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週刊スモールトーク (第109話) 就職戦線異状なしⅠ~理工系離れとIT業界~

カテゴリ : 社会

2008.06.29

就職戦線異状なしⅠ~理工系離れとIT業界~

■採用計画

デザイン中心の会社なので、ソフトウェア技術者はいい学生がいたら採ろう、ぐらいに考えていた。ソフト開発部と管理部を兼任し、個別の開発案件までかかえている。あー、忙しい忙しい、リクルートなんぞ後回しだ ・・・ ところが、ひょんなことから状況が一変した。来春、ソフトウェア技術者を1名確保する必要に迫られたのである。

全国区の大手リクルート会社と、地元に強いリクルート会社の2社と契約していたので、とりあえず担当者を呼んだ。

担当者:
「今年は空前の求人難であることは、ご存じですよね?」

「そう言えば、テレビでなんか言ってたような ・・・」

担当者:
「ベンチャー企業の採用担当の方に多いんですけど、採用を片手間でやって、採用ゼロ、なんて笑えない話があるんですよ」

担当者が、さぐるような目つきで、顔をのぞき込んでいる。

「あー、まー、今日から、悔い改めてがんばりますよ」

担当者:
「・・・」

「それに秘策もあるんで。大卒じゃなく、高専にフォーカスするんですよ。

高専はいいですよ、たとえば ・・・」

担当者:
「その高専ですけど、一学科40名のうち、半分が進学、残り20名に、300社ぐらいの求人が来るんですよ。それ、ご存知です?」

「・・・」

担当者:
「高専は特殊なんですよ。ほとんどの学生が教授推薦で、うちみたいなリクルート会社に登録する学生はいないし ・・・高専もうでして、採用は3、4年後を目標にされては?」

こうして、起死回生の作戦は、打ち砕かれたかのようにみえた。

■求人難

それにしても、大変な求人難だ。新卒者が採れないことも想定して、中途採用も視野に入れ、人材斡旋会社数社と契約した。

彼らから情報をかき集めた結果、次のような結論を得た。
1.団塊の世代が退職し、人手が不足している。
2.大手企業が、地方の大学・高専・専門学校にまで触手を伸ばしている。
3.結果、地方の企業は危機的求人難におちいっている。
以上が需要面の話。

つぎに供給面の話。
1.理工系を志願する学生が減っている。
2.IT業界を希望する学生が激減している。

なるほど、すべてが「需要>供給」に向いているわけだ。人手不足は当たり前か。悠長に構えているヒマもなかったが、原因を自分なりに考えてみた。

■理工系離れ

マスコミで取りざたされる永遠のテーマ、
「なぜ、理工系は人気がないのか?」

だいたい、初めが間違っている。嫌われて当然、人気があるほうがおかしいのだ。もし、理工系に学生が殺到し、
「なぜ、理工系は人気があるのか?」
ならわかるが。

まず、理工系(自然科学)は文系(人文科学)に比べ、単位数が多い。これだけでも、嫌われるのに、くわえて、必須科目も多い。当然、留年する確率もアップする。そして、極めつけは、実験。理論どおりにはいかないし、実験装置が壊れたりすれば、万事休す、その日は帰れない。しかも、実験のリポートは1回でも提出しないと、即、留年。だから、理工系は気が抜けないのだ。

ところが、苦難はこれにとどまらない ・・・

理工系は、数学や物理など先天的能力が必要な科目が多い。初めに、「理解」が必要で、根性で丸暗記、ではすまない。安易な気持ちで、理工系に進学して、ついていけず、脱落した学生は多い。大学時代、3年でほとんどの単位を取り、4年になると暇そうにしていた経済学部や法学部の友人がうらやましかった。ただ、司法試験や国家公務員上級職試験をねらう学生は別。死ぬほど勉強している。

特に高専は注意が必要だ。高専は授業料が安く(国公立がほとんど)、就職が良いので(就職率ほぼ100%)、人気があるが、クラスで2、3人はドロップアウトする。高校の赤点は35点だが、高専は50点。しかも、1年生から、専門科目が入っていくるので、普通高校より留年しやすい。そして、一番の問題は、
「高専でドロップアウトしたら中卒」
そんなくらいなら、工業高校か普通高校に行ったほうがいい。「国公立の高専 → 中卒」、このギャップは大きい。

近所で、数学の得意な女の子がいた。本人は、理工系の大学を希望したが、塾の先生にこう諭されたという。
「理工系なんて、やめなさい。女の子なんだから。わざわざ、大学入って辛い思いをすることはない。文系に進んで、たった一度の青春を謳歌しなさい」
彼女は、同志社大学の英文科に進学した。

こんな話を聞かされたら、よほどの物好きじゃない限り、理工系にはいかないだろう。小学校1クラス40人として、大学の理工系科目にきちんと対応できるのは、せいぜい2、3人。国公立の大学でも内容が半分も理解できない学生がたくさんいる。普通に考えれば、理工系に進学する学生が今の1/10でもおかしくはないのだ。

■IT業界離れ

IT業界をさげすむ流行語がある。「ニュー3K」だ。
「きつい、帰れない、気が休まらない」
これじゃ、誰も就職しない。ところが、実際、就職する人がたくさんいるので、
「僕・私は頭がいいから、サッサと仕事を終えて、早く帰れるので、いつもご機嫌」
と信じているのだろう。

「ニュー3K」には、もう一つのバージョンがある。
「給料が安い、きりがない、化粧がのらない
これじゃ、誰も就職しない。ところが、実際、就職する人がたくさんいるので、
「僕・私の会社に限って、給料が高くて、仕事も少なくて、お肌ツルツル」
と信じているのだろう。

一方、こんな非難に腹を立て、真顔で反論するIT企業の社長もいる。曰く、
「いつも忙しいわけじゃない」
「他の業界だって似たようなもんだ」
間違ってはいないが、「ニュー3K」を否定したことにはならない。これで納得する学生はいないだろう。

人材斡旋会社の担当者によると、最近、転職を希望するIT技術者が急増しているという。その理由は2つ。
1.30歳を過ぎると、開発から管理業務にシフトするが、それがイヤ。
2.こんな頭を使う仕事を40歳になっても続けられるか、不安でたまらない。

IT業界には、さらに怖い話もある。「プログラマー 35歳定年説」。これは風説ではなく、真実。じつは、35歳だろうが、60歳だろうが、プログラムは書ける。だが、問題はそこではない。一般にソフト開発では、SE(システムエンジニア)が仕様書を書き、それに従って、プログラマーがプログラムを書く。つまり、親分のSEに複数のプログラマーがぶらさがるわけだ。社内の 33歳のSE(女性)曰く、
「プログラマーは、自分より1歳でも年上ならイヤ。正直、使いづらい」
プログラマーは能力やスキルに関係なく、歳だけで価値が下がるのである。

「プログラマー 35歳定年説」のもう一つの理由。日本のソフトウェア業界は、9割以上が受託開発。つまり、
「売上=時間単価×労働時間」
この売上から、SEやプログラマーの給与が支払われる。ところで、上記の時間単価は、スキルで決まり、年齢には依存しない。つまり、時間単価は一定。ところが、年齢とともに昇給するので、いずれ、
「売上<給与」
となる。これでは、経営は成り立たない。この損益分岐点が35歳ぐらいなのだ(業種にもよる)。

ということで、
「精進努力したおかげで、35歳になっても、プログラムで若いもんに負けん。だから、プログラマー35歳定年説は、僕・私には関係ない」
と信じていると、痛い目にあう。

■IT業界の深層

一般論だが、35歳を超えたら、マネージメント、コンサルタントのような上位の仕事にシフトするしかない。それができない場合は?会社が大手で良心的なら、子会社などの受け皿があるので、そこに移してくれる。もちろん、給料は劇的に下がる。一方、余裕のない会社なら、肩たたき。この肩たたきにあった人が人材斡旋会社に登録し、転職のチャンスをうかがっているのだ。

こんな内情がバレた日には、誰もIT業界に行かなくなる。日本は職業選択の自由があるし、職業もごまんとある。せっかくの人生、苦労するだけして、ポイ捨て、ではたまらない。先の塾の先生なら、きっとこう言うだろう。
「IT業界なんて、やめなさい。人間なんだから。わざわざ、IT業界入って辛い思いをすることはない。他の仕事を選んで、たった一度の人生を謳歌しなさい」

それでも、報酬が高いなら、救いもある。だが、日本のソフトウェア技術者の報酬は、相対的に低い。以前、韓国のソフトウェア会社と仕事をしたことがあるが、技術者の待遇はかなり良かった。職種による待遇差が、日本企業よりはるかに大きいのだ。もちろん、IT技術者の多くはカネに執着しているわけではない。また、青色発光ダイオードの中村氏のように、給与以外に200億円よこせと言っているわけでもない。給料をほんの少しプラスするだけで、納得する技術者もいるということだ。

特殊な能力と高度な専門技術と不断の学習が要求され、代替えが効かない人材なのに、粗末に扱われている。職種による報酬の差が小さいのは公平かもしれないが、公正とは言えないだろう。理工系離れが起こるのは当然だ。気持ちの悪い平等主義は、国の競争力をそぐだけである。

ここで、人材の価値について考えてみよう。企業における人材の価値とは、その人が生み出す価値につきる。酷な言い方だが、「価値を生まない人」は、企業にいる資格はない。では企業にとっての価値とは何か?営業職の場合、売上だろう。では、技術者やデザイナーのような専門職は?私見だが、「代わりが効くかどうか」。つまり、その人しかできない度合いが大きいほど、その人の価値は高い。

原油暴騰を契機に、あらゆる資源が値上がりしている。こんな状況で、日本は何で食べていくつもりなのか?産油国のように富が地から湧き出てくるわけではないし、それを売りさばいてボロ儲けするオイルメジャーのような仕掛けもない。技術者が優遇され、活気づく中国やインドを見るにつけ、この国の社会システムは間違っていると思う。むしろ、中国が資本主義で、日本が共産主義ではないか?資源のない日本は技術で身を立てるしかないのに。

《つづく》

by R.B

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