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週刊スモールトーク (第110話) 就職戦線異状なしⅡ~高専か大学か~

カテゴリ : 社会

2008.07.19

就職戦線異状なしⅡ~高専か大学か~

■高専のアドバンテージ

理工系離れがすすみ、IT業界が嫌われ、空前の求人難の中、ソフト技術者を募集することになった。今回採用するのは、組み込みソフトウェアの技術者。組み込みソフトウェアとは、専用機器に組み込むソフトで、いわゆるパソコン用ソフトではない。

今回の採用のキモは、大卒ではなく、高専にフォーカスしたこと。大学時代、研究室に天才としか思えない大学院生がいたが、彼は高専からの編入者だった。就職した会社でも、高専卒はたいてい大卒より頭が切れた。大手電機メーカーに勤める大学時代の友人曰く、
「高専は優秀だよなぁ。俺たち大卒は名ばかりかも」
そういえば、大学時代、電気工学科の同期40人のうち、4年で卒業したのは20人強。授業は出ないし、試験も受けないのだから、卒業できるわけがない。あの時代は、そんな風潮だったような気もするが。

都心部は「普通高校→大学」の固定観念があるが、地方では意外に高専の人気が高い。理由として、
1.頭はいいけど、受験勉強がイヤなので、大学には行かない。
2.頭はいいけど、家庭の事情で、大学には行けない。
3.理数系が大好き。
4.大学入試より、高専から編入したほうが国立大学に入りやすい

ということで、地方の高専の偏差値は高い。今回求人をだした国立高専も、偏差値は県内の上位2~3番目の進学校に匹敵する。しかも、社会が受験科目にないので、理数系に秀でる学生が多い。いわゆる地頭(じあたま)がいいわけで、ソフトウェア技術者にうってつけだ。

高専のアドバンテージは、学生の資質にくわえ、テキストやカリキュラムにもおよぶ。まずはテキスト。先の国立高専の「基礎電気工学」のテキストを見たが、とにかく、分かりやすい。たとえば、
「2本の導線に電流を流すと、導線は互いに、反発もしくは引き合う。」
という法則がある。電気を流すと、機械的な力が生まれる?不思議な話だが、この物理の仕掛けがないと、モーターは回らない。

この法則は、大学のテキストでは、数式だけ説明される。なので、
「なぜ、電流で機械的な力が生まれるか?」
かが分からない。ところが、先の高専のテキストでは、それが定性的に説明されている。偉大な発見・発明には、定量的理解(数式)だけでなく、定性的な理解(感覚)も必要なのだ。

また、高専は、カリキュラムも優れている。無駄な?教養科目が最小限におさえられ、専門性が高い内容を時間をかけてじっくりと学ぶ。たとえば、電磁気学は、1年次に「電気基礎1」があり、2年次には演習問題と実験が入る。同じ内容を、方法と視点を変えて、段階的に繰り返し学ぶのである。大学のカリキュラムとは違って、「教え育む」が徹底している。

電子・電気なら、半導体のように量子力学がからまない限り、高専卒がベストに思える。大卒より技術の本質を理解しているので、応用が利くし、大卒より2年も若い。世間では高専卒は即戦力だと思われているが、真逆の考えをもつ経営者もいる。その経営者曰く、
「大卒より高専卒のほうが後で伸びる。だから、うちは、高専卒は面接のみ」

■ソフト技術者の適性検査

高専卒は技術者としてのアドバンテージが高いが、ソフトウェア技術者なら、優位度はさらにアップする。一般にソフトウェア技術者に要求されるのは、
1.プログラミング能力(バグが少なく、変更に強いプログラムを書く力)
2.システム設計能力(ソフトウェア全体を設計する力)
3.業務知識(ソフトウェア以外の業務の専門知識)
4.コミュニケーション能力

「暗号」のようなとんがった分野をのぞけば、「業務知識」はなんとかなるし、「コミュニケーション能力」は多少目をつぶってもいい。だが、「プログラミング能力」と「システム設計能力」は妥協はできない。この2つの能力は次の4つの力で判定できる。
1.頭の回転速度
2.短期の記憶力
3.論理的な思考力
4.物事の背景にあるルールを見つけ出し、抽象化する力

じつは、これらの能力を測定し、数値化するテストがある。有名どころでは、R社とS社があるが、今回採用したのはS社製。選んだ理由は2つ、
1.練習効果が少ない。
2.ソフトウェア技術者の適性を体系的に検査できる。

採用方針として、S社の適性検査、技術面接を中心にすえ、学校の成績は参考程度にした。就活が始まると、契約している就職サイト経由で、会社説明会と選考会の応募があった。求人難だが、特殊なコンテンツを開発しているせいか、それなりに人気がある。ただし、ほとんどが大卒、まれに大学院卒で、高専卒はゼロ。高専生は教授推薦で、就職サイトにエントリーしない、は本当だった。

2度の選考会の結果、採用者ゼロ。全員、S社の適性検査でNG。頭数をそろえて作れるソフトではないし、使用言語も悪名高きC++。C++はC言語から派生した言語だが、言語仕様はC言語の数倍ある。物事を抽象化する力が必須だし、落とし穴も多い。使いこなすには、かなりの資質と訓練が必要だ。日がたつにつれ、このまま選考会をつづけてもムダでは?と思うようになった。ところが、今年はどの会社も、4月~5月に内々定を出すという。万事休す ・・・

こうなれば、高専に挑戦するしかない。鼻も引っかけられないと思いつつ、アポを取り地元の国立高専におしかけた。電気科の教授にお会いしたが、1学科40名のうち半分が進学し、残り 20人に対し求人が300 社!やはり ・・・ タダのウワサではなかった。リストを見ると大手が目白押し。20人のベンチャーが相手にしてもらえるとは思えない。その教授曰く、
「昨年は、一枚目の推薦状で、全員就職が決まりましたよ、ハハハ」
つまり、選考会で落ちた学生はゼロ?!

■幸運の女神

こうなれば、本命の電子情報学科にアタックするしかない。ダメもとで、就職担当の教授にお会いした。この教授は今年から就職を担当されていて、会社が小さいからと、さげすむ態度はなかった。真摯で、いかにも学者という感じで、誠実に話を聞いていただけた。調子に乗って、会社の夢、未来のすべてを語ったが、熱意が通じた、と信じたかった。

数日経って、教授から連絡があり、専攻科の学生がウチを希望しているという。高専の専攻科とは、5年間の本科を卒業後、さらに2年間学ぶ(大卒と同じ)。さっそく、彼だけの選考会を実施した。さすがに成績は素晴らしい。ほとんどS(90~100点)とA(80~90点)。文句なし。

次に技術面接。テーマは学校では教えないし、情報も少ない「チューリングマシンの原理」。まず、資料をざっと読んでもらい、そのあと質疑応答。文章の読解力と思考力を試すわけだ。チューリングマシンは、ノイマン型コンピュータに慣れた技術者には非常にとっつきにくい。アーキテクチャーが異形なのだ。ところが、彼は資料を15分で読み終え、詳細な説明をした上で、チューリングマシンの弱点まで指摘した。動作原理を完全に理解しているのは明らかだ。論理的思考力のみならず、高い技術的センスも持ち合わせていることは確かだ。技術面接、文句なし。

残るは、プログラマとSEの適性検査のみ。3日後、S社から適性検査の結果が届いた。結果は、これまでの最高スコアで、合格ラインも超えている。こちらも文句なし。だが一つ問題があった。彼は、すでに大手IT企業の内々定をもらっていたのだ。しかも、その会社は売上げも、利益も、社員数も、ウチの数十倍。どう考えても、勝ち目なし ・・・

ウチに入社させるためではなく、彼の人生にとって何が最良かを、ウソ偽りなく、親身になって相談にのる。そんなメールを何十回かやりとりしているうちに、彼の心はこちらに傾き始めた。そして結局、彼はウチを選んでくれた。20人のミニベンチャーが、日本を代表するIT企業に勝利したのだ。

しばらくして、教授から連絡があり、もう一人希望者がいるという。耳を疑った。しかも、当社が第一志望!?さっそく、彼だけの選考会を実施した。さすがに、先の専攻科の学生からみると成績は落ちるし、コミュニケーション力も低い。ところが、3日後に届いたS社の適性検査結果を見て、仰天した。プログラマ適性10点(満点)!出現率は100人に2人?担当者によると、大卒は適性検査の練習をするが、高専はしないので、出現率はもっと低いかもしれないという。採用は一人の予定だったが、何はともあれ、ゲット!

ところが、この話には後談がある。契約しているルクルート会社の担当者が、S社の担当者と話したとき、こう言われたという。
「今年、関西ブロックですごいスコアをたたき出した子がいるんです。それがなんと、金沢なんですよ」

ルクルート会社の担当者はこう答えた。

「あ、それ、うちのクライアントさんですよ」

あの大人しい高専生は、関西ブロック№1だったのだ!怪物 ・・・

最終的に、高い知能を有し、創造的思考力と問題解決能力も突出した、極めて優秀な学生を2人も採用することができた。タイミングと運がはまると、何が起こるかわからない。どんな小さな企業でもチャンスはある。と同時に、高専にフォーカスした判断も正しかったことを再認識した。結果論ではあるが ・・・

■大卒への不信感

「偏差値が低いのに、就職がいい」
で有名な大学がある。興味がわいたので、求人のお願いに行った。就職担当の教授と20分面談しただけで、すべて分かったような気がした。
1.大手志向。
2.技術より、企画・プロジェクト管理・マネージメントを重点的に教える。
3.福利厚生など待遇面を優先する。

この大学は、民間企業の現役幹部を教授に迎え、学生を厳しく鍛えることで有名だ。それが、企業から高い評価をうける理由なのだという。ところが、お話をうかがった教授は、大手メーカーの生産現場の出身。技術をウリにするベンチャーの価値がわかるはずもない。実際、聞かれたのは福利厚生のみ。成功している大学なのだろうが、ベンチャー企業には向かない。もちろん、例外はあるだろうが。

人と満足に話もできない、常識もない、マナーもダメ、電話も取れない、管理って何?でも ・・・ 3000ステップぐらいのプログラムなら一瞬で頭に描ける、我々が捜しているのは、こんなとんがったテッキー(Techie)だ。中途半端な管理テクニックを仕込まれ、技術用語は覚えたけど、原理はさっぱりの似非技術者ではない。実際、この大学からの応募者の中に、「線形代数」を知らない学生が3人もいた。「線形代数」は、大学の数学の基礎中の基礎。これで、大卒はないだろう。

2007年と2008年、国公立大学の工学部離れに歯止めがかかったという。特に、2008 年の工学部の志願者は、法学部とならんで、最も高い伸び率を示したという。これで、問題解決?いや、たぶん、一過性。「IT業界が嫌われる理由」が、何一つ解決していないからだ。ところで、ソフトウェア業界って、本当に夢も希望もない?

■ソフトウェア業界はパラダイス

ここで、独り言。社長には何度も注意されているが、管理の合間をぬって、今だにプログラムを書いている。なぜ管理に専念しないのか?答えは簡単、プログラミングが好きだから

取引先にも同類がいる。執行役員なのに、いまだに現役プログラマーで、社長に見つかるたびに怒鳴られている。何を考えているか想像はつくが、一応理由を聞くと、

「プログラムを書いているときだけ、生きている実感があるんだ」

やっぱり ・・・

プログラムを書いていると、文章を書いているような興奮と爽快感がある。脳内から快感物質がドクドク、まぁ、麻薬みたいなものだが、こちらは健康に害はない。来春入社する高専生もこのタイプだと信じている。ソフトウェア技術者は、そんな人がなればいい。仕事などと構えてはいけない。だから、長時間労働でも、給料が安くてもかまわない(高い方がいいけど)。朝から夜中までプログラミング ・・・ あぁ、たまらん。

最後に、悪名高いIT業界を、孔子の言葉でしめくくろう。
これを知る者は、これを好む者にしかず(知るは、好きにはかなわない)
これを好む者は、これを楽しむ者にしかず(好きは、楽しむにはかなわない)
要するに、楽しむことこそ、ものの上手なれ

《完》

by R.B

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