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週刊スモールトーク (第118話) 世界恐慌(2)~大恐慌の原因~

カテゴリ : 経済

2008.12.28

世界恐慌(2)~大恐慌の原因~

■恐慌とは

バブル崩壊は高波、恐慌は津波・・・2004年、スマトラ沖で発生した津波の映像を見てそう思った。分厚い海のうねりが、間断なく、陸に押し寄せ、建物も車も人も押し流していく。高波とは桁違いのエネルギー、破壊力だ。高波は面のパワー、津波は立体のパワーかもしれない。この津波で28万人が犠牲になったが、高波ではありえない被害だ。高波と津波は同じに見えて、実は別ものなのである。そして、バブル崩壊と恐慌も・・・

2008年、サブプライムローン問題に端を発し、リーマンショック、AIG事件と続いた金融危機、さらに、ビッグスリーショックは、世界恐慌を暗示しているのだろうか、それとも、ただのバブル崩壊?

今、消費者は必要もないガラクタ商品を大量に買わされているが、それに気づいていない。ある日、株価が暴落し、金融危機が起これば、消費者は不安を覚え、ガラクタ商品を買わなくなる。それでも生きていけることに気づいた消費者は、ますますガラクタを買わなくなる。山のような在庫を見た企業は、危機感を覚え、生産を減らす。工場は閉鎖され、労働者が大量に解雇され、ますますモノが売れなくなる。

企業は、すでにある生産設備まで減らすので、新規の設備投資は生まれない。結果、設備産業は大打撃をうける。自動車のような高額な耐久消費財は売上半減、家電製品は激減ですむが、設備産業は限りなくゼロに近づく。最も多くの失業者を出すのは、この業界だ。一方、設備投資が減れば、資金需要も減り、金融機関も不況に陥る。こうして、何もかもが悪循環にのみ込まれ、巨大な負のスパイラルを生み出す。生産・流通・消費は劇的に落ち込み、経済活動は大きく停滞し、容易に抜け出せなくなる。これが恐慌である。

ここで、恐慌と現状を比較してみよう。以下、左が恐慌、右が現状である。

1.株価が暴落→日経平均株価は、昨年末から44%下落。

2.生産高が激減→2009年新車販売台数は39年ぶりに500万台割れ。

3.失業者が急増→2008年10月から半年間で、8万5000人が失業。

4.企業倒産が急増→2008年の上場企業の倒産件数は戦後最多。

5.銀行の取り付け騒ぎ→アメリカで一部発生しただけ。

この中で、まだ起こっていないのは、「5.銀行の取り付け騒ぎ」だけである。これらを棒読みすれば、津波、つまり、恐慌である可能性が高い。また、個人的に恐慌を疑っているが、その理由は3つ。

1.景気後退がまだ加速している
・景気を先読みできる広告業と設備製造業がまだ悪化している。
・加速がつづくと、「制御不能→恐慌への負のスパイラル」が始まる。

2.「なくても生きていける=ガラクタ商品」の就労人口が多い
・大不況では、ガラクタ商品の売上が激減する。
日本の基幹産業はほとんどガラクタ商品なので、大量の失業者を出す。

3.金融大量破壊兵器CDS
・CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は、会社の債権に対する保険取引。
・危ない会社の債券(社債など)を所有する場合、CDSを買い、保険料を払う。
・その場合、会社が破綻しても、損失補填してもらえるので、リスクヘッジになる。
・但し、CDSを売った会社が破綻すると、「破綻の連鎖=核分裂」が始まる。
・そうなれば、金融システムそのものが崩壊し、未知の世界恐慌に突入する。
・AIGが救済されたのは、CDSを大量に抱え込んでいたため。

■バブル崩壊か恐慌か

ただ、これらはすべて状況証拠。では、世界はどう見ているのだろう。まずは、アメリカの中央銀行FRB(アメリカ連邦準備理事会)。2008年12月17日、FRBは、ゼロ金利と量的緩和を発表した。市場に、大量のマネーを流通させ、企業倒産を防ぐためである。特に、ゼロ金利政策はアメリカ史上初の大技

ドルがゼロ金利となったため、ドルを売って、金利の高い円を買う動きが加速した。つまり、円高ドル安。円高は日本の輸出企業にとって大打撃だが、ドル安はアメリカの金融立国を崩壊させる可能性がある。それでも、景気回復を優先し、FRBは決断した。もっとも、日米の金利差だけで、ドルが売られ、円が買われているわけではない。アメリカが抱える財政赤字・貿易赤字、つまり、ドルに対する不信感が根にある。

ところが、「ゼロ金利」カードを切ったが最後、アメリカの恐慌対策は「ドル増刷&ばらまき」しか残されていない。もちろん、ドルの大増刷は、際限のないドル安を招き、1ドル50円も現実味をおびてくる。そうなれば、アメリカの製造業は復活するだろうが、アメリカの金融業は大打撃をうける。ドル安では、アメリカにドル資金が流入しなくなるからだ。ということで、個々には予測可能だが、からみが複雑なので、全体として何が起こるか分からない。

一方、株式市場は驚くほど楽観的だ(2008年12月末)。今の株式市場は、短期売買が目的、あるいは、恐慌はないと信じる者たちが支配している。彼らは、この大不況が津波ではなく高波と見ているわけだ。でなければ、すでに、米ダウ工業平均は6000ドル台、日経平均は7000円を割り込んでいるはずだ。もちろん、恐慌が始まれば、この程度では済まない。

街角景気はどうだろう。TVを観ていると、えも言われぬ違和感を感じる。非正規労働者が大量に解雇され、路頭に迷う映像の後に、愚にもつかないバラエティ。プラカードをたてに、解雇撤回を訴える労働者の映像の後に、不毛の使い捨て番組。こんな格差社会が恒常化すれば、犯罪や暴動が多発し、社会不安を招くだろう。

さらに、恐ろしいデータがある。日本の労働者の34%が年収200万円以下だというのだ。その大半は、非正規労働者。親と同居ならまだしも、都会で一人暮らしなら、生きるか死ぬか。結婚しても子供もつくれない。これは「社会」というよりは「戦場」だ。こんな世界で、どうやって、夢や希望を持てと言うのだろう。国のガバナンス(統治)が絶対に必要だ。

■資本主義は勝利したか

実力主義、勝ち組/負け組、競争社会、こんな勇ましい言葉が正当化され、我々は、資本主義を肥大化させてきた。資本主義のライバル、共産主義もすっかり廃れている。共産主義は、
「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」
という理想をかかげたが、実装に失敗した。そして、20世紀末には、資本主義の勝利が高々と宣言されたのである。だが、資本主義は本当に勝利したのだろうか?

これだけ貧富の差が拡大し、生存権まで脅かされるようなら、もう「社会」とは呼べない。力だけがものをいう無法地帯だ。また、資本主義を謳歌してきた勝ち組も油断できない。歳とともに、能力は落ち、過去の実績も忘れられていく。勝ち組が一転、負け組に転落するのもこの世界なのだ。最近、周囲でこんな逆転劇を頻繁に見るようになった。まるで、ジャングルである。

地球は基本、弱肉強食。だから、
「能力に応じて働き、成果に応じて受け取る
に異論はない。だが、何があっても、「衣食住=生存権」だけは、万人に保証すべきだ。人類には、それぐらいの余力はある。ムダに凄い浪費が世界中にあふれているから。高さ1000mの超高層ビル、総工費232億円の噴水で沸いたドバイ・バブルも、原油の暴落とともに崩壊した。だが、それを気の毒に思う人はいないだろう。

実力主義・成果主義を野放しすれば、社会はジャングルと化す。共産主義・資本主義以前の問題だ。ほんのちょっと、法律に手を加えるだけで解決できるのに、なぜやらないのか?それができる人にとって、他人事だからだろう。この世界に、希望を感じない理由はここにある。世界は、新しい社会システムを求めている。それを実現するのは民意、その上に乗っかった英雄である。歴史はこのように創られてきたのだから。

■製造業を捨てたアメリカ

100年に一度の経済危機は、なぜ起こったのか?それも、日本でも中国でもなく、アメリカで。

1988年、アメリカ合衆国。この頃、アメリカでは、ジャパン・バッシング(日本たたき)が吹き荒れていた。原因は、日本の貿易赤字。ビッグスリーの大型車は、日本の低燃費車に市場を奪われ、大打撃を受けていたのである。TVでは、大型ハンマーで日本車を壊し、日章旗を焼く過激なシーンが放映された。日米関係は、戦後最悪となった。

さらに、追い打ちをかけたのが、アメリカのスーパー301条である。不公正な貿易を行う国に対し、輸入関税を引き上げるという条項だ。高圧的だが、見方を変えれば、アメリカはまだ「物づくり」に執着していたと言える。ところがその後、鉄鋼、自動車、家電などアメリカの基幹産業は次々と競争力を失った。製造業を失ったアメリカは、新たな産業モデルが必要になった。このままいけば、イギリスと同じ末路をたどる。世界最強国から、2等国へ。

アメリカが目をつけたのは、かつてイギリスが支配した金融業だった。それも、ただの金融業ではない。アメリカ式にパワーアップされた新世代の金融システムだった。

ポイントは3つ。
1.手持ち資金の何倍、何十倍もの取引ができる信用取引(レバレッジ
2.リスクを細切れにして証券化した金融派生商品(デリバティブ
3.よりどりみどりの金融商品を揃えた金融市場(アメリカ国営カジノ

つまり、国をあげての「カジノ金融立国」に走ったのである。目的はただ一つ、世界中のドル資金をアメリカに吸い上げること・・・

■カジノ金融立国とは

アメリカは製造業をあきらめ、欲しいモノは輸入でまかなうことにした。日本や中国をはじめ世界中からモノを買いまくったのである。支払いは、基軸通貨(国際取引の決済通貨)のドル。ところが、ドルはアメリカの通貨でもあるので、不足したら、刷るだけでいい。つまり、
輪転機さえあれば何でも好きなだけ買える
それもこれも、「自国通貨=基軸通貨」のおかげ、まさに、打ち出の小槌(こづち)である。

とはいえ、
「輸出<<輸入」
では、貿易赤字が膨らむ一方だし、買うばかりでは、大量のドルが流出し、世界中でドルがあふれかえる。それがなんであっても、数が多いものほど価値は下がる。つまり、ドルの価値は薄れ、ドル安に動く。それを防ぐためには、アメリカから流出したドルを回収するしかない。

アメリカがドルを回収するには、何かを輸出して、代金としてドルを受け取る必要がある。ところが、アメリカには売るモノがない。物騒なアメリカ牛肉では、自動車や家電製品の輸入分はまかなえない。そこで、アメリカは名案を思いついた。対米輸出で稼いだ国に、アメリカ国債を買わせるのである。アメリカ国債とは、アメリカ合衆国の財務省が発行する債権だ。つまり、アメリカは、アメリカ国債を売りつけることでドルを回収したのである。

実際、日本の外貨準備のほとんどがアメリカ国債だ。外貨準備とは、国が保有する資産で、輸入代金や外国への借入金返済、為替介入のための準備金である。この外貨準備高の世界ナンバー1は中国、ついで、日本。貿易でため込んだ貯金といってもいい。

ところで、なぜ、世界の国々はアメリカ国債を買うのか?ドルを現金でもっていても、利息がつかないから。とはいえ、ドル安になれば、資産は目減りするし、実際、このところ、ずっとドル安だ。金(Gold)の方が安全では?アメリカ国債でもつ理由はなに?たぶん、いや間違いなく、アメリカの脅しである。

もし、どこかの国がアメリカ国債を売りあびせれば、
「供給>>需要」
で、債権価格は暴落する。価値の下がった債券を買ってもらうには、高利回りにするしかない。結果、債券の金利は上昇する。ところが、国債の金利が上がれば、物騒な株より、国債のうまみが増す。つまり、株は暴落する。アメリカにとって、良いことは一つもないのだ。そのため、アメリカは、強大な軍事力を背景に、アメリカ国債を買わせ、売らないよう指導している(と思う)。これに逆らう度胸があるのは中国ぐらいだろう。

先に、アメリカには売るモノがないと書いたが、じつは一つある。悪名高いデリバティブ(金融派生商品)だ。不思議なことに、世界中の企業、金融機関、投資家が、このデリバティブを買いまくったのだ。結果、世界中のドル資金がアメリカの金融市場に流れ込んだ。つまり、アメリカはここでもドルの回収に成功したのである。アメリカの債券市場、株式市場、原油・穀物などの商品先物取引市場、不動産市場はマネーで潤い、何もかもが値上がりした。

だが、何ごともいいことずくめとはいかないものだ。デリバティブの一つ「サブプライムローン証券」が焦げ付き、金融不安が発生したのである。結果、世界同時不況が始まった。こうして、アメリカのカジノ金融立国は破綻寸前に追い込まれた。

■デリバティブとは

当初、デリバティブは、ローリスク・ハイリターンに見えた。だからこそ、世界中の投資家や金融機関が、こぞって買ったのである。ハイリターンであれば、その分、リスクも大きい。そこで、リスク回避のための巧妙な仕掛けが組み込まれた。高度な数学を駆使した金融工学、ノーベル賞受賞者が開発、様々な殺し文句がデリバティブをホンモノに見せかけた。

確かに、個々に見れば、デリバティブのリスクは巧みに回避されている。だが、金融の心臓「信用=保険機能」が吹き飛べば、金融システム全体が崩壊する。全体が崩壊すれば、どんな優良な個であっても存在できない。もちろん、デリバティブの開発者は、
「そんなことまで心配してたら、何もできないよ」
と反論するだろう。そのとおり。ところで、デリバティブはインチキ、ホンモノ?

デリバティブの歴史を少しさかのぼってみよう。たぶん、デリバティブの先祖種はジャンク債だ。以前は、英語そのまま、ジャンクボンド(JunkBonds)と呼ばれた。ジャンク債とは、信用度が低く、元本割れの可能性の高い債券のことである。たとえば、倒産寸前の会社の社債。普通は、誰も買わないので、その分、高利回りである。つまり、ハイリスク・ハイリターン。一方、信用度の高い債券は、安全なので、その分、利回りが低い。つまり、ローリスク・ローリターン。たとえば、日本やアメリカの国債だ。

これだけなら、堅実な人はローリスク・ローリターン、そうでない人はハイリスク・ハイリターン、という棲み分けに落ち着く。ところが、ある時、ローリスク・ハイリターンという夢の金融商品が登場したのである。原理はいたってシンプル、
「アブナイ債券でも、たくさん買えば、全滅するリスクは激減する」

つまり、複数のジャンク債をブレンドすることで、リスクを分散したのである。しかも、個別のジャンク債は高利回りなので、結果として、ローリスク・ハイリターンになる。だが、高校数学の「期待値」を覚えている人なら、え?と思うはずだ。まあ、些末な突っ込みはさておき、これだけは保証できる。
「ジャンク債1本釣りより、ブレンド・ジャンク債の方が、数学的リターン値は大きい」
もちろん、ジャンク債を上手くブレンドできたらの話だが。

ということで、ブレンド・ジャンク債の成否は、ひとえに、ブレンド方法にかかっている。どのジャンク債をどういう比率でブレンドするか?もちろん、人間の経験やカンに頼るのではない。それを決めるのは、数学(ポートフォリオ理論)とコンピュータだ。ただ、ブレンド・ジャンク債の成否が統計によっていることを忘れてはならない。つまり、全体としての成功率は保証しないでもないが、個別では保証しかねる。これが、ブレンド・ジャンク債、つまり、デリバティブの正体である。

また、デリバティブには、投資家を喜ばせるもう一つの仕掛けがある。手持ち資金の何倍、何十倍もの投資を可能にする信用取引(レバレッジ)だ。例えば、期待できる利回りが5%のブレンド・ジャンク債でも、10倍のレバレッジをかければ、期待利回りは、
5%×10=50%
になる。もちろん、しくじれば、損害も10倍だが・・・

こうして、ジャンク債市場は、債券市場に匹敵する規模に成長した。だが、そのカラクリは、
みんなでリスクを分かち合う
なので、破綻が局所的なら機能するが、破綻が大規模なら破綻のドミノが始まる。つまり、システム全体が崩壊する。それが、今回のサブプライムローンに端を発した金融危機である。

■恐慌を回避する方法

ここで、総括する。アメリカが「カジノ金融立国」に走ったのは必然であり、アメリカのみならず、世界中が得をした。アメリカが借金漬けでモノを買うのは、褒められたことではないが、おかげで、対米輸出国はうるおった。作っている当人でさえ、
「こんなもの必要かなぁ?一体誰が使うんだ?」
と思うような商品まで売れた。世界中の投資家たちは、アメリカの金融市場でそれなりの利益を上げた。対米輸出国が稼いだドルを、アメリカに回収されるのは不本意だが、結果、ドルの暴落はまぬがれたのである。

ドルが暴落すれば、アメリカも困るが、対米輸出国も困る。たとえば、1ドルの商品をアメリカに売ったとして、
「1ドル100円→1ドル90円」
の円高ドル安になっただけで、手取りは、
「100円→90円」
に減る。何も悪いことはしていないのに・・・

今になって思えば、アメリカの「カジノ金融立国」で、世界中がハッピーだったのだ。次々と明らかになる恐ろしい経済指標をみれば、世界恐慌の予感もする。だが、一部の心ある人々を除いて、誰もそれを望んでいない。では、どうすれば恐慌を回避できるのか?アメリカに大量消費を続けてもらい、ドルを安定させるしかない。つまり、

「カジノ金融」を維持するしかない

逆に、カジノ金融をつぶせば、間違いなく、世界恐慌に突入するだろう。我々が肥大化させた資本主義は、カジノ金融なしでは成立しないのである。

《つづく》

by R.B

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