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週刊スモールトーク (第117話) 世界恐慌(1)~1929~

カテゴリ : 経済

2008.12.14

世界恐慌(1)~1929~

■ビッグスリーショック

天空を真っ二つに裂き、地上に落下する巨大隕石を目撃したら、10分後に何が起こるか?地球の大気をかすめただけか、ただの妄想なら、大したことはない。世界は今までどおりだ。だがもし、地球に衝突したら、地球最後の日になるかもしれない。10分後には、見たこともない異形の世界・・・我々は今、そんな状況に立たされているのかもしれない。

2008年12月11日、アメリカ自動車大手ビッグスリーの救済法案が事実上廃案になった。3社の経営状態は最悪で、中でもGM、クライスラーは、1ヶ月後には資金がショートするという。今後、新たな法律を必要としない金融安定化法に基づく支援が検討されている(2008年12月13日)。さらに、FRB(アメリカ連邦準備理事会)の特別融資枠を使う可能性もある。

今回のビッグスリーショックで、アメリカの株価は激しい値動きをみせた。廃案の発表後、急落、そして、金融安定化法による支援が発表されると、急上昇。この事実をとっても、アメリカがどれほど混乱しているかがわかる。こんな発表で株価が戻ること自体おかしいのだ。アメリカの株はもっと下がる。

今回のビッグスリー救済法案は、下院は通過したものの、上院で廃案となった。その間、アメリカ国内は議論百出。破綻寸前のビッグスリーを国が救うべきか否か?
「一企業の経営の失敗を、国民の税金で尻ぬぐいするのは間違っている」
「ビッグスリーが破綻すれば、失業者が増え、結局、アメリカが痛む」

だが、この議論は初めが間違っている。ビッグスリーは、破綻寸前ではなく、すでに破綻しているのだ。脈の絶えた身体に、投薬したり、外科手術を施す医者がいるだろうか?ビッグスリー問題の核心は、資金繰りにあるのではない。もし、そうなら、公的資金を投入すれば問題は解決する。だが、問題の本質は、
「売れる自動車が作れない」
にある。歌えない歌手、料理のできないコックに、おカネを払う者などいない。

もし、地球上で、自動車メーカーがビッグスリーだけなら、よみがえる可能性はある。ところが、自動車メーカーは世界中に山ほどある。しかも、自動車業界は、資源に負担をかけない小型車、電気自動車へシフトしつつある。ビッグスリーは、ガソリン自動車だけでなく、この世界でも競争力がないのだ。相撲で一世風靡した横綱が、騎手に挑戦するからカネを貸してくれ、と言っているようなものである。ということで、
ビッグスリーはもう死んでいる

先のビッグスリーの論議には、もう一つ間違いがある。ビッグスリーが救済されようがされまいが、大量失業は避けられないことだ。万一、救済されたとしても、国民の税金を使った手前、会社には痛みがともなう。大リストラ、給与の減額、福利厚生のカット、おそらく、破産法の適用を受けるのと大差はないだろう。もちろん、下請会社も同様だ。食物連鎖の頂点に立つ企業が倒れれば、ピラミッドそのものが崩壊する。つまり、
「大量失業を避けるために、ビッグスリーを救済する」
は間違っている。

■信用危機(クレジットクランチ)

サブプライムローン問題、リーマン・ブラザーズ破綻、AIG危機を通して、世界は薄氷の上に立っていることを思い知らされた。

「みんな1ドルだと信用しているから1ドルなのであって、じつはタダの紙切れ」

言葉をかえれば、金融は信用だけで成り立っている。

ここで、問題を整理しよう。個々は複雑だが、全体はいたってシンプルだ。身なりのいいセールスマンが、「100円+50円」と書かれた紙切れを売りさばいていた。

曰く、
「この証書を100円で購入すると、1年後には150円になりますよ」
「集めたカネで宝くじを買って、それで支払うつもりです」
「大丈夫かって?」
「ご心配無用。保険をかけてありますから」
「宝くじにはずれても、保険会社が払ってくれますよ

こうして、セールスマンはこの紙切れを、世界中に売りさばいたが、運悪く?宝くじははずれてしまった。ところが、あてにしていた保険会社は、額が多すぎて払えないという。金融の最後の砦が崩壊したわけだ。これが、2008年9月に起こったAIG危機である。信用を揺るがすという点では、銀行や証券会社の破綻の比ではない。リーマン・ブラザーズを見捨てたアメリカ政府が、AIGを救ったのは、このような事情による。世界が地獄をかいま見た瞬間だった。

さらに問題を複雑にしたのは、「100円+50円」証書を元に、もっと手の込んだインチキ証書を作り、転売した者がいたことだ。つまり、まだ露見していない「100円+50円」証書が潜んでいることになる。誰がどれだけ損しているか誰も分からない。信用不安が一気に噴出した理由はここにある。

■信用危機の原因

今回の金融危機で、最も損害をこうむったのは、カジノ金融の権化「ヘッジファンド」だろう。ヘッジファンドとは、金融機関や富裕層から集めたカネで、株式、債権、通貨、商品先物、インチキ証書を売買して利益を得ている組織である。おカネを貸して気長に利息をとるわけでも、ベンチャー企業に投資して夢を追うわけでもない。言ってしまえば、丁半バクチ。値が上がるとみれば買い、上がれば売る。値が下がるとみれば、先に売って(カラ売り)、下がったときに買う。ただの「さや取り」。

2008年9、10月だけで、ヘッジファンドの運用資産は、20兆円も吹き飛んだという。運用損失と顧客の解約が原因だ。結果、ヘッジファンドは現金を確保するため、投資先から資産を回収することを迫られた。期日が迫った支払いや、解約する顧客への返金、社員の給与を、「100円+50円」インチキ証書で払うわけにはいかない。このパニック的換金により、商品先物市場や株式市場から、一斉に資金が引き上げられ、原油や株が大暴落したのである。だが、これで終わったわけではない。

換金したものの、ドルは危ないのでユーロへ、ユーロも不安になり、今は円が買われている。驚異的なスピードで円高が進んでいるのは、そのためである。このまま円高が進めば、日本の輸出企業は大打撃をうけ、やがて、「日本=円」も売られるだろう。では、次に何が買われるのか?安心して買える通貨はもうない。このような通貨不安では、金(Gold)が買われるはずだが、いまいち反応が鈍い。但し、不気味に高値安定、新しいパラダイムが生まれるのかもしれない。

世界の金融資産は、株式市場、商品先物市場、為替市場を移動するたびに、額を減らしている。世界の株式市場から、すでに3000兆円が吹き飛んだと言われる。日本の国家予算でさえ、ネットで200兆円。今や、ヘッジファンドは、投資しているのではなく、「資産を待避している」にすぎない。本来の使命?を考えれば、末期的な状況で、ヘッジファンドの未来は限りなく暗い。だが、姿を変え、名前を変え、さらにパワーアップして蘇る可能性は50%ある。

一方、こんな大事を引き起こしたのは誰だ?と、犯人捜しも始まっている。丁半バクチに明け暮れたヘッジファンドはもとより、大元のインチキ証書や商品先物取引までやり玉に挙がっている。だが、商品先物取引は、本来、実物取引のリスクヘッジのための仕組みで、それ自体が悪いわけではない。実商売と関係のないカジノマネーが流入したことが問題なのだ。

マクロ視点でみると、今回の金融危機は、世界規模の金余り、過剰な流動性に起因する。2007年の世界の金融資産の合計は約20,000兆円(2京円)で、GDPは約5,400兆円。つまり、実体経済の4倍弱のカネがだぶついているわけだ。一方、1980年、この比率は1.1倍だった。つまり、「金融資産=GDP」。あり余ったカネが、マネーゲームに流れ込むのは必然である。

今回、金融恐慌(信用収縮)に火がついたが、問題はどこまで行くか。ある経済専門紙によると、
「何が起こっても、経済はなくならないし、世界が破滅するわけではない。それは、1929年の大恐慌が証明している。確かに、ヒドイ状況だったが、その後みごとに回復したではないか」
だが、歴史がいつも繰り返すとは限らない

■世界恐慌1929

恐慌は、資本主義では避けることができない。歴史をみても、産業革命が本格化した19世紀以降、ひんぱんに起こっている。1929年のアメリカ・ウォール街の株の大暴落を起因とする「世界恐慌」は、世界中に拡大し、第二次世界大戦の遠因にもなった。日本の大底は1931年で、恐慌前に比べ、工業生産高は8%ダウンした。アメリカは、1932~1933年が大底で、工業生産高は恐慌前にくらべほぼ半減・・・信じられないような数字である。一方、ソ連は同時期、逆に1.8倍に増えている。

ソ連は「共産主義=計画経済」なので、理論上、恐慌はありえない。大打撃をうけたアメリカは、株価は80%も下落、失業率は25%に達した。過剰生産が際立ち、他国にくらべ贅沢品の比率が高かったからである。アメリカ合衆国大統領のフーバーは、無為無策で時間をつぶし、無能呼ばわりされたあげく、任期満了で、寂しく政界を去った。

その後を継いだのが、フランクリン・ルーズベルト大統領である。歴史にも登場する有名なニューディール政策で一気に解決!とはいかなかった。ニューディール政策は、ドイツのヒトラーの政策同様、社会主義的なものだったが、ドイツの方がまだましだった。実際、1936年、ドイツの工業生産高は恐慌前の95%まで回復したが、アメリカは75%にとどまった。

もっとも、(当時の)ドイツと違い、アメリカが民主主義の国だったことが足かせになった。ルーズベルトの政策のいくつかは、最高裁から違憲判決が出たからである。とはいえ、そのハンディを考慮しても、ニューディール政策は成果を上げた、とは言えない。アメリカが本当に恐慌を脱したのは、第二次世界大戦後、つまり、戦争経済によってである。

一方、数字だけみれば、日本のダメージが意外に少ない。理由は2つ考えられる。第1に、積極的な植民地化政策により、植民地のGDPを上乗せできたこと。第2に、工業製品に占める贅沢品の比率が小さく、落ち込みが少なかったこと。

■世界恐慌2008

ここで、今起こっている世界同時不況と、1929年の世界恐慌を比べてみよう。一番の違いは、世界の産業構造にある。1929年の世界恐慌では、工業製品に占める生活必需品の比率は今より高かった。そのため、消費を減らすにも限度があり、その分、落ち込みも少なかった。

ところが、今では、工業製品の主流はパソコン、液晶テレビ、デジカメ、ケータイ、TVゲーム、自動車・・・「なくても生きていける商品=ガラクタ」がほとんど。恐慌が本格化すれば、誰もが食うことに汲々とし、ガラクタ需要は激減するだろう。だが、別の問題もある。ガラクタ産業に従事する人口比率が高い分、失業者が増えることだ。

ところで、どういう経緯で、こんないびつな産業構造になったのだろう。一も二もなく、テクノロジーの進歩のおかげ。かつて、人類は、就労人口の90%が食糧生産に従事していた。ところが、今は10%にも満たない。
「テクノロジーの進歩→農業の生産性の向上」
のおかげで、1人で10人分の食糧を生産できるようになり、残る9人がお気軽な仕事をできるようになったのだ。それが、
「なくても生きている=ガラクタ商品」

ということで、「世界恐慌2008」は「世界恐慌1929」より、大量の失業者が出る可能性が高い。それを暗示するニュースもある。2008年10月~2009年3月の間に、非正規労働者(派遣や期間工)3万人が失業するという。ところが、正社員も例外ではない。外資系大手コンピュータ企業が正社員1000人の人員削減を発表したが、正社員削減は電機業界にも広がりつつある。これほど凄まじいリストラは、戦後一度も起こっていない。

日本を代表する企業が、取り憑かれたようにリストラを進めている。
仕事が減った分→リストラ
なら、誰でも会社経営できる。かつて、日本企業は赤字でも雇用を守ったが、今は黒字でもリストラする。日本は、一体どうなったのだ?

バブル崩壊後、日本企業の競争力は上がったが、そのからくりは、
人件費を固定費から変動費に変えた
変動費とは、売上高に比例するもの、例えば、原材料費。一方、固定費とは、売上高にかかわらず、一定のもの、例えば人件費。日本企業は、戦後一貫して、
「人件費=固定費」
で雇用を守ってきた。ところが、ここ10年、正社員から非正規労働者にシフトし、仕事があるときだけ雇用するようになった。つまり、人件費は変動費に変わったのである。これが不況に強い企業の正体だ。

とはいえ、次々と明らかになる恐ろしい数字をみれば、企業がどれほど深刻かわかる。末端を切り捨て、本丸を守らなければ、全滅する可能性があるのだから。しかし、雇用は「人の生死」にかかわる問題だ。経営トップは、高い報酬と決定権が与えられている。人の上に立つ者は、どんな困難な問題にも立ち向かうべきだ。人の生死に関わる解決方法を安易に選ぶなら、サラリーマンと変わらない。

■恐慌前夜

先日、外車ディーラの営業マンと話をした。

営業マン:
「ゼンゼン売れないんで、営業が5人から2人に減りましたよ」
「へぇー、でも、××さん勝ち組じゃないですか」

営業マン:
「それが、もう一人減るかも・・・」
「おっ、いよいよ決勝戦ですね」

営業マン:
「それ、ゼンゼン笑えないですよ」

最近、こんな「ありえない話」をたくさん耳にする。まずは、地方版、
・車の販売店で、土日の来客がゼロ。営業マン曰く、「ドッキリ」かと思った。
・世界有数の機械メーカーの下請け会社が、大好況から1ヶ月で、仕事が半減
・Uターンで内定が出たので、会社を辞めたら、内定を取り消された。
・県内で、大企業(上場企業含む)が、1年間で3社も倒産した。

つぎに、全国版(2008年12月)。
・国内自動車販売(軽自動車を省く)は11月としては過去最大の27.3%減
・工作機械受注額は、単月として過去最大の62.2%減
・2008年10~12月の鉱工業生産は石油ショック時を上回る10%減
・可処分所得に対する消費支出の割合が10月期で調査開始以来最低の77.2%

これらの小事から見えてくるのは、
「生産が減少→失業者が増加→消費が減少→生産が減少」
つまり、負のスパイラル

大事の前には小事が多発する。こんな状況では、ドルも株も何もかもが暴落し、未曾有の失業者を出したあげく、社会システムそのものが崩壊するのでは・・・確かに、その可能性もある。だが、もう一つ未来がある。これまで同様、カジノ金融が復活する未来だ。その根拠は?この世界の支配者が、今のルールを死守しようとするからだ。これは、日本人が大好きな「陰謀ネタ」ではなく、誰もが知る情報に基づいている。

《つづく》

by R.B

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