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週刊スモールトーク (第113話) 大航海時代Ⅲ~スパイスアイランド・香料諸島~

カテゴリ : 歴史

2008.09.23

大航海時代Ⅲ~スパイスアイランド・香料諸島~

■グローバリゼーションの起源

大航海時代、大西洋とインド洋と太平洋を、1本の大道が貫き、世界は初めて一つになった。その後、「文明は高い所から低い所に流れる」という歴史の方程式に従い、世界は西洋中心に変わった。そして、今では、グローバリゼーション(地球の一体化)の名のもと、地球はモノカルチャーな世界に変質しようとしている。これは、多様性に満ちた地球本来の姿に反している。

それにしても、なぜ、グローバリゼーションの恐ろしさが認知されないのだろう?2008年9月15日、金融大手のリーマン・ブラザーズが破綻し、最大手の保険会社AIGにまで飛び火した。その後、サブプライムローンがインチキ証券であることは、衆知となったが、じつは、マネーも幻想に過ぎない。
「みんなが1万円だと信じているから、1万円札は1万円」
それ以上でも、それ以下でもない。つまり、頼みの綱は信用(思いこみ)だけ。

おそろしいことに、預金、証券、債権あらゆる不確かなものが、我々の生活に直結している。株は持ってないから大丈夫?それは幻想にすぎない。株価が暴落すれば、保険会社の資産が減り、保険料は上がる。銀行もしかり。融資は減るだろうし、そうなれば中小企業は資金繰りが悪化、ヘタをすると倒産する。それが、パパ、ママ、自分の会社だったら、タダではすまない。アングロサクソン流の金融のグローバル化で、世界は数珠繋ぎになっているのだ。

そのため、どこかで問題が発生すると、ドミノ倒しの連鎖が始まる。リスク管理の視点に立てば、グローバリゼーションなど狂気の沙汰なのだ。小さなリスクを効率良く回避できる代償として、一斉崩壊のリスクを背負っている。破滅の温床、グローバリゼーションから自分の生命と財産を切り離すべきだ。大銀行が次々と朽ち果てても、庭に植えた大根が腐らないのは、グローバリゼーションとは無縁だからである。

金融のグローバル化の権化が投機マネーだろう。実体経済に寄与しない投機マネーは数千兆円とも言われるが、それが本当なら、世界中の政府が束になってもかなわない。日本の国家予算でさえ、ネットで200兆円なのだから。アメリカがアブナイ金融機関を公的資金で救う?限度額数十兆円で、どうやって救うのだ?そもそも、日本の「1000万円の預金保護」でさえ、原資に限りがある。それを超えたら、約束は反古(ほご)にされる。いずれ、「信用」頼みの資本主義は崩壊するだろう。なぜって?人間は「信用」できないから。

じつは、このグローバリゼーションの起源が大航海時代なのである。もちろん、大航海時代の創始者ポルトガル人がそんな大それたことを考えていたわけではない。イスラム商人を出し抜いてスパイスを独占すること ・・・ そう、肉料理に欠かせないあのスパイス。調味料が世界の歴史を変えたって?小説や映画じゃあるまいし ・・・ ところが、このスパイスの歴史を彷彿させる映画がある。一部マニアに人気のスチームパンクの金字塔「デューン ~砂の惑星~」。

スチームパンクとは、SFジャンルの一つで、
「蒸気機関が内燃機関とモーターを駆逐したもう一つの世界(Another World)」
ところで、蒸気機関のどこか面白い?重厚な鋼鉄、巨大なシリンダ、物々しい轟音、焼けつくような水蒸気 ・・・ だから?まぁ、見ると人が見るとコーフンするということ。

ただ、スチームパンクは商売にはならない。24億円もかけて、半分も回収できなかったアニメ「スチームボーイ」。監督が大友克洋にしてこれだ。「デューン~砂の惑星~」もしかり。監督はTVドラマ「ツイン ピークス」でブレイクしたデヴィッド リンチ。ところが、大赤字で、原本フィルムも紛失したらしい。見くびられたものだ。ということで、スチームパンクで儲けをもくろむのは不毛である。

一方、「デューン~砂の惑星~」の原作の方は評判がいい。原作はフランク ハーバードで、SF界の二大タイトル、ヒューゴ賞とネビュラ賞をダブル受賞している。とはいえ、セルバンテスの「ドンキホーテ」と同じ匂いがしないでもない。超がつくほど有名なのだが、通して読んだ人は何人いる?読破するには相当の根気がいるということ。ところが、設定は面白い。大航海時代そっくりなのだ。ということで、「デューン~砂の惑星~」をサクッとつまみ食いしよう。

■デューン~砂の惑星~

それまで、人間は心をもった機械に支配されていた。ところが、6041年、人間は機械に対し反乱を起こす。その時、創設されたのが、精神の力を進化させる学校だった。超人的な精神力で、機械に対抗しようとしたのである。その中で、最後まで生き残ったのが、「ベネ ゲセリット」と「宇宙ギルド」だった。

「ベネ ゲセリット」は、超能力をもつ道女を養成する学校だった。道女たちは謎のスパイス「メランジ」を服用し、超人的な透視能力と予知能力を身に付けた。そして、「ベネ ゲセリット」を卒業すると、血縁をコントロールし、優れた人間を生みだし、王族たちの婚姻を支配したのである。

一方、「宇宙ギルド」は、恒星間航行に欠かせない航宙士を育成する学校だった。彼らは、「ベネ ゲセリット」の道女同様、スパイス「メランジ」を服用し、純粋数学を学び、4000年もかけて驚異のスキルを獲得した。いながらにして、宇宙空間を瞬間移動する力である。こうして、宇宙ギルドは、宇宙航行のすべてを支配したのである。

10192年、シャダム4世が皇帝となり、新しい時代に入った。王族は惑星の領主となり、それを皇帝シャダム4世が束ねた。さらに、皇帝と領主が経営する宇宙開発公社が、スパイス「メランジ」の採掘を独占した。

「ベネ ゲセリット」と「宇宙ギルド」は、スパイス「メランジ」が欠かせない。ところが、メランジを産するのは、この広い宇宙で、惑星アラキスのみ。こうして、宇宙の歴史は、スパイス「メランジ」と惑星アラキスを中心に展開するのだった。

奴隷貿易に目をつぶれば、大航海時代は夢とロマンの時代だった。ヨーロッパ人たちは、アジアまで航海し、スパイスの独占をめぐって、熾烈な戦いを繰り広げた。そして、この時代、スパイスを産するのは「マルク諸島」のみ。だから、大航海時代を想うとき、決まって思い出すのが、映画「デューン~砂の惑星~」なのだ。

■香料・香辛料・スパイス

「大航海時代=香料貿易」は周知の事実だが、香料貿易は大航海時代に始まったわけではない。じつは、香料は古代の貿易でも重要な商品の一つだった。ところで、香料とは?ここで、大航海時代のキーワードを整理しよう。

【香料】
植物や動物を原料とし、香り(嗅覚)や香味(味覚)を与えるもの。

【香辛料】
 香料の中で、とくに調味料として使われるもの。具体的には、胡椒、カルダモン、シナモン、チョウジ(丁子)、ニクズクなど。

【スパイス】
チョウジ(丁子)とニクズク。

つまり、この地球上で、スパイスと呼ばれるのは、チョウジ(丁子)とニクズクのみ。そして、ヨーロッパ人たちが血まなこになったのも、このスパイスだった。

■黄金のスパイス

ところで、調味料が、なぜ、地球の歴史を左右することになったのか?答えは、
物の価値=需要÷供給
つまり、買いたい人が多いほど(需要)、売る人が少ないほど(供給)、価値は高くなる。スパイスは、まさにこれだった。供給が少ないのは、地球上でマルク諸島しか産しないから。では、なぜ、ヨーロッパで大量の需要があったのか?

答え ・・・ 冷蔵庫がなかったから。

当時、ヨーロッパでは、北ヨーロッパの海でとれるサケ、マス、タラ、ニシン、イワシが食されていた。たが、ヨーロッパは広い。そのまま内陸に運べば、口に入る前に腐る。そこで、魚を塩漬けにし、スパイスを加えたのである。

スパイスには強力な防腐力と殺菌力があった。くわえて、食欲をそそる刺激的な香味もあり、魚の臭みを消すにはうってつけだった。つまり、ヨーロッパ人が魚を食料にするためには、スパイスは欠かせなかったのだ。

もちろん、ヨーロッパ人は、魚より肉のほうが好きだった(今でも)。ところが、肉には魚よりもやっかいな問題があった。冬場、家畜のエサがなくなるので、冬に入る前に家畜をすべて屠殺(とさつ)する必要がある。とはいえ、全部は食べきれないし、保存しようにも冷蔵庫がない。そこで、発明されたのがハムやソーセージなどの保存食だった。肉の塊のまま、あるいはミンチにして、塩やスパイスを加え、燻製(くんせい)にしたのである。つまり、肉にもスパイスが欠かせなかった。

他にも防腐剤や殺菌剤があったのに、なぜ、スパイスだけが重用されたのか?この時代、スパイスは最強の防腐剤と殺菌剤だったから。というのも、この頃、ハムやソーセージで、ひんぱんに食中毒が起こった。その原因は恐ろしいボツリヌス菌だったが、それが判明したのは19世紀に入ってから。というわけで、殺菌力は強い方がいい。

豊富なタンパク質を含む魚と肉は、人間の生命維持に欠かせない。それはそのまま、「スパイスは欠かせない」を意味した。ところが、スパイス、つまり、チョウジ(丁子)とニクズクは、地球上でマルク諸島にしか産しない。しかも、ヨーロッパから3万kmも離れている

マルク諸島は、そのまま「スパイス アイランズ(香料諸島)」と呼ばれたが、ヨーロッパ人たちが独占をくわだてたのは必然だった。マルク諸島をおさえるだけで世界のスパイスを独占できるのである。すべてを失うか、丸取りするか、まさに、ゼロ・サム・ゲーム。大航海時代、ヨーロッパが他の地域に先んじて、大砲とガレオン船を完成させのは、こんな事情による。

大航海時代の歴史イベントは知名度抜群である。
1.コロンブスが新大陸を発見。
2.コルテスがアステカ文明の灰燼(かいじん)の上に、メキシコシティを建設。
3.ピサロがインカ帝国を破壊。
4.バスコダガマがインドへのアフリカ航路を発見。
5.マゼラン隊が世界一周。

血わき、肉おどる歴史だが、結局のところ、すべてスパイスに帰着している。特に、「マゼランの世界一周」は、マルク諸島のチョウジ(丁子)一本釣りの航海で、帰りのコースを西方にとったので、結果として世界を一周したにすぎない。たかが、スパイス、されど、スパイス。これほど、”歴史的なアイテム”も珍しい。では、そのスパイスを詳細にみていこう。

■チョウジ(丁子)

香料の王様はチョウジ(丁子)である。英語名は「Clov:クローヴ」。その圧倒的な価値は、レアさと、強力な効能によっている。

SpiceIslandまずは、レアさ。チョウジ(丁子)は、大航海時代、マルク諸島の中の、テルナテ島、ティドール島、マキアン島、モティ島、バチャン島にしか産しなかった。広大な地球の中のわずか100km×200kmの地域である(左図)。地球の1周が4万kmなので、どれほど狭い地域に集中していたかがわかる。

17世紀、ポルトガルに代わって、マルク諸島を支配したオランダは、チョウジ(丁子)の栽培をアンボン島に限定した。独占をさらに徹底するためである。その後、18世紀になると、チョウジは東アフリカのザンジバルに移植され、今では、多くの地域で栽培されている。

つぎに、チョウジ(丁子)の効能。チョウジ(丁子)は、殺菌力と防腐力が最強だった。しかも、食欲をそそる独特の匂いと香味。魚や肉を長期に保存し、美味しく食べるには、至高の調味料だったのである。ところが、面白いことに、チョウジ(丁子)を食に利用したのはヨーロッパ人だけだった。

チョウジ(丁子)の歴史は古く、インドや中国では、紀元前から知られていた。ところが、ヨーロッパとは違い、用途は「香りと薬用」に限られたのである。古代中国では、臣下が皇帝に話すとき、口臭エチケットとして、チョウジ(丁子)を口に含んだ。また、宋代の書には、
「チョウジ(丁子)は、胃を暖め、腫れ物、風邪、歯痛にきく」
と書かれている。さらに、中国では、チョウジ(丁子)は香木としても使われた。香木とは、いわゆる「お香」である。

ということで、チョウジ(丁子)は、インドや中国では「薬」や「お香」として、ヨーロッパでは、「食」として用いられた。また、チョウジ(丁子)がヨーロッパに伝わったのは6~7世紀だが、日本はそれより1世紀ほど早く伝わっている。正倉院には、その時のチョウジ(丁子)が宝物として納められているという。

このように、チョウジ(丁子)はレアで価値あるアイテムだったが、作るのは手間いらずだった。元はと言えば、マルク諸島自生の植物だったのだから。もちろん、マルク諸島にしか産しないので、生育の条件は厳しい。海岸に近くて、常に潮風をうけていることが必須条件だが、他にも要件はあるだろう。海岸と潮風なら、世界中どこにでもあるので。

チョウジ(丁子)は、最初の収穫まで5~12年かかるが、その後は手間いらずで、3/4世紀のあいだ、年2回ずつ収穫できる(※1)。また、木全体が芳香を放つので観賞用にもってこいだが、広い庭が必要になる。成長すると、高さが10mにもなるので。

チョウジは、「丁香」または「丁子」とも書く。「丁」の字が気になるが、そのいわれは形状による。チョウジ(丁子)は、花が咲く前、つぼみの状態で摘み取ったものを、日干しにしたものである。それが、クギの形をしているので、「丁」の字があてられたのという。

■ニクズク

チョウジ(丁子)が東の横綱なら、ニクズクは西の横綱である。ニクズクは、チョウジ(丁子)同様、レアさと強力な効能によって、ヨーロッパ人たちを虜にした。

まずは、そのレアさ。ニクズクは、今では高温多湿の熱帯地方で広く栽培されているが、大航海時代には、バンダ諸島とアンボン島の2島にしか産しなかった(上図)。この2つの島もマルク諸島に属し、広さは100km×200km、チョウジ(丁子)なみの産地限定であった。

じつは、ニクズクは木の名称で、スパイスとなる実には別の名がある。ニクズクの果実は、黄色い果肉と、黒い種子と、それを包む網目状の仮種皮からなる。黒い種子を乾燥したものがナツメグ、仮種皮を乾燥したものがメース。ちなみに、果肉はほとんど役に立たない。

ナツメグとメースは、防腐力ではチョウジ(丁子)に劣るが、チョコレートやバニラのようなな甘い芳香があり、この点でチョウジ(丁子)に優る。また、メースは、ナツメグよりも香味が良いので、調味料としてはより重要である。メースはオレンジ色が美しく、香りもデリケートなので、現在でも、米やカレーの着色によく使われる。もちろん、本場インドカレーには欠かせない。

ナツメグとメースが、チョウジ(丁子)に優る点がもう一つある。薬用である。13世紀の医学者にして薬学者イブン アル バイタールによれば ・・・

・ナツメグは、口の悪臭を消す。肝臓に生じる硬い腫れ物を軟化させ、体内に発生するガスを発散させる。

・ナツメグは、衰弱した胃を強くし、温める。冷え性から生じる腸の粘着と下痢によく効く。

・メースは、香気は快的で、芳香を放ち、刺激性のバルサムようの風味である。ナツメグより浸透性が強く、衰弱した胃と肝臓に最もよろしい。その効能は芳香性によるもので、慢性の下痢その他内臓一切の病気によろしい。(※1)

さらに、16世紀オランダの著名な航海者リンスホーテンによれば ・・・

・ナツメグは、頭脳を強めて、記憶力を強くし、胃腸を温め丈夫にして、ガスを排出し、呼気を芳しくし、利尿をうながし、下痢と吐き気をとめる。すなわち、頭脳、胃腸、肝臓、子宮などの冷えに原因する種々の疾患に効能がある。(※1)

以上、ナツメグとメースの薬物としての効用を整理すると ・・・

・胃腸、肝臓、子宮に良い。
・頭脳に良い。

なるほど、いいことづくめだが、ナツメグとメースには、秘密の効用もあった。分量を間違えると、麻薬と同じ効果があらわれること。中世の予防医学のメッカ、サレルノ学派によれば、
「1個めは体に良いが、2個めは悪い。3個めは死ぬ

ナツメグとメースが世界に伝わったのは、チョウジ(丁子)よりかなり後である。ナツメグとメースは、5世紀頃、インド人に知られ、次いで、インド人からアラビア人に伝わり、6~8世紀にアラビア人がビザンティン帝国に伝えた。一方のチョウジ(丁子)は、紀元前後にはすでにインド人に知られ、2世紀にはヨーロッパに伝わっていた。「ナツメグ&メース」と「チョウジ(丁子)」は産地が同じなのに、なぜ、「ナツメグ&メース」だけ500年も遅れたのか?

古くから、インド人、アラビア人、ヨーロッパ人、中国人に知られていた香辛料に、カルダモンがある。コーヒーのような香味で、口臭を消し、気分を爽快にして食欲を増すので、調味料として使われた。さらに、胃を温め消化をよくし、胃腸の働きもよくする。ということで、効用がナツメグとメースに似ている。しかも、カルダモンは、インドのマラバル海岸や、セイロンなど、複数の地域で産した。そのため、ナツメグとメースの普及が遅れたのである。

こうして、13~14世紀のヨーロッパでは、スパイスが重用されたが、アジアでは薬物としての需要しかなかった。ナツメグ&メースの原産地バンダ諸島でさえ、冷え込みの薬に用いられる程度で、価値は無いに等しかった。そのため、マルク諸島に産するスパイスすべてが、輸出されたのである。まさに、所変われば品変わる

《つづく》

参考文献:
(※1)「スパイスの歴史」山田憲太郎 著法政大学出版局
(※2)「世界食物百科」マグロンヌ・トゥーサン=サマ 玉村豊男=監訳 原書房

by R.B

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