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週刊スモールトーク (第153話) スカイキャプテンⅡ~伝説の6分間映像~

カテゴリ : 娯楽

2011.03.13

スカイキャプテンⅡ~伝説の6分間映像~

■異例づくめの映画

スカイキャプテン/ワールド・オブ・トゥモロー」は2004年に公開された米国映画だが、何から何まで異例ずくめだった。

まず、脚本・監督のケリー・コンランだが、この映画がデビュー作。さてはB級映画?ところがそうでもない。制作費は4000万ドル(30億円)の大予算のハリウッド映画。決してB級映画ではない。

つぎに、出演者。
スピルバーグ監督の「A.I.」のジュード・ロウ(主演男優)、
オスカー女優のグウィネス・パルトロー(主演女優)、
・「トゥームレイダー」のアンジェリーナ・ジョリー
どうみてもホンモノのハリウッド映画だ。ではなぜ、キモの脚本・監督だけがアマチュアなのか?

■ケリーの夢

ケリー・コンランは、大学卒業後、映画を作るため資金調達を試みたが、500万円も集まらなかった。もっとも、うまくいくほうがおかしいのだが。実績のない”なんちゃって”監督にハリウッドが大金を出すわけがないから。

だいいち、映画監督を目指すなら、まず、助手から始めるのがスジ。ところが、ケリーはそんな下積みをパスし、いきなり、映画を作り始めたのである。自分の部屋に引きこもって。

ここで、当時のケリーがおかれた状況を整理してみよう。カネがないので、選択肢は2つしかない。
1.企画だけでいい → アイデアを売る。
2.制作もやりたい → チープな自主映画で我慢する。
ところが、ケリーの選択はどちらでもなかった。自分が企画したSF大作を、自分で作ろうとしたのである。拍手喝采モノの大英断だが ・・・ カネはどうする?

ケリーは自宅の一角を撮影所に改造し、撮影にとりかかった。カネがないので、素人の役者を雇い、市販のパソコンとソフトを使って映像を1コマ1コマ手作りしていった。とにかく、やれるところまでやろう、そんなノリだ。こうして、4年の歳月が流れ、できたのがモノクロ「6分間映像」だった。4年で6分?2時間映画なら、あと80年かかる!さて、どうしたものか ・・・

こんなお気軽な人生を歩む人間というのは、一体どんな顔付きをしているのだろう?目がトロ~んのおバカ、それとも、目が血走ったイケイケ?ところが、ケリーはどちらでもない。映像を見る限り、ケリーの表情は少年のように澄んでいる。しかも、話しぶりは謙虚で誠実、熱い思いも伝わってくる。

ケリーのトークを聞いていると、
「僕はやるべきことはわかっている。だから、やれるところまでやる。その後?なんとかなるさ」
まさに、最強のストレス耐性遺伝子「Sense Of Coherence(一貫性の感覚)」の「何とかなる・感覚」を彷彿させる。実際、先の「6分間映像」を制作中のケリーをみると、ニコニコして楽しそうだ。将来に対する不安はみじんも感じられない。最終的に30億円もかかる大作を、資金のあてもなく、4年間もコツコツ作り続ける?結果が出たからいいようなものの、普通なら、おバカなおっさんで終わっていただろう。

さて、その後のケリーだが、4年で6分ならその後は?子供でも察しがつく。さすがのケリーも制作を中断し、次の手を打つことにした。唯一の成果「6分間映像」を映画関係者にみせたのである。そして、これが伝説の「6分間映像」となった。

■伝説の「6分間映像」

ケリーの「6分間映像」は、文字通り6分間しかない。しかも、粒子の粗いモノクロ映像。ところが、伝わってくるものは凄い。世界観が独特で、絵に力があるのだ。冒頭いきなり、巨大な飛行船が現れ、高層ビルの最上階に係留される。現実ではない異形の光景なのだが、デジャヴュでどこか懐かしい。

その後、科学者が次々と失踪し、美人記者ポリーがそれを追う。やがて、巨大ロボットの大兵団がニューヨークを襲撃する。ここで、スカイキャプテン登場!血沸き肉躍る大冒険活劇、こうご期待! ・・・ という感じ。

言ってしまえば、レトロ・フューチャーなSF冒険活劇だ。ところが、妙なリアル感がある。ハラハラ・ドキドキではなく、どこか懐かしい日常のリアル感。ぬるくて不思議な世界だ。昔、「少年マガジン」や「SFパルプ雑誌」にはまった人なら、きっと虜になるだろう。伝説の「6分間映像」はそんな作品だ。

ところが ・・・

「6分間映像」に惹かれたのは、おじさんだけではなかった。「スカイキャプテン」の主演女優グウィネス・パルトローもその一人。彼女はこう言っている。

「この作品のもとになった6分の短編映像を見たの。ケリーの映像技術の高さに感動したわ。とても魅力的な映像だった。脚本をまだ読んでなかったのに、出演を決めたの

 グウィネス・パルトローは「恋におちたシェイクスピア」でアカデミー主演女優賞をとっている。たしかに美人だが、華のある女優ではない。むしろ、地味。ところが、「スカイキャプテン」のぬるい演技が妙に合っている。彼女にとって一番のはまり役では?

一方、主演男優のジュード・ロウは、「スカイキャプテン」のプロデューサーも兼任している。プロデューサーとしての実績は知らないが、スカイキャプテンは間違いなくハマリ役だ。日本で大ヒットした「A.I.」のジゴロ・ジョー役は凄すぎるが、それに匹敵する。

そして、「スカイキャプテン」映画化の第一の功労者は、間違いなくジョン・アヴネットだ。彼がいなければ、何も起こらなかったろうから。そのジョン・アヴネットだが、6分間映像についてこう語っている。
「短編映像(6分間映像)が入ったビ
デオと一緒にロボットが持ちこまれたが、
こんなことは初めてだった。
ビデオを観ると、もう一度みたいほど面白かった」

ケリーは、6分間映像といっしょに、映画に登場する巨大ロボットの模型を作り、持ち込んだのである。受け狙いはミエミエだが、いいところをついている。「スカイキャプテン」の一番の顔は、リベットむき出しのあのロボットなのだから。

一方、ケリーはジョン・アヴネットのその時の反応をこう回顧している。
得体の知れない面白い作品をみたような反応が感じられた。僕はジョンに、

「この作品を完成させたいんだ」
と言った。彼は了解し、

「ただし、このデモは誰にも見せるな」
と言った。「スカイキャプテン」の映画化が決まった瞬間だ。

■メイキング

「スカイキャプテン」は、制作方法も”異例ずくめ”だった。まず、実写映画なのにすべてサウンドステージ(屋内の撮影所)で撮影された。つまり、屋外撮影は一切ナシ。では一体どうやって背景を作ったのか?

まず、サウンドステージで役者の演技を撮影する。さらに、CGで背景を作り、役者の映像と合成する。もちろん、これなら普通にある手法。だが、「スカイキャプテン」にはもう一つ工夫あった。
1.先ず、カラーで実写撮影する。
2.そのカラー映像を、一旦、モノクロ映像に変換する。
3.次に、モノクロ映像に着色し、カラー映像にもどす。

意味不明 ・・・ どのみちカラーなんだから、初めのカラー映像でよいのでは?これじゃ、穴を掘って、また埋めるようなものだ。ところが、この”ムダ”が独特の映像の生み出しだ。天然カラーというより、人工カラー。現実のように見えるがどこか違う”もう一つの世界”感はここからきている。

もちろん、言うは易く行なうは難し。理屈はいいが、中途半端に作り込むと、チャチな実写か、ただの塗り絵で終わる。では、「スカイキャプテン」はどうやって回避したのか?

まずは、サウンドステージの人物撮影。撮影された映像は、後で本番の背景と合成するため、人物と背景を分離する必要がある。そこで、撮影時に、背景に青色のスクリーンを張っておく。そうすれば、青色部分は背景、それ以外は人物と識別できる。撮影後、映像から青色部分を抜き取れば、人物だけが残るわけだ。それを本番の背景と重ね合わせれば、映像は完成する。これを、「ブルースクリーン」、または「ブルーバック」と呼んでいる。

ただし、人物に青系の色が混ざっていると、人物と背景の分離が難しくなる。その場合は、背景に緑色のスクリーンを使う。これを、「グリーンスクリーン(グリーンバック)」と呼んでいる。この手法は、映画に限らず、映像制作の現場で広く使われている。最近手がけた案件では、ブルースクリーン、グリーンスクリーンを使い分けている。また、同じ案件の中で、ブルースクリーンとグリーンスクリーンを併用することもある。どっちを選ぶかはケースバイケース。

ところで、作るのは大変だが、演じる方も大変だ。役者が周囲を見渡しても、カメラとブルースクリーンしかない。何をイメージして、どこを見て演技すればいいのか?実際、「スカイキャプテン」でもかなり苦労したようだ。事前の打ち合わせ、役者とスタッフのイメージの共有が欠かせない。さらに、強力なツールも必要になる。

映像制作の現場で、役者とスタッフの認識合わせに使われるのが、「絵コンテ(ストーリーボード)」だ。いわば、シーンやカットの設計図で、ラフな線画に、セリフ、エフェクト、カメラワークが記されている。ところが最近は、CG合成などで映像が複雑になり、絵コンテだけでは対応しきれなくなっている。

そんなとき使われるのが「Vコンテ(ビデオコンテ)」だ。最近、手がけた案件では、クライアントの承認、外注の指示はすべて「Vコンテ」で行っている。Vコンテは、いわば動く「絵コンテ」というところ。

一方、「スカイキャプテン」では「アニマティック」が使われている。「アニマティック」とは、粗いCGで作られた3D版Vコンテ。シーンやカットのレイアウト、登場するオブジェクト、アニメーション、後で追加されるCG、カメラワークなど、すべて画面上で確認できる。絵コンテにはない”時間軸”があるのが強みだ。究極の映像設計図といえるだろう。

■夢をかなえる方法

「スカイキャプテン」は、人物撮影はロンドンで、背景制作と編集はアメリカで行われた。当初は資金不足で、ムダな経費は極限まで切り詰めたという。たとえば、スタッフ100人に対し、トイレは2つ。一般的には、3~4つは必要だろう。

2003年6月、映画会社を集めて、20分間の試写会が行われた。そこで、パラマウントが配給権を獲得、追加出資も決まった。その後、資金にゆとりができたため、開発インフラが強化され、映像に磨きがかかった。そして、2004年9月、ついに「スカイキャプテン」は完成する。

アマチュア監督ケリーにとって、夢のような日々だっただろう。ケリーは、映画化が決まった頃をこう回想している。プロデューサーのジョン・アヴネットを中心に、キャストの選定がはじまった。ところが、ケリーにはバカげたゲームのように見えたという。結局は、無名の俳優ばかりに落ち着くだろうから。ケリーはこう言っている。
ジュードとグウィネスがどうして出演をOKしたのか、いまだによくわからない

「スカイキャプテン」の制作物語は、映画のストーリーよりドラマティックだ。一人の制作者の熱い思いが、6分間の映像を生みだし、プロデューサーと大手映画会社をまきこんで完成させ、世界中で公開される ・・・ ケリーの人生そのものが映画だったのだ。

人は誰でも夢を叶えたいと思っている。それが叶う人と叶わない人、その分水嶺は最初の一歩にあるのかもしれない。

一歩を踏み出す勇気の後に、歴史は創られる

《完》

by R.B

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