島の放射線汚染状況をモニターし、随時開示している。2011年12月現在、測定された地域は「東北~関東~中部~北陸」、公表されたデータは、「空間放射線量」と「大地に沈着した放射性セシウム」である。

空間放射線量は、人体に影響を及ぼす放射線量で、シーベルト(Sv)で表される。一方、土壌や食品に沈着した放射能量はベクレル(Bq)で表される。空間放射線量は原発からの放射性物質の放出が止まれば、いずれ収束する。しかし、土壌に沈着した放射性セシウムは、長年、生体と環境を破壊する。

そこで、まず、チェルノブイリ原発事故における土壌に沈着した放射性セシウムの基準値をみてみよう。

放射能の量(ベクレル/平方メートル)
危険レベル
148万~ 強制避難ゾーン
55万~148万 強制(義務的)移住ゾーン
18万5000~55万 希望すれば移住が認められるゾーン
3万7000~18万5000 放射能管理が必要なゾーン

数値だけをみても、ピントこないが、チェルノブイリ原発事故では、「強制移住ゾーンレベル」の地域が半径300kmの範囲までおよんでいる(ホットスポット)。さらに、「希望すれば移住が認められるゾーン」は半径600kmを超えている。半径600kmは、福島第1原発から、北は札幌、西は神戸の距離である。

子供がいる家庭なら、上記の「放射能管理が必要なゾーン」でも不安だろう。ということで、危険の目安は3万7000ベクレル/平方メートル。そこで、文部科学省が公表した放射能汚染マップから、3万ベクレル/平方メートル以上の地域を抽出し、赤色で塗りつぶした↓(3万7000ベクレルのデータはないので)。

CesiumOnJapa

このマップの赤色部分の地域を具体的に挙げると、

・福島県の東部全域と西部の一部

・栃木県の北部

・群馬県のほぼ全域

・茨城県の南部

・千葉県の北部

・岩手県の南部の一部

・宮城県の北部の一部と南部の一部

この結果は、空間放射線量の危険基準値の毎時0.2マイクロシーベルト以上のエリアとほぼ一致する(文部科学省が公表したマップより)。原因(空間放射線量)と結果(沈着した放射能の量)が一致するので、データとして信頼していいだろう。

また、これまでに公表された地域別のデータ(平方メートル当たり)をあげると、

・福島県浪江町・双葉町:1000万ベクレル超

・福島県飯館村:326万ベクレル

・千葉県柏、流山、我孫子、松戸市の一部:6万~10万ベクレル

・群馬県みどり市や桐生市の山間部の一部:10万~30万ベクレル

・長野県境の一部:3万ベクレル(原発から220km)

・埼玉県秩父市の山間部の一部:3万~6万ベクレル(原発から250km)

このいずれの地域にも、子供たちが暮らしている。こんな状況で、なぜ、移住や疎開などの対策をうたないのだろう?

■食の放射能汚染

米国科学アカデミーの放射能汚染シミュレーション、文部科学省の放射能汚染モニタを見るかぎり、東日本を中心に放射能汚染列島と化している。日本のほとんどが3万7000ベクレル以下だから大丈夫?食を忘れていない?土壌と水が放射能で汚染された地域で生産された食べ物が、日本中に出回っているとしたら?そして、それは現実になりつつある。

まず、日本の主食のコメ。政府は、コメの暫定基準値を、
200ベクレル/kg以上は警戒、500ベクレル/kg以上は出荷停止」
とした。ところが、中部大学の武田邦彦教授は、
「少なくとも100ベクレル/kg、50ベクレル/kg以下」
と主張している。

さて、どっちが正しいのか?

そこで、日本以外の基準値をみてみよう。チェルノブイリ原発事故で被害にあったドイツでは、飲食物の基準値は、

・乳児・子ども・青少年:4ベクレル/kg

・成人:8ベクレル/kg

推奨値ではあるが、日本となぜこんなに違うのだ?

一方、飲料水(牛乳・乳製品を含む)の日本のセシウム暫定規制値は、
「200ベクレル/kg」
この値はWHO基準の20倍!なぜ、日本は放射能に20倍も甘い?なぜ、マスコミはそれを非難しない?世界中で、日本人だけが20倍の放射能耐性を持つから?どうかしてるぞ、日本!

また、チェルノブイリ原発事故の放射能汚染で今も苦しむベラルーシの基準値は「10ベクレル」

一体、どうなっているのだ?このまま放置すれば、5年~10年後、子供の甲状腺癌の発生率は確実に上昇する。目の前で起こっている現実が信じられない。

こんな政府のいかげん対応に便乗して、静岡県はいち早く汚染度を測定し、「安全宣言」をだした。ところが、数値は公表しなかった。こんな「安全」を一体誰が信じるというのか?消費者をなめているとしか思えない。あとでしっぺい返しを食う生産者が良い面の皮だ。

■福島米の安全宣言

話をコメにもどそう。農業生産者が、
「風評被害で迷惑している」
と声を荒げている最中、驚愕すべき事件が起こった。

2011年10月12日、福島県知事は、TVカメラに向かって、得意げにこう宣言した。

「今年、作付けされた福島米の放射性物質検査を終え、全検体が基準値を下回った。ここに安全宣言をする」

ところが、1ヶ月後の11月16日、福島県は、

「大波地区のコシヒカリから国の暫定基準値500ベクレル/kgを超える630ベクレル/kgの放射性セシウムが検出された」

と発表した。世界で類を見ない甘い日本の基準値も、軽く超えている。これが風評被害?

つづいて、11月25日、福島県は、

「大波地区の農家5戸のコメから新たに基準値を超える放射性セシウムを検出した」

と発表した。最大で1270ベクレル/kg!

さらに、11月28日、福島県は、

「伊達市の農家計3戸のコメから、580~1050ベクレル/kgの放射性セシウムが検出された」

と発表した。県は両地区にコメの出荷自粛を要請・・・出荷自粛?なぜ、すぐ出荷停止にしないのだ?基準値を超えていないコメまで売れなくなるから?人の命より経済を優先しているわけだ。アタマ大丈夫か?

今後もつづくだろう、この馬鹿げた失態は、「人間の命」に直結している。福島県知事のお気軽な「安全宣言」が、どれほど重い罪か認識しているのだろうか?

福島県知事は自分の発言が、日本の消費者の生命を危険にさらし、福島県の農業生産者に大打撃を与えたことに、どう責任をとるつもりなのか?これまで、食品偽装や食中毒で、多くの民間会社が廃業に追い込まれた。では、福島県知事は?世界で類を見ない「政治屋に甘い国」だから、許される?まぁ、まだ知事でいるわけだから、そうなるのだろう。政府もマスコミも大騒ぎしないのが信じられない。

また、福島県と宮城県を流れる阿部隅川の河口から、1日当たり524億ベクレルの放射性セシウムが検出されたという(2011年8月)。ちなみに、東京電力が福島第1原発事故で、4月に海に意図的に放出した汚染水は840億ベクレル。この恐ろしい量を2日で超えたことになる(11月25日京都大学の調査で判明)。

「福島県を中心に、東日本は本当に子供たちが住める場所なのか?
真剣に考えるべき時期にきている。「がんばろう東北」ですませるのは、無責任で愚かだ。

■福島県の現況

ネット上で、「福島テレビ」の元女子アナの発言が物議をかもしている。彼女は、11月17日付の北陸中日新聞(富山県・石川県の地方紙)に実名で登場し、驚くべき告白をした。彼女は、15年間、福島テレビの女子アナを勤めたが、新たに子供が授かったので、退職して故郷の金沢に帰ったという。理由は、放射能汚染で、その告白とは・・・

金沢に戻った時、友人が食事に連れ出してくれた。豊富な食べ物、汚染を気にすることもない。
「これが普通の生活だったんだ」
涙が出た。

「これでいいのか」という疑問がふくらんでいく。
福島駅近くで、サクランボをほおばる幼稚園児の話題。洗わないまま、
「おいしい」
と言って食べる“安全性”のアピール。
これって放送していいの?
と思わずにいられない。

ネットでは、自分がテレビで「安全」をPRしておいて、自分だけ逃げ出すなんて無責任だ!という意見もあるが、そんなことはどうでもいい。問題は、福島ではマスコミを巻きこんで、こんなことが行われているということ。第二次世界大戦中の大本営発表ではないか?

福島の行政、マスコミの中にも、心の痛む人はいるだろう。まして、県民はどんな思いでいるのだろう。かつて、毒入りギョーザ事件で、
「中国のギョーザは農薬入り」
と非難したが、
日本の食べ物は放射性物質入り
中国の肩を持つつもりは毛頭ないが、日本は中国を責める資格はない。

日本は本当に冷たい国になった。
「がんばろう東北」
のスローガンのもと、住民を取り返しのつかいない危機にさらしている。政府が主導して、移住させるべきなのに。

「土壌の除染」が万能薬のように吹聴されているのが信じられない。そもそも、山間部はどうやって除染するのだ?木を全部引っこ抜く?山間部に降った雨は、放射性物質を川や地下水に流し込み、平地の土壌と水を汚染する。当然、飲料水や農産物、ひいては食品全体が放射能に汚染される。平地だけ除染しても、効果は限られるのだ。

だから、選択肢は一つしかない。

・厳しい安全基準に従い、危険地域を特定し、移住地域を決定する。

・西日本で市町村別に割り当てを決めて、移住先を強制的に確保する

・特に寒村では、利用されていないタダ同然の農地や宅地が山ほどある。

故郷を離れたくない、仕事が心配?は理解はできるが、子供の命にはかえられない

どうしても、親が拒否するなら、子供だけでも疎開させるべきだ。民間でやるのは至難だが、行政ならできる。実現は難しい?そんなことを言っている場合ではない。政治家は、国民に嫌われようがなんだろうが、国民の生命と財産を守る義務があるのだ

1986年、伊豆大島・三原山の大噴火で、後藤田正晴は、各省庁を統括して、一晩で39隻の船舶をかき集め、全島民1万人を避難させた。さすが、元警察官僚。危機意識、決断力、実行力、今のサラリーマン議員とは桁違いだ。もし、彼のような政治家が今の日本にいたら、と想うと胸が熱くなる。

後藤田正晴に長年仕えた佐々淳行氏によれば、「後藤田五訓」なるものがあったという。

その内容は、

・出身がどの省庁であれ、省益を忘れ、国益を想え

・悪い本当の事実を報告せよ

・勇気を以って意見具申せよ

自分の仕事でないと言うなかれ

・決定が下ったら従い、命令は実行せよ

今の無為無策の政治屋には、耳の痛い言葉だろう。だがもし、このような信念をもつ政治家が現れたら、東日本の子供たちは救われる。700人も議員がいて、誰も立ち上がらないのか?国民から税金を吸いあげ、高い禄を食んでいるのに。今の日本に必要なのは、ぬるいサラリーマン議員やドジョウ首相ではない。あらゆる能力を備え、”国を想う”真のエリートだ。

出てこい、救世主!

《つづく》

by R.B

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