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週刊スモールトーク (第13話) 地球最後の日(1)~隕石衝突の恐怖~

カテゴリ : 終末

2005.09.11

地球最後の日(1)~隕石衝突の恐怖~

■ツングースの大爆発

地球には、毎日何十個もの隕石が落ちてくる。隕石とは、正確には地球に落下した固体をさすが、その正体は太陽を周回する「小惑星」である。とはいえ、「隕石」のほうがなじみがあるので、ここでは「小惑星」を「隕石」にくくることにする。

このような落下物はたいてい1センチにも満たないので、地球に衝突する前に燃えつきてしまう。これが流れ星で、子供の頃、消えるまでに3つの願いごとをすると、それが叶うと教えられた。とはいえ、そんなロマンチックな話も直径が数十mまで。それを超えるととんでもないことになる。

1908年6月30日、そのとんでもないことがシベリアで起こった。直径100mほどの隕石が地球の大気圏に突入、シベリア・ツングースの上空で爆発したのである。成分が石(隕石)か、鉄(隕鉄)かにもよるが、直径が120m以下だと、地上に衝突する前に空中爆発する。大気との猛烈な摩擦熱で固体を維持できなくなるのだ。

このときは、爆心地から巨大な火柱がそそり立ち、煤煙は上空20kmに達したという。まるで、旧約聖書の呪われた町ソドムだ。さらに、爆心地から20km以内は炎に包まれ、すべての森林を焼きつくしたという。

この隕石の直径はたかだか100mだが、放出したエネルギーはTNT火薬20メガトン、広島に投下された原子爆弾の1000倍である。近代の歴史では、最大規模の災害だろう。

ただ、落下地点のツングースは無人地帯だったため、不幸に見舞われたのはシカぐらいだった。だが、これがもし都市で起こっていたら?

結論からいくと、同じ隕石が東京上空で爆発した場合、関東平野が全滅する。都市に落ちたら100万人、人口密集地帯なら500万人が死亡するという。死亡と書けば簡単だが、こういう死に方はしたくない。頭上で広島型原爆1000個分が爆発するのである。気化蒸発(燃える間もなく蒸発)は必至で、自分の死に様を確認するヒマもない。

恐ろしい災害だが、1億年に1回程度の確率なら、まだあきらめもつく。ところが、このクラスの隕石が地球に衝突する確率は、数百年に1度だという。あきらめのつく数字ではない。それなら、衝突する前に見つけて、手を打てば?

これも結論からいくと、「事前に発見」はムリらしい。直径100m程度では小さすぎて、天体望遠鏡では見えないのだという。早い話が、衝突してはじめて分かるというわけだ。これって、メチャクチャ恐い現実だと思うのだが、意外に世の中は騒がない。

ただ、空気のない「月(Moon)」なら観測が可能だという。ウソだとは言わないが、これで安心する人はいないだろう。月面に観測所があるという話は聞いたことがないし、来年、建設されるという話も聞かない。だいたい、隕石は明日にでも衝突するかもしれないのだ。

■巨大隕石の破壊力

とはいえ、本当に怖いのはビッグサイズの隕石だ。これまで確認された最大の隕石は、6500万年前、ユカタン半島を直撃したものである。ユカタン半島は、南北アメリカの接続点にあり、10世紀には有名なマヤ文明が華ひらいた。この時、衝突した隕石は、直径10km。

直径10km?

太平洋の最深部に沈んでも、頭が出るではないか!

この衝突で放出されたエネルギーはTNT火薬6000万メガトン、先のツングースの衝突の300万倍。生物種の60%、海洋生物の75%が絶滅したという。ちなみに、この時は地球の覇者、恐竜も絶滅している。これほどの災害規模になると、「個体」ではなく「種」が絶滅する。もちろん、被害エリアは地球全域。

この衝突で発生した地震のマグネチュードは12~14と想定されている。われわれが経験する大地震はせいぜいマグネチュード8前後。マグネチュードは1つ上がるごとにエネルギーが30倍になることに注意が必要だ。このような巨大地震では、地球の地盤が20mもめくれ上がるという。とても、生きてはいられない。世界の終わりだ。

さらに恐ろしいのは津波。この衝突で発生した津波の高さは数千m!北米大陸のメキシコ湾沿岸にも高さ1kmの津波が押し寄せたという。

津波の高さと被害について考えてみよう。2004年12月26日のスマトラ沖大地震の時、高さ20mの津波が発生し、16万人が犠牲になっている。高さ20mで16万人!?

また、コンピュータシミュレーションによると、直径200mの隕石が大西洋の真ん中に落ちた場合、沿岸部で高さ200mの津波が発生し、オランダ、デンマーク、マンハッタンをのみこみ、何億人も死ぬという。しかも、たった数分で。波高200mでこの破壊力だ。高さ1kmの津波の被害など想像つかない。もちろん、逃げも隠れもできない。

それに、隕石衝突の直撃をまぬがれたとしても、長い冬がやってくる。衝突後の、核の灰ならぬ、衝突の灰が地球を覆い、光合成を破壊するのだ。世界中の植物は死滅し、食物連鎖も破綻する。やはり、生きていけない。

はっきりしているのは、衝突する隕石が大きいと、人類が絶滅するかもしれないということ。ところが、先の恐竜キラー隕石よりさらに大きな隕石が見つかっている。小惑星エロスだ。名前を聞いてニヤついてはいけない。直径がなんと22kmもあるのだ。しかも、114万年後に地球に衝突する可能性もあるという。それまで人類の歴史が続くかどうかは別として、衝突したら、恐竜キラー隕石の10倍のエネルギー!ここまでくると、恐怖心もわかない。

■隕石衝突の原理

ところで、隕石衝突はどのようにして起こるのだろう。火星と木星の軌道の間に、無数の小惑星がドーナツ状に分布している。これが小惑星帯だ。この小惑星はそれぞれ周回軌道をもっていて、その軌道が地球の軌道と交差すれば、衝突する。わかりやすい話だ。最近、小惑星が小惑星帯だけではなく、太陽系全体に分布していることが確認された。つまり、我々は隕石地雷の中で生きているわけだ。

さらにやっかいなことに、隕石(小惑星)は、恒星や惑星に比べ、小さいので、軌道が安定しない。他の天体の引力の影響を受けやすいのだ。要するに、軌道が読みづらく、衝突の予測も難しいということ。宇宙に天体が2つしかなければ、ニュートン力学で軌道は完全に予測できる。ところが、現実には無数の天体が混在し、互いに引き合い、広大な引力ネットワークを構築している。これは多体問題といって、方程式を使って解析的に解くことができない。

それでも多くの観測データを集め、ソフトウェアで逐次計算すれば、軌道はある程度予測できる。実際、このような観測と計算は世界中で行われている。とにかく、人類を絶滅させるような隕石だけは、早期に発見しなければならない。まるで予防医学だ。ちなみに、このような危ない隕石は直径1km以上と言われている。

その中で、地球と衝突する可能性のあるデススターは2000以上もあるらしい。ところが、現在確認されているのはわずか150個ほど(1998年)。つまり、残りの1850個はステルス状態だ。それは、ある日、何かのはずみで発見されるかもしれない。でも、仮に発見されたとしても、どうやって隕石の衝突を回避するのだ?

《つづく》

参考文献:
(※)日本スペースガード協会「小惑星衝突」NewtonPress
ゲリットLヴァーシュアー松浦俊輔訳「インパクト」朝日新聞社

by R.B

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