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週刊スモールトーク (第108話) ハイテク自給自足生活

カテゴリ : 社会

2008.06.07

ハイテク自給自足生活

■今そこにある危機

悲観論は、悲観論者を悲しませ、楽観論者を喜ばせる。だが、それはさまつなこと。問題はそれが現実になるかどうか。そして今、もっとも深刻な悲観論は「地球文明の崩壊」だろう。その根拠も、全面核戦争隕石衝突都市文明の危機グローバル経済の破綻食の安全の崩壊、と枚挙にいとまがない。すでにその兆候もある。

2008年5月2日ミャンマーを襲ったサイクロンは、死者行方不明者13万人、その後起こった四川省大地震では死者8万人を出した。わずか10日間で、20万人。都市一個分の人口である。また、経済のグローバル化が生み出した怪物「カジノ経済」は、サブプライムローン問題で、世界金融を崩壊寸前まで追い込んだ。さらに、不毛のマネーゲームで原油価格が暴騰し、実体経済と生活を直撃している。食の安全もしかり。食肉偽装、生産地偽装、賞味期限の偽装、あげく、中国毒入りギョーザ。今では、食中毒など誰も事件とは思っていない。

古代より、人々が集まって暮らすのは、外敵から身を守るため、生活の効率を上げるためである。たとえば、物を作るなら、設備を一カ所に集め、集中生産したほうが効率がいい。そこで、文明は分業化&専業化がすすんだ。そして今では、農業地、工業地、商業地、住宅地に分けられ、それぞれが交通網と通信網によって密結合されている。このような、社会システムは効率は良いのだが、災害には対してはひどく脆弱だ。

たとえば、農業地帯が災害で壊滅的打撃をうけると、食糧が一切手に入らなくなる。たとえ、他の工業地、商業地、住宅地が無傷であっても。また、疫病が流行すれば、結合度が高いぶん、またたく間に伝染する。しかも、現代の文明は「最適」がすすんでいるので、ムダがないぶん、冗長性に欠く。つまり、変更が難しいのである。都市文明には、別の問題もある。都市が周辺地域にくらべ、気温が異常に高くなるヒートアイランド現象だ。アスファルトは太陽熱をたくわえ、ビルは風を妨げ、無数の空調機は大量の熱風をはき出している。灼熱地獄と化すのは必然なのである。近々、東京で、気温が50度まで上昇するという説もあるが、もし本当なら、外出するのも命がけだ。

■自給自足への回帰

アルビン・トフラーは著書「富の未来」の中で、「生産消費経済」を提唱している。自分が消費するぶんは、自分が生産する、つまり、自給自足。まさか、発電機を買って、自家発電しろと?電力は電力会社が集中発電し、それを買ったほうが安上がり。それをわざわざ、自給自足?どんなメリットがあるの?

じつは、テクノロジーが進化すると、集中生産より、分散生産(自給自足)のほうがメリットが大きくなる。たとえば、「太陽光発電+住宅用充電池」。太陽があるかぎり、ランニングコストはゼロだし、リスク管理の点では自給自足(自家発電)が優れている。ある発電設備が故障したとして、集中発電(発電所)なら、被害は何千件、何万件だが、自家発電なら1件ですむ。「集中生産」は低コストだが、リスクに弱い。

逆に、「分散生産」は高コストだが、リスクに強い。ところが、テクノロジーがある敷居値を超えると、集中と分散でコスト差がなくなる。それが、集中と分散の価値が逆転する分岐点になる。一見、文明の逆行に見える自給自足だが、じつは高度な文明の証(あかし)なのかもしれない。では、ハイテクでどこまで自給自足できるのだろう?人間の生活に欠かせないライフラインを中心にみてみよう。

1.エネルギー

2.水

3.食料

4.物流

5.セキュリティ

■エネルギー

現在、使用されているエネルギー資源は、石油、天然ガス、石炭、核燃料。この中で最も多いのが石油で、全体の40%を占める。また、2025年には、世界のエネルギー需要が、2004年の1.5倍に達するという予測もある。地球の全人口の1/3を占める中国とインドで、急速な経済発展が見込まれるからだ。このように、エネルギー需要が増える一方で、供給には不安がある。油田の枯渇、油田開発のコストの上昇、タンカーや精油所の老朽化である。これらの問題を解消するには、10年から数十年かかるという(※)。

こうした予測が投資マネーにつけいるスキを与え、原油価格暴騰の一因になっている。だが、原油価格はいずれ暴落するだろう。2008年6月、原油価格は1バレル130ドルを突破したが、まだ上昇を続けている。需要が減り、在庫もだぶついているにもかかわらず。実体経済と乖離し、価格だけが上昇する様は、1990年代の日本のバブル期に酷似している。先物取引市場で、原油を買いまくり、値をつり上げている輩の頭の中にあるのは2つ。

1.低金利に加え、ドル不安もあり、新たな投資先が必要。

2.新興国の経済成長とともに、原油需要は必ず増える。

誰もが信じて疑わない2.は、じつは妄想にすぎない。こんな高値で、一体誰が原油を買うのか?必要に迫られた人が、必要な分しか買わなくなる。実際、軽油、重油、ガソリンいずれの販売量も、すでに減り始めている。さらに、代替エネルギーへの技術革新も急加速している。電気自動車、太陽光発電の実用化は目前だ。

それでも、原油需要は増え続ける?もっとも、原油先物取引に精を出している連中(プロ)は、短期売買に徹している。だから、下がる前に売ればいいわけだ。まるで、18世紀の南海泡沫事件だが、いつの時代でも、高所恐怖症はいる。まず、彼らが売りにまわり、それに気づいた連中があわてて売り、市場はなだれうって暴落する。先物取引を支えるのは経済学ではなく心理学なのだから。

■鉱物資源

今後、エネルギー資源同様、鉱物資源をめぐる争いも増えるだろう。特に、鉄鉱石、アルミ、亜鉛、銅、原油の獲得に熱心なのが中国とインド。中国のイランに対する投資や、スーダンの非人道的な独裁政権への支援をめぐり、すでにアメリカ政府内でも懸念がひろがりつつある。中国の需要は巨大で、2010年までの世界の鉄鉱石産出量の35%、アルミの30%、亜鉛の25%、銅の23%を消費するといわれている。

さらに、人口で、やがて中国を抜くインドも、2010年までに現在の2倍の鉄鉱石を消費するという予測もある(日経ビジネス2007年12月10日)。ということで、基本、資源価格は上昇するトレンドにある。もちろん、価格が暴騰すれば需要も減るので、青天井というわけではない。ただ、資源はもっと深刻な問題を引き起こすかもしれない。国際間の武力紛争、さらには戦争。たとえば、北極海は、かつて、厚さ4メートルを超える氷でおおわれていた。

ところが、今では地球温暖化で氷が溶けだし、船が普通に航行できるという。そして、北極海の海底には、膨大な石油や天然ガスが眠っている。資源を掘り出して、船で運べるようになったのだ。独り占めしたいと願うのは皆同じだろう。実際、アメリカ、カナダ、ロシア、デンマーク、ノルウェーは武力行使も辞さない構えだ。

話をエネルギーにもどそう。エネルギー問題で、必ず持ちだされるのが、「地球にふりそそぐ太陽光エネルギーは、180ペタワット(ペタは10の15乗)。そのうち、地球上で利用可能なのは1ペタワットだが、それでも、全世界のエネルギー消費の50倍にもなる。ゴビ砂漠の半分に太陽電池をはりめぐらるだけで、人類の全エネルギーがまかなえる」初期費用をはぶけば、エネルギーはタダ、を意味するこの話は、10年前から流布している。

では、どうして、いまだに実現しないのか?石油利権をもつ勢力の陰謀?ところが、最近、状況は好転しつつある。たとえば、「太陽光発電+住宅用充電池+オール電化」なら、石油もガスもいらない。そして、テスラモーターズが先行する電気自動車。家庭用コンセントで充電できるので、「太陽光発電+住宅用充電池」と併用すれば、車の燃料代はタダ。そうなれば、エネルギーは完全に自給自足できる。もし、それが世界の共通認識になれば、原油価格は暴落するだろう。

■水

水は、人間にとって、酸素につぐ重要な資源だが、住む場所を選べば、自給自足できる。実家では、敷地内に井戸を掘り、水をくみ上げている。昔は手で汲み上げていたが、今はモーターを使っている。太陽光発電を併用すれば、水も自給自足が可能になるわけだ。また、地下水がなくても、海や湖に近ければ、電気自動車で水を運んで、浄化すれば、真水が得られる。

ここで、水の循環について考えてみよう。地表の水が蒸発して雲になる。それが、雨や雪になって地表に降りそそぐ。このような水を、軟水とよんでいる。一方、大地にしみこんだ軟水は、地中の金属イオンを吸収する。これが硬水だ。軟水か硬水かは硬度で判別する。硬度とは、水に溶けているカルシウムやマグネシウムの量で、100未満なら軟水、100から300なら中硬水、300以上なら硬水である。カルシウムやマグネシウムなどの無機物(ミネラル)は人間に欠かせない元素なので、飲料水として商品化されている。これが、ミネラルウォーター。ただ、摂りすぎると過剰症を起こすので注意が必要だ。

さて、水の自給自足だが、地下水があれば問題ない。ただし、そのまま飲むのは危険だ。硬度が高過ぎるとお腹をこわすし、地下水が汚染されていると命が危ない。そんな時、重宝するのが浄化装置だ。中でも優れものが「逆浸透膜浄水器」である。元々は海水から真水を得るための装置で、原子力空母や原子力潜水艦、水が慢性的に不足している中東で使われている。一般家庭用もあるが、価格は10万円前後と、浄水器としてはかなり高め。

「逆浸透膜浄水器」は塩素などの不純物はもちろん、細菌やウィルスまで除去してくれる。逆浸透膜浄水器のキモは「逆浸透膜」というフィルターにある。このフィルターの孔の大きさは、2ナノメートル。1ナノメートルは10のマイナス9乗メートルなので、まぁ、とにかく小さい。ウィルスは20ナノメートルで、細菌はさらに大きく、ともに逆浸透膜を通過することができない。そのため、ウィルスも細菌もシャットアウトするわけだ。

ところで、塩水から真水を得る仕組みは?不純物濃度の低い真水と、不純物濃度の高い塩水を、「逆浸透膜」で仕切ると、浸透圧の差が生じる。この圧力差によって、真水から、塩水へ溶媒が移動しようとする。ここで、塩水側に、浸透圧の差を超える圧力をくわえると、塩水側からから真水側へ水分子だけが移動する。結果、真水が抽出できるわけだ。この逆浸透膜浄水器さえあれば、塩水から真水が得られだけでなく、細菌テロ対策にもなる。小さな自給自足コミュニティには欠かせないツールだ。ということで、水の自給自足も十分可能。

■食料

食の安全が崩壊して久しい。アメリカ産牛肉のBSE問題からはじまり、牛肉偽装事件、お菓子の製造日改ざん、賞味期限偽装事件、中国ギョーザ農薬混入事件、そして、最近起こった高級料亭「船場吉兆」事件。この料亭は、牛肉産地を偽装した上、食べ残しを使い回していたという。高品質をウリにする高級料亭にしてこれ。救いようがない。考えてみれば、「どこの誰が作ったか分からないものを、確かめもせずに、口に入れる」それが、どんなに危険なことか。店に並んでいるものも、道に落ちているものも、大して変わらない。どっちも、出所不明、中味不明、口に入れるのは自己責任。食は、質だけでなく、量の問題もある。

地球の人口は、1990年には50億人を突破し、2050年には、90億人に達すると予測されている。人が増えれば、食も増える。これを加速するのが、ブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)の「BRICs」の発展だ。BRICsが豊かになれば、食は贅沢になり、食の需要はさらに増える。地球はそれに耐えられるだろうか?世界の収穫面積/人は、1950年の5100㎡から、2500㎡と半減している。人口が急増しているからだ。ではそれに合わせて、開墾すれば?ところが、そう簡単にはいかない。森林を伐採すると、緑が減るので、二酸化炭素の吸収量が減り、地球の温暖化がすすむからだ。

また、BRICsを中心に世界中で肉食が増えつつある。ところが、豚肉1kg得るためには穀物4kgが、牛肉なら穀物7kgが必要になる。つまり、豚肉を食べる人は穀物の4倍、牛肉を食べる人は穀物の7倍、地球資源を消費することになる。話を食の安全にもどそう。自分が食べるものに、毒を入れる者はいないだろうから、食の安全を確保するには「食の自給自足」しかない。また、食の量の問題は、「ハイテク農場」で解決できるだろう。ハイテク農場は全天候型の農地で、台風や異常気象など外的影響を受けない。そのため、食糧の生産量が安定する。ライトな野菜に限られるが、植物工場はその一例だ。

■物流

自給自足のコミュニティ社会になれば、地域間の物流は激減する。生活物資を自給自足するので、輸送の必要がないからだ。社会全体の輸送量も減り、無駄なエネルギー、無駄な手間、無駄な資源を消費せずにすむ。コミュニティ間の輸送は、新幹線のような電気仕掛けの公共輸送機関が中心になるだろう。輸送量も頻度も減るため、一括輸送ですむ。当然、トラック輸送のような個別輸送は消滅する。

一方、コミュニティ内の輸送は、昔の「ちんちん電車」も悪くはないが、小型の電気自動車のほうが融通が利くだろう。どっちにしろ、輸送はすべて電気じかけ。これで、輸送時の二酸化炭素排出ゼロ、燃料費ゼロ。2008年6月、日本郵政グループの郵便事業会社は、郵便集配用に電気自動車を全面採用すると発表した。しかも、郵便局の電気スタンドを一般開放することも考えているという。これで、腹立たしいガソリンを買う必要はなくなる。

■セキュリティ

セキュリティの自給自足は、すでに始まっている。たとえば、アメリカの「要塞町(Gated Community)」。居住区の周囲を塀で囲み、地区へのゲートを1つにし、入出管理を徹底している。外部世界との接触を最小限にし、居住区の安全を確保するためだ。もちろん、管理費が発生するので、一部の富裕層しか入れない。要塞町は、行政単位としての「町」ではないので、セキュリティは民間の警備会社が受け持つ。つまり、自給自足のセキュリティ

いかにも、アメリカ的だが、じつは、要塞町は日本にもある。大阪のある要塞町では、町中を警備員が常時巡回し、犯罪の抑止に効果をあげている。コミュニティ中心の社会では、小さな政府が前提になるので、そのぶん、警察官も減る。結果、アメリカのように、警備会社がセキュリティの中心になる。とすれば、警備会社には素晴らしい未来が待っている?今後は、住宅街だけでなく、農地、工場などの警備、コミュニティ限定のインターネットの監視、財産の保全も、セキュリティの対象になる。

■ハイテク自給自足コミュニティ

最後に、ハイテク自給自足コミュニティを具体的にイメージする。まずは、コミュニティの単位だが、ポピュラーなところで、小学校区とする。1学年80人として480人。総世帯数は200件ほどになる。場所は、海・湖・河川の近くで、都市からほどよく離れた郊外。都市に近すぎると、大気汚染、水質汚染、感染症、犯罪・・・ろくなことはない。逆に都市から離れすぎると、満足な医療サービスが受けられなくなる。

また、海・湖・河川に近いので、逆浸透膜浄水器を設置すれば、水も自給自足できる。つぎにセキュリティ。コミュニティーエリア全体を塀で囲み、ゲートを1つにして、入出管理を厳重に行う。塀の上には複数の監視カメラとセンサーを設置。ここで、重要なのがソフトウェアだ。カメラやセンサーがとらえた物体を、危険な侵入者とそれ以外に識別する必要がある。ありそうでないのが、この手のソフトだ。上場企業の社長で、このソフトを血眼になって捜している人がいる。財産が多いと、守るのも大変だ。立派な家に、センサーを張り巡らしたまではいいが、、猫が侵入するたびにアラート!今はセンサーを切っているという。先日、お会いしたときも、

「監視カメラ用のパターン認識ソフトを開発している会社があるというんで、北海道まで行ってきましたよ」

なるほど、お金持ちには別の気苦労がある。

つぎは住宅。「太陽光発電+住宅用充電池」を備えた100%自給自足型のオール家電住宅にする。太陽光発電パネルを、住宅の屋根に設置すると、固定するために開けた穴から水漏れをおこすことがあるので、車庫の屋根に設置しよう。最後に食料。200件分の食料をまかなうため、田畑と牧場を確保する。環境に合わせて、全天候型の植物工場もありだ。

穀物、野菜、果物の他に、オリーブの木も植えよう。健康に良いオリーブ油が採れるし、石けんもつくれる。オリーブは、東北以北でなければ、海に近い、水はけの良い土地なら、日本でも栽培可能だ(私的に金沢で栽培に成功!)。田畑と牧場の横には、パン・ケーキ工房、精肉場など、食品加工場を建設する。これで、贅沢品を除き、ほとんどの食料を自給自足できる。食の自給自足の素晴らしい点は安全だけではない。自分が食べる農作物が成長していく様を見ることができる。なので、食べ物に愛着が湧く。これが、ハイテク自給自足コミュニティの全容だが、中世ヨーロッパの城塞都市をほうふつさせる。

紀元前2400年のインドの古代都市モヘンジョダロもこのイメージだ。人口は4万人と桁違いだが、自給自足という点で、学ぶべきところが多い。町内会に決めごとがあるように、コミュニティにもルールが必要だ。中央集権から地方分権へのトレンドが、コミュニティ内のルールを権威付けしていく。まるで、中世ヨーロッパの封建社会だが、ルールを決めるのは領主ではなく、住民だ。いわば、古代ギリシャの直接民主制である。200世帯なら、それも可能になる。テクノロジーが極端に進化すると、社会制度まで時代を逆行するのかもしれない。

地球温暖化のせいで、人類はカタストロフィーに直面している。巨大な台風や洪水、大地震や大津波、新種のウィルス、海面上昇、紫外線の増大。現実に起これば、何百万、何千万もの人命が失われる可能性がある。くわえて、急増する凶悪犯罪。このような問題を解決する方法の一つが、ハイテク自給自足コミュニティだろう。人類は長い歴史を経て、再び、集中から分散へと逆行しようとしている。。

参考文献:(※)アルビン・トフラー/ハイジ・トフラー著山岡洋一訳「富の未来」講談社

by R.B

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