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週刊スモールトーク (第103話) サブプライム ローンとドル暴落

カテゴリ : 社会経済

2008.02.02

サブプライム ローンとドル暴落

■ドルの黄昏

ドルはもうおしまいだ ・・・
世界中でささやかれる公然の秘密である。今までの根拠のない王様ぶりがウソのようだ。アメリカは今、「裸の王様」になりつつある。誰が決めた知らないが、いつのまにか、米ドルが世界通貨になっていた。世界貿易でもっとも重要な原油取引の決済は、ドル一本だし、世界の外貨準備の70%以上がドル。つまり、商品や資本の取引で、米ドルだけが万国共通のマネーなのである。

ところが、ここ数年、ドルの威信は大きく失墜した。世界の外貨準備の比率では、ドルが6%下落し、その分ユーロが上昇した。また、聖域の原油取引決済まで、ドルからユーロへシフトする動きがでている。そして、2007年のサブプライム住宅ローンの破綻。つづく2008年には、恐れていたアメリカの景気後退がはじまった。いつのまにか米ドルの足元で、地獄のふたが開いていたのである。

■サブプライム ローン

プライムは優良を、サブは補欠を意味するので、サブプライムとは、優良ではない顧客を意味する。ひらたく言えば、ローンを返せそうにない人である。今回破綻したのは住宅ローンだが、その仕組みはまるで「不発なしの時限爆弾」だ。時がくれば、必ず「ボン」。

サブプライム住宅ローンの借り手は、返済額に見合った所得がないので、まともには返せない。そこで、返済方法に一工夫する。たとえば、最初の5年間は、金利を低くしたり、金利分だけを返済する。では、5年後は?ここで、悪魔のささやき。もし、住宅が値上がりしていれば、「家の資産価値」も上がるので、それを担保に、新たに借金すればいい。だから、5年後も返済を続けることができる!?

この方法には、誰でもわかる「まやかし」がある。自分が購入した家の資産価値が上がっても、家を売らない限り、得したことにはならない。もちろん、売れば、あらたに家を購入しなければならない。ローンを返済できるのは自分の稼ぎだけなのである。そこを解決しない限り、借金の連鎖は永遠につづく。

サブプライム ローンの仕掛人は、リスクを十分認識していたので、住宅ローンを担保証券に換え、投資家に売りさばいた。つまり、リスクを分散し、ばらまいたのである。そんな物騒なものを誰が買う?心配無用、高い利息をつければ買う人間はいる。いわゆる、ハイリスク、ハイリターンだ。ところが、これを大量に購入したのが、世界の名だたる証券会社や銀行だった。その結果は悲惨だったが、彼らにも言い分はあった。
1.顧客に利息や配当を払うために、高利回りの商品に投資する必要がある。
2.紙くずになる前に、高値で売りぬければいい(ババ抜き)。
3.保険をかけてあるので、自分は損をしない(保険会社が破綻すれば別)。

今回のサブプライム住宅ローンの損失額は、世界で30兆円と言われる(2008年2月)が、そんなものですまないだろう。理由は2つ。1990年代の日本のバブル崩壊は、日本限定だったにもかかわらず、100兆円もの不良債権が発生した。さらに、30兆円ですむなら、世界同時株安など起こらない。つまり、大口投資家たちは、本当の損害額を知っている。とはいえ、一部でウワサされるように、これが世界恐慌をひき起こすとは思えない。世界経済を左右する中国が、ほぼ無傷だからだ。

■アメリカの黄昏

ところで、なぜ中国は無傷ですんだのか?経済の分母が大きいこと、急成長が続いていることが理由だ。これで、中国の国力はアメリカにさらに近づいた。中国は内部分裂を起こさない限り、必ずアメリカを追い抜く。GDPも軍事力も。根拠は、もちろん人口だ。

【2006年の世界の人口ベストテン】
1.中国:13 億 2000万
2.インド:11 億 1000万
3.米国:3 億
4.インドネシア:2 億 2000万
5.ブラジル:1 億 8000万
6.パキスタン:1 億 6000万
7.バングラディッシュ:1 億 4000万
8.ロシア:1 億 4000万
9.ナイジェリア:1 億 3000万
10.日本:1 億 2000万

驚くなかれ、中国とインドの2国で、地球の全人口の約40%を占めている。しかも、この2大国は発展途上にあり、今後急成長することは間違いない。つまり、世界人口の40%がいっせいに大量消費にむかう。こんな消費爆発は、歴史上類を見ない。その結果、何が起こるのか?

中国がこれまでどおり、世界の工場となって、消費を上回る生産を続ければ、インフレは起こらない。ただし、原油や鉱物資源などの天然資源は別だ。限りがあるからだ。いずれ、「需要 > 供給」となり、資源価格は暴騰する。それが現実になったのが、2007年だった。レアメタル(貴重金属)のみならず、鉄や銅まで急騰したのだ。バチ当たりが墓に供えてあった金属まで盗む事件まで起こった。さらに、原油は2007年の後半から暴騰し、2008 年の年明けには、ついに1バレル100ドルを突破した。もちろん、歴史上最高値である。

この世界的資源不足を、千載一遇のチャンスととらえた国がある。ロシアだ。先の人口データから、ロシアの人口が意外に少ないことがわかる。ソ連崩壊後、人口が激減し、その後も回復の兆しはない。かつて、アメリカと覇権を争った超大国も、今では、中国やインドの陰に隠れてしまった。ところが、ロシアには他の国にないアドバンテージがある。鉱物資源のほとんどを自国でまかなえる唯一の国、それがロシアなのだ。

ロシアは人口が少ないし、量産技術ももたないので、中国のような工業立国にはなれない。だが、資源国としてなら世界の覇者になれる。強引な手法で、石油会社を次々と国営化したプーチンはそれを見抜いている。プーチンの評判は、ロシア以外ではかんばしくないが、たぶん、真の愛国者だ。善し悪しは別として、今の日本にはこのタイプの政治家はいない。

■ドルの正体

給与をユーロでもらえませんか?
アメリカのポールソン財務長官が、大統領に向かって話しかけている。2007年11月18日付けのニューヨークタイムズに掲載された風刺画だ。ドルは、そこまで落ちぶれている。先の、サブプライムローンの破綻で火を噴いたように見えるが、こうなることは前からわかっていた。

国際間の取引で使われる通貨(基軸通貨)は米ドルなので、アメリカはドルを印刷するだけで、世界中から買い物ができる。農場も工場も労働者もいらない。印刷機さえあれば国が成り立つのだ。しかも、1971年のニクソンショックで、アメリカは金本位制を放棄しているので、ドルを金(Gold)と交換する義務もない。つまり、なんの裏付けもなく、無制限に紙幣を発行できるのだ。こんな「打ち出の小槌(こづち)」を手にいれれば、誰でも振りまくる。

ところで、どういう経緯で、アメリカはこんな特権を手に入れたのか?第二次世界大戦後、世界中が疲弊しきっていたとき、アメリカだけが元気だったからだ。最強の軍隊、世界一の経済力、安定した金融市場、そして莫大な金(Gold)。つまり、アメリカ以外に選択肢はなかったのである。

とはいえ、そんなことがいつまでも続くはずがない。際限なくお札を刷れば、
「マネーの量 >> モノの量」 → 「マネーの価値 << モノの価値」 → 「インフレ」
1920年代、ドイツで起こったハイパーインフレをみれば明らかだ。ところが、不思議なことに、先進国ではそうならなかった。マネーも増えたが、モノも増えたからだ。これはひとえに、「世界の工場」中国のおかげだ。低賃金で、つつましい生活で満足する中国人労働者のおかげで、安い製品が世界中に供給されたのである。

しかし ・・・

中国が消費に向かえば状況は一変する。たぶん、世界同時インフレになる。

さらにやっかいなのは、今まで刷られた米ドル。すべて負の遺産として世界中に残留しているのだ。その大半は、実体経済(生産・消費)と関係のない投資マネーとして、1ドルでも高い利息や配当をもとめて、地球上をかけめぐっている。増やしてくれるなら、ドル、ユーロ、円、原油、金(Gold)、農産物、なんでもいい。どん欲で無節操で手がつけられないモンスター、それが投資マネーの正体である。

しかも、投資マネーの額は桁違いに大きい。その主戦場の外為取引(外国の通貨の取引)の総額は、1日330兆円にもなるが、財務省が2003年から1年強で実施した円売りドル買い介入は35兆円。世界最大といわれる中国の外貨準備は160兆円。投資マネーがいかに大きいかがわかる。

2007年後半、この莫大な資金が原油先物取引に投入され、原油価格は暴騰した。結果、生活必需品の食品、ガソリン、灯油まで高騰し、庶民の生活を直撃した。紙幣を無節操に刷れば、物価は上がるという大原則が、間接的に証明されたわけだ。

■中国バブルの崩壊

サブプライム ローン問題が、直接、グローバル経済を破綻させるとは思えないが、巡り巡って、そうなるかもしれない。

「サブプライム ローンの破綻」→「アメリカ消費の冷え込み」→「景気後退」 →「世界同時株安」→「中国バブルの崩壊」→「世界金融恐慌」

の図式だ。中国経済の分母は巨大で、成長率も高い。とくに、モノの生産・消費で世界経済に与える影響は大きい。それゆえ、中国バブルが崩壊すれば、世界中が巻き込まれる可能性がある。それもこれも、経済のグローバル化で、世界中の経済が密結合しているからだ。何かが起これば、世界同時、それも一瞬。

アメリカのモルガンスタンレーの試算によると、中国企業の利益のうち1/3は、本業以外の株式に投資されているという(日経ビジネス2007年12月3日号)。もし、株価が下落すれば、損失額を損益計算書に計上するため、企業の業績は悪化する(これは日本でも同じ)。株が暴落すれば、実体経済も巻きこんで、金融大恐慌に陥る可能性もある。そもそも、中国の株式市場はすでにチンチンだし、個人投資家も急増している。個人投資家は、自分のカネを投資しているので、パニックになりやすい。ところが、サブプライムローン問題同様、世界中が見て見ぬふりをしている。

このような株式市場の大暴落は歴史上枚挙にいとまがない。中でも有名なのが、18世紀イギリスで起こった「南海泡沫事件」である。これは、人間の妄想と強欲と愚かさが、一気に噴出した分かりやすい事件である。ところで、この騒動の引き金を引いたのは、なんとイギリス政府だった。ここで、その驚くべき顛末を紹介しよう。

■南海泡沫事件

スペイン王位をめぐるスペイン継承戦争で、イギリスの財政赤字はふくれる一方だった。まともな歳入ではまかなえないので、大量の国債を発行し、赤字額は雪だるま式に増えていった。国の負債総額が1000 万ポンドに達した時、ついに、イギリス政府も重い腰を上げる。こうして、1711年、イギリスで「南海会社」が設立されたのである。目的は一つ、イギリス政府の負債をチャラにすること。

イギリス政府は、国策会社「南海会社」を設立し、3000ポンドの国債を発行し、国債を引き受けてくれた者に南海会社の株式を与えた。もちろん、はじめから詐欺目的というわけではなかった。当時、スペイン領南アメリカと太平洋諸島は「南海」と呼ばれたが、「南海会社」がこの地の貿易を独占していたのは本当だった。ところが、ここからがちょっと詐欺っぽい。払えるはずのない配当を約束したのである。結果、南海会社の株価は、数ヶ月で、10倍にはねあがった。誰もが働くことを忘れ、株に夢中になった。

人間の欲には限りがない。南海会社の株が急騰するのをみて、株を買うより、自分で会社をつくるほうが儲かるのでは?と考える者が現れた。やがて、ロンドンの株式街では、毎日のように、新会社の株式募集が行われた。これらバブリーな会社は、後に「泡沫会社」と呼ばれた。

たとえば、
1.永久に動き続ける車輪をつくる会社(物理の法則に反する)
2.鉛から銀を抽出する会社(夢の元素変換技術!)
3.大根から油を抽出する会社(大根に油分あった?)
4.非常に有利であるが誰もその内容がわからない事業を実施する会社(!?)
5.国内どこでも葬儀を代行する会社(だから?)

一見して詐欺とわかる会社、人を小バカにした会社、意味不明の会社。ではなぜ、こんな会社の株を買う人がいたのだろう?

理由は2つあった。
1.社会的地位のある人を代表や顧問にすえたので、ホンモノっぽく見えた。
2.株価が値上がりしていれば、売買するだけで儲かった

ただ、「1.永久に動き続ける車輪をつくる会社」については、情状酌量の余地はある。永久機関が理論的に否定されたのは、19世紀に入ってからなので。もっとも、はじめから、作る気などなかっただろうが。

また、この中で気を引くのが「4.非常に有利であるが誰にもその内容がわからない事業を実施する会社」。人を食ったような会社だが、この会社を思いついた男は大心理学者だったに違いない。まず、貴族や有名人の推薦文が載ったパンフレットを配り、人々を安心させた。さらに、
「1株100ポンドのところを、手付け金2ポンドさえ払えば、1株の権利が得られる。詳細は1ヶ月後に発表するので、それをみて、残りの98ポンドを払ってくれればいい(※)」
なんと気前のいい話だろう。これなら、誰でも飛びつく(わけないか)。

この会社が株式の申し込みを始めると、人々は殺到し、1日で1000株を売り切った。この男は、わずか数時間で2000ポンドを手にしたのである。ちなみに、当時のイギリスの平均的労働者の年収は20~25ポンド。1日で100年分を稼いだことになる。もちろん、この男はその日の夕方にはドーバー海峡をわたっていた(※)。もっとも、ほかの泡沫会社も、似たようなものだった。それでも、株価が上昇している限り、誰でも儲けることができた。つまり、最後に株券を持っていた者だけが損をする「ババ抜き」。

もちろん、こんなことが長続きするわけがない。泡沫会社の化けの皮がはがれ、あちこちで訴訟が起こった。株は「信用」だけが頼みで、実体はないに等しい。不信感をもたれたら終わり、価値は崩壊する。こうして、泡沫会社の株価の大暴落が始まった。結局、元祖「南海会社」にも飛び火し、イギリス経済全体が道連れにされた。大衆は怒り狂ったが、ないものは払えない。結局、大蔵大臣をロンドン塔に幽閉し、財産を没収して一件落着した(※)。

このような信じがたい愚行は、その後も、何度も歴史年表を飾った。最近では、1990年代の日本のバブル崩壊。そして、これと同じことが、中国でも起ころうとしている。もし、本当に起これば、中国一国ではすまない。中国経済の分母が大きすぎるのである。グローバル化で一元化された世界経済は、同時性、瞬時性ゆえ、破滅も一瞬だ。

■スタグフレーションの恐怖

物価が上がるのはつらいが、給料も上がるなら、なんとかなる。同様に、給料が上がらならくても、物価が安定していれば、耐えられる。だが、物価が高騰し、給料がすえ置きなら、一大事だ。一番目がインフレ、二番目がデフレ、三番目がスタグフレーションである。そして今、最もタチの悪いスタグフレーションが起ころうとしている。歴史的にみると、だいたいがインフレで、たまにデフレ、スタグフレーションは非常に珍しい

2007年後半から2008年にかけて、原油価格が急騰し、運賃、エネルギー、石油を原料とするあらゆる商品が値上がりした。もちろん、原油はすべて輸入なので、便乗値上げしている会社以外は、自分の取り分は増えない。当然、「自分たちの取り分=給与」も増えない。一方、世界的デフレを支えてきた中国も、人件費と原料費の高騰にみまわれ、製品価格は上昇しつつある。しかも、原油などの限りある資源は、未来に中国とインドの大需要が控えているので、中長期的にみれば価格は上昇する。つまり、日本の物価は上がるが、給料は上がらない

このスタグフレーションが長期化すれば、恐ろしいことが起きる。基本的人権の最後の一線、生存権が脅かされるのだ。先日、リクルート会社の担当者と面談したとき、怖い話を聞かされた。今、企業では、労働者を3つに階層化し、使い分けているという。第1階層は正社員、第2階層は派遣社員、最下層はフリーター。正社員は、重要な仕事をさせ、教育を行い、昇給もする。一方、派遣社員は、それなりの仕事をさせ、昇給はない。フリーターは雑用の「バッファ(安全弁)」で、昇給など論外。もし本当なら、何かが狂っている。

現在、一般的な派遣社員やフリーターは、月に5万~15万円。これでは、社会保険料も払えない。当然、病気になっても医者にかかれないし、老後の収入はゼロ。それでも、食べられれば、まだマシ。ところが、スタグフレーションが本格化すれば、物価が上がるため食うにも事欠く。つまり、最後の一線「生存権」が危うくなる

■都市 Vs 田舎

年金の話はまだ先としても、アパートを追われ、食べ物に困るようになれば、たちまち、生存権にリーチがかかる。だが、田舎なら話は別。せちがらい都会生活を精算し、寒村に引っ越せば、タダもしくはタダ同然で家と畑を借りられる。そこで、自給自足すれば、何が起ころうと、命だけは確保できる。人間が生きていく上で、必要なものは、意外に少ない。雨風をしのぐ住居、水、食料、そして、エネルギー。

知り合いに、面白い人がいる。食べられる草、食べられない草を、真剣に研究しているのだが、年金生活者ではない。ITベンチャー企業の現役経営者だ。彼は、取引先から東京に進出するようアドバイスされたが、田舎を出ようとはしない。都市文明が長続きしないことを確信しているのだ。そう、たとえ、世界経済が破綻しようとも、田舎ならなんとか生きられる。世界金融恐慌が起こり、地球上から1000兆円が吹き飛ぼうが、畑の大根はビクともしない

参考文献:
(※)斎藤精一郎著 「大暴落」講談社

by R.B

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