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週刊スモールトーク (第140話) アイパッド・iPad(2)~タブレットPC〜

カテゴリ : 社会科学

2010.03.21

アイパッド・iPad(2)~タブレットPC〜

■近未来

201X年のとある朝。R氏は眠そうに目をこすりながら、テーブルについた。

目の前にはいつもの豆乳とプロポリス、その横には「iPad-X」。日々のデジタル生活に欠かせないタッチパネル式の情報端末だ。N氏は豆乳をすすりながら、iPad-Xに目を落とす。朝のニュースが次々と表示されている。読み上げ機能もあるのだが、中学生の息子、小学生の娘もマイ「iPad-X」に夢中で、音を出せば叱られる。iPad-Xのニュースはユーザーによってカスタマイズされ、表示内容が違うのだ。息子はニヤニヤ笑っているので、ろくなニュースじゃないだろうし、娘は嬉々として液晶パネルをタッチしているので、朝からゲーム?

R氏は朝食を終え、iPadXを抱えトイレへ。B5版サイズで重さは400g、雑誌を持ち歩くような感覚だ。ニュースの続きを読んで、今日のスケジュールを確認する。身じたくを終え、マイカーに乗り込む。iPad-Xをハンドルの横に固定すれば、カーナビに早変わり。そのままJR駅へ、今日は東京出張だ。金沢から東京まで、北陸新幹線で2時間28分。ちょっと長いけど、退屈はしない。iPad-Xのおかげで、R氏は新しい”遊び”を見つけている。iPad-Xは、映画、TVドラマ、電子書籍、ゲーム、ウェブ閲覧を、思考の中断なくシームレスに楽しめる。結果、バラバラの情報が脳内で化学反応を起こし、新しい「知の価値」を生みだす。R氏は、それをコンテンツにまで昇華させ、コミュニケーションサイトにアップロードしている。それに触発されたユーザーが、さらに新たな価値を生む・・・この知の連鎖によって、日々新しいコミュニケーションが生まれている。この”遊び”を覚えたR氏は、これまでのように、映画、小説、ゲームを受け身で楽しむことはなくなった。

iPad-Xはセキュリティも万全だ。近接センサと電子EYEで、オペレータが正当なユーザーかどうか、常にチェックしている。なので、トイレに立っても、隣の人にのぞかれる心配はない。東京に到着し、客先へ直行。会議のメンバーは7人なので、iPad-Xをプロジェクタにリンクし、スクリーンを見ながら打ち合わせをする。夜は、部下のM君とベトナム料理店で食事。M君は、今、東京の得意先に長期研修に来ている。慣れない東京での一人暮らしなので、こうやって月に一度の慰労会。テーブルの上にiPad-Xをおいて、それを見ながら食事。こんなカジュアルな打ち合わせにはiPad-Xはかかせない

食事が終わり、R氏はホテルへ。R氏がホテルにつくと、スタッフのプログラマーからメールが入っている。処理速度が上がらないので、グラフィックの品質を落としたい?絵の美麗さか、滑らかなアニメーションか?どっちにしろ、クライアントの確認が必要だ。こんな込み入ったメールは片手入力の携帯電話ではムリ。R氏は、iPad-Xの仮想キーボードを起動し、両手入力で素早く回答した。すっかり、お疲れのR氏、iPad-Xでお気に入りのSFドラマを観ながら、眠りにつく。ところで・・・R氏はゼンゼン気づいていないのだが、最近、テレビを見かけなくなった。家でも、ホテルでも「iPad-X」・・・テレビはどこへいった?

■タブレットPC

この近未来シミュレーションに登場する情報端末は、画面に直接入力できるので、キーボードもマウスもいらない。ペンを使うタイプはタブレットPC、指でタッチするタイプはタッチパネルPCとよばれるが、ここでは、「タブレットPC」でくくる。ところで、iPad-XのようなタブレットPCは古くからある。映画やテレビの小道具として。たとえば、1968年公開のSF映画「2001年宇宙の旅」。映画の序盤で、月面の作業シーンがあるが、作業員が手にしているのが、B5版のタブレットPC。もっとも、1.5秒のカットなので、物好きじゃないと気づかない。

また、映画の中盤で、宇宙船デスカバリー号の食事のシーンがある。テーブルにディスプレイが水平に埋め込まれ、クルーは食事をしながらニュースを見ることができる。このディスプレイを板状に切り取れば、そのままiPad-Xだ。監督のスタンリー・キューブリックは、映像の素晴らしさで名声を得たが、SFガジェットのセンスもなかなかのもの。さらに・・・1987年から始まったテレビドラマ「新スタートレック」。ピカード艦長が手にするのが小型の情報端末だ。外見は、アイフォン(iPhone)を少し大きくした感じ。表示内容まで確認できないが、エンタープライズ号、クルー、宇宙域、あらゆる情報を参照できる、という設定だ。

このように、SF世界ではタブレットPCは珍しくはないが、万能端末というわけではない。どちらかというと、「ペーパレス」端末。コミュニケーションや指示命令にはデータや資料が欠かせないが、それを電子化したというノリ。というわけで、SF世界における情報端末はペーパレスが起点だ。一方、現実世界は少し違う。現在、最強の情報端末は携帯電話だが、起点はコミュニケーション(通話・メール)にある。もっとも、最近では、ゲーム、音楽、ウェブ閲覧を取り込み、電子書籍、電子コミックまで手を広げている。アプローチの違いはあるが、SF世界であれ、リアル世界であれ、情報端末の行き先は一つだ。映像・音・テキストをデジタル化し、仕事・生活・娯楽を一気通貫で丸かじり。未来のデジタル生活を支えるデバイスは、大きく3つある。

1.スマートフォン(携帯電話を含む)

2.パソコン

3.進化型タブレットPC(タッチパネルPC)

この3つは、用途によって明確に分類されている。スマートフォンは通話と簡単なメールや情報確認。パソコンはヘビーなデータの作成と参照。そして、進化型タブレットPCは、それ以外のすべて。すでに、スマートフォンとパソコンは社会に浸透し、用途も機能も明確。まだ、見えていないのは進化型タブレットPCだ。タブレットPCはキーボードもマウスも不要なので、初心者にはうってつけ、のようにみえる。ところが、商業的に成功した例はまだない。そんな難儀な市場に、打って出たのがアップル社のiPadだ。

■iPadの未来

冒頭のシミュレーションに登場する「iPad-X」は、2010年4月にアップル社が発売するiPadをイメージしている。iPad-Xの「X」は時期を表し、iPad-2なら2012年、iPad-9なら2019年。では、先の近未来シミュレーションはいつの話?それはアップル次第、いや、ユーザー次第だ。iPadがいつ成功するか、あるいはコケるかは、ユーザーの「愛」にかかっている

iPadは、人間の精神と知性を拡大する「知の革命」を起こすかもしれない。けっして、画面が大きいだけのスマートフォンではない。もちろん、ヒマつぶしの道具でもない。とはいえ、どんな有望な発明品もそうなのだが、iPadの未来も2つある。興味深いことに、その2つの未来は、アップル社の歴史にも刻まれている。

1977年、アップル社は、画期的なパソコン「AppleⅡ」を発表した。その頃のパソコンといえば、ゴツゴツした金属の筐体に、モノクロテキスト表示のみ。ところが、AppleⅡはシャレたクリーム色のプラスティックケースに、280×192ドット、6色カラーグラフィック。なんと素晴らしい!ところで、何に使う?高尚なマーケティング理論によれば、こんな用途不明は失敗のもと。ところが、AppleⅡには人を惹きつけてやまない”何か”があった。それは目に見える用途ではなく、「何かとてつもないことができそうだ」という”未知の可能性”。結局、ユーザーはAppleⅡを通して「未来」を見ていたのである。サードパーティ(企業)とユーザーはいっしょになって、AppleⅡのハードとソフトを育んでいった。それは後に「アップル文化」と呼ばれたが、つきつめればユーザーの「愛」。そんな曖昧で不確かなものが、AppleⅡを歴史的成功に導いたのである。

それから、5年経った1983年、アップル社はさらに画期的なパソコンを世に送り出した。「Lisa」である。群を抜く魔法のような技術は、V2ロケットを彷彿させた。現在主流のグラフィカルユーザーインターフェイスを備え、ビジネスソフト「LisaOffice」も同梱。たとえば、LisaWrite(ワープロ)、LisaDraw(図表作成)、LisaCalc(表計算)、LisaProject(プロジェクト管理)、LisaList(データベース)。つまり、買ったその日から、実用レベルで使える。しかも、データをアプリケーション間でやりとりできる!未来のパソコン!誰もがそう思った。ところが、価格が1万ドル・・・当時の為替レートで200万円強。自動車が買える値段だ。年に1度の確定申告のために、自動車を買う人はいないし、育てようにも、買うこともできない。結局、大量に売れ残ったLisaは、ユタ州の処分場に埋められた。この2つの真逆の歴史は、商売の法則を示唆している。

1.商品の成否において、「愛」が「用途」に優ることがある。

2.どんなに良い商品でも、高ければ売れない。

さて、iPadの未来はどっち?未来のデジタル生活の中核デバイスとなるのか、それとも、処分場に埋められるのか?

■iPadのスペック

ここで、iPadのスペックをみてみよう。潜在能力はさておき、見た目はとてもわかりやすい。縦横19cm×24cm、厚さ1.3cm、重さ680g。ちょっと重いB5版の雑誌というところ。これなら、外に持ち歩けるし、トイレにも気軽に持ち込める。しかも、タブレットPC(タッチパネルPC)なので、バランスの悪い場所でも操作が苦にならない。さらに、仮想キーボードを使えば両手入力も可能なので、長文もOK(たぶん)。さらに、液晶ディスプレイの解像度は1024×768ドットもあり、サイズも9.7インチと広い。長文や高解像度の映像にも耐えられる。また、近接センサーや3軸加速度計、デジタルコンパスも備えるので、今後、面白いアプリケーションソフトが出てくるだろう。

さらに、特筆すべきはソフトの供給体制だ。iPadは、アイフォン(iPhone)同様、アップル社のコンテンツサイトから、膨大なソフトをダウンロードできる

1.AppStore(コンピュータソフト)

・17万タイトルのアプリケーションソフト(2010年3月)。

・iPad専用のOfficeソフト「iWork(アイワーク)」もリリース。Pages(ワープロ)、Numbers(表計算)、Keynote(プレゼン)を含む。

2.iTunesStore(音楽と映像)

・1,100万曲以上の楽曲。

・50,000以上のTVエピソードと、8,000本以上の映画。

3.Bookstore(電子書籍)

・アマゾンの電子書籍端末キンドルに対抗?映画、ドラマ、音楽、ビジネスソフト、教育・教養ソフト、ゲームソフト、電子書籍・・・

コンテンツのあらゆるジャンルを網羅している。あとはタイトルを増やすだけ。放っておいても、時間が解決してくれる。ライバル企業にとって、王手をかけられたに等しく、挽回(ばんかい)するのは至難に見える。iPadには2つのモデルがある。無線LANの「Wi-Fiモデル」と、3G通信機能も使える「3Gモデル」だ。どちらも、アップル社のサイトからソフトをダウンロードできる。ただ、後者は場所を選ばないが、前者は選ぶ。もちろん、決済機能付きで、支払い手続きの面倒もない。

■究極の情報端末

確かに、iPadはスジがいい。でも、本当に、iPad-Xにつながるだろうか?そこで、未来のデジタル生活の中核デバイスになるための5つの条件をあげ、iPadを精査してみよう。

1.映像、音楽、電子書籍、ソフト、インターネット、すべてに使えること。

・端末としての機能、ソフトの供給体制は基本的にOK。

・ただし、タイトル数はあと2桁増やす必要がある。

2.電車、トイレなどバランスの悪い場所でもストレスなく操作できること。

・タッチパネル式なのでOK。

・ただし、長文入力はNetbook(ノートパソコン)に劣る。

3.ウェブや電子書籍が読めるほど画面が広く、かつ、かさばらないこと。

・液晶は、9.7インチ(1024×768ドット)と広く、かさばらないので、OK。

・ただし、電子書籍端末キンドルの電子インク・ディスプレイに比べ目が疲れる。

4.操作が簡単に覚えられること。

・Netbookよりマシ?

5.バッテリーは12時間もつこと(外出して使用する時間)。

・12時間はムリ。新型リチウムイオン電池か燃料電池が必要。

機能面から見れば、iPadはiPad-Xに進化する可能性はある。だが、iPadがデジタル生活の中核デバイスに上りつめるには、もう一つハードルがある。ライバルの存在だ。

《つづく》

by R.B

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